今日はいい天気だ。洗濯物もよく乾く。
「ふわ~っ。ねみっ」
欠伸一つ出た。
最近寝不足気味で体がよく休まっていないのが分かる。
火影が条件として提示した任務のしすぎか、はたまた別のプレッシャーからくる精神的疲労か。理由は様々だけど、一番分かってることがある。とにかく眠い。寝たりない。今すぐにベッドへダイブしておやすみなさーいとしたいところ、気合を入れる為頬をばちっと叩いて眠気を吹き飛ばす。
今日は久しぶりのお休みで午前中はのんびりしながらの家事をこなし、午後からは買い物に行く予定。
任務で汚れて帰ってくることの多い育ちざかり真っ最中の少年二人の忍び装束や他の洗濯物を干し終えてベランダから室内に戻る。後で下の新しい住人さんに差し入れ持って行こうと考えていた漬物を冷蔵庫から取り出す為キッチンへ向かう。だが冷蔵庫に貼られたメモ用紙に視線がいき、お二人さんの今週の予定の中、今日はバイト面接と書かれていたので、ああ、今の時間は丁度はお留守だったと思いだす。
壁にかけてある時計を見上げればお昼に差し掛かっている。適当に冷蔵庫に余ってる物を利用してお昼は炒飯を作ることにした。
手っ取り早く腹持ちも良い。いつもならゆっくり食べなさいと二人に言い聞かせているところ、めぼしい物を買いに行かねばいけないので急いで胃袋に詰め込んだ。けど半分も食べられず残りはラップをして後で食べる為また冷蔵庫へ。最近食欲が減り二人に心配を掛けまいと無理矢理食べようとするけど後でトイレで吐いたり、上手く誤魔化して先に食べたと嘘をつくこともある。
自分の体に何か異変が起きていることは分かっている。
だが今は悟られるわけにはいかない。
二人に要らぬ心配を掛けたくないのは勿論だけど、今他の里からの忍びが出入りする時期は試験に集中する為、警備が手薄になることがある。大蛇丸は里入りしているはずだろうけど万が一の為に彼の身バレがないようサポートに回ることになっている。その際、体調不良の所為でせっかくの抜け忍になる機会を逃すのは愚の骨頂。
だが大蛇丸には優秀な部下が付いている様なので、そう心配もいらないかも。
それに再不斬とハクの身柄も私がいなくなった後保証してもらえるような状況を作らねばいけない。彼らにも真実を打ち明けなくては。
私を信じて共に来てくれたのだ。
もし、彼らが他の国へ移りたいというのなら共に連れて行くし、木の葉に留まりたいと願うなら彼らの身の安全を確保された環境と抜け忍となる私とは一切無関係という事実を里の人間に知らしめる必要がある。となると、一芝居打つことになるかな。その辺の小細工も考えておかなきゃ。
使った調理器具を洗って自分の部屋に戻り、鏡台の前に腰かける。
頬、前よりも痩せたな。
鏡に映る自分の頬をむにゅっと抓む。
気のせいか頬肉がなくなったような。
うん、気のせいじゃないな。この分じゃ体重も落ちているはず。これ以上体重が落ちるのは忍びとしてマズイ。乙女としては嬉しいけどこれ以上落ちないように気をつけなきゃ。これは、サスケが昔作ってくれた牛乳入りプロテインでも飲まなきゃ駄目かな?
軽く化粧をして後ろで軽く結い上げポニーテールにする。
動きやすい様に髪を切った方がいいかな。任務任務と仕事続きで美容院どころじゃない。
かといって、イタチが綺麗だと褒めてくれた髪をバッサリ切るのも躊躇してしまう。だって、もしイタチに会えた時、髪が短くなっていたら私だと気づいてもらえないかもしれない。だから目印として切らないままでいよう。
まだ問題は山積みだ。
けど着実と期日に近づきつつある。
―——昨日カカシ先生から志願書をもらった二人はしっかりと自分の名前を記入して意気揚々と出かけて行った。ただサスケはサクラちゃんが何か気落ちしている様子だったと心配そうに語っていたが、きっとサクラちゃんなら大丈夫なはず。
サスケとナルトとの実力の差に不安を感じているんだろう。だが彼女の能力は少しずつ確実に伸びるタイプだ。
これから経験する戦闘の場でそれは大きく飛躍するかもしれない。
「……さて、そろそろ出かけようか」
お財布と部屋の鍵と、武器は、持って行こう。
例え里の中だって信用ならない。警戒するに越したことはないから。しっかりと戸締りをしてガスの元栓も閉まっていることを確認して私はアパートを出た。木の葉の額当てはテーブルの上に置いたまま。
◇◇◇
今日はとんかつにしようと思う。
ゲン担ぎじゃないけど二人のことだから第一次試験はパスするはず。明日の為に精をつけてもらわなきゃ。
ちょっと奮発していい肉屋さんで買い、野菜は顔なじみの八百屋のおばちゃんの所で安くしてもらった。しかもオマケで林檎二つ貰っちゃった。
すり下ろして食べようかな。果物なら食べれそうな気がする。
買い物袋を腕に下げて林檎を手の中で器用に宙に浮かせて上に放り投げてまた手でキャッチする。同じことを繰り返しながら通り道の公園の脇を歩く。
すると公園の入り口に寄りかかる顔なじみを見つけた。相変わらずイチャイチャパラダイスを愛読書としているカカシ先生だ。
「え、カカシ先生?」
思わず目元をこすぐって二度見したくらいだ。だがやっぱり本物だ。幻覚じゃない。
今日は中忍試験申し込み開始と同時の筆記試験のはず。その準備でカカシ先生だって忙しいはず。だがその本人は私に気づくと本から顔を上げてフレンドリーに
「や」
と目を細めて手を上げて挨拶をした。
「なんでここに……あ、もしかして影分身?」
「いや残念。本体の方だよ」
そう言って本を懐にしまいつつ、呆然とする私の方へ歩み寄ってくる。
「何してんですか!?こんなとこで。早く学校に戻らないと」
「まだ午後1時回ったところだし大丈夫」
「いや大丈夫とかそういう問題じゃないでしょ?はぁ……」
昔からマイペースだよな、この人はと頭抱えたくなる。
だがカカシ先生はこちらが思わず腰を引くぐらい顔を近づけニッコリと微笑むと予想外のお誘いをしてきた。
「今夜飲みに行かないか?って言っても未成年のお前はジュースだけど」
「明日は大事な二次試験ですよ?それでもあの子らの上司か!っていうかジュースかよ!侑子ならずカカシ先生まで~」
開いた口が塞がらないとはこのことだ。
私も大概人のことは言えないが、弁えるところは弁えているつもりだ。いくらあの子たちの実力を信じているとはいえ、やっぱりあの子達同様緊張くらいする。これも親心からくるもの。それをよりにもよって飲みに行かないかって、不謹慎じゃない?というか飲ませろ!こちとら、見た目は若くても中身は立派な成人済みじゃ。
ビシッ!とカカシ先生に向かって指を刺して厳しく責めた。
だがカカシ先生はパタパタを余裕そうに手を振って言い訳をした。
「景気づけに一杯ぐらいいいじゃない。それにヒカリだってナルト達が落ちるとは考えてないだろ。っていうかユウコって誰?」
「そりゃそうですよ。絶対受かりますというか落としたら攻め込みます。侑子は昔からの腐れ縁繋がりの友達です」
鼻息荒くしてきっぱり答えた。すると苦笑しながらカカシ先生は同意しつつ、
「ほら、断言してるし。な、いいだろ?お互いに任務とかでこういう機会も滅多にないわけだし。あっそう。なんかお前に女友達いたんだって少し感動した」
やけにぐいぐいとモーションを掛けてくる。なんかこういう体験(デートの誘い?
)って滅多にないから戸惑うしかない私はちょっと距離近すぎて引き気味になる。
「そりゃ、まぁ。そうですけど。タイミング悪すぎません?それと一言余計なんですよ!もう突っ込まないで!どうせぼっちですから!アカデミー時代から友達らしい友達いませんでしたから!」
「大丈夫だって。そんなに飲まないから。それにお前とゆっくり話したかったしな。ゴメン、古傷抉った」
後半声音を低くして喋るのやめて欲しい。カカシ先生って時退く腰砕けそうなお色気ボイス出すんだよね。
まぁ、耐性ができてる私には効かないけど。
「………分かりました。じゃあお店決めといてください。私はあの子達の面倒見てからそっちに行きます」
「分かった。大体の時間教えてくれ。迎えに行くから」
「そんな、わざわざいいですよ」
まさかデートじゃあるまいし。私はブンブン横に手を振って断った。だがカカシ先生は納得しない。仕方ないと妥協して別の案を持ち出した。
「じゃあ待ち合わせしよ。それならいいだろ」
「構いませんけど、えらく強引ですね?なんかありました?」
もしかして彼女出来た報告かな。機嫌もよさそうだし、恋愛面での相談かもと勝手に納得した。
「気にしない気にしない♪んじゃ、待ち合わせ場所は……」
待ち合わせ場所を決めてカカシ先生は鼻歌唄いながらあっという間にボシュン!と消えて行った。
「よっぽど嬉しいのね、彼女が出来て」
恋愛は人を変えるが、まさかスキップしていなくなるカカシ先生を拝めるとは……。なんか怖い。
ぶるり、となぜだか背筋が寒くなった。
「なんか、風邪でも引いたかな……」
最近の体調不良ももしかしたらそれが原因かもしれない。
首を傾げながら、早めの夕食の下ごしらえをするため急ぎ足でアパートに向かった。