母さんが立派な男子を産んだ。名をサスケと命名された。とても顔立ちがスッキリとした美男子に成長しそうで将来のモテ男になるだろう。イタチも近寄りがたい美形男子だけど私の前では優しい兄そのまま。そのギャップの差にたまにグッと堪えがたい感情が生まれることもあるが、それを他人に教えるほど自慢したがりではないので自分だけの特権と思うことにする。
母さんの腕の中にいる小さな命を恐る恐る覗き見る。
「ほら、ヒカリ。サスケよ」
ぷにぷにと紅葉のような手に指先を伸ばす。反射的にサスケの手が私の指を握りしめる。
なんだろう、こう、くすぐったいような満たされるような。自分が赤ん坊になる経験は何度もしてるけどやっぱり他人の子となると話は別なのかな。ああ、違う。家族の子か。
「小さい」
私の率直な感想に母さんはクスッと笑った。
イタチは私と肩を並べてサスケの顔を覗きこんで顔をとろけさせている。兄さん、顔が顔がと指摘したらイタチはハッと表情をキリリとさせたけど今更遅いって。
「そうね、だからヒカリ、イタチ貴方達がサスケを守ってあげるのよ」
「うん」「分かってるよ、母さん」
なんだかんだいって私とイタチは新たな家族に甘いのだ。それこそ父さん、母さん以上に。
すくすくと成長していくサスケは大概私かイタチの後ばかり追いかける甘えん坊に育っていった。でもただ甘やかすだけじゃない。しっかりと本人の成長を見届けつつの甘やかすだ。目をくりくりさせて私がやることになんでも興味を示すものだからサスケの前では下手なことが出来なくなってしまった。初めて喋った時も私の名前を口にし、初めて歩いた時も私に突進してきた。母さんはお姉ちゃん子ねと微笑ましそうにしていたし、イタチは若干残念そうにしていた。父さんもか。
◇◇◇
イタチが八歳の時についに写輪眼を開眼させた。
木の葉の下忍として毎日忙しい身だけど時間が空く限り私とサスケの相手をしてくれた。今日はお仕事だからいない日。
そんな日はサスケのお守を任されるんだけど、私といたら虐めの対象にされちゃう。ここは涙を飲んでサスケを同年代の子たちの輪に入れなくては心を鬼にして送り出そうとしてるんだけど……。
「サスケ、お姉ちゃんと一緒にいると苛められるから他の子と遊んでおいで」
「いやだ!僕姉ちゃんと一緒が良い……。だめ?」
「…サスケ…!」
むーと不満そうに頬を膨らませて私の腕に全力で縋りつく可愛い弟に悶絶してしまう私は忍耐力というものを身につけなければならないだろうが、そんなものサスケを前にすればどんな状態であろうと地平線の彼方に放り投げてしまうかも。
果てには目をうるうるさせて泣き落としにかかる。駄目だ。勝てるはずがない。
私とイタチ限定での魅了攻撃に結局いつも私はサスケを送り出すことを諦める。
「じゃ、今日は山でかくれんぼしようか」
「うん!」
その天使の微笑みは軽く私を射止められる殺人級クラスの笑みである。サスケを背中に背負ってトコトコ町の中を歩いて山まで地道に進む。人目が無くなったことを確認しての簡潔に片手で印を組む。(背中にサスケがいるから)
「瞬身の術」
元々接近戦での敵攻撃回避に用いられる術なのだが、今戦闘とは無縁の私には単なる移動手段の術として用いている。あっという間に奥深い山の中へご到着。岩の上でサスケをそっと降ろす。
「今日はサスケが隠れる番だよ」
「分かった!」
私の隠れ家ともいえる涼しい環境の中、サスケは元気に頷いて身軽な動きで山中へ身を潜めに消えた。そこで私はしっかりと10数えてから影分身を発動させる。これも印は省略化。
「影分身の術!」
ボフンボフン!と連続して煙を立てて現れる15人の私達。先週同じことをやった際には10人だった。なので今日は5人増やしてみた。幼子相手に本気だしているレベルの低い奴と思われがちだろうが、サスケの潜在能力は底が知れない。遊びとは言え、舐めてかかると日が暮れても見つからないなんてことになりかねないのだ。つい、先々週学んだことだ。
エリート一家だからこそ天才児と納得できる。
「今日も張り切って見つけるぞ!」
「「「オオー!」」」
私達は気合を上げて腕を頭上に掲げ、それぞれ出発した。
通称、『全力隠れ鬼』。
サスケの最近のマイブームとなっている。サスケが『全力隠れ鬼』に飽きる頃には影分身の人数は100人近くにまで増えていた。
仕事帰りのイタチにサスケと何をして遊んだんだ?と尋ねられ、総勢100人でかくれんぼしたけど日暮れぎりぎりに見つけられたことを報告するとイタチは眉間を抑えて痛そうに瞼を瞑り私の頭にぽん!と片手を置いた。
「くれぐれも他の連中にバレるなよ」
「うん?大丈夫。濃霧でサスケが隠れそうな所は阻んでるから侵入者が仮に入れてもすぐに感知できるもの。今の所問題はないよ」
「……それが出来たのはいつだ?」
「えー、サスケが見つからなかった初日かな。サスケが私の範囲内にいれば見つかるかもと思ってやってみたらできた」
「そうか。体調に変化はないか?ヒカリ」
「え?全然。いつもと変わらない」
「………」
「兄さん頭痛いの?」
今度からイタチ自ら修行の相手をしてくれることになった。やった!
まだアカデミー入学前でチャクラの練り方も知らないから私は嬉しくて跳びはねて喜んだ。
サスケには内緒だぞだって。きっと羨ましがるものね。私の真似事ばかりしようとするんだもの。やっぱり子供には子供なりの遊び方があるものねと納得した。