グレモリー家の野良犬   作:ケツアゴ

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少女剣士と聖剣

「貴女は此処に隠れて居なさい。……絶対に生き延びるのよ」

 

 私達一家の平穏は、ある日、唐突に奪われた。転生悪魔だった父と母の愛に包まれた幸福な日々は妖刀に乗っ取られた父が主を殺して逃走。母が連座で捕まって、急な来客に不審を抱いた母の言いつけを守って入っていた地下の隠し部屋から出た時には家は無惨に破壊され、父が残した霊刀『切り花』を持って逃げて逃げて逃げて……スラムに辿り着いた。

 

 

「まあ、安心するが良い此処の住民は来る物は拒まず、似た者が多い故に結束が強い」

 

 餓えと疲れで倒れた私を見つけてくれたのは冥府を追放された死神でトラブルメーカーの通称”教授”。元々は最上級死神にも成れたのに青年期に魂の師匠と出会い、学者になって色々問題を起こしたとか。今でも何かと問題を起こしている方です。だから娘に嫌われているんですよ……。

 

 

 

 今まで住んでいた場所とは違い正直言って劣悪な場所でしたがスラムでの日々は楽しく、仲間は家族同然でした。あの日、領主である大王家がスラムを焼き払う為に派兵した時は私は今よりも幼く、流石の教授もメルギスさん達に施した禁術『デスイーター』を私には使って貰えずに悔しい思いをしたものです。

 

 

 

 

 

「忙しいのに悪いですね。そうだ! 私が稽古を付けてあげましょうか?」

 

「……いえ、お気持ちだけ受け取って置きます。私の愛刀は直ぐに臍を曲げますので……」

 

 魔王ルシファーの騎士である沖田総司。私が感じ取った謎の気配、そして遭遇した悪魔祓いらしき神父。事態を重く見たグレモリー家ですが、此処で下手に戦力を派遣すればお嬢様は実家からも評価が低いと他の貴族に思われ、改革に支障が出てしまいます。なので休暇の名目で人間界に彼を派遣、私をサポートにして調査を行うとのことです。

 

 にこやかな表情で話しかけてくる沖田さんに静かに頭を下げながら苛立ちを隠し通す。メルギスさんはああ言っていましたが、自分の命惜しさに主である幕府や仲間を見捨て、名誉を回復させる手伝いもせず、仲間の証である羽織は平気で着て新撰組の隊長だったと口にする。だから嫌いな相手の上位に入りますが……メルギスさんの事を思えば我慢です、我慢。

 

「それで先ずは何処に行きますか? ホテルは既に予約しているんですよね?」

 

「そうですね。先ずは祐斗の様子を見に姫の所に行きましょう。様子がおかしいとの事でしたし……」

 

 この日、天気は夕方から生憎の雨。確か球技大会の当日でしたけどまだ残って居るのでしょうか? 普段は新撰組の羽織を着ている沖田さんも流石にコスプレと思われるのは嫌なのかラフなシャツとジーンズに着替え、私も仕事着であるメイド服からワンピース姿で二人並んで傘を差して学園まで向かいます。

 

「おや、祐斗……」

 

 他の学生は既に帰ったのか下校する姿は見えず、遠くから雨に打たれるお嬢様達と、その中から走り去っていく木場さんの姿が目に入りました。表情は暗く、頬には平手打ちでも食らった様な痕。姿を見て掛けた声は雨音にかき消されたのか私達に気付く事なく何処かに去っていこうとする彼を追い掛け様とした沖田さんを私は手で制しました。

 

「……ただ事ではないですね。私が追いますので沖田さんはお嬢様の方に」

 

 正直言えば嫌いな人の筆頭である沖田さんとお嬢様のお二人と同時に居たく無かったですし、これ幸いと理由を付けて離れます。お嬢様達を屋根のある所に連れて行く必要がありますし、立ち尽くしている彼女達に誰かが声を掛ける必要が有るから問題はないでしょう。

 

「……お願いします」

 

 今の主君の家族は余程大切なのか駆け寄っていく沖田さんの背を一瞬だけ見た私は木場さんを追います。雨の中でも悪魔の視力なら見失わず、駒の強化を受けていなくても鍛錬によって鍛えた足腰で引き離される事はない。追い続け声を掛けるタイミングを計る事にしましょう。

 

 

 

 

 

 

 ……異空間に仕舞った切り花が跳ね上がるようにして反応したのは、その時だった。遅れて感じるのはアレの気配の移り香。それを直接感じ取ったのは今まで二回。渋顔をした父が持って帰って来た時と、三年前にメルギスさんが命じられた任務ではぐれ悪魔の討伐に勝手に同行した時。

 

 

「ああ、あぁあああああああああっ!!」

 

 異空間から切り花を抜き放ち、木場さんを抜き去って突き進む。落ち着けとばかりに切り花がカチカチ音を立てるも私は止まらず、駆け抜けた先で神父服の二人を目にした。片方は先日に会った男。自らの血に染まって倒れ伏す彼を見下ろして居るのは白髪の少年神父。その手には聖剣が握られていた。

 

 

 

「フリード・セルゼン……」

 

 私の様子を見て反対に追いかけて来たらしい木場さんが奴の名を呼ぶ。だが、今はどうでも良い。奴には僅かながらアレの気配がした。

 

 

 

 

「おっと。こりゃ、あの時の悪魔君じゃあーりませんか! そっちの雌餓鬼悪魔は見たことねぇけど……取り敢えず死んどけっ!」

 

 雑に放つ殺気と共に一番近い私に振り下ろされる聖剣。悪魔にとって致命的な聖なるオーラを放ちながら真上から振り下ろされる刃を僅かに下がる事で避ける。鼻先の数センチ先を通り越していく聖剣から溢れ出すオーラは皮膚をチリチリと焼くけど、その痛みが逆に私を冷静にさせた。男が振り下ろしきるよりも前、力の重心が完全に移動しきるよりも前に真横一文字に剣を振るう。

 

「……浅い」

 

 あの攻撃に最中の不安定な視線で咄嗟に後ろに飛んだのか二人の距離が開き、切りとばす予定だった剣を握る両腕は肉を僅かに切り裂いたのみ。滲み出た血を見て呆然とした男から堤防が決壊したかのように殺気が溢れ出した。

 

「こ、この餓鬼がぁあああああっ! 殺すっ! 両手両足ぶった切って犯してから殺してやる」

 

「達磨ですか。情報を聞き出すには良いです。なるのは貴方ですけど」

 

 滅茶苦茶に振り回される聖剣を紙一重で避けながら男を観察する。聖剣は確かに一撃でも喰らえば終わりだが、そもそも武器とは同じ物だ。手足に喰らえば禄に攻撃も防御も回避も出来ない。基本からして武器とは避けるか防ぐのが前提なのですから聖なるオーラ等は関係ない。

 

「……刀」

 

「あぁ?」

 

「どす黒いオーラを放つ刀を知っていますか?」

 

 僅かに眉が動くのを見て取り確信が二つ。この男、フリードは私が探し求める妖刀『魔喰い』を極最近目にしていて……殺気は見せ掛けだ。わざと振りまいて動きを読ませ、攻めに転じた私を仕留める積もり。……逃げる算段は付いている。

 

 ……それだけ分かれば結構。切り花を握る手に意識を集中させ、刀の声を聞く。浅い呼吸を繰り返すこと数回、気が増幅されるのを感じ取る。仇の手掛かりを前に溢れ出しそうな激情を抑え込んだ。

 

(母の、皆の想いを無駄にするな、桃花)

 

 母が何故、私を逃がしたのか。皆が何故、私の修行につきあってくれたのか。命に代えても仇を討つ為? 否! 生きていて欲しいと願ったからだ。

 

「……」

 

 一瞬だけ瞼を深く閉じ、開いてフリードを見据える。今まで何度も何度も繰り返して身に刻み込んだ動き。僅かにぶれていると痛みを伴って切り花から叱責が飛ぶ。慌てず矯正し、刀を腰溜めに構えればフリードが懐に手を入れ小型の瓶の形をした物を取り出した。スタングレネード、集中でスローになった視界に移るそれの正体を見破るが関係無い。雑念は消え、既に動きは読んでいる。視覚聴覚が奪われようとも……いや、今なら閃光と音が放たれるより前に対処できる。

 

 先ず、スタングレネードを弾き飛ばし、返す刀で峰打ちを叩き込んで意識を刈り取る。イメージは完璧でやり遂げる自信は有る。……ただ、此処で誤算があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「エクスカリバー!!」

 

 あの木場さんの様子がおかしいと感じた理由は私同様に憎悪であり、その対象が目の前の聖剣だった事。そして、彼がそれを抑えきれずに飛び出してきた事だ。今振れば彼も切り裂いてしまうと悟った私は手を止め、割り込んできた彼にフリードは笑う。スタングレネードから閃光と轟音が響いた。

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 極度の集中の疲労を感じ取りながら私はフリードが居た場所を見つめる。今は姿を消し、スタングレネードが間近で発動したダメージを受けている木場さんを見詰めながら息を吐いた。……今度こそ逃がさない、そう心に誓いながら。




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