君の為に変革す   作:サボテンダーイオウ

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会いたい気持ちが募るほどに少女の体は変異する。


5

結局酔っぱらってんじゃんか。

店からの帰り道、冷めた視線を向ける相手はべろんべろんに酔って通路に前のめりになって倒れている。こっちにお尻向けないで欲しい。ついばしっ!と力強くお尻を叩いてしまった。

 

「ほら、カカシ先生!さっさと起きてください」

 

「うぅ、世界が回る~」

 

確かにカカシ先生の目はぐるぐる渦巻いている。

っていうのは冗談で、焦点が合ってない。

てっきり彼女ができた報告かと思えば片想いの相談でした。しかもその相手は自分よりも年下で未成年ときた。

ああ、この人大丈夫かと引いてしまったぐらい。その女の子は鈍感すぎて自分の好意もまったく気が付かないほど天然馬鹿一直線で、たまに奇天烈なことをしでかすから目が離せないらしい。それって恋なのかしら。

 

ただ奇抜すぎて印象が強いだけじゃ。

 

まぁ個性的な女の子であることは間違いない。そんな彼女も意外と男性からモテるらしく結構仲間内で彼女に好意を抱く忍者がいるとかいないとか。だからカカシ先生も気が気じゃなく心の休まる暇がないとか。とかいう割に私の前じゃ余裕そうに見えるんだけど。

 

だがあのエリート忍者カカシ先生の意中を仕留めた相手が一体どんな人なのか気になった。

 

「なに可愛いこと言ってんですか。明日は大丈夫とか言ってたのはカカシ先生でしょ」

 

私より年上の癖してなんて情けない姿か。

 

これじゃあカカシ先生に憧れを抱くくのいち女子の皆様に申し訳ない気持ちになる。

 

なんとしてでも彼が正気に戻らずとも、他の人の目に触れる前にお家へ連れて行かなければという使命感に勝手に燃えた。へろへろのカカシ先生の腕を持ち上げて自分の肩に回す。勢いをつけて立ち上がらせた。

 

「ほらここで寝ないで自分のベッドで寝ましょうね」

 

「へ~?」

 

「へ、じゃなくて帰るんです。ほら、足動かして」

 

そう促して偏る重心で何とか歩き出そうとする。けど酔っぱらいの動きとは思えない素早い動きで塀の方へ押された。

 

「なっ!」

 

カカシ先生の顔が掠れるくらい近くなって私は目を大きく見開いて固まった。

 

とん。

軽く背中を打ち付け息をのむ私を覆いかぶさるように自身の手を壁について閉じ込めるカカシ先生の目は酔っ払いの目ではない。壁ドンとか初めてされた!

 

演技していたのが分かった途端、腹立たしさから声を荒げて目の前の同僚を睨みつけた。

 

「急になにすんですかっ!」

 

悪ふざけにもほどがあると抗議しようと言葉を続けようとした。だが真剣な表情で名を呼ばれ、つい身構えてしまう。

 

「ヒカリ」

 

「な、なんですか」

 

「痩せたな。ちゃんと食べれてるか?」

 

気づかれた。まだサスケやナルトでさえ気づいていないのに。一瞬、言葉に詰まってしまった。図星を指された。

だが取り繕うように口を動かす。

 

「あ、ああ!最近まで激務だったじゃないですか~。あれで体内リズムが狂っちゃって、調子取り戻すまでちょっと時間掛かるかな~」

 

上手く誤魔化せたはずだけど、カカシ先生に嘘は通用しないみたい。

 

「ヒカリが嘘付く時右斜めを見る癖があるの知ってたか?今まさにソレ状態だから」

 

「………たまたまじゃないですか?」

 

「それもヒカリの癖だ。嘘つくと髪触る癖がある。ね?」

 

確かに無意識に髪いじってました。

 

「なんで分かるかな」

 

「そりゃヒカリとは長い付き合いだから」

 

なんだかカカシ先生の雰囲気がいつもと違う。

なんか、逃げ道塞がれてない?閉じ込められてるしね。

顔さっきよりも近いし。

もしかして、襲われてる?まさかね。

 

「……そうですね。私の担当してからの付き合いですからね。そりゃカカシ先生も歳取るわけだ」

 

「まだ若いから!……それを言うならヒカリの方だろ」

 

「え」

 

「最初は生意気な小娘かと思ったけど、ずっと成長した。今じゃ里の中で声を掛けずらい美人ナンバー1だ」

 

褒められて嬉しくないわけじゃないが、さり気なく腰を抱く手に力を込めないで!男と女の体格差で勝てるわけがない。

ましてや、相手はそれなりに手の内を知られているカカシ先生。これは古典的なやり方で逃げるしかないか。

ザ、足踏んで逃げる。

 

「はは、光栄ですね。実は密かにくのいちから人気の高いカカシ先生から美人て言われるなんて。……何その里の中で声を掛けずらい美人ナンバー1、って!」

 

ふんっ!

 

思いっきりカカシ先生の右足を踏んでやるつもりだったけど先手を取られた。

立ち位置をさり気なく誘導され後ろに回り込まれる。そしてふわりと優しく後ろから抱きこまれた。首元と腰に腕を回され完璧逃げられない。

 

「悪い。卑怯だよな。でも無理やりにでもこういう雰囲気作らないと鈍いヒカリには伝わらないと思った」

 

「せ、んせ?」

 

顔を動かして先生の顔を見上げようとする。けど先生の声だけが耳元でダイレクトに聞こえるだけ。

 

「俺は確かに初恋を終わらせてる。けど、だからって諦めたいとは思わない。諦めたらそこでお終いだ」

 

「はぁ。そーですか。離してもらえません」

 

ぞくぞくと背筋が寒くなる。耳元に温かい吐息が掛けられてくすぐったい。

 

「まだダメ。ヒカリさぁ、知らないだろ。お前意外とモテてるんだよ」

 

「へぇー。知らなかった。全然ナンパとかされないし」

 

ヤバイ、声が裏返っている。それに気づいたカカシ先生は可笑しそうに茶化していった。

 

「そりゃお前には最強のガードがいるしな」

 

「ガード?だれ?」

 

「サスケとナルト」

 

「ああ!確かに。大概休みの日に買い物行くときあの子二人がくっ付いてくるもの。そりゃこぶ付きじゃ男も声を掛けないわけだ」

 

「コブ付きって」

 

何とか会話を続けつつ、逃げられないかと抵抗しつつもガッチリ抑え込まれていて隙が見当たらない。

 

「私には可愛い弟たちですけどね。余計な虫が付かなくて助かってます」

 

「……ヒカリは割と恋愛には消極的だね」

 

「……そうですか?」

 

「……うん……」

 

抵抗するのに少し疲れて体力温存するために少しだけカカシ先生に寄りかかる。

途端にカカシ先生の体がビクンと反応した。なんだよ、自分から攻めておいて甘える様子を見せると緊張するのか。

 

「………消極的というか……特別な人を作るのが嫌なんですよ、きっと」

 

「…………」

 

「………カカシ先生は好きな人、いますか」

 

「いるよ」

 

「そっか。初恋?じゃないよね。カカシ先生は。………私も、いるんです」

 

「…………」

 

カカシ先生は急に黙り込んだ。なんだよ、意外だって驚いてるのかな。

そんなに恋愛とか避けてるように見えたかな。サスケとナルトの面倒見るのが手一杯で他に視線を向けることの余裕がなかったから。そう、それが多分理由だよ。

初恋を引きずってるわけじゃない。

 

「きっと永遠の片想い。その人にとって私はただの家族としてしか見てもらえないと思う。けど彼が好きなんです。だから、私はずっと一人でいい。一人で、人生終わらせたい。だって初恋は叶わないって、十分、知ってるもん」

 

「………ヒカリ、お前が誰を求めてるのかは分からない。けど今はこの距離でいい。先生としてじゃなくて、同僚でもなくて、一人の男として俺を意識して欲しい」

 

「……それってどういう意味です」

 

「好きってこと」

 

「誰が?」

 

「俺がヒカリのこと」

 

「初恋は?」

 

「だから終わってるって。今はお前一筋」

 

お前一筋。

この言葉につい、腕に力が入って乱暴にカカシ先生から離れた。脱出成功だ。だがそれどころじゃない。思考がまともに働かない。

 

「この、エロせんせぇぇええ!おおおお、教え子になんちゅう感情抱いてるか!?」

 

頬が熱くてたまらない。勢いのまま叫んで距離を取った。

 

「元、教え子。今同僚だろ」

 

ウインク飛ばして訂正してもそういう問題じゃない!

 

「そ、それはそうだけど、でもでも!!」

 

「あれ~?前に俺にヒカリの胸育てて欲しいとか何とか云ってなかったっけ?」

 

そう言ってカカシ先生は両手をワキワキと怪しく動かして私に近づこうとする。咄嗟に自分の豊かな胸を覆って悲鳴に近い声を上げた。

 

「ハッ!?あんなの冗談に決まってんじゃん!変態ィィッィ!」

 

「お願いだから叫ばないで。ご近所迷惑だから」

 

「迷惑じゃないから!私の貞操の危機だからっ!」

 

あんなの冗談も冗談だ。大体胸を育ててもらうなら好きな人にやってもらいたい。

というかカカシ先生は確かに好きだけど、異性に向けての好意じゃなくて友人に向けての好意であって……あれ、友人って言うか息子?駄目だ思考がまともに働かない。

 

一人百面相に陥る私にカカシ先生はほっと息をついて目を細めた。

 

「やっといつものヒカリだな」

 

「え」

 

呆ける私の前まで近づいて少し前のめりになり微笑みながらコツンとおでこを指先で突いた。

 

「さっきの笑い方、作りすぎだぞ」

 

その動きが、スローモーションになり、かつて親しみを込めてやってくれたあの人の姿と重なる。

 

『ヒカリ』

 

私達兄妹の間で交わされるサインのようなもの。名を呼ばれた気がした。

 

やめて、それをしていいのは彼だけ。

 

「い、……た、ち」

 

「ヒカリ?」

 

違う、目の前にいる人はあの人じゃなくてカカシ先生だ。

 

「………、御免なさい、なんでもない。ちょっと立ち眩み……」

 

気持ち、悪い。

 

誤魔化すように片手で目元を覆った。街灯をバックにカカシ先生の陰が指して視界が暗くなる。

 

「大丈夫か?家まで送るよ」

 

「いえ!大丈夫で、す。私一人で平気ですから」

 

「平気って顔じゃないぞ」

 

「………あ」

 

「良いから寄りかかれ。ほら」

 

「…………」(大きな手、頼りがいのある肩)

 

最近の栄養不足で貧血を起こしたようだ。気持ち悪さとだるさで立っていることもできず、私は寄りかかる形でカカシ先生に体を預けた。大きい、男の人の体だ。安心できる。

まるで養父さんを思い出し、ゆっくりと瞼を閉じた。

 

「具合、良くなかったんだな。悪い、無理させた」

 

「いいんですよ、そんなの。こうして、誘ってくれたのは嬉しかったから」

 

大人として扱ってくれている証拠だもの。それは私の頑張りを認めてくれている証になる。

でも私が伝えたかった言葉の意味とカカシ先生が受け取った意味は違うみたい。

 

「……そういう台詞はもっと甘い雰囲気の時にお願いします」

 

「はい?」

 

「……いや、なんでもない」

 

それから何か会話をしていたような気がするけどいつの間にか全身の力が抜けて意識を手放していた。

 

◇◇◇

 

気が付けば、朝だった。寝ぼけ眼でカーテンの隙間から入る光に目を細める。昨日の記憶が途中から抜け落ちていていつの間に家に帰って来たのかさっぱりわからない。はっきりしない思考でふと、なんか重たいなとちょっと頭を持ち上げて自分の胸を見ればサスケの頭が乗っかっていてやけに重たいはずだと思った。

 

これ以上ぺったんこになったらどうしてくれるのだ、この義弟は。

 

とジト目になりつつ悪戯心から鼻先をツンツンしてみた。

サスケはくすぐったそうに鼻をムズムズさせたけど私が手をひっこめるとまたスゥスゥと寝息を立て静かになる。

 

この子が姉離れする時はもうすぐだというのに、この時間を手放したくない自分がいる。まるでぬるま湯につかっているような気持ちよさ。だがそれはサスケの為にも良くないと自分を戒め、サスケを起こさないようにそっとずらしてベッドから起き上がり忍び足で部屋を出た。

 

キッチンへ向かう際、壁時計を見上げれば五時を過ぎていた。急いでお米炊かなくちゃと準備をする。

今日はお弁当はいらなくて七時集合のはずだから早炊きでオッケーか。

人数分を米びつから計ってボウルに入れて蛇口をあけて水を流し軽くとぐ。米のとぐ音と時計のカチカチッという規則的な音、そして冷たい水の感覚が私を支配する。

 

……昨夜、気持ち悪くなって何か会話を交わしたのを最後に記憶を飛ばしている。

だがなんとなく最後、最後だけ覚えていることがある。

カカシ先生からされた、おでこツン、だ。

 

あれが、引き金だった。

私が狼狽えてしまったのは。アレをやられるのはイタチ以来だ。私もあえて意識してはいなかったけどサスケに同じことをやろうとはしなかった。避けていたのだ。アレは私達姉弟にとって忘れられない過去そのものだから。

よく我儘を言っては任務に向かうイタチを困らせていた。するとイタチはおでこを軽くツン!と突いて笑うのだ。

 

『ちゃんといい子にしてろよ、ヒカリ』

 

その笑顔が好きだった。その何気ない動きが私を虜にさせた。兄ではなく一人の男として。サスケにとっても兄のアレは大切だった思い出の一部となっていたはずだ。

 

「………」

 

それを私は重なって見えたのだ。一瞬、一瞬だけだ。

 

キュッと蛇口を閉める。米をといでいた手がとまりボウルの中に溜まった水に映る私は酷く青ざめた顔をしていた。

 

酷い顔。幼い頃の面影なんかない。

汚れすぎてしまった私。見ていたくなくて顔を背けた。

 

「………」

 

ダブって見えただけあれはカカシ先生で、イタチじゃない。

 

分かってる。分かってるけど、あの時声に出してしまった。

 

イタチ、と。

 

イタチを、重ねて見てしまった。

 

「大丈夫。大丈夫。落ち着け、おちつけ」

 

バレてない、カカシ先生にあの呟きは聞こえていないはず。

 

だがこの胸の痛みは何だ。なぜ、軋むように痛い。

 

よれよれになったワンピースの胸元をキツク握りしめずるずるとその場にへたり込む。

 

「、た、い」

 

最近の自分が可笑しい。自分じゃなくて別のうちはヒカリになってしまった感覚がある。以前の私はこんな残酷ではなかった。もっともっと普通だった。

でもふと考える。

 

私の普通って、なに?

産まれた時から愛情とは無縁の両親に放置気味に育てられあっさりと二歳の頃に二人とも死んだ。別に愛情をもらわなくても飢えはしなかったが、心は冷めきっていた。この人生もどうせ同じ結果になるんだろうと諦めていたからだ。

でも、イタチに出会った。養父さんと養母さんと出会えた。

サスケとも姉弟になれた。

 

愛情あふれる家庭がこういうものだったんだと知れた。

いまのうちはヒカリとなる前もその前もそのずっとずっと前も、確かに愛情に触れる機会はあった。けど、きっとどこかでここも前と同じなんだと冷めた自分がいて、家族と一線引いて生きてきた。いつでも別れられるように、その度に自分を傷つけまいと守った。

 

けど、イタチと過ごす瞬間、自分が生きていると実感できた。全身で毎日を生きて、彼と共にいられる時間を愛しいと幸せだと思えるようになった。

 

私は、彼が好きだ。

たとえ、離れ離れになったとしても、彼が、イタチが好きなんだ。

 

「あいたい」

 

自分の、素直が気持ちが口から零れるように出た。

 

そう、うちはヒカリは、イタチを求めている。

彼に会いたい、ただ、会いたいのだ。

 

会いたい、会いたい。

 

「イタ、チ……!!」

 

涙が自然と溢れ出してくる。頑張れば会えるって信じてる。

けど、会えない期間が長すぎて、イタチを支えにしてやってきたこの時間が辛くなる。

 

会いたいよ。イタチ。

 

イタチ、イタチ!

 

私、頑張ってるから。サスケを守ってこれたんだよ。

 

今、何処にいるの?会いたい、会いたいよ。イタチ。

 

私が、私でいられなくなってしまう前に会いたい。

一目だけでも。

 

嗚咽を殺して私は一人泣き続ける。

たった一人の愛しい人を求めて。

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