ナルトの為に少しでも精が付くよう今まで作った料理をレシピに起こしてノートにまとめた。結構なレシピの多さに今まで作って来た私も改めて吃驚した。結構レパートリーあったんだと。
ノート一冊まるまる使って出来上がったレシピ本はハクへ託した。それでナルトに料理を作って欲しいとお願いして。
修行でへとへとになって美味しいものを食べたら次の日もきっと頑張れるはず。
そして私も頑張っている。
今日もめげずに猫変化の術を使った結果、
「うーん、今日は猫耳か」
手鏡を覗き込めば自分の頭の上にピクピクと動く二つの猫耳が存在している。上手くは行ったが、今度は髭がない。
昨日は手先だけ猫の手になった。どこかしら中途半端なのだ。
だがこれではただ単に萌えを提供しているだけに過ぎない。クオリティが低すぎる。進歩は見られているのだけれど少しづつ、ほんの少しづつだがチャクラが練れるようになってきた。
カカシ先生に見られたらまたいい様に遊ばれてしまうだろう。だが今カカシ先生はサスケに付きっ切りなのでこちらに来ることはまずない。影分身を飛ばしている余裕もないはず。
しかし、可愛いな。猫耳。
つい手鏡を持ちつつ、片手でにゃんこのポーズをとってみた。
「にゃ~、にゃんにゃん!」
OH!自分で自分のポーズに衝撃を受けちまった。
……目が、目がぁぁ!!
とアニメの某大佐のようにショックが強く目を両手で覆ってしまう。いかに破壊力は抜群だが、自分で見るものではないとよくよく心に刻んだ。
なんでもハク情報によるとムッツリスケベのエビス先生からオープンスケベの自来也さんがナルトの修行の担当することになったらしい。水の上に立つ訓練をするために湯屋へ赴いた際、女子湯を覗いていた自来也さんにエビス先生が粛清しようと際、返り討ちにされ修行が中断されてしまったとのこと。
元々チャクラの扱いは私との修行のお陰で慣れたものだったが、大蛇丸から五行封印を施されていて上手くチャクラが扱えないようだ。それもあってか、憤慨したナルトは自来也さんに修行に付き合えと迫ったら、男だから嫌だと突っぱねられ、頭にキタナルトがお色気の術で悩殺ポーズを決めると鼻血垂らして速攻オッケーしたらしい。うわっ。引くわ~。
とにかく!私が心配していたナルトの五行封印は自来也さんによって解除されたようなので一安心だ。きっとあの子の中にある九尾のチャクラを使えるような修行が始まっていることだろう。……自来也さんに変な影響を受けないか心配だ。エロ好きなところとか。
「あう~」
ベッドに寝転んで大の字になる。病気ではないのに点滴が外されないので動くたびに腕の中に入れている針に違和感を覚えて不快になる。これ外せないかな。外したら外したでうるさいんだよな。
しかしよく考えたら、ナルトは好きな女の子いるのかしら。
私の事は火影の嫁にするとか豪語してるけどそれってお母さんを独占したいって気持ちの現れだと私は考える。出会った時から両親の愛に飢えていた子だもの。その可能性はあり得る。本人は私が好きだ、大好きだ!なんて恥ずかしげもなく告白をしてくるけど、それは信愛から来る愛情であって、恋愛からくる愛情ではない。私の抜け忍はナルトの将来にとっても好機かもしれない。
私がいなくなればナルトも目を覚まして、現実の自分だけを想ってくれる女の子に出会うはず。もしかしたらすでに出会っているやもしれぬ。ヒナタちゃんかな、サクラちゃんかな?意外なところでシノちゃんとか。年上っていう事もあるかも。
想像は膨らむばかりで腹を満たしてはくれない。
まぁナルトの事だから性格の良いお嬢さんを選ぶだろうと自己完結して体を起こす。
あ、やべ。まだ猫耳のままだった。急いで誰かに見られる前に解除しておく。
ボフン!と顔全体が煙に巻かれて手鏡でチェックすると、しっかりと猫耳は消えていた。良かったと安堵するの束の間、なんだかお尻が妙に違和感を覚えてそろりと後ろを振り返ってみると……。
「なんで?」
ゆらゆらと揺れる何かの尻尾が見えた。
白くてフサフサしててまるで、猫の尻尾みたいな……。
まさか、な。そのゆらゆら揺れる尻尾もどきを捕まえてみる。が、ひょいっと避けられた。しばし思考が停止する。
これは一体何処から生えているのか。確かにお尻に違和感はある。絶対この尻尾だと思う。だがどうして捕まえようとすると逃げるのか。条件反射みたいなものか。
いや自分の尻尾なら捕まえられないわけがない。
私は気を取り直してもう一度チャレンジしてみた。
今度は優しく、握るのではなく包み込むように……。
ひょいっ。
また避けられた。
落ち着け。よく考えるんだ。うちはヒカリ!
―——もしかして、この尻尾は独立型の最新版で宿主とは別に意思を持っている尻尾なのか?
だから捕まえようとすると逃げてばかりいるのか。
ならば納得した。この尻尾に私も同族と思わせればいいのだ。なんて単純明快な話。
早速、尻尾になったつもりで己のお尻に生えているであろうクソ生意気な尻尾に語り掛けた。
「大丈夫よ。恐れるものはなにもないわ。ここは安全だし貴方を捕らえようとする輩はいない。だから安心してだらけていいの」
そう、きっと警戒心を抱き隙なく揺れているんだろう。
うつ伏せ状態で自分のお尻に語り掛ける変態女に成り下がっている自覚はあるが仕方ない。これも尻尾を掴むための苦肉の策。幸い誰かお見舞いに来る時間でもないし、看護師さんの見回り時間にも該当しない。思う存分自分の尻へ語り掛ける時間があるということだ。
見にくい位置だが、若干尻尾の動きに変化が見られた。あれはリラックス状態!
私は体勢を変えて、尻尾を掴みやすい位置へスタンバイする。尻尾は警戒心を薄めてゆらりゆらりとスローペースを保っている。
好機!
私はチャンスを逃さず尻尾へ手を伸ばした。
今度こそ捕まえられる。強い自信を胸に抱いていた。
だが。
べしっ。
手を、思いっきり叩かれた。
しかも一度で終わらない。二度目の叩き。いや、三度だ。
この尻尾、確実に私を格下と舐めていると確信し、同時に湧き上がる怒りに体を震わせた。
ゆ、許すまじ、クソ尻尾め!
「………キェェエエエエエェェ――――!!」
ここからうちはヒカリVS尻尾という熾烈な争いが始まった。
だが傍から見れば奇声を上げて一人でゴロゴロ激しく転がったり誰かに向かって罵ったり大声を上げたりと頭がおかしくなってしまった!と報告されてもまず間違いはない。
実際その通りになり、報告を受けてやってきた先輩はベッドの上で正座する私の横に椅子を置いてそこに座るなりほろりと涙をこぼした。
「ここまで来ると庇いきれねぇわ。マジで。情けなすぎて泣けてくる。俺泣かすのお前ぐらいだわ、なぁヒカリ」
「すいません。でも尻尾が我儘で……あー!また猫耳が復活したっ!」
「シャラップ!もういいわっ!マジでやめてっ!」
先輩の悲鳴が病室に響き渡った。
その後二、三日猫耳と尻尾が出たままの状態が続いて悪夢だった。
【人格汚染がこんなところにまで迫っているなんて】
◇◇◇
サスケ、ナルト達がそれぞれ修行に励む中、私も密かに頑張っておりました。先輩に半猫化してしまった私を見て憐みを受けようとも、見舞いにきたハク、再不斬に猫かわいがりされ屈辱の極みを受けようとも。ええ、ええ!頑張りましたよ!
三次試験目前迫る中、ついに私は完璧な猫に変化することができたのだ。
ヌッハッハッハッハ!!おっとついどこぞの武田信玄風に叫んでしまった。噂好きの看護師さんからまたうちはさんが笑い上戸になってるわと院内で噂されかねない。
「ナァ」(できた!)
愛らしい鳴き声と艶やかな毛並み、しなやかなな体躯でベッドの上から窓辺へと身軽な動きで跳び着地する。
どうやらしっかりとチャクラを練れるようになった模様。体調もすこぶるよくなってきたし、もしかして山は越えたのかな?と喜ぶのもつかの間。油断大敵とはこのことである。
猫化が成功し、明日は久しぶりに聖剣を作り出してみようとウキウキして眠りについたすぐあとの事。
夜中の訪問者がやってきた。つまり忍の世界なら挨拶代わりのよくある奇襲である。
「っ!」
ただらなぬ殺気にカッと瞼を開くと同時に写輪眼を発動させる。コンマ二秒にも満たぬ限られた時間の中、染み渡る忍としての感覚が無意識に奇襲を受けることを想定していたのだろう。
以前よりも勘が冴えているので余裕で自分へ飛んでくるクナイを横に交わして枕に深々とクナイが刺さるのを確認しベッドから転げ落ちそうになると見せかけてシーツを思いっきり蹴り上げて相手の視界から一瞬だけ姿を消す。そこで相手に動揺を与え、ハクが見舞い用に毎日水を替えてくれる花瓶を蹴り倒して切り花や中に入っていた水を宙に舞わせる。自分の手を突き出して水を付けその手ですかさず印を組み、相手がいるであろう位置へ『指先を向けて』発動させる。
「水遁・水鉄砲の術!」
指先から弾丸のような勢いで放たれるこの術は地味なようでいて接近戦から遠距離戦で多用しやすい。人体も破壊できるほどの威力をもち殺傷能力に長けているが、扱う人物によってその能力は駄々落ちになる。つまり術者のセンスを問われる術なのだ。私はこれをあくまで殺傷ではなく威嚇用として使った。ようは囮である。花瓶の水によってぬれねずみ状態となるがそれくらい屁でもない。写輪眼で相手の動きを読めるとはいえ、まだ病み上がりという私の体ではまともに正面から戦うことは厳しい。なので相手の動揺を誘いつつ、援軍を頼むということだ。
「……!」
相手は突然の攻撃に多少驚いてはいるものの、危なげなく避けたようだ。隙ができた。私は畳みかけるように自分の親指を噛み切り術を組み上げる。
「口寄せの術!」
ボフン!と煙に巻かれて現れるのは頼もしき相棒、イオウである。私の盾として普段の小さいサイズではなく身の丈を超す大きな体躯で現れた彼は乱れた室内と表情険しくする私、そして奇襲をした相手を見定めて状況を把握する。
「なるほど、よもや里でヒカリに奇襲する者が出ようとは……何と愚かな」
そこ声音は普段の物静かなイオウのイメージとはかけ離れた怒りに満ちていて、ぽんぽんと彼の鱗を軽く叩いて抑えろと促す。
「イオウ、まだ手は出さないで」
「分かっておる」
私を背後で庇いつつ、シューシューと鳴き声を出すイオウは奴が指先一つでも動けば即座に骨さえも一瞬にして溶かす毒牙をむくであろう。実際、今イオウの口から見せる牙の先から何ものをもとかす液体がじわじわと溢れて床に落ちて行く。その滴が垂れるたびに床がどす黒く変色していく。
うわ、匂いも酷い。不快感から鼻を抓みたくなるがわざわざ挨拶をしてくれた相手の手前、お馬鹿な行動は我慢する。
出来るだけ匂いを嗅がないようにしつつ、暗闇の中から頭巾を取って顔を出した相手へ挨拶をした。
「………お初にお目にかかります。自来也さん」
そう、私に奇襲をかけたのはナルトの修行の相手をしてくれているはずの、三忍が一人、自来也である。一目で目を引く白髪に巨体で歌舞伎役者のような出で立ちをしている。とても忍として名乗れる風貌ではない。だが忍なのだ。彼の者も。おそらく影分身と思われる人物から警告を受けた。
「大蛇丸から手を引け。うちはヒカリ」
大蛇丸から以前イオウを通して警告を受けた。自来也がアンタのところに来るかもしれないから、ボロを出すなとね。だが病人に無茶言わないで欲しい。まともに相手が出来るわけじゃないし、派手な行動をすればそれだけ大事になる。
ただでさえ大蛇丸の呪印のことで火影から睨まれているのだ。これ以上の火種は御免である。
自来也さんと敬称をつけているが呼び捨てで構わないだろう。彼は私へわざわざ三次試験目前にして警告しにきた。その素性を晒すということは、それなりに確信を抱いているから。だが私は素知らぬ態度を取った。
「あえて問いましょう。『これは』一体何の真似ですか」
にこりと場違いな笑みで相手を間違えているのでは?と恍けてみる。だが自来也は同じ言葉を二度続けた。
「これで警告は最後だ。……大蛇丸から手を引け」
三度目はない。グッとぶつけられる殺気が一気に勢いを増した。息が詰まりそうになるほどの殺気に歓喜が生まれる。
己自身に迫りくる死が、より今の生をリアルにさせるのだ。この感覚は何度味わっても素晴らしい。
自分の頬が作り笑顔ではなく、自然にほころぶのを止められずにはいられない。
「フフッ、何のことだかさっぱり私には分かりかねますねぇ」
一応白けてみたが無駄だろう。声がつい弾んでしまった。私の小馬鹿にする態度に自来也はピクリと眉をつり上げて反応した。
「オレが何のために里を出ているか知っているか」
「……あいにくと他人には興味がありませんから」
一部を除いてだけど。
聞く耳はないと自分の爪先をいじり始める。
ああ、爪長くなってきた。切らなきゃ。
自来也は丁寧に説明してくださった。まったく興味はないというのに。
「大蛇丸に関する情報を集めるためよ。その中でお前の存在は僅かだが浮上していた。まさか里の中に裏切り者がいるとはなぁ?イタチ同様、同じ穴の貉というわけだ」
やたらと最後を強調して自来也は言うが、反対に自分でも驚くほど冷めた声が出た。
屑虫を見るように自来也へ視線をうつす。
「裏切者、ですか。フッ、先に裏切ったのはそちらの方ではないですか?我がうちはが全滅せねばいけなかった理由を貴方は知っているのですか?知った上でその口を叩いているのだとしたら、………撤回しろ」
たとえ三忍の内の一柱と言えど許しはしない。
誰が裏切り者へと追い込ませたのだ。
誰が好き好んでこの地位を欲するの言うのだ。
腹の底から湧き上がる怒りに促され、イオウを押しのけて前へ出ようとする私をイオウが尻尾を回して体に巻き付け動きを封じる。
「やめよヒカリ。体に障るぞ」
「イオウ!」
なぜ止めるのと叫ばずにはいられない。
「コイツは、こいつはっ!うちはを、イタチを愚弄したのだっ!!」
ギッと血走った目で眼光鋭くこのまま射抜きたいほどに睨み付ける。すぐ目の前に殺せる対象がいるのに手を出せないもどかしさ。裏切り者のレッテルを張られる屈辱、切なさ、悲しみ、ぐちゃぐちゃと混ぜ合わされた感情が理性を食い破り本能が主導権を取る。
歯を食いしばり、フー、フーと興奮状態へ陥る私の首筋から呪印が暴れ出し、大きく皮膚の上を這いずり回る。その証として呪印が首筋から顔面にまで広がった。
「ぁぁぁあああああ――――!!」
「っチ!」
ギチギチと私の体を拘束するイオウの力が増した。それ以上に私が抗う力が増しているのだ。
「自来也、ここは退け。さもなくば我が貴様を喰ろうてやる」
これ以上の絞めつけは私の体に負担をかけると判断したのか、早々に自来也へ警告を促した。だがそれは決して慈悲心から宣告しているのではない。イオウとてこれ以上己の中にの怒りを抑えきれないのだ。パートナーである私を愚弄されたのだ。彼が怒らぬ理由はない。
だが怒りに呑まれとしている私とイオウをまるで異形であるかのように自来也は不愉快そうに見つめ言った。
「本性を現したか。あの天才と謳われたイタチよりも先に写輪眼を開眼させていたフガクの秘蔵っ子。うちはヒカリがこんな姿に落ちてしまうとは……」
その声には義父さんへの侮蔑も含まれていた。
敬愛する義父を中傷され、激高した。
「ッ!気安く義父さんの名を語るな、下郎めぇ!」
唾を吐きとばしながら自来也を罵倒する私に対して奴は耳穴に指を突っ込んでしらじらしい態度を取りやがった。
「……ナルトが不憫でならんのぅ。のうヒカリ。あの小僧はお主を随分と慕っておる。『わざわざワシにプレゼント選びの指南を乞うほどにな』。……それがお前の本意なのか?大蛇丸の呪印をワザと受けた事も火影への復讐心からか?あ奴は禁忌を侵す愚か者だ。それでもなお大蛇丸に従うのか」
「従う?ハッ!」
あまりにも予想外の問いかけについ鼻先から笑い飛ばす。それが不快だと自来也は顔を険しくさせた。
「何がおかしい」
余りも可笑しくて命のやり取りをする場であることを忘れて笑い飛ばす。だが思うように満足に笑えないのでイオウに離せと促す。
「ハハハッ!はは、ははははっ――――!」
「ヒカリ」
若干巻き付きを緩めてはくれたものの、完全に私を離す気はないらしい。そんな彼の優しさが少しだけ正気に戻してくれた。その気持ちに応えるようにイオウと視線を交わす。
「いい、大丈夫だ。落ち着いた」
「わかった」
シュルリとイオウの体から力が抜けて拘束が解かれる。ありがとうという意味を込めてイオウの体を撫でた。
しかし、まさか私が大蛇丸に従っていると見解するとは。
噂とは一体どのような物なのか興味が沸いた。里を出た後でも暇つぶしに調べてみることにしようと決めた。
フゥと息を整え髪をかき上げて奇異なる者でも見ているかのように凝視する自来也へ薄い笑みを見せた。
「……失礼、取り乱してしまったようだ。どういう風に調べたか知らないがまったくもって見当違いも甚だしい」
「……なんだと?」
「従うなどと陳腐な言葉ではない。大蛇丸は我が古き友人にして盟友。友人が力を貸してくれるのだからそれに対してこちらも助力を惜しまないのは当然の事。大蛇丸は決して愚か者ではない。ただ掟の中から異端者としてつまはじき出された。それだけの話だ。………人が人を完全に従えさせられると粋がるな。それにナルトには常々言い聞かせている。あの子の道はあの子自身が決めること。そして私の道も私自身が決めること。誰の指図も受けない。たとえそれが火影であったとしても私は私の意思で従うのみ、だ」
「なるほど……それがお前の答え、というわけだな」
「言葉遊びもここまでにしろ。私を処罰するというのなら抗うまで。たとえ影分身と言えど容赦はしない」
本体にダメージを負わせる程度には苦痛を味わわせてやる。
戦闘態勢を取った私に対し、自来也も構えを見せた。
「歩み寄りはなしか」
「くどい!」
自来也の言葉を吐き捨て素早く印を結んで行く最中、突然の乱入者が現れた。
「おいおい。こんな狭い中で 火遁・豪火球の術はやめとけ。ウエルダンだけじゃすまなくなるぜ」
気配無く戸口に立つその人物に目を見張る。
そのいかにもちゃらけた口調と緊張感漂うこの場で己のペースを崩さないのは私の知り合いでただ一人。
「先輩」
暗部での私のパートナーであり、ぼっち飯から救ってくれる人。自来也を前にしても焦る様子はない。それどころか、
「自来也様、申し訳ありませんが今のヒカリは貴方様にとっては処罰に値する人物でしょうが俺の護衛対象です。火影から直々に守るよう仰せつかっております。ですので即刻お引き取りを」
とやや強引ではあるが、立ち去れと促すじゃないか。この騒動で来るのが遅いと思ったがやっぱり来てくれた。だが妙に可笑しいことに今更ながら気づく。これだけ物音を発しているのに病院の職員が駆け込んでくる気配がまったくない。まるでこの一室だけ世界から遮断されているような……。
だがそう簡単にこの男が帰るものか。
とりあえず事の成り行きを見守ることにした。
「暗部の、……確かあず……ブベホォォォ―――!!」
思案しながら自来也が禁句をぽろっと口に出したようだ。途中で遮られるように高速で突っ込んできた先輩に顔面パンチされあっという間に影分身の自来也は消えた。
どういう原理が働いたのか、まったく読めない。
「最後まで言わせない。流石先輩……」
シリアスな場面も先輩に掛かればコメディへと変化する。ぶるりと別の恐ろしさから体が震え、自分が呪印モードであるにも関わらずイオウにへばりついた。
「次言ったら殺すマジで」
既にこの場にいない自来也へ殺害予告を出す先輩の背後には妙なオーラが漂っていて声をかけるに掛けられず、オロオロする私。
「あ、あの」
「ん、おう。大丈夫か」
ケロっとした様子で振り返る先輩は狼狽える私の元へ歩み寄って来た。イオウの背後でへたり込む私にイオウを跨いで手を差し出す。
「何座り込んでんだよ。体冷えるぞ」
「え、えそ、そうですか」
とりあえずその手を取って立ち上がりベッドに座らせられる。イオウはやる気をそがれ体のサイズを縮まらせて私の腕に上って絡んできた。そのまま巻き付いて寝るらしい。
すっかり呪印も引いてしまった。先輩効果恐ろしい。
「大人しく帰るなら出てくるつもりはなかったんだが、スマン。邪魔した」
ペコリと頭を下げてわざわざ謝罪する先輩に慌てて手を振って否定した。
「いえ、あの、助けていただいて恐縮です!……あのつかぬ事をお聞きしますが、……先輩が、何かしてたんですか?てっきり物音を聞いて他の人たちが駆け付けるかと思ってたんですが」
「ああ、ここだけ隔離しといた。他の患者にも迷惑だからな」
「え」
サラっと凄いことを言われ目が点になる。先輩は私の驚く様子も気にせずあっぴろげに告白した。
「時縛りの術。俺の血族限界だ。この中で俺に刃向かえる奴はいない。ただしこの空間でのみ、だ」
つまり特定の場所でしか発動できない。がそこに敵を閉じ込める限り術者は無敵となる。閉じ込められた者は一方的に嬲り殺されてもおかしくはない。随分と限定的だが一撃必殺にもなり得る非常に危険な術だ。しかし、確かこの術を扱う一族は随分と前に滅んだと書物に記されていたが、もしや。
「……先輩、貴方……は」
私が言わんとすることを察してか先輩は浅く頷き返した。
「俺は時かけ一族の生き残りだ。時を操るなどと大それた話があるが、半分は脚色されたもんだ」
時かけ一族。
時を自在に操り、留まり続ける輪の中で生き続けると謳われる種族。
その見た目は普通の人間とは異なり、歳の取り方も違うという。
独自の文化を築いていて本来温厚な者がほとんどであった彼らは他者との関りを拒んでいたが彼らの特殊能力に目をつけた忍らが彼らを狩り始めた。だがいくら探しても手掛かりさえつかめない。元々彼らがいる場所は秘境と言われる未知なる領域。たどり着けぬのも無理な話。だがあるトラップを仕掛けたことでその秘境の里への入り口を見つけることに成功したある男が他の仲間を手引きし里を強襲。一族は奴隷や刃向かう者は皆殺しにされ、時かけ一族は一夜にして滅んだと文献には載っている。
先輩はその一族の末裔でハーフだとか。だから普通に歳を取るがその能力はしっかりと受け継がれている。ただチャクラ消費が激しく使うと滅茶苦茶疲れるし怠いから滅多に使わないとか。そんなめんどくさがりの先輩が私の為に使ってくれたこと。感動である!
こんな大切な事をなぜ、私に打ち明けてくれるのか。
戸惑うしかない私に先輩は
「……ヒカリ、お前がこれから行おうとしてることは何となく察しがついてる。俺がお前を守ってやれるのは三次試験が行われる当日までだ。その後は……分かってるだろ」
「……先輩……」
私に背を向ける先輩がその先に待つ対決を示す。今はあくまで護衛対象であると豪語するのは先輩なりの守り方。多少ゴリ押しでも自来也に刃向かったのだ。火影の命だと盾にして。
「お前だけだからさ。名前呼ばずに先輩って慕ってくれる後輩は。貴重だから失いたくなかった。それに何かとお前には飯とかもらってたからな。その礼みたいなもんだ。気にするな」
知らずに命拾いしていたのね、私。
今更ながら自分の運とオカン魂に感謝せずにはいられなかった。
「というわけで別の部屋確保させてる。移動するぞ。この部屋じゃ安心して寝てられないだろ。荷物はそのままにしとけ。後で運ばせるから」
そう言って先輩は扉に手をかけて部屋を出ていく。
なんだか色んなことが一気に起こってドッと疲れに襲われる。だが色々とぐちゃぐちゃになった部屋でゆっくり休められるわけもなくハァとため息を一つついてから、重たい体を動かして、適当に転がっていたスリッパを探して履き廊下で待っているであろう先輩を追って部屋を出た。
【これで確実に自来也を敵に回したわけだ】