きっとそれが布石となる。
ネコバアなる人物と知り合う機会を得た。父が武器を調達する際に御用達としている店の取り締まり役の人らしい。父さんのお出かけの際のお供にとして私もついていくことができた。これも私の努力の賜物というもの。
だって最初こそ、父さんはうちはの集落から私を出す事を渋っていたのだから。
「ヒカリは目を離すとすぐに面倒を起こすからな」
「むぅぅぅ」
なんだその問題児扱いは!精神年齢は父よりもぐーんと上なんだぞ!
ムッとして頬を風船のように膨らませて抗議した。だが父さんは無言で私を抱き上げて何度も頬ずりをして誤魔化した。
むん!これくらいで根負けする私ではない。
つい気合が入り写輪眼を発動させてしまった。
「こら!私を萌え殺す気か」
叱られた。失敗失敗。
次の機会の時、
「私も行きたい行きたい行きたい!」
と激しく廊下をゴロゴロ転がって必死に訴えたし泣き落としもした。
「父さんについて行きたい!1秒でも離れたくない!離れたら私寂しくて死んじゃうよ!」
と。離れたところでしぶとい私が死ぬわけはない。
だがこれが父さんのハートをズッキュンぶち抜いた。
わなわなと震えだし、胸を片手で抑えつつ苦悩に満ちた表情でその場に蹲ってしまった。
「あら父さんったら。ヒカリの可愛さに悶えてしまってるわ。ヒカリもずっとゴロゴロ転がり続けているのも痛いだろうしここは貴方が折れるべきよ」
「父さん、これ以上悶えるのは体に良くない。俺がしっかりとヒカリを見ているから一緒に連れて行ってもらえないか」
微笑ましい父娘のやり取りを観察していた母さんと兄さんに説得され父さんは、ゆっくりと起き上がり
「仕方ない。だが問題は起こすんじゃないぞ」
と言い、寝転ぶのをやめて目をキラキラ輝かせ小躍りする私を強面の顔で抱っこし定番の頬ずりをした。
痛い痛い!髭剃ってないでしょ!?
だがヒリヒリ頬が赤くなった甲斐があるというもの。
一緒にいくことを許してくれた。やったね!
「ヒカリ、大人しくしてるんだよ。じゃないと引っ掻かれてしまうかもしれないからな」
「引っ掻かれる?何に」
「忍猫にさ」
普通の猫と区別が付かず私は首を傾げるしかなかったが、その意味が対面する事でやっと理解できましたよ。父さんとイタチはその取締役のネコバアと話しがあるとのことで軽く放置された私は物珍しい猫にちょっかいを出そうとしたが、その猫、名を忍猫でマタビィというらしい。愛くるしい見た目とは裏腹に雷に打たれてしまうような美声、いや、大人の色気に満ちた男性の声だった。
「よく来たにゃ。フガクの娘っ子」
「猫喋るんかい!」
驚きのあまり叫んでしまった一言に忍猫マタビィはすかさずツッコミを仕掛けた。
「喋ったらおかしいかにゃ?」
「いえべつに。私そういう偏見とかないんで。むしろ糸目のもちっとした生き物が『ぷぅ』って鳴いたり『お腹減ったよ~』って喋るの見てるんで。ただね、ノリでツッコミしたかっただけです」
パタパタち手を振って否定する。
「ノリなのかにゃ。大体その糸目のもちっとした生き物ってなんにゃ」
「ノリっすね。友人二人が合作した生物です」
「じゃ仕方ないにゃ」
「でしょ。やっぱりこういうリアクションが定番ですよね~」
ギャップ萌え。オジサマの声に語尾がにゃ。新たな境地に目覚めてしまいそうになるのをたたらを踏んで堪える。駄目だ、その領域は私を破滅させる!
歯を食いしばって一人耐え忍ぶ私に今更の質問をしてくるマタビィはふにゃ~と伸びをした。
「ところでお前はイタチの妹かにゃ?不思議な魂の色を宿しておる」
「分かりますか?」
撫でたい撫でたい「愛でたい」撫でたい。あ、やべ。心の声が駄々洩れだ。
中身はもしかしてダンディーなオジサマ?っていうかあの人ですか!?
『見せて貰おうか、連邦軍のモビルスーツの性能とやらを』
って言って欲しい。他にももっと台詞言って欲しい。忍猫にお願いするマニアックの子供って変かな。
「舐めるでにゃい。我らをただ忍猫にあらず。いつの世も人々が知らぬ裏の世界を生きてきた。生き字引猫とは我らのこと」
ぽんっ!と自分の胸を叩いて偉ぶるマタビィ。ふわふわ毛並み触りてぇ。
「オオ!スゲー。初めて大蛇丸以外に神子だって理解されたわ」
「到底神子とはかけ離れているが魂は本物にゃ」
「じゃあじゃあ!なんかください!」
「何故そうなるにゃあ!」
「だって私のこと理解したイコール友達イコール友情の証!イコール私の物!」
「どういう身勝手なジャイアニズムにゃ」
「うちはヒカリだからです。フンッ!」
「そういうことじゃないにゃ。子供が鼻息荒く偉そうに胸を張るにゃ」
「えー?くれないの?なんかくださいよ」
「厚かましいにもほどがあるにゃ」
「じゃあじゃあ!賭けをしましょう。私が勝ったらなんかもらう。貴方が勝ったら私はえーと、一発芸をする」
「まったくもって面白味に欠けるにゃ。それはネコバァに許可を取ってから言えにゃ」
「よーし!頑張るぞー」
「なんて強引なマイペース振り。イタチもさぞ疲れるだろうにゃ」
こうして私はマタビィと楽しく交流をしたのだ。だがそう簡単に勝利を手にすることはできなかった。さすが忍猫、あの手この手で勝利をもぎ取ろうとしてやがる。だが執念深い私はたった一度の敗北で諦めたりはしない。
なぜなら私はうちはヒカリ!天才を輩出するうちはの看板を背負いしイタチの義妹にして凡庸な子供である。
そして勝負の女神ははつい我に微笑んだ!
マタビィは愕然と地に伏した。
「まさか、負けるにゃんて……」
「よし!勝ったぁぁ、シャァァ―――!」
勝利の雄たけびを上げる私は今まで対決してきた過去を振り返る。じゃんけん対決だったり猫じゃらしでどれだけ遊べるか耐久で競ったり、どれだけ優雅に美しく塀の上を歩けるか美麗ポーズ対決したり、その困難に打ち勝ってようやく勝利を掴んだ。喜びも一入である。
マタビィは気を取り直して体勢を元に戻して私に向き直った。私も真剣な表情になり、正座を組んでマタビィを見つめる。
「いいにゃ。ではお前にこの巻物を授けるにゃ。今だ誰も手に触れぬ禁術を教えるにゃ。ちゃんとネコバアに許可取ってるよにゃ?」
「禁術!?とてつもなくお宝感に満ちて私の豊満な胸がドキドキしそう!大丈夫です。遊びの範囲内でやれと言われました」
無論、嘘である。けけけっ、悪代官は悪なのだ。
「そう、これは猫使いでも扱える者がおらぬほど繊細かつ高度な術。果たしてお前に扱えるかにゃ。胸ぺったんこにゃ」「あ?(殺すぞ)」「なんでもないにゃ」
上から目線に偉そうなマタビィだったけどやり方を教えてもらって数分後、イタチに協力してもらうことで無事習得できた。
「できた!」
「さすがヒカリにゃ」
「お、オレが、ねこ!?」
ザっ!猫に変化の術。ただの変化の術ではない。猫限定での術だ。私が唱えた術でイタチは完璧に猫の姿へと変化した。この術は発動者、または何かを媒介にしての他者への術を強制的に変化させることができる。しかも本人の意思関係なくその姿を元に戻すことも一生そのまま、なんてことも可能らしい。
さて、どのようにイタチを猫へ強制変化させたか、数分前に遡ってみよう。
・
・・
・・・
「ふんぬ~!」
そのやり方は私がイメージして出来上がった、光輝く剣。聖剣、ニャアー剣と名付けよう。そのニャアー剣を己のイメージ通りにチャクラを練り具現化させる。
「できた!」
「中々の出来栄えだにゃ」
私の後ろで満足げに腕を組んで仁王立ちするマタビィ。カッコいい。でもマタビィ後ろであーでもないこーでもないって指図してただけだよね。
「それでもってこのニャアー剣を……イタチ!丁度いいところに」
「何をして遊んでいたんだ、ヒカリ」
ここに来ることは遊ぶこと前提なのか、私は。
「へへへ、これ持ってみて」
「なんだその、光り輝く剣は?危ないだろ、子供にはまだ早すぎる。オレに渡せ」
「うん。いいよ、はい」
ほいっとニャアー剣を手渡す。するとイタチを覆うようにニャアー剣がさらに輝きを増した。
「なっ!」
息をのむイタチはそのまま身動き取れず膨大な光に飲み込まれていく。私はドキドキわくわくしながらしっかりとサングラスを装備してマタビィと見守った。
光が収束した頃には、少年のイタチではなく愛らしいキリッとした美猫がそこにいた。思わず抱き上げて頬ずりしたくらいだ。
「兄さん可愛い~~!」
「な、なぜヒカリに抱き上げられて、ね、猫の手!?」
狼狽えるイタチを目にするなど滅多にないシチュエーション。存分に堪能しようとしたが、あっという間にイタチの強制猫変化は終わってしまい、ボフンと煙に巻かれたかと思うと人間であるイタチがを抱えている状態となり持ち上げられるわけもなく地面にずしゃ!と潰れた。
「お、……お、もい……」
「うわぁ!ヒカリっ!」
慌ててイタチから介抱された。
確かに術は成功したが、コントロールが上手くいかず術の発動時間が短かったらしい。
だが失敗は成功の元。次こそうまくやると心に誓った。
だが禁術とされている術を覚えさせたとしてネコバアからマタビィーと一緒に大目玉をくらってしまった。
「なんてもんを覚えさせたんだ!」
「だって暇だったもん、ねぇマタビィ」
「こやつに脅されて仕方なく教えたまでにゃ」
「マタビィ!裏切りおったなっ!?」
突然の裏切りイベントが発生した。
なんでもあの猫変化の術は、元々標的を猫の姿に強制変化させて屈辱を与えるのが目的だったらしい。なんでも何代前の猫使いの男が浮気をしたことに激怒した妻がその術を考案し、その夫を一生猫の姿にさせたとか。嫉妬って怖い。だが繊細な技量が求められなおかつ理由が理由なだけに公にするのも憚れ、使い手もいなくなったことで禁術扱いとなったという。確かに禁術っていうと手を出しにくいよね。
うっかりその猫変化の術を覚えてしまった私はネコバアから絶対変な使い方をしないよう釘をさされた。へへっ、でもせっかく覚えた術を使わない手はない。
さらなる鍛錬をしてもう一度イタチを美猫にしてやろうと修行に励む私であった。
(兄さん~、遊ぼう~)
(その手に持ってる光り輝く剣はなんだ)
(え~?ヒカリ目が悪くて見えない~)
(やめろ!それをオレに持たせようとするなっ!)