山の中で今にも瀕死状態の人を見つけた。いつもの散策帰りでのこと。
綺麗な川なのにその人が倒れているから血で汚れてしまっている。私は川面近くでしゃがみ込んで青白い顔のその人に尋ねた。
「死ぬの?」
「……カ、ハ。なま、いき、の餓鬼、が」
血反吐を吐きながらも瞳は死んでいない。里を追い出された忍。となると襲撃が予想される。けど私が散策している最中は他者と出会いたくないので結界を施している。彼はたまたま運が良かったのかな。
「なるほど、死にたくないのね」
そう納得した私はその人を川から引きずってゴツゴツした岩場の方へ移動させる。お気に入りの場所を汚されるのは気に入らない。それに死にたくないと言っている人を見捨てるほど忙しくはなかったから。忙しかったら見捨ててるけどね。
抵抗しない様子を見るとかなり重症のようだった。綺麗な髪と目が蛇みたい。名前を聞いたら掠れた声で大蛇丸だって。素敵だわ。
「大丈夫。簡単な医療道具ならあるわ。…あ、痛覚麻痺の薬切らしてた。でも痛いのは嫌よね」
ポーチから必要な道具を出していくが、飲ませようと思っていた薬が丁度品切れだった。なので妥協案として写輪眼である。
「アンタ、そ、れ!?」
大蛇丸は驚愕の表情になって私の目に注目する。そっか、写輪眼って有名だから吃驚したんだね。私もあまり人前で使わないからちょっとドキドキした。
「幻影で痛覚を一時的に失くすわ。貴方が安全な所で的確な処置を受けたらまた戻るようにしておくから」
写輪眼・幻影を発動させ、痛覚をないものと思い込ませた大蛇丸に処置を施していく。イタチが毎回お手本見せてくれてたからちょちょいのちょいだ。
幻影が解除された頃にはすっかり手当が完了していて、多少動きが鈍いが体を起こして大蛇丸は呆れたように私を見つめた。
「アンタ、馬鹿なの」
「馬鹿じゃないけど天才じゃないね」
皮肉をさらりと交わしてポーチから後で食べようと思っていたおにぎりを一つ取り出して大蛇丸に差し出す。
「はい、追われてお腹空いたでしょう?これから里を出るんだったら少しでも体力付けておかないと」
「食べるわけないじゃない」
「そっか。あんまりお腹空いてないんだね。だったら半分こしよ」
梅干しが入ったおにぎりを手で割って再度大蛇丸に差し出す。彼は目を剥いてしばらくおにぎりをじっと見つめていたけど一つ大きなため息をついて引っ掴むようにおにぎりを受け取った。そしてパクッと口に含む。
「へへ、梅干し母さんが作ったのだから美味しいよ」
「そこらへんのおにぎりと大して変わらないわよ」
「でしょ。美味しいでしょ!」
褒められると素直に嬉しい。にへらと笑みを浮かべると大蛇丸はまたため息をついた。
「ハァ、……人の話聞きなさいよ……。アンタうちはなのね」
私の背中に施されている刺繍はうちはの家紋だ。まぁ、さっきの写輪眼で分かることだけど。
「うん。うちはヒカリ。大蛇丸は木の葉を出るんだね。どんな悪いことをしたの?」
「フン、所詮低能な連中には理解しがたい崇高な話よ」
おにぎりを食べ終えた大蛇丸は行事悪く指先についた米粒を長い舌で舐め取ながらそういった。私も最後のおにぎりを口に放り込む。
「フーン、そっか。理解してくれないのは辛いね」
「……そんなことどうでもいいわ」
とか言いつつ、自分の目的とか忍術の話とか教えてくれた。話をまとめると大蛇丸は不老不死になりたいらしい。でも不老不死って疲れるだけだけどな。今の私がちょっと似てる状況だから大蛇丸にそんな得な話ばかりじゃないよと親切心で教えてあげた。でも大蛇丸は鼻先で笑い飛ばす。私みたいな小娘が何を理解できるのかって。
話だけじゃ理解してもらえない。ならば実際に自分の目で体験してもらうのが一番と考えた私はまた写輪眼を発動させた。
「だったら私が体験してきた事、教えてあげるよ」
「な!」
身をもって体験すれば不老不死というものがどれだけ愚かしいことか分かるはず。抵抗しようとしたけどその前に写輪眼・幻影に掛かった大蛇丸は数十分ほど身動きをしなくなった。ただ時々呻いて自分の顔や腕を引っ掻いてもがき苦しんだ。私の実体験してきた過去は相当年月が経っているので正常な人間ですら廃人化になる可能性はある。けど不老不死を熱烈に語るのだ。これくらい軽く乗り越えて欲しい。
◇◇◇
そろそろ帰らないと影分身のイタチが迎えにやってくるタイムリミットが近づいてきた。
過保護な兄のお迎えは今も続行中である。
暇つぶしに大蛇丸の所持品など確認していたら大蛇丸が幻影から帰って来た。パチリと目を開けて物色している私と視線を合わせる。
「最悪だわ」
「でしょ?」
ニシシと笑って見下ろすと大蛇丸から素早いデコピンもらった。
「あた!」
おでこを抑えて大蛇丸の上から退いておでこを両手で抑える。う~、ジンジンする。
「私が本気出したらアンタ死んでるわ」
「かもね」
私が膨大な記憶を所持し続けている呪われた身であること。このうちはヒカリという存在はこの世界で異端であること。私の秘密全てを知った大蛇丸は特に感想はないらしい。
でも吐きそうな顔して二度とやるんじゃないわよと睨まれた。怖い怖い。
確実に大蛇丸と距離は縮んだ。
出会って数十分の間柄だけど奇妙な縁を結んだ私達は友人となった。「そんなの一方的よ」と大蛇丸は言うけれど同じ釜の飯を食べたのだから友人だと力説するとそれ以上何も言わなくなった。
だがさすが蛇っぽいだけある。私という人間を知ってなお、彼は不老不死を諦めきれないらしい。とりあえず里を抜けて他国に行くと別れる大蛇丸に手土産を渡した。
クナイで自分の手を軽く切る。すると赤い血液があふれ出るので透明の小型のケースに垂らして入れていく。
「頭がおかしくなったかと思ったわ」
「自分の器を創ってみたいんでしょう?私の血液が役に立つかもしれないからあげる」
「……私が云うのもなんだけど、アンタやっぱり馬鹿だわ」
とか言ってますけどすでに貴方の手はなんですか。早く寄越せと言わんばかりに準備されてるじゃない。
「そうそう。馬鹿なの。天才じゃないし凡人ってわけでもないね。普通が一番一番!それに大蛇丸が創る器っていうの興味あるから」
「はぁ、まぁ、ありがたくもらっておくわ」
たっぷり注がれたケースを受け取って大蛇丸は挨拶代わりに私の頭を撫でて
「またね、ヒカリ」
と残して私の前から駆けていなくなった。
「またね、大蛇丸」
消えて行った彼の背に手を振って私は山を下りる為その場から立ち去った。
でも道中でイタチに見つかって説教された。手の甲に見知らぬ包帯をしているからそのことも追及されたけどうまく誤魔化した。だって年上の友人の為に自分の血を提供しただなんて言えないもん。