君の為に変革す   作:サボテンダーイオウ

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侑子さんとーじょー。


11

チリン、チリン、と耳に心地よい鈴音が響く。

 

不思議。だってここは水の中なのに。

 

私というちっぽけは人間は果てのない大海原に身を沈ませ深い深い水底へと落ちて行く。少しだけ瞼を持ち上げると微かに上がっていく泡が見えた。時々聞こえる鈴音とコポ、コポと気泡が何処からか生まれ、そして地上へ上がっていく。

 

私は反対にどんどん沈んで行くしかない。

上へあがる方法が分からない。どうすればいい。

 

もがこうとしても自分の手は汚れきっていて鉛の手錠を付けられている。足首には鎖が巻き付いていて海底の何処かへ繋げられている。私に残された選択肢は、ただ身をゆだね沈むのみ。

 

このせかいはわたしにとって、すいそうだ。⦅水槽×水葬⦆

 

もがくこともせず、上を見上げることもせず。

ただただ、落ちて行けばいい。

 

考えることも億劫で全てを放棄したい。どれだけ頑張ればいいんだろう。どれだけ涙を流せば、報われるんだろう。

 

大切な人を悲しませて、見たくもない血を浴びて、裏切り者と罵られることを当たり前だと受け止めなきゃいけない。

 

私は、私は人間なの。

傷つけられれば血だって流れる。悪口言われれば心だって痛い。最初から裏切り者であることを覚悟してはいた。だがそういう状況を作ったのは誰だ。誰が私達を裏切り者へ追い込んだんだ。自分たちは無関係だと言いたいの。

無関係だから私達は苦しみ死ねと?うちはの皆の大半の魂が報われぬ生に絶望して死んでいったというのに。イタチだってそうだ。好き好んで同胞を殺したかったわけじゃない。

 

そうせざるを得なかった。

なのに、なのに!

 

アイツラはその屍の上を堂々を歩いて暢気に笑っている。

 

私達は泥水を啜り、地を這いずり回って陰日向の暮らしをしてきた。いつか日の目を浴びる為に。いつか、やられた分だけやり返す為に。

 

けど、何時まで私は恨めばいいの。ずっと?

この生が続く限り?そんなの、嫌だ。恨みつらみごとで人生を終わらせたくない。

 

ああ、一体何処まで落ちればいいのだ。

今の生に絶望し、自殺したところで次の転生が待っているだけ。この記憶の連鎖は終わらない。輪廻転生の輪から歪んで逸れてしまった私は永遠にこの苦しみから逃れられないんだ。

 

誰か、助けて。私を掬い上げて。

 

『……ヒカリ…』

 

呼ばれている?誰かに―――。

 

だがもう耳を傾ける余力もない。ただ落ちて行くだけ。

きっと気のせいだろうと縮こまろうとした。

 

だが声は続く。

 

『……ヒカリ、……気がついて……』

 

まるで私に手を伸ばしているように。

沈んで行く私を助けようとしているように。

 

『……それ以上、深く落ちては……私の手が届かないわ……』

 

聞いたことのある、声。

 

これは、馴染み深い腐れ縁の魔女の声。

こんなところまで深く入り込んできたのか。相変わらず無茶をする。こんなミジンコな私など放っておけばいいのに。どうせ、次の転生でまた会えるのに。

 

『ヒカリ!』

 

分かってる、分かってるって。そう怒鳴らないで!

諦めるなっていうんでしょ。

まだ人生謳歌してないっていうんでしょ。謳歌どころか奈落の底ですよ。どうせ死ぬなら同じじゃないか。

 

もう腕が重たい。引きずり込まれてるだって。

上にのぼれないんだって。このままじゃ侑子まで戻れなくなるよ。

 

『だからよ、少しでもいい。少しでもいいから。……起き上がれ、このっ!貧乳ぅぅう―――!!』

 

貧乳。

その言葉は私に人生におけるブロックワードだ。

 

今いうか、それ。

今いう必要あるか?自分は昔からないすばでぇな体つきしてるくせに今それを言うか?しかもエコーかかってませんか?

 

私の最後に聞いた言葉が貧乳とかないでしょ。

ずっと頭の中でエンドレスですよ。エンドレス貧乳ですよ。

 

最後の言葉は余計すぎる!

 

腹の底から怒りがワァ!と沸き上がってググッと下向きだった顔を地上へ上げて、思いっきり叫んだ。

 

『誰が貧乳じゃぁああああ―――!!』

 

『掛かったわ!』

 

歓喜に満ちた声と共にグッと胸元が詰まる苦しさに顔を歪めてしまう。そして戸惑う暇もなくものすごい勢いで上へと引っ張り上げられた。

 

『ひょえぇぇええええええ――――』

 

『Hit!』

 

ドシリアスな展開から一気にギャグへと様変わり。

あまり考えたくはないが、どうやら侑子によって一本釣りされたようだ。

あくまでイメージであって本当に釣り竿で釣られたわけじゃない。断じて!しっかし、男前だね~。

 

◇◇◇

 

目が覚めて最初の叫び声はこれだった。

 

「貧乳!」

 

途端ペシッと軽く額を叩かれる。

 

「ようやっと起きたわね」

 

痛みでつい瞼を開けばぬっと視界の隅から現れる懐かしき悪友の顔。

 

「へ!?ひひひ、誰が貧乳だってアタッ!」

 

今度は手刀を容赦なく落とされた。

 

「アンタよアンタ。この馬鹿ヒカリが、もう少しで完全に手出しできなくなってたわよ。……感謝なさい。っていうか膝痛いから下りろ」

 

そういうなりゴロンと容赦なく廊下に転がされる。どうやら侑子の膝で寝ていたようだ。おい、そこは美形を用意しろと文句が出かかったが、冷ややかな視線にぐっと詰まる。

 

転がされた体で何とか上体を起き上がらせつつ、辺りに視線をきょろきょろと彷徨わせる。

 

「ゆ、侑子?……ということは……ここは店?なんで?」

 

見慣れた庭先が目の前に広がり、恐る恐る横に足を組んで座っている魔女サマに視線をやれば、にゅぅぅ~とねじり上げられるように頬を挟まれる。

 

「その呪印とやらの影響で元々歪められた魂がさらにねじり曲がってヒカリの人格ごと飲み込まれそうだったのよ。本体のアンタはグースカーといびきかいて寝てるわ」

 

「……いだいぃ……」

 

「もっと痛くしてあげましょうか?」

 

やばい、滅茶苦茶イイ笑顔だ。

なんとか手を外させようと奮闘しつつ、

 

「………怒ってますか、侑子サン」

 

とご機嫌を伺ってみる。

 

「だったら何だって言うのよ」

 

「別に。愛されてるなってイタ」

 

ビシィイ。

二度目の手刀は愛に満ち溢れていた。

嬉しくてにやけてしまう頬を両手で持ち上げつつ、侑子の隣に座りなおす。

 

「最近調子が良かったのになぁ」

 

「そんなの気休めでしかないわ。次、ヒカリは近いうちに深い眠りにつくはずよ。そこで本格的な上書きが始まる。その前触れってところね。快調の理由は」

 

ズバリ、確信を突かれた。私もそうじゃないかなって思ってましたよ。嘘みたいに体が軽かったしね。

 

「……はぁ、やっぱ避けられないか」

 

「でもこの鈴がアンタの魂を導くわ。上手くいけばね」

 

そう言って侑子はほらと私に鈴のようなものを手渡してきた。

 

「鈴、って……これ?……中身ありませんけど」

 

そうなのだ。この見た目は鈴でも左右に揺らしても音がしない。なぜなら鈴の中身が入っていないから。

 

「それは『魂呼びの鈴』。離れていく魂を呼び戻す為の鈴よ。ヒカリの場合、上書きされる前にその魂が半強制的に眠らされるでしょうけど完全に眠った所で上書きは始まる。だかあらこの『魂呼びの鈴』を使ってその眠りから自力で覚ますまでが最終目的。あくまでこれは補助であり身に着けていて初めて効果があるわ。決して体から離さないで」

 

侑子からの親切丁寧なアドバイスはありがたいが、だが肝心の解決方法には至っていない。しかもそれなりのリスクも覚悟しなければいけない。

 

「……結局は根性で何とかしろってことね。いつものパターンですからありがたくもらっておきます。対価は?私払った覚えないんだけど」

 

コテンと首を傾げて尋ねてみると侑子は待ってましたと言わんばかりに笑みを深めた。

 

「もう貰ってるわ。ほら」

 

「主サマ、おまちどー」「おまちどー」

 

そう言ってマル&モロが持ってきた硝子の器に入っている白桃と黄桃を受け取った。フォークでグサっと刺して美味しそうに口元へ運ぶ。

 

「なぜに桃?」

 

「ヒカリの大好き~な白桃と黄桃、の、缶詰♪」

 

「え、それってカカシ先生からのお見舞いの………いやいや、だってしっかりとイオウに飲み込んでもらって先に大蛇丸のアジトの金庫に……しまってもらった……はず、なのに……?嘘、嘘だよね?侑子サン。マジで後生ですから!違うと言ってふにゅ」

 

食べるのを邪魔させようと突進してやろうとしたがすかさず侑子が片手を出して私の顔を押しとどめる。その動き、まるで神業。私の捨て身タックルなど侑子にしてみれば赤子同然に見なされ結局は侑子の胃袋へいらっしゃーい。

 

「当たり。ああ、美味しいわ!!」

 

「うわーん!」

 

悔し涙を浮かべドンドンと廊下を叩いて力なく肩を落とすしかない。便乗して大口開いて待ってみたけどあーんしてくれなかった。っチ!

 

「ヒカリを信頼している教師からのもらった桃缶。これが対価である意味をわかってるわよね」

 

まるでエセ乙女のようにうっとりと頬を染めフォークで刺した白桃を見つめ、ぽいっと口に含む侑子。

あう、涎が……、駄目?ね、駄目?……駄目ですか。ッケッ!

 

「……分かってるよ。分かってるから悔しいんじゃんか。それ自分の死ぬ間際に食べようと思ってたのに。もうカカシ先生には会えないんだから貴重じゃん。うぅ、高級缶詰だったのに~」

 

自分では中々買おうと思わない。主婦生活が長かった所為か、どうしてもお値段が気になるのだ。それを、対価の為とは言え……スミマセン!カカシ先生!

 

侑子は意味深に笑みを深めた。

 

「ヒカリの為に大奮発したのね、彼。愛されてるじゃない」

 

それって嫌味かよ。

 

「………違うもん。あーもう帰る!」

 

居心地の悪さに声を上げて立ち上がって庭先へ向かった。私が歩き出す方向に真っ黒な穴が出現する。どこでもドアならぬ、どこでも穴だ。

 

ちらりと後ろでのんびりしているであろう侑子に視線をやるとヒラヒラと手を振ってくれた。

 

「ハイハイ。またね」

 

「……またね……」

 

軽く手を振ってどこでも穴に飛び込んだ。

 

◇◇◇

 

今日は三次試験の日。ついに、やってきた。

里を抜ける日が。やることはやった。もう後悔は……ない、はず。

サスケにはカカシ先生が付いてるし、ナルトには……あのムカツク自来也が師匠としてこれからも支えてくれることだろう。後は、ハクと再不斬に関してはしっかりと私と無関係であることを示す証拠なんかを揃えて置いた。

逆に里抜けの証拠になりそうなものは処分しておいたし……後、必要なことは……ない、と思う。

 

ベッドに腰かけたまま、何か忘れているような引っ掛かりを覚えて首を傾げて思い出そうとする。

 

……ああ、あった。火影、どうしようかな。

予定なら風影に化けた大蛇丸が殺すそうだが、はてそううまくいくものか。耄碌しているならともかく現役火影。そうやすやすと首を差し出すとは思えないが、大蛇丸なりに策はあるのだろう。自信満々に言ってのけたのが印象に強く残っている。

 

こちらも先ほど一戦を交えたので少々気が高ぶっているからか、まだまだ戦い足りないらしい。血が妙に騒ぐ。

 

「迎えに来ました、ヒカリさん」

 

「カブト………、もうそんな時間?」

 

音もなく戸口に立つ大蛇丸の信頼における部下カブト。

 

「ええ。手助けが必要かと思いましたが……無用だったみたいですね」

 

ちらりと床下に倒れている『先輩』を一瞥したカブトは、気を取り直して私へ紙袋を手渡してきた。

 

「これに着替えてください。必要な物は全て向こうで揃えればいいと大蛇丸様が仰ってますから身一つで構いません」

 

「……ふーん…」

 

確かに木の葉の忍者装束はもう着る気はないし、かといって私服っていうのも戦闘中動きにくいし、

 

これって上だけチャイナ服?太めのコルセットするとやけに胸元が強調されるような……。しかもパット入り。……気、遣われてると受け止めていいのかしら。でも侑子を連想させるような蝶の刺繍が施されていてセンスは中々だ。

 

背中にはうちはの家紋がさり気なくあるし、下は黒のシュートパンツだから動きやすそう。んでもって黒のヒールが付いてるサンダルは定番っと。

 

太ももにホルスターを巻いてコルセットの所に侑子からもらった鈴をぶら下げて、髪はポニーテールにして。

うん。準備はオッケー。

そういえば、なんで鳴らない鈴なんて後生大事に着けてるんだろう、私。邪魔なだけなんだけどな。捨てるに捨てられない不思議な気持ちだわ。

 

「よくお似合いです」

 

「お世辞でも嬉しいわね」

 

「いえいえ。根が正直なので嘘は言いませんよ」(貧相な胸以外は似合ってるんだが)

 

とか言いつつ眼鏡クイッと上げて胸元をしっかりと見定めている。胸ないって思ってんだろ。ま、別にいっかと見せかけてのクナイ飛ばし。ちゃんと刃の先には毒を塗ってある。これでかすり傷一つ負えばそこから腐っていくだろう。

 

「えいっ!」

 

「……いきなり急所狙いですか。これはまた随分と貴方の裏が出張ってきてますね」

 

高速で飛ばしたクナイを数本華麗に避けるカブトはやはり大蛇丸の優秀な部下と言えよう。

 

「裏って何よ。失礼ね。私は一人だわ」

 

腕を組んでつーんとそっぽを向く。

 

「………急いだほうがよさそうだな」

 

なんか昔を思い出すな。侑子とクロウと一緒に過ごしてた時を。

あの頃は面倒くさいことを考えなくても三人一緒だった。憎まれ口叩いたり揶揄われたり遊ばれたりして飽きない毎日だった。

 

何時の頃か、バランスが崩れ始めた。

私が流行り病にかかって死の淵を彷徨った時だ。

そう、あの時私はもう助からない命だった。私にとってそれは自然のことであって、また転生を繰り返すことは必然。

 

なのに、なのに。

 

あの時、確かクロウは……『何を願ったっけ』。

 

霞みがかっている記憶を思い出そうとするが、物思いに耽る前にカブトから出立を促される。

 

「ではそろそろ行きましょうか」

 

「……そうね」

 

今更思い出した所で意味はない。どうせ、過去の事だ。

 

軽く頭を振ってカブトの後に続こうとした。だが戸口で歩みを止めたカブトは忍としての興味本位からか静かに尋ねてきた。

 

「ちなみに彼は、貴方がやったんですか」

 

彼、彼とは。

 

一瞬瞬きをして、誰の事を指しているのかすぐに理解できなかった。だが間をあけて、ああ!と納得して手を叩く。

 

「……ん?ああ、そう。最後まで面倒みてくれた先輩だけど残念だったわ。直接戦うには少しリスクが高いから万華鏡写輪眼でさっさとやっちゃった。意外とあっさりバタンキューよ」

 

ケラケラ笑って余裕だったと教えるとカブトはなぜか私を見つめ顔をしかめた。なぜそんな顔をされるのか私にはさっぱり理由が分からない。ただ敵を相手にしたまで。

 

「……彼は、最後に何か言っていましたか」

 

「……そうね。貴方によろしく、と」

 

まったく私を伝言代わりに使うなんていい度胸してるわよ。

 

「…………」

 

「同じ孤児院育ちなんですってね。貴方と先輩。色々手助けしてくれた理由も貴方が絡んでいたからかしら」

 

最後だからってペラペラとよく語る男だった。自分が死ぬかもしれない恐怖を感じている間際の顔ではなかったわね。不快でならなかった。どうせならもっと苦しめばいいのに。

 

「さぁ、今となってはわかりませんね」

 

「そうね。無駄な詮索だわ」

 

もう先輩と会話することはない。

今度こそ、カブトが先頭を歩いて部屋を出る。

 

「では」

 

「ええ………、今までお世話になりました。ア・ズ・キ先輩。さようなら」

 

きっといつもの先輩だったら私の事、殺してますよね。

でももう、貴方に私は殺せないでしょ。

 

フフッ、貴方は起き上がれないんだから。

 

最後で厭味ったらしく名前呼びしても先輩はピクリとも起き上がることはなく、私は満足げに口角を上げてカブトの先導で病院を共に抜け出した。

 

【中忍選抜試験 完】

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