今日も地味に事務仕事をこなす私はついでと火影から一緒に出ろと指示を受けた。
渋めに濃い茶を出してさっさと席に着こうとしたら呼び止められた。昨日は嫌がらせで梅茶と騙して激辛茶にしてやった。飲む前に他の忍びに毒見させて逃れやがったけど。今日は普通にすると見せかけてのどくだみ茶。この為にせっせと新鮮などくだみを摘みに行ってしっかり乾燥させてハサミで適度にカットしてフライパンでわざわざ煎って作った特製どくだみ茶だ。私の憎しみたっぷり詰まったお茶を火影は口に含んだ。
「美味いのぅ」
「どうも。それでなんですか」
はよ、要件言えや。
「この後、一時間後に中忍試験実地の発表じゃ」
「そうですか。私には直接関係はないかと存じますが?」
「ヒカリは儂の専属の秘書兼事務じゃろ。関係大アリじゃ」
この爺、アレから何かと私を拘束したがる。勤務内は大概この爺の傍に居させられる。監視か。めんどくさ。最近じゃ暗部の方から御声もかからずストレスが溜まる一方だ。せんぱーい、呼んでくださいよ~。
「命令なら従いますが……」
「では命令とする。ヒカリも参加しろ」
「っチ、……了解しました」
渋々返事をし、急いで仕事をまとめ上げる為自分の席へ早足で戻った。
「堂々と舌打ちするな。少しは隠すなり配慮せぬか」
「これぐらいどうってことはないでしょう。火影なんだから」
「儂でも傷つくことはあるわい」
「……ヘッ……」
「あ、今笑ったな。笑いおったな」
「全然空耳じゃありませんか?ほらお歳を召してるから幻聴ですよ。引退なさったら如何です?そうなったらお祝いしてさしあげますよ」
「まだせんわい!」
なんてこういう時に限って書類が溜まってんだ!?
ギロッと火影に恨みを籠め睨むと、爺はニカッと笑ってピースサインをしやがった。
「よろしくじゃ」
きぃぃぃいいいい―――!!
鬼のような形相でひたすら手を動かしつつ書類を片づけまくったのは言うまでもない。他の忍び達が集まる前で事務仕事してらんないでしょ!
分かっててこの山にしやがったな、嫌味な爺!
お一人様、レッツパーリィ状態でした。
無事に一時間後には綺麗に片付いた私のデスク。
反対に燃え尽きて灰と化した私が魂飛ばしてはいたが。
くそっ、もっと前もって言いやがれ。
何処までも小賢しいこと考える火影は「あ、美味しいのぅ。茶くれ」とタイミングよくお代わりの催促をしてくる。
「自分でやりやがれ!「あー、今月の給料カット」只今お持ちしまーす!」
所詮雇われ忍びの痛いところ。素早い身の動きで泣く泣くお茶のお代わり&茶菓子を用意しましたよ。
でも超唐辛子入り煎餅だと知らずに食べた爺は口から
「ヒハァぁぁあああああ!!」
と盛大に火を噴いたので軽い復讐は果たせた。へへっ。
・・・
・・
・
あー、ぞろぞろ来なさる来なさる。
個性的な上官の皆様方。
火影から連絡を受け集まった上官たちの顔ぶれの中にカカシ先生もいた。しっかりと事務用の眼鏡をかけ隅っこでこじんまりとしている私を視界に入れて軽く手を上げた。他の忍びから注目を受けるのが嫌で私は軽く会釈するだけで終わる。
後で話しかければいいのに。
心内で文句を飛ばしつつ、パイプを吹かして話し始める火影の話に耳を傾ける。
「あー、収集を掛けた理由はすでに分かっておると思うが、今より7日後、中忍選抜試験を始める。まずは新人の下忍担当者は前に出ろ」
そう促され、カカシ先生、紅先生、アスマ先生が同時に皆の前に出た。そして先生方は自分の受け持つ班員の名前と自らの宣言をもって中忍試験推薦を言葉とした。皆、欠けることなく全員推薦するとは珍しい。
だがその宣言に意義を上げたのがアカデミーで担当講師だったイルカ先生だった。
「火影様、よろしいでしょうか!」
「なんじゃ、イルカ」
「あの子達にはまだ荷が重い。まだ早すぎます!もっと任務で経験を積ませてもおかしくはありません」
そう必死に火影に訴えるイルカ先生の胸中は理解できる。
時期尚早と言いたいのだろう。まだ生徒として情もあるとみる。だがそれは下忍となったあの子達には要らないものだ。
「ふむ、だそうだが。カカシよ」
「まー、イルカ先生の意見ももっともですが……。あの子らはもう貴方の生徒ではない。私の部下だ。口出しは無用です」
「くっ」
正論を述べられ、イルカ先生は悔しそうに呻いた。
カカシ先生も間違った事は言っていない。忍びとして当たり前のことを言ったまで。これは遊びではなく仕事。キャリアアップを図ることも重要だ。ただ個々の能力ではなく三すくみで求められてくるので、推薦に躊躇する場合もあるだろう。今回は珍しいケースとなる。それぞれの先生はよほど自分の部下の能力を買っているらしい。
勿論、サスケとナルトは私が言うのもなんだけどレベルは高い方だと思う。場数をこなせば能力はもっと伸びるはず。
………ただこの先共にいる保証はどこにもない。
「―——という事で次は―――」
火影が次の担当者を呼び出すのを流しつつ、頭の中はこれから起こす密かな作戦で一杯だった。興味は尽きた。
私はこっそりと気配を絶って部屋から抜け出た。しっかりとカカシ先生他顔見知りの先生には見られたけど気にしない。
風通しの良い建物の上に瞬身の術で移動し、バレッタで束ねていた髪をほどく。緩く気持ちいい風が髪を躍らせ頬を撫でる。
部屋の中は空気が淀んでいて気持ちが悪い。
しかも知り合いならまだしも接点もない上忍らがいるとなると知らずに体が緊張状態に陥っている。『火影と仕事をしているまで』は良かったのに。だから外は気持ちが良い。心が解放されていく。
普通の忍びは額当てに夢を抱きこれを所持することをステータスの第一歩とする。木の葉の忍びとして立派になると誓い、その努力を怠らない。だが、私にはそんなものはない。
これは縛りだ。木の葉の忍びとしての首輪だ。
だから私はこれをいつも腕に着けている。いつでも外せるように。いつでも捨てられるように。
憎々し気に私は額当てを手の中で握りしめる。
「………」
コレの為にイタチが苦しんだかと思うと胸糞悪くなる。
誰よりもうちはの、里の平和を考えていたイタチ。
どうしてその優しさを自分の為に使わなかったのと問わずにはいられない。
過去には戻れない。分かってるさ、分かってる。
けど、取り戻す。その算段は既に付いている。頼もしい友人のお陰だ。そういえば、彼から都合がいいから音の里の長になったと波の国で教えてもらった。彼が動きやすくなればなるほどのその恩恵は私も受けられる。
ただ鳥籠から脱すると前提での話だけど。
だが、もうすぐだ。
ああ、もうすぐだよ、イタチ。
自然と口元に笑みが浮かぶ。このどうしようもない歓喜に踊ってしまいそうになる。
「もうすぐ、出れる」
サスケを置いて?ナルトを残して?
ううん、そんな可哀想な事はしないよ。
私は何時だって二人の幸せを願ってる。たとえ未来に行きつくまで行き違いがあったとしてもその先に幸福が待っているならどんな酷い事だってするよ。だって二人の為だもの。
そしてイタチ、全ては貴方の為。
でも、もし、サスケを置いて、ナルトを残して私だけ里を出たら?そしたら、あの二人はどんな絶望に満ちた表情になるだろう。私という女が消え、今まで庇護下に置かれていた状況から一変し裏切り者の弟というレッテルを張られたサスケは私を恨むだろうか?ナルトはそんなサスケを励まし、私を里に連れ戻そうと躍起になるだろうか。
全てはIFの話。
けれど、確定されていないからこそ実現も可能な未来。
全ては私次第。
感情の高まりと同時に呼応するように疼く首筋の模様は大蛇丸から私への最高のプレゼントだ。
この『呪印』は良い具合に私に『馴染んでいる』。
最初こそ私の全細胞を支配しようと進行していたが、それは徐々に私の中に元々ある種の影響によって支配から共存へ形態を変えた。この力のお陰で気分がいい。私の細胞はより活性化され強くなればなるほどイタチへ近づいていくのを実感する。
「あ、ぁぁ……」
艶やかな声が己の喉元から出る。まるで情事の最中のように自分の体の中心から熱くなり、蛇のように体に腕を回し熱を逃すまいと抱きしめる。額当ては呆気なく手から滑り落ちた。拾うことも頭にない。
「イタチ」
声に出して唯一求める人の名を零す。
私、強くなるから、そしたら貴方の隣に立てる?
貴方が必要とする存在になれる?
会える時を指折り数えて楽しみに待ってます。
イタチ、だから
【首を洗って待っててね】