グレモリー家の野良犬   作:ケツアゴ

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昨日の返信は夜に


野良犬と魔王少女

「筋トレですか? どうしてまた……いえ、先生の仰る事ですもの、従いますわ」

 

 レイヴェル様の指導も進む中、私は上級悪魔であろうとも近接戦の必要が有ると思っているので説得しようと思って居たのですが、説得が困難だというのは杞憂だった様子。一瞬迷うも直ぐに信じて従って下さいました。キラキラと尊崇の念が籠もった瞳を向けられたら此方も生半可な指導は出来ませんね。

 

 最初は桃花やマーシー、小猫やギャスパーの様に死んだ魚の目で譫言を呟く事もあったのに逞しくなったものです。……何故かルーリアには怒られましたが。

 

「超回復をご存じですか? 過度の負担から時間を掛けて回復する際に筋肉が更に強靱になる事ですが……フェニックスには不死の特性が有ります」

 

「……成る程。休息時間を置かずに超短時間で強化できるという訳ですね。そう言えばそれほど鍛えていないお兄様も逞しい肉体をしていましたわね」

 

「御明察で御座います。……では、限界が来てもこれを振り続けて下さい」

 

 差し出したのは持ち手の付いた巨大な鉄塊としか表現できない無骨な物体。但し重量は全くの別物。魔力を吸い取り重量を増す特殊金属。教授は製造に飽きたから名前さえ付けずに放置していたのを奥さんが尻を蹴り飛ばして加工させたトレーニング器具。

 

「じゃあ、先ずは三十キロから。勿論他にも筋肉に合わせた器具を用意していますがこれが中心です。実戦訓練も同時進行しましょう」

 

「はい! 愛弟子として期待に応えて見せますわ!」

 

 張り切った顔で手を挙げて宣言するレイヴェル様。本当に私を信頼されている様子。今後とも良い付き合いをして私も期待に応えましょう。……しかし、彼女は少し似ていますね。当然といえば当然ですが。

 

 

 

 

 

「……よし。この後は書類のチェックをして……その前に例の仕事が有りましたか、畜生」

 

 自分の管理する領地だけあって屋敷よりも心が安らぐのを感じつつ激務を進める。数年前まで逼迫していたお家事情を改善させた私と仲間達の手腕は対価を払ってでも引き入れる価値があると示す物。余計な口を出させない為に忙しいですが、文官を育てる為の機関からは嬉しい知らせが届いている。後数年、たった数年以内には使い物になる人材が増えて仕事が楽になると……。

 

 正直、仲間の心配が心苦しかったのですよ。まあ、スラムには訳有って表舞台に出られなくなった有能な人材も多く集まっていましたから運が良かった。さて、あと一踏ん張りと気合いを入れた私は今から向かう場所に相応しい姿に着替えるのでした……。

 

 

 

 

「やっほー! こっち、こっちー!」

 

「……セラフォルー様、お出迎えなど恐れ多い事で御座います。どうか身分にあった行動を、と、進言する権利をお与え下されば幸いなのですが……」

 

 仕事としてやって来たのは貴族御用達……いや、正確には貴族以外お断りのホテル内の高級レストラン。とある密談の為に呼び出された私ですが、呼び出した相手である痛々しい格好が好きな馬鹿魔王と合流していた。……あーっ、駄目だ。どーも此奴相手に内心を取り繕う余裕がねぇ。

 

 入り口で受付に話を通している時に現れた馬鹿魔王は何時ものコスプレに仕事中でもしている餓鬼っぽい髪型ではなく、少し胸元を開いて足下にスリットを入れた紫のドレスと服装に合わせて結った髪型だ。只、結局テンションがそのまんまなので滑稽だがな。

 

「もー! 相変わらず真面目なんだから。そんなんじゃ女の子に嫌われちゃうぞー? じゃあ、行こうか」

 

 手を振りながら駆け寄ってくる馬鹿魔王は俺がお辞儀をしても気にせず、額を指先でつつくと強引に腕に抱きついて引っ張る。胸を押し当ててくるがルーリアの方が良い感触をしてんな。彼奴、今頃何やってんだか。一緒に飯食う約束だったのによ……。

 

 

 

 

 

「……さて、偶にはこんな夕ご飯も良いでしょ? カップ麺にチーチクにタコわさにビールに焼酎、枝豆はスカーに頼んだし……酎ハイも買っとけば良かったわ」

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、取り敢えず乾杯する?」

 

「あの、例の件……相手を殺さずに神器を抜き取る方法の運用についての話を先にすべきでは?」

 

 通されたのは他に客が居ない個室。防音ガラスからは夜景が見え、馬鹿魔王はワインを注いだグラスを片手に持って差し出してくる。いや、酒飲んで嫌な気分を誤魔化したいって気持ちはあるが仕事が先だろ。ったく、んな事だから妹が襲われたら絶対に戦争を起こす、なんて魔王の資質を疑う噂が流れるんだよ、ボケ。流される時点で為政者としちゃ落第だ。

 

 

「うーん、そだね! メルギスちゃんの意見を聞きたいかな?」

 

 いや、そもそも話をするのは良いとして、どうして相手がお前なんだよっ!? 何時も馴れ馴れしくしてくるサーゼクスはどうした、サーゼクスはっ! 俺は叫びたいのをグッと堪えると相変わらず緊張感に欠ける馬鹿魔王に意見を述べた。

 

 

 

「魔王様方や偉大なる貴族のお歴々の治世に異を唱える訳では御座いませんが発表は時期尚早かと。確かに神器持ちのはぐれ悪魔を無力化するのに使えるでしょうが……余計な欲心を刺激される方が出ないとは限りません」

 

 実際、教授が発見したこの方法を公に発表していないのはそれが理由なんだよ。お前の眷属良い物持ってるな、ってな感じで立場が上の相手から()()()()()()()()()()()()()を求められたり、駒の制限を気にせずに戦力強化が出来るからって人間を狙う馬鹿が出るだろうしな。んで、現状から考えて今の魔王じゃ止められねぇ。

 

 因みに抜き取る方法の人体実験は、俺を襲ってきた自己顕示欲と中二病の塊みたいな奴でしたぜ。

 

 

「やっぱりねぇ。メルギスちゃんもそう思うかぁ。……暗くて難しい話はこれでお終い! 楽しいディナーにしようか」

 

 話を報告したから意見を聞きたいと言われて来たんだ、それは納得するよ。でも、テメェとの食事が楽しいわけねぇだろ。一流の料理も酒も苦手な相手と一緒だと味がしない。何とか誤魔化し愛想笑いを続ける中、馬鹿魔王はガブガブ酒を飲んで行く。よし、さっさと酔いつぶれろ。待機してる部下に任せて俺は帰る。

 

 ……だが、どれほど飲んでも潰れる気配がない馬鹿魔王は食事が終わって店を出ようとした時、俺の腕に抱きつきながら耳元で囁いた。

 

 

「ねぇ、部屋を取ってるんだけど……」

 

「そうですか。では、何方か配下の方にご同行を願いましょう。私如きが結婚前のご婦人の部屋にお邪魔してあらぬ疑いをかけられてはなりませんので」

 

 取り敢えず当たり障りのない言葉で逃げるが腕に抱きつく力が強くなり、谷間で腕を挟まれる。馬鹿魔王は艶っぽい瞳を向けてきた。

 

「ぶー! 分かってないなあ。……えっとね。権威ってのは服の上から着るものだよ? 権威の欠片もない私の姿に興味ない?」

 

 普段から権威を脱ぎ捨て痛々しい格好をしてる奴が言うな! ってか、俺でも分かってるっての。いやいやいやっ!? いくら男日照りが長いからって無いだろ、普通っ!? ……テメェ抱くくらいならルーリア口説いて童貞捨てるわっ! 

 

 

「……ご自愛下さい。どの様な状況でも魔王は魔王です。伝統有る称号を野良犬同然の私への冗談で汚さぬ様にお願いいたします。……おや、失礼。緊急時の連絡で御座います」

 

 取り敢えず全力で逃げるためにどうしようか頭を働かせていると着信音が鳴る。緊急の知らせだからと許可を取って出ると焦った声のギャスパーからだった。

 

 

 

 

 

 

「た、大変です! 街中に魔獣が出た上に学園でエクスカリバーの融合を行うって。その上……コカビエルが町に居ないんです!」




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