『雪みたいに真っ白だから、真白!ね、真白』
その責任をどうとるつもりなんです?
久しぶり。ホント久しぶりに夢を視た。
まだあどけない子供の頃。義父さんと義母さんとイタチと幼いサスケとまだ幸せに浸っていた私。
『ヒカリ』
義父さんが仏頂面で自分の膝に座れと膝を軽く叩いて、
『ほら、ヒカリ。木に登ろうとしないでこっちにいらっしゃい』
我が家のお天道様である義母さんがずっしり色々皆の好物が入っているお重箱を手に持ってビニールシートに座る。
家の庭にある桜の木が丁度見ごろを迎えた。ぷち花見ということで桜の木の下で皆でお昼を食べた。いつも食べる昼食よりも豪華に見えて私は嬉しくて年甲斐もなくはしゃいだものだ。舞い散る桜の花びらを手で捕まえたり一杯集めて手で持ち上げてぶわぁーっと舞い上がらせたり。
『ヒカリ。その辺にしておけ。せっかくの母さんの手作り料理が冷めてしまうぞ』
『ねーちゃ!』
サスケを抱っこして私に優しく声をかけるイタチ。
うん。今行くよ。
間近で桜の花びらを見物しようと木登りを始めた私だが、せっかくのお弁当を食べられてしまう前に素直に言うことを聞いて木から離れて私に手を差し出すイタチに向かって走り出す。
私の大切な家族。私の大切な一日。
家族団欒で過ごす何気ない日常が本当は宝物だったなんて成長してから気づいた事。たとえうちはが里から隔離されていた事実があったとしても、家族が皆揃っていれば解決しない問題なんてないと何の根拠もない空理空論を絶対と信じて。
それもまやかしだ。現実は辛くて苦しくて全てを放り投げだしたくなるほど自分勝手な大人達が取り仕切る腐った世界。
子供の、些細な願いさえ踏みにじりあまつさえ踏み台にしてのし上がろうとする。
全の為に個を捨てる。
木の葉の為にうちはを捨てる。
あの男はどのような気持ちでうちはを捨てたのだろうか。そのしっぺ返しがいつか己の身に降りかかるとは考えていないのか。それとも全てを受け入れた上での行動なのか。
どちらとも構わない。
結局の所、答えは変わらないのだから。
火影は、消えて当然なのだから。
◇◇◇
3階、角部屋の個室。日辺りはまぁまぁ。そこが今私の病室となっている。出入りは制限され、たまに先輩が顔を覗かせたりカカシ先生だったりと見慣れた人ばかりで飽きてくる。
病食は味気ないというか、味覚が戻ってこないのは相変わらず。最初こそ驚いたものの、仕方ないと諦めてしまえば意外と慣れるものだ。
昨日ハクが暇つぶしにと買ってきてくれた料理本やファッション雑誌などパラパラと捲ってみるものの、すぐに飽きてしまう。一人で歩こうとするとふらっとバランスを崩して床に倒れ込んでしまうし、自分の思うままに動かない体が歯がゆくて仕方ない。
「……つまんない……」
枕の横に雑誌を置いて大の字でベッドに寝転がる。
「あーあ!」
窮屈すぎて別の意味で死んでしまいそうだ。
今日で大蛇丸との接触から一週間が経過した。
仕事は休職扱いとされ、養生しろと火影からのありがたい通達。手持ち無沙汰を解消する為、うまくチャクラを練れない体となっているが、昔々、ネコバァ様に仕える忍猫に内緒で教えてもらった門外不出の禁術を忘れないようにこっそり内緒で発動させてみたりした。自分の顔に猫の髭が数本生えただけで失敗に終わったけど、いつもの私なら完璧に化けてるはずだ。
………ナルトが無事に予選通過したと報告を聞かされた時はほっと胸をなでおろした。サスケがいない今、心配で気もそぞろになるかと不安になったけどしっかりと自分の立場は理解していたようだ。
あの子の火影になるという夢に近づく為の中忍試験はナルトにとって初めての他者との交流の場。私とサスケ以外に接点を持たせるにはピッタリの場所だ。
ナルトは私が大蛇丸の呪印を受けて入院していることを知らされていない。長期任務で里にはいないという設定になっているし、ナルトも素直に信じているとのこと。
そのようにナルトに伝えないようにお願いしたのは私だ。
どんな形になるか分からないが、私は確実に抜け忍となる。
その先駆けとして私やサスケから離れる訓練、とまではいかないが、私達がいなくてもあの子が自分の生活を送れるように慣れさせるための作戦だ。
カカシ先生はナルトに心配を掛けまいとの私の配慮だとうまく思い違いしてくれて助かった。確かに余計な心配をかけて第三試験でヘマしないかという不安はあったけどあの子もサスケも以前よりもグッと成長している。下忍として任務に携わるようになってから忍の顔つきになってきたもの。
このまま順調に、なんてことが進むわけないのは分かってる。でももう私がいなくてもあの子達は大丈夫。サスケだってこのまま木の葉に残らせる選択肢もある。呪印もサスケの精神を鍛え上げれば暴走することもなくなるとか。
付きっ切りでサスケの修行に付き合うカカシ先生に感謝せねば。最近シスコン度が増しているサスケは目覚めて早々、私の病室に飛び込んでくるなり私の変わり果てた姿に狼狽し、呪印を暴走する手前まで症状を悪化させた。暗部の者がうっかり私が呪印を受けたことを漏らしてしまったとか。
うっかりすぎだろ。
それでサスケが暴走寸前に陥る前に私があることをやったから本人の不意を突いて正気に戻させることが出来てんだけど、今改めてあの時の行動を考えてみるとやっぱマズかったよなと一人で思い出すたびに反省しちゃうくらいだ。
ついうっかりというか、他に方法が思いつかなかったのが原因なんだけどね。でも年頃の男には家族とのアレはマズかったよな。
「こんにちは。ヒカリさん」
「あ、真白。いらっしゃい」
ひょっこりドアから顔をのぞかせたのはすっかりお世話になっているハクだ。ここにきて女の子に間違えられてナンパされることが増えたらしく、思い切って長かった髪をバッサリと切ってすっかり好青年へ変化したら、今度は逆に女の子にモテているとか。今は恋愛より里に慣れる方が第一優先なので彼女の話題とかは興味がないみたい。
私の着替え等持ってきてくれたハクの腕には手提げ袋が下げられていた。男の子にお願いするもの女としてどうかしらと首を捻るだろうが、私のような年齢(秘密の歳)にでもなれば開き直ってどうでもよくなる。いちいち細かいことにとらわれていては解決する問題も解決しなくなる。その都度、臨機応変に対応する。長年生きてきて導き出した答えの一つだ。
大体身体もこんな状態では洗濯もできるがどうか怪しい。
「着替えと頼まれてたの図書館で借りて来ましたよ」
「ありがとう、助かるわ。まさかサスケに頼むわけにもいかないしね」
「いいえ、これくらいじゃ恩返しにもなりませんから」
そう言って以前の演技掛かった笑顔よりも自然に笑えるようになったハクの手首には白磁の肌に似つかわしくない黒いバングルが装着されている。まだ試験品だがチャクラ封じの腕輪だ。彼と再不斬はこれを装着している事で里の中での生活を保障されている。彼らと腕輪と管理者の血で契約された証として巻物がある。
それが燃やされた場合、また管理者が腕輪を外す事を許可した場合腕輪が取れる仕組みになっている。その管理者は私が任命された。自分で拾ってきたのだから自分て責任を負えという意味だ。もし彼らが反逆の意思があった場合、管理者である私も監督責任として処分される。
なんて素敵で合理的な考えかしら。反吐が出るわ。
だがこれが火影からの最大の譲歩らしい。飼い犬には首輪をしろ、ということだ。実質、私とサスケも飼われているようなものだ。うちはという珍しい(珍種)サンプルとして。
忍としてのプライドを傷つけられたも同然の扱いなのにハクと再不斬は反対の意も唱えず素直に了承した。今まで平穏とは無縁の生活だったのだ。忍としてよりも人としての普通の生活を送れるならチャクラが使えないことはさほど重要じゃないとハクは語る。本名を名乗らせるわけにはいかないので偽名を考えてみた。ナルトは微妙そうな顔をしていたが一応命名は私である。
……ハクは雪のイメージで。再不斬は……ちょっと遊び心もあったりして。本人には口が裂けても言えないけど。
「―——さん、ヒカリさん?具合でも悪いんですか?誰か呼んできましょうか?」
「え」
一人の時間が長くなったことで思考に耽る癖が出てしまっているようだ。間近にハクがいることも気が付かず、肩を軽く揺さぶられて初めて気が付いた。
慌てて笑みを作り大丈夫だと手を振った。
「ゴメン、ちょっと考え事してた」
「そうですか。ならいいんですが、無理しないでくださいね」
心配そうに気遣ってくれるハクはまた椅子に座りなおして別の手提げ袋から頼んでいた本を取り出して私に手渡してくれる。
「これ、頼まれていた木の葉に所属する主だった一族の家系図の本です」
「ありがとう。これ一度目を通しておきたかったのよね」
少し古ぼけた表紙に仰々しい文字で『木の葉の歴史に名を刻んだ一族』と題して主だった名家の一族の名がズラリと乗っている。忍名鑑とでもいおうか。ここには私の生みの親である両親や義父さん義母さんの名も書かれている。勿論、私やサスケ、イタチも当然その名がある。まぁ大半のうちはは滅んでいるのでその名前も死亡の扱いとされているが、もし、仮にサスケが興味本位でこれに目を通そうものなら一発で私といとこであると知れることになる。まぁそんな事もなさそうだけど。
「これ借りる時に軽く目を通したんですけど……やっぱり寂しいものですね。自分たちの一族のページなると」
「そりゃね。清々しいほどに名前の所に赤線引いてあるもの。一目で誰が生存してるかチェックする分には分かりやすくていいと思うけど」
「そんな心境に至るまでヒカリさんはたくさん、苦労されたんですね」
同情してくれるのだろう、ハクは言葉を選んでそう言ってくれた。だが私には遡るのが苦痛なほどの隠したい過去がある。昔には二度と戻れないことを一番よく知っている。だから前に進むしかない。進んで進み続けることで何か活路が見いだせるはず。
視線を手元にある本へ落として数ページ軽く開きながら軽い口調で話す。
「………そうね、苦労っていうか……生きる為に、守るために必死だったって感じかな。……真白と一緒だよ。大切な人の為に生きてきた。今は新しい人生Startさせてる。そんな感じでいいじゃない。お互いに」
「でもボクは」「ストップ!そういうのはもうやめよう。キリがないから」
何かを言いだそうとするハクに手で制して無理やり言葉を畳みかけた。
「……そうですね。ヒカリさんはまだ退院の許可は出ないんですよね」
話題を変えてくれたハクに感謝しつつ、自分の目的をまだ達成していなかったことを思い出した。
「うん。まだね。流石にチャクラもまともに練れないとか忍としても使い物にならないし。あ、そうだ!真白に渡したいものがあったんだ」
「なんですか?」
「そこの引き出しから箱出してくれる?」
指先でハクの脇にあるサイドテーブルを示した。ハクは引き出しに手を掛け視線を探らせ目的の物を見つけたようだ。
「えーと、箱箱……。このリボン結びされてる箱ですか?」
「うん。それ」
「はい……どうぞ」
両手を差し出す私の手にそっと乗せてくれた。
「うん。ありがとう……。はい、あげる」
そして私は渡された箱をもう一度ハクに手渡した。きょとんとハクは目を瞬かせて戸惑っているようだ。
「え?ぼ、ボクにですか?」
もう一度めぐって自分に渡されるものとは考えていなかったみたい。
そりゃそうだ。これは私の決意の現れのようなものだから。一度イオウに家へ取りに行ってもらった大切な物だ。ハクと再不斬にとって人生を左右させる大事な物。
「うん。あ、中身は開けないでね。使う時に開けて欲しいの」
「使うもの?……一体何が入ってるのか気になります」
好奇心をくすぐられるのか、箱を持ち上げたり様々な角度から眺めて観察してみたり子供のような反応を返すハクについ笑みが零れた。
「今ここで見られると恥ずかしいの。ね、手、出して」
「こうですか?」
「うん」
素直にハクが右手掌を見せる。少しベッドから体を動かしてハクの手を取り、指先で字をゆっくりと書いていく。
『チャクラ封じの巻物は私がいなくなった後に好きなように処分して』
「!?ヒカリさん、それ、むぅ」
椅子から立ち上がり、距離を詰めて声を上げようとする。
だが言いかけの言葉の途中でそっとハクの唇に指を押し付け、口を閉じさせる。
「だ~め。内緒なんだから」(ここ盗聴されてる)
「………」
私がこの先に何をしようとしているか察知したハクはやりやすいように私のベッドへ移動して座り直し、今度は逆に私の手をとって掌をなぞり始めた。
『抜け忍になるつもりですか?サスケ君やナルト君はどうするつもりなんです。まさか置いて行く気じゃ』
聞かれてもバレないようにおどけたように言い返す。
「そろそろ姉離れさせなきゃって考えてたからいい機会でしょ?たまには私も羽根伸ばさなきゃ。今まで子育てしてたもんだからね~。あ、ちょっと眩暈した。真白肩貸して」
ぐーんと伸びをした所為でくらりと眩暈をしてしまった私はちゃんと断りを入れてハクの肩を借りるつもりでちょこんと頭を乗せ、誰にも聞こえぬよう小声で伝えた。
『事情は深く話せない。貴方達も目をつけられてしまうから。二人の事、お願い。特にナルトを支えて上げて。貴方はナルトの気持ちを一番に理解してあげられているから。ハク、貴方が貴方達だけが頼りなの。お願い、ハク』
少し顔を上げてハクと視線を交わ合わせる。切なそうに顔を歪めてまるで私との別れを惜しんでくれているようだ。
面倒ごとを押し付けるみたいで申し訳なくゴメンと謝ろうとした。けど自由の利かない体を労わるようにハクが背中に手を回して体を密着させてきた。そういえば初めての出会いでハクは私の事を『おねーさん』と言っていたが、実際には一つしか年齢は違わない。可愛い少年という認識を改めなくてはいけない。今、私を支えてくれているのは立派な一人の男子だ。私よりも線が細そうに見える体はしっかりと鍛え上げられていてその腕もしなやかな筋肉がついている。
声変わり前の声も口調と低い声音で話されればガラリと印象を変える。
ハク、と彼の名を唇の動きだけで描く。
「貴方に必要とされることが今は嬉しく思うのはなぜでしょうか」
「ま、しろ?」
ハクはニッコリと微笑んで顔を近づけてきた。
「ヒカリさん、男は打算なしに動くとは限らないんです」
「え、え、あ、そ、そうね」
ちょっと距離が近いような……。
逃げようとしてもしっかりと腰をホールドされていることを忘れていた私に逃げ場はない。
「ボクも、そのうちの一人なんです。だからご褒美ください」
そういってハクはチュッとリップ音付きで私のおでこにキスをした。
「へ」
「まだ足りません」
そう言って呆ける私に構わず次々に色んな箇所にキスの雨を降らせてくる。目尻に頬に目に着いた所は全て触れてくる。軽いキスばかりだが、一体何がどうしてこうなったとパニックに陥っている私はただただされるがまま、放心状態だ。
「あ、あのも、もういいでしょ?ひゃっ」
今度は耳にもされた。そこ弱いとこ!
「まだ、まだです」
「いやでもって、っやぁ!」
耳舐めてる~!もうキスじゃない!?年下に翻弄されるとかマジ
「耳、弱いんですね。可愛いです」
クスッと小さく笑うハクの顔に手をついて無理やり距離を取らせようとするが、弱り切っている体ではまともに抵抗もできない。
「お、お、おねーさんを揶揄うのは、やめっ、やめてってば!」
手を握られ、抵抗を阻止された挙句にまた頬に軽いキスをされる。
「一つ違いでお姉さんぶりですか。それ、ウザいです」
「なっ!」
「年下だから安全圏で大丈夫だろうとか舐めてましたね。ムカつきます。意識しなさすぎて馬鹿ですか」
私の中の素直で純情で温厚なはずのハクのイメージが音を立てて崩れていく。
つい涙目になり想いのまま叫んでしまった。
「ハクじゃな、い絶対ハクじゃない!純情じゃないっ!ハクはそんなこと言わないィーー!」
「失礼ですね。正真正銘の貴方に命を救われたハクです。ただ鈍感な貴方にはきっと言葉だけで伝わるはずがないと思って実力行使にでたまでのこと。ですが、これ以上病人の貴方に無理はさせられませんね」
「当ったり前でしょ!?これ以上なんかしたらカカシ先生呼ぶから!マジで!」
ガルルルぅと犬のように威嚇しつ、急ぎベッドの端っこへ避難する私を可笑しそうにハクは見守っていた。安定の位置に落ち着いた私は警戒心露わにハクを睨む。
「き、気軽にキスとか破廉恥すぎ!」
「天敵が多い獲物には全力で挑むのが一番ですから」
「天敵?誰が?」
「内緒ですよ。もう頼み事はないですか?」
「ないっ!」
全力で言い切った私にハクは「じゃ、また明日。失礼します」と爽やかな笑みを浮かべ背中を向けて退出していった。
年下の男の子は、油断ならないと身をもって体験した。