「いや、マジで悪かったわ。めんごめんご」
一切謝罪の気持ちが込められていないルーリアの言葉を聞きながら天井を仰ぎ見てしみじみ思う。何やら目の前で手を合わせるといった動作をしているのは床に伸びた影で分かるが直視していないので表情までは分からねえけど、どうせ禄な表情じゃねぇだろ。
「……メルギス。ルーリア、舌を出してる」
「ちょっ!? バラさないでよナルル」
「そんな事より詩集早く返して……まさかなくした
俺達が今居るのはスラムの仲間が経営する骨董品店。今日は久々の休日だからと口調も崩して仲間の顔を見に来た……ってより、今の状態で屋敷になんざ居られるかっての。どうせ転移で一瞬だしな。……そもそも今の状況がどうなっているかと言うと、
今の俺は女を見た際に男が感じる劣情的な物が強くなっている。若い女の使用人は勿論、取り込もうと近付いてくるハニートラップ要員に隙を見せたくないしな。ぶっちゃけ反応次第で評判が下がるし……。
何故こんな事になっているか。それは早朝まで遡る。尚、ルーリアが原因だ。
「はぁい。こんな美女の顔を寝起きに見るなんて最高ね」
今日は休日。久々に惰眠を貪っていたんだが、腹の上に重さを感じて目を覚ましたらルーリアの奴がネグリジェ姿で乗っかっていやがった。此奴の寝間着はウサギ柄のピンクのパジャマだからわざわざ用意して……暇な奴だな。
「ちょっとー! こーんな美女のネグリジェ姿よ。男だったらもっと何か有るでしょ?」
「いや、お前が美女だって認めるけど……お前だからなぁ」
ルーリアは間違いなく絶世の美女だ。餓鬼の頃に世話になってた姉ちゃん達もセクシーな美女が多かったし、同年代の仲間にも容姿が優れているのは多いし、桃花やマーシーとかも将来有望だが、結構な数の貴族の子息にラブレターを送られる此奴は飛び抜けているだろう。
マジでルーリアでなければなぁ……。
「……うん? 今日はなんか様子が……」
何時もは目の前の美女がルーリアでさえなければ揺れていた理性が僅かに揺れる。偶に、偶ーにシチュエーション次第で心が揺れない事もあったがどうしたんだ? 餓鬼の頃、娼婦をやっていた姉ちゃんに餓鬼共は身の回りの世話を見て貰ってたんだが、思春期を迎えた頃には……。
妙に色気があるというか、甘ったるい香水の香りが気になるというか……その香水か。俺の視線に気が付いたのか、ルーリアは指先で胸元を広げながら目をのぞき込んできた。
「偶に使わないと感覚が鈍るのよ、サキュバスの能力って。ほら、食事と一緒だし。……でも、適当に選んだ相手に勘違いされても困るじゃない。ってな訳で……
他に使う対象が居ないなら仕方ないと、ついつい油断した所に予想以上の力が籠もった魅了が襲ってくる。このタイプって事前の警戒があるか否かで抵抗の成功率が変わる。悪戯を警戒してるが、こんな所で足を掬われるとはな……。
「ったく、くだらねぇ事しやがって……戻せ」
魅了は確かに掛けたんだけど、お前にときめいた所で扱いが変わると思うか? とか言って拳骨を落とされて正座させられてしまった。……しくったわぁ。ちょっとチヤホヤさせた後で解除する予定だったんだけど。多分しばらくは録画した姿でからかえるだろうし。……効いてるわよね? あの目は私を見る有象無象の目と同じだもの。
「はいはい。今戻す……あれ?」
何時もは適当な相手に適当に掛けて適当に解除してるんだけど、どうも今回は上手く解除出来ない。
「おい、ふざけている場合……マジか」
「お早う御座います、メルギスさん」
「あ、あの、朝食をお持ちしました」
メルギスが絶句した時、桃花とマーシーが入ってくる。そして私達の姿を見て何かを察した顔に。私のただでさえ低い威厳が……あれ? メルギスがショックを受けた顔に。
「……おい、ルーリア。二人共、髪型変えたか? 妙に可愛く見えて……」
「今すぐ教授の所に行くわよ!」
こうなったら迷っている時間はない。私はメルギスの首根っこを掴むと速攻で転移を発動する。向かうはスラムの仲間の一人、ナルルが経営する骨董品店。其処に居候する教授こと死神マッドの所に! 此奴にロリコンの烙印が押される前に!
「……教授なら温泉旅行。一体何をしたの、ルーリア? どうせ馬鹿やったんでしょ? メルギスも大変ね」
「いや、実は教授が作ったサキュバスの力を増す香水を使ったんだけど……」
馬鹿を見る目ってのは今私に向けられている目の事なのだろう。赤目黒髪に紫のローブのクールな少女は骨董品店のカウンター越しに冷めた目を向けている。うーん。昔から苦手なのよね、此奴。仲間相手でも容赦がないって言うか……。
そんな時、扉が開いた。入ってきたのはこれでもかと色気を強調した服のサキュバス。私達がお世話になってた人で、スラムから出た後も娼婦を続けているおっとり系の美女だ。
「話は聞かせて貰ったわ。全部お姉さんに任せておきなさい!」
「……ルナ姉、商売の邪魔だから余所でやって貰えるかしら?」
「あら? 何か言った?」
「……別に」
ルナ姉、小さい頃の私達の世話係の一人だった人にはナルルも強くは出られない。小声だったからよく聞こえなかったみたいだし、ルナ姉は小首を傾げるだけだ。ウェーブの掛かった金髪からいい香りがするし、胸は少し動いただけで揺れている。……相変わらず女でも感じるほどの色気で……はっ!
「ル、ルナ姉、久し振り……」
「あらあら、少し見ない間にまた強くなったみたいね。さーて、診察診察」
男共にとってルナ姉は一番身近な綺麗なお姉さん。当然憧れる奴が多かったし、メルギスも少しはその傾向があった。だからか今の彼奴は真っ赤になってルナ姉を直視できないんだけど、ルナ姉はそんなメルギスに近付くとオデコを引っ付けて目をのぞき込む。私より大きな胸が当たっていた。
「……うーん。これは無差別に魅了が発動しちゃった状態ね。サキュバス数人掛かりで一人を搾り取るときの術なんだけど、教授の香水で誤って発動したのね」
当然だけどルナ姉はサキュバスとしては私より遙かに上。基礎は母さんに習ったし、ルナ姉は娼婦のまとめ役で色々と忙しいから滅多に機会がないけど秘術について偶に習っている。うん。今回は任せておけば……。
「じゃあ、私のお部屋に行きましょうか」
その考えは徐にメルギスの腕に抱き付いて連れ出そうとした瞬間に消え失せる。この人、食う気だ! 思いっきり胸を押しつけて舌なめずりまでして……。
「ルナ姉、一体何を……」
「何って……ナニ? あっ! 大丈夫、初めてって誰もが不安なものよ。でも、お姉さんが一から教えてあげるから安心しなさい。メルギスちゃんを一人前にしてあげる」
余談だけどサキュバスの能力で相手が経験済みかどうかは一目で分かって……ルナ姉の好物は……。
「いやいやいやっ!? 魅了を解いてくれればそれで良いからっ!?」
「駄目よ。これ、だいぶ時間を置くか何度もアレを出す必要が有るもの。だ、か、ら、お姉さんに任せておきなさいって。……あら?」
……うん。全部私の責任だし、責任感から動いているだけだから。私はメルギスの肩を掴んで振り替えさせると全力の催眠を無防備な状態の彼に使う。眠って倒れそうになったのを担ぎ上げた。
「私が処理しとくから……えっと、ご指導お願いします、ルナ姉」
「あらあらあら! 良いわね、良いわね! じゃあ、卒業は今度にとって置くとして胸やお口や手を使った殿方の喜ばせ方を伝授してあげる。ルーリアちゃんは立派な武器を持っているから教えがいがありそうね」
実に楽しそうなルナ姉と一緒にメルギスを担いで持って行く私。その姿をナルルはジッと見ていた。
「……ご愁傷様」
お昼前、久々にルナ姉とお風呂に入っている間に骨董品店でメルギスが目を覚ましていた。
「……朝からの記憶がない。何か疲れたし、どうして俺は此処に……?」
「……さあ? 取り敢えず今日は休みなさい」
「……せい!」
ただ一心不乱に剣を振るう。戦場で雑念は死を招き、未熟さは死地への後押しになる。何千何万回も繰り返した動作は体に馴染み、今より未熟な頃に感じていた刀の苛立ちも感じる機会が減ってきた。皆無でないのに恥じつつもメイド業務の合間を使った鍛錬に勤しむ。全ては両親の仇を破壊する為に。
「……ふぅ」
そろそろ時間だからと頭から水を被って汗を流し、火の魔力で乾かしていた時、私を呼ぶ声がした。どうも特別な仕事を頼みたいらしい……。
「沖田さんのお付きとして駒王町に?」
ああ、憂鬱ですね……
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