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第三次試験の当日は晴天に恵まれた。そんな中、
ある九尾の少年はさらなる高みを目指して挑み、
生き残りの少年は守る為の力に固執し歪んだ執着心を胸に抱き、
ある天才忍者はこの先で必ず成し遂げようと奮起し、
また孤独になろうとしている少女は里を捨て、新たな仲間と共に密かな志を胸に抱いて。
もし、誰かがこんな問いを投げかけるとしたら彼らはこう答えるだろう。
『全てを捨て去る覚悟はあるか―――』
九尾の少年はヘッ!と鼻先で笑い飛ばすだろう。
「オレは全部を手に入れる男になるんだ!好きな人もデッカイ夢もな。捨てるんじゃなくて手に入れるってばよ」
生き残りの少年はグッと拳を握りしめ、ほの暗い闇を抱いた瞳で天を仰いだ。
「捨てるも何もオレには姉ちゃんとナルトしかいない。二人以外はどうでもいい。オレにとって大切な家族と親友が傍にいてくれるなら、オレは鬼にだってなってやる」
天才忍者と謳われた男はようやっと手に入れた幸せに酔いしれていた。
「あの子が生きれる可能性が見えた。それだけで小躍りしそうなのにこれからの未来が楽しみで仕方ないよ。ゆっくりと時間を掛けてあの子にオレの事を知ってもらえるから」
孤独になろうとしている少女は中身のない鈴を手に取り目の前で揺らしながら決意を固めていた。
「きっと私に残された抗う時間はほんの数分か、はたまた数秒しかないかも。でもその時間で私の暴走を食い止めてみせるわ。たとえ、それが私が望む復讐の形に収まらなくとも。やってみせる」
四者がそれぞれの志を抱いてこの日を迎えた。
今ここに複雑に絡み合った想いと様々な思惑が交差する舞台が始まろうとしている。
◇◇◇
第三次試験は木の葉の里でも一大イベントになる。
忍たちにとって他の力ある大名たちへのパフォーマンスの場であり、逆に依頼を持ち込む依頼主が能力や質が高い忍を選ぶ競りの場でもある。三次試験は一般人の観覧も可能であり、厳重な警備の中一般の娯楽として楽しむ者や、参加者の家族などが胸を締め付けられるような想いで見守る光景が毎回みられる。
だが今回ばかりは、今までの第三次試験とは違ってピリピリとした緊張感に包まれていた。一般人にこそ分からないがあの大蛇丸がこの里に潜入していることで何らかの形でこの試合に手を出そうとしていることは予測済みであり厳戒態勢を敷いているのもその理由にある。
トーナメント会場を上からぐるりと囲むように観客席がある。そこにまばらに入場する見物客達よりも上段に火影、風影専用の席が用意されており、火影は風影よりも先に席についていた。その横顔はいつもの飄々とした様子はなく、むしろいつもより険しい表情だった。その胸中を現すように重みある言葉を口にした。
「いよいよじゃな」
「はい」
後ろの控える火影付き護衛の忍が重々しく頷き返す。
そこかしこから発せられる緊張感が針のむしろのように肌を突き刺し、気を緩むことさえできない環境を再認識させ、今この場に立ち会えていることの重要さを全身で感じ取りごくりと息をのんだ。
火影、ヒルゼンは捨て身で迎え撃つつもりでいた。
年老いた体でどこまで大蛇丸と張り合えるか。
もしくは半ば力尽きてしまうやもしれないと覚悟はしていた。
何より、うちはサスケとうちはヒカリ、両名が大蛇丸に狙われていると知ってからはより、始終気を張り続けた。まだまだ能力が未知数でうちはイタチをも上回るかもしれないサスケだけでなく、暗部と火影事務の仕事を請け負うヒカリさえも大蛇丸の標的に捉えられていたとは思わず迂闊に外へ任務に出すのではなかったと心底悔いた。
ヒカリがヒルゼンに対して、常日頃密かに復讐心を燃やしていることはあの雨の日から分かり切っていること。
うちはヒカリは危険人物になり得る可能性があるとして、処罰しろとの声が上がったこともある。それも名だたる大名から直々の声だった。イタチの二の舞になるぞとの脅しにヒルゼンは毅然とした態度で答えた。
『ならばワシ自らがうちはヒカリを監視しましょう』
と。
そう、ヒルゼンがヒカリを守る為の手段として提案したのは自らが殺される覚悟でヒカリを側遣いとして置くことだった。
勿論すぐにその任を就かせることはできず、ヒカリがそれ相応に成長するまでは監視としてカカシを付けると宣言した。
その案は御意見番であるホムラとコハルによって却下された。
『まさか本気であろうな、ヒルゼン』
『確かにうちはイタチによってうちは一族は二人を除き殲滅された。だがあの小娘がヒルゼンに恨みを抱いておるのは周知の事実。それを同情心からみすみす命を投げ捨てるような真似をするなど愚の骨頂じゃ。四代目亡き今、里の柱を失うわけにはいかぬ!』
たかだかうちは生き残りである小娘の命と里にとって重要な火影の命には天秤に賭けるほどではないとまで吐き捨てられた。
ご意見番として地位ある二人に反対され、ヒルゼンは怯んだがタンゾウだけは両者に対して意を唱えた。
『そう斬り捨てるには惜しい娘だ。もしかすればあの者はイタチを超える存在になるかもしれないぞ』
まだ子供の身なれど万華鏡写輪眼を発動できているのが何よりの証。それに育て方次第では里に貢献できるほどの逸材に育つ可能性があるとタンゾウは語る。思わぬ味方にヒルゼンはタンゾウの腹の底に何を企んでいるのか疑りたくなった。
だがこの厳しい状況を覆せるのはタンゾウだけであり、藁にも縋る想いで両者に訴え、もし何かあればワシの責任とまで宣言した。そこまで情けを掛けるのかと二人は戸惑ったが、ヒルゼンの並々ならぬ決意にもはや言葉を並べても無意味と判断し、そのままヒルゼンの意見を取り入れてうちはヒカリの処遇は決定された。
だがそれだけでは納得できないと、不安材料を消すための対策をとった。それは火影の傍遣いにさせると同時に暗部にも所属させることだった。
その際の監視役にタンゾウの息のかかった信頼における部下、くらまアズキをヒカリのパートナーとしてつけることを条件としもし、里に対して反逆の意が少しでも見えたのならその場で処罰しろと無情にも命じさせた。
忍として学ぶ中でも監視役は外せない。はたけカカシを専任として付けたのは正解だった。元々アカデミー時代では己の能力をひた隠しにして目立たぬよう過ごしていた為、ほかの同期に怪しまれることはなかったが、あの事件後メキメキと本領発揮し、あっという間に上忍へ昇格した才能は歴代の忍と比べて里の忍達を唸らせる存在になった。
それは決してうちはという名前だけではない、ヒカリの努力による賜物であるとヒルゼンは知っている。ヒカリが幼い頃よりイタチと肩を並べて修行に励んでいたことも知っているし、貧乳で悩んでいることも勿論知っている。だがセクハラになるので口に出すことは憚られた。まさか爺から爆乳になる秘訣など聞きたくはないだろう。プロフェッサーとまで言われるヒルゼンは当然知っている、が、ヒカリはプライドから絶対聞きたくはないはずだ。ヒルゼンとて真昼間から爆乳になる秘訣を語れるほど豪胆ではない。よって、この話は一生ヒカリにされることはない。
大切な者達を一夜にして失わせ、さらに過酷な人生を歩ませてしまった少女を憐れまないわけがない。ヒルゼンは確かに三代目火影として存在しているが、彼の本心は里の者を愛する爺でしかない。里に住む全ての者を家族として受け入れている。その本人の知らないところで実は温かな眼差しに守られて生きている。うちはヒカリは知らなかったのだ。
見えぬ衣によって覆い守られているということに。
爺心ともいうべきか。
決してその事情をヒカリに告げることはせず、日々逞しく成長してくヒカリを陰ながら見守った。いつか、ヒカリの歪んだ心に温かな日差しが当たりますようにと願いながら。
だがヒルゼンの願いはヒカリに届かなかった。
大蛇丸と内通しているのではないかという話が自来也づてで報告されたのだ。思わずヒルゼンは報告書を手から落として目頭を覆わずにはいられなかった。
ああ、どうしてこうなってしまった。
まだホムラとコムラそしてタンゾウの耳には入っていないことが幸いであり、すぐに自来也へ何があっても他言無用である命とその手元にある報告書を燃やして証拠隠滅を図った。
まだ守り切れるはず。
僅かな望みを賭けてヒルゼンはヒカリを守ろうと誓った。
大蛇丸などと手を組んだところで精々活きのいい実験動物と扱われるのがオチだ。最悪の場合、うちはの者を生み出す女としての屈辱の極みである道具として扱われることもある。
そのようなこと断じて許しはしない。
ヒカリが大蛇丸から授かったであろう呪印のこともさることながら内通していた話は何れご意見番二人の耳に入るだろう。それはタンゾウの方もだ。
だからこそ、手を打たれる前にこちらが手打っておく。
今は大蛇丸によって目をつけられているが、この三次試験が終わり次第、すぐに綱手の所へ避難させるつもりだ。
色々と問題がある綱手だがその力は間違いなく大蛇丸も早々に手は出せないし、何より里に残っている方がヒカリの危険度が増すからだ。その適任者にカカシに命じることはヒルゼンの中で決定事項である。
カカシならばヒカリを守り切れる。
ナルトとサスケへの監視役として命じたが、存外情が移ったのかもっぱら上官としてよりは、仲間としての気持ちが強いのではないかと思われる。ヒカリによってスパルタ教育を施された若い少年二人はヒルゼンの想像を遥かに超えて逞しく成長した。忍としての能力もそうだが、主に精神面で成長していると感じる。やや、依存傾向が強いサスケよりもナルトの方が大人として分別がある。
若い世代が着々と力をつけていることを全身で感じつつ、今ヒルゼンは決戦の場に着座している。
ヒカリの方には暗部のアズキが、サスケにはカカシが常に警護に当たっているので問題はない。既にサスケとカカシが無事に会場入りを果たしていて少しばかり胸を撫でおろしている。カカシの懇切丁寧な教えもさることながら、サスケの並々ならぬ集中力は舌を巻く勢いだったと報告を受けている。
大蛇丸への対抗策としてカカシへサスケへの修行を命じたが功を奏したようだ。後ろに控える護衛の忍がそっとヒルゼンに耳打ちをした。
「火影様、風影様がご到着されました」
「わかった」
数秒してこちらにやってくるのはヒルゼンと同じく砂隠れの里町としての恰好で現れた風影であった。後ろに二名の護衛を引き連れて火影に軽く挨拶をした。
「火影殿」
「風影殿、遠路はるばるよくお越しになられた」
労うヒルゼンの隣に腰かけ目元以外を覆う布の下からは想像しがたいほど、涼やかな声が出た。
「お気遣い痛み入る。だが火影様とてまだお若いとはいえ、この日までどれほど尽力なされたことか。そろそろ次の五代目をお決めになられてはいかがですか」
遠回しの引退を勧められヒルゼンは苦笑して答えた。
「いやまだまだ引退にはするには危なっかしい者ばかりでそうやすやすと引っ込むわけにはいかなくてな」
「なるほど……火影様にそこまで想われるものは羨ましいですね」
「所詮、ワシの勝手な想いじゃが、いつか届けば良いなと秘かに願っておるよ」
そう言って朗らかに笑うヒルゼンは、火影ではなくただの孫を心配する爺そのものだった。
選手は既に火影、風影が見下ろせる位置で横に並んで待機しており、今か今かと火影の言葉を待ち望んでいる。
火影はゆっくりと立ち上がり、皆が固唾を飲んで見守る中、声高らかに告げた。
「皆様、この度は木の葉が暮れ中忍試験にお集まりいただきありがとうございます。これより予選を通過した8名の本線試合を始めたいと思います。それぞれの際立った選手たちの活躍にご期待してどうぞ最後までお楽しみください!」
試合の幕開けに相応しい言葉と共に観客から拍手喝采が上がる。
ついに本選はスタートの幕を切った。ヒルゼンはゆっくりと座り直しひじ掛けに腕を置いて軽く息を吐いた。緊張感から少しでも解放されるように。
だが風影がその様子をジッと瞳の奥底から観察していることには気が付かなかった。