我斬り殺す、故に我あり。我は妖刀、故に我行いに善悪を持ち込む事は間違いである。只、己の存在理由に従っているだけ故に……。
『……魔喰い、お前の銘は魔喰いだ』
我が完成した時、それは我が自我が目覚めし時と同時であった。汗ばむ熱気が籠もる工房で髭を生やした熟練の刀鍛冶が我を打ち、込められた執念によって血を吸うより前に妖刀となったのだ。我が親とも言える男であり、
「おや? この刀は?」
「この様な見事な刀が打ち捨てられているとは……」
「これが魔喰い。これさえ有れば……」
幾十幾百の時が過ぎただろうか? 我を握り、我に肉体も力も記憶でさえも奪われし者は数多く、奴らが何を思って我を手にしたか知っているが興味は皆無。我斬り殺す、故に我あり。其処に事の善悪など存在しないのだから……。
「師匠!」
我が奪った肉体の持ち主に憎悪を向ける小僧を殺そうとしたが庇われ、庇った男は僅かに息がある。悪魔とは存外生き汚い生物であったと思い出し感心する一方で、あの男の肉体を捨てたのが悔やまれる。腕を失った剣士の肉体に価値がないにしても、磨き上げた技量まで共に捨て去るのを失念していたとは……。
「……今まで価値の低い物しか捨てていない弊害か」
この身体の様に隠密行動に適している以外は無価値で有っても無くても対して変わらない物なら兎も角惜しい事をした、と、我を握っていない方の手で幼子の矮躯を軽く撫でた所で他の獲物に目を付ける。奪った肉体から得た記憶や技は捨てると同時に徐々に失われて行くが、別口で出会って仕留め損なった小娘、捨てた肉体の実子である桃花を殺すのを邪魔した悪魔の娘が目の前に居た。
思わず口角がつり上がる。漏れ出る笑みと殺意を抑える気にもならず我は小娘目掛けて一心不乱に駆け出した。途中、先程殺し損ねた小僧が魔剣を急造して向かって来るも肉体のリミッターを外した今の我には止まっているも同然。数多くの剣客の限界を超えた力を受けた肉体が悲鳴を上げるも限界が来て崩壊すると同時に捨てて別の肉体で向かっていった。
「……死ね」
「お断りですわ!」
鞘に収めて即座に抜刀、三日月の斬撃を飛ばすも戦鎚で正面から相殺される。振り抜いた瞬間、斬撃が爆発したが神器とやらか……。生憎、今まで手に入れてストックしている肉体に神器は宿っていない。故に純粋な肉体の力と技量が磨かれているのだろうが。
「貴方、魔喰いとやらですわね? メルギス先生から聞いていますわ」
、
「先生? ……ああ、奴か。お前、彼奴の弟子かぁ」
見るからに重量のある戦鎚を軽々と振りかぶる小娘の発した名に直ぐに思い当たる。数年前、桃花を斬ろうとしたのを邪魔した仮面の悪魔だ。あれは惜しかった。今回こそ斬れると思ったが弟子に邪魔されるとは……。
「……あの人の弟子は此方にも居ます」
真横から向かって来る流星錘を放ったのは小柄な白髪の小娘。桃花といい、小柄な小娘と縁が深い男の様だが奪った記憶にあるペドフィリアという奴か? 迫り来る錘を頭に受け熟れた果実の様に潰れさせると同時に新たな肉体で直進する。金髪の方に迫ったが僅かな差で宙に逃げられた。油断無く俺を見下ろす小娘だが、その手が小瓶を投げて先程の小僧がキャッチする。薬だろうが……ああ、どうでも良い。我は妖刀、人斬りの道具。
「ははははっ! まっていたぞ、桃花ぁ!!」
二度も斬りそびれ、必ずや刀身を血で染めようと思い描いていた獲物、桃花が上空より現れたのだからっ!!
「……行きましたね」
消灯時間を回った時間帯、フェニックス領の病院のベッドの上で看護師さんの巡回をやり過ごした私は音を立てずに起き上がる。メルギスさんの愛弟子を自称するからかレイヴェル様が用意してくれた部屋は豪華な個室で、ベッド横の冷蔵庫を開けて飲み物を取り出すと差し入れのチェリーパイが入っていた。
小振りな西瓜ほどの大きさを持つドクロチェリー(微妙な味をした教授の発明品)、現在はドラゴン向けな味をしているので特産品としてドラゴンチェリーに変名してドラゴン相手に売っているのですが……。少しだけ空腹を感じたので一切れだけ口にしてお茶で流し込む。さて、行きましょうか。
お父さんの身体を奪い連座でお母さんまで連れて行かれる原因となった妖刀魔喰い、また負ける所でした。医者の話では重要な血管や臓器にも刃が届いており、本当に薄皮一枚一秒一刻を争う状態だったとか。ですが、故にお父さんから受け継いだ切り花の真の力を発揮できる。
「さて、確かルーリアさんから聞いた話では……」
傷自体はフェニックスの涙と手術で塞がっているが未だ痛む体を動かして窓から出ようとするけれど脱走防止の術式が邪魔で出られそうにない。だから私は段ボールを被る事にした。どうも歴戦の傭兵も戦場で段ボールに隠れて身を隠していたそうで……。
「こら! 何をやっているの!」
一分後に見事に見つかったので全力で逃走しました。……解せぬ。まあ、其れは兎も角として脱出成功した私は人間界に転移します。一応メルギスさんには連絡しておきますけど……後で叱られそうで怖いなぁ。
転移した先は駒王学園。お嬢様に活動許可を貰おうと向かった先で切り花がガチガチと音を立てて警告する。この気配、間違い無い。奴が、魔喰いが戦っている。後先考えられなくなった私は敵の戦力も味方の状況も調べずに突入し、お嬢様達と戦う堕天使を発見した。あの白髪同様に魔喰いの残り香がする堕天使女は私を見るなり不快そうに顔を歪めた。
「新手かっ! ええい、鬱陶しいわね……」
見るからに満身創痍といった状態でお嬢様と朱乃さんを圧倒している彼女は私に向かって光の玉を飛ばすも居合いで切り落とし、再び納刀。ベッドの中、切り花に宿る歴代所有者の思念から流れ込んだ戦闘経験。其処から手に入れた技術を上乗せして放つ。
「暮石流抜刀術・
超高速の連続抜刀により七の斬撃が飛ばされる。僅かに速度にズレを生じさせ一度での対処を封じるも、堕天使の女は光の剣で防いだ。一度、二度、三度、四度、五度、六度と……。
「中々の技だったけどこれで終わりっ!?」
七度目の斬撃は防げない。何故なら幻だから。最後の一撃が呆気なく消え去った事に動揺するも彼女は即座に気を取り直す。まあ、其れが普通です。最後の一撃が幻ならば他の敵に気を向けるのが上策。……幻だったならですが。
「……怨み狐は七回欺く。七度目は、手出しせぬと思わせ嘲笑う」
最後に遅れて向かった七発目の斬撃が堕天使の上半身と下半身を断つ。呆けた表情のまま落ちていく彼女を一瞥した私は校庭に降り立った。対面するのは見知らぬ誰かを乗っ取った魔喰い。今は戦士らしい身体付きの中年女性。校庭には死体が散らばっています。
「……死ね」
「……へし折る」
互いに長い言葉を交わす必要はない。向こうは私を斬りたく、私は向こうを破壊したい。只其れだけ、其れしか無い。先ず、魔喰いが動く。ほぼ同時に向かって来る超高速抜刀。……ですが歴代所有者の経験を受け継いだ私には、お父さんを捨て、役に立たないと多くの肉体を使い捨てにした今の魔喰いの居合いは通用しない。静かに目を閉じ、柄に手を掛ける。
……人々の全てを安易に奪い、そして捨てて来た報いを受けるが良い。
「暮石流抜刀術・
迫り来る斬撃、それを剛の抜刀で弾き、勢いが乗ったまま柔の突きへと変える。切り花の切っ先が魔喰いの腹を捉え腕から弾き飛ばす。宙を舞いながら次の身体を出現させようとしますが……させはしない。
「暮石流抜刀術・
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