グレモリー家の野良犬   作:ケツアゴ

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野良犬と襲撃者

 本日はシトリー家のお嬢様であるソーナ様に招かれたお茶会の日……なのですが、お供のメイド兼眷属代表の私の目の前のメルギスさんは面倒だという感情を隠そうともせずに車の中で書類を手にしていました。

 

「えっと、メルギスさん? もう直ぐ着きますね」

 

「……ん? ああ、そうだな。桃花、適当に話合わせておけよ? 理想ばっかで現実が見えていない奴らって厄介だからよ」

 

 この理想というのは彼女達が設立を目指す誰でも通えるレーティングゲームの学校で、現実とはゲームを取り巻く環境の事なのでしょう。まあ、スラムでの生活歴が短い私でも彼女達のような貴族の方が少なく、大多数の支配下に置かれた下級悪魔の立場を理解できていないと分かります。それは同行者の彼も同意見みたいで……。

 

「悪魔の寿命は長いし、意識改革にも相応の時間が必要だ。あの資料と……さっき貰った物を使って掃除を行ってもね。ゲームが夢を見る為の場所なのは確かだけど、ステージに上がるための道は汚れきっている。腐臭で鼻が曲がるほどにね」

 

 今回招待された際、メルギスさんは出来るだけソーナ様の相手はしたくないというのが本音だ。でも、招待を受けた以上は立場があるし、彼女ってメルギスさんに好意を抱いていますから積極的に寄ってくるでしょう。……だから特別な招待客を連れていきたいと申し出て、相手が相手だけに向こうも喜んで受け入れた。その彼はメガネとペンを……正確には隠しカメラを仕込んだそれら二つを忌々しそうに手にしていました。

 

「アーサーだったかな? 私からしても意味不明な理由でテロ組織に入った……いや、正義感から独断で潜入したんだったね。協力者の契約相手の身内を悪く言うのは良くないか」

 

「どっちにしろ馬鹿だけどな、あの坊ちゃんは。まあ、別の派閥の構成員に色目使って協力を申し出る振りをして盗撮したそうだ。旧魔王共って魔力や魔術への備えはしてても人間の道具は警戒がザルらしいからな」

 

「奴らと裏で繋がっている貴族や脅迫のために集められた不正の証拠……これらに君に以前貰った手記の一部が揃えばゲームを自分達の権威の道具にしている連中をかなり追い落とせそうだ……最悪、私も道連れにされるだろうがね」

 

「……あの手記は俺の死んだ仲間の一人が残した物だ。其れ使って俺まで巻き込むなよ? ……言っておくけどボロ負けした時の俺と同じだと思ったら間違いだからな」

 

 分かっているさ、と、彼が……ディハウザー・ベリアル様がそう言って頷いた時、丁度車は目的地に到着する。既に出迎えが集まっていました。

 

 

 

 

 

「ディハウザー・ベリアル様、この度はようこそお越し下さいました」

 

「いやいや、そう緊張しなくて結構。今日はオフだからね」

 

 貴族や魔王にオフもヘったくれも無いのでは? と言いたいけど我慢して様子を見守る。ソーナ様達も最上級悪魔でゲームのチャンピオンが来たとなっては誰を優先的に相手すべきか分かっているらしく、これでメルギスさんは立場に傷を付ける事無く逆に恩を売った上にソーナ様の相手は最低限で済むという計画通りに……行ったら良かったのですが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あは! こうやって二人でのんびりするのって初めてだね! まるで恋人同士みたいで……なーんちゃって!」

 

「……セラフォルー様、お立場を考慮した言葉をお願いいたします。成り上がりが思い上がって魔王様に不敬を働いたと思われては領地の民にも迷惑が掛かります故」

 

「大丈夫、今日はオフだから!」

 

 拝啓、死んだお母様。俺って呪われてるの? あの眼鏡をディハウザーを使って防いだと思ったら、三竦みの会談が決まったって言うのに外交担当のトップが呑気に妹主催の茶会に出席とか暇だな、おい。てか、魔王はオフの時は魔王じゃなくなるとか勘違いしてるだろ。オフでも魔王は魔王だっての!

 

 妙に密着して甘えた声を向けてくる馬鹿魔王に辟易しつつも顔には出さず時間が過ぎるのを待つばかり。ああ、俺の貴重な貴重な連休が無駄に過ぎていく……。

 

 そんな俺の嘆きに気付かずベタベタ触ってきたんだが、急に身体を預けると囁くような声で訊いてきた。

 

 

 

 

「……ねぇ。ソーナちゃんと私の事、どう思ってる?」

 

 妹……目が悪いんだな。姉……痛々しい。

 

 

 

 

「お二人とも聡明で素敵な方かと。私など見上げるだけでも幸福が過ぎます」

 

「えへへ~。そっか、そっか。素敵だって思ってくれているんだね。……でもさ、勇気を出して手を伸ばしたら案外簡単に掴めるかもよ?」

 

「……恐縮です」

 

 いや、手を伸ばしたくねぇから。寧ろ遠ざかりたいし、勇気を出してグーパン叩き込んで良いか? 駄目だよなぁ……。

 

 

 取り敢えずこんな魔王共には例の手記を渡せないと、しみじみそう思った……。

 

 

 

 

 

「……疲れた。マジで疲れた。なあ、ルーリア。俺、疲れちまったよ……」

 

「はいはい。頑張ったわね」

 

 あの地獄から解放され領地に戻った俺はお気に入りの昼寝スポットで寝転がる。草の感触が気持ち良く、フェニックス家での打ち合わせを終わらせたルーリアが膝を枕に貸してくれたので心地よく眠れそうだ。……何かさ、生理的に苦手なんだよ、あの魔王。

 

 確か領主としての経験もないはずだろ? 何でそんなのを魔王にしているんだ上層部、傀儡にしやすいからですよね、畜生め!

 

 疲れきった俺を気遣ってくれるのは大変有り難い。頭をポンポン叩かれるのは少し気になるが、今の此奴は素敵に見えるな。

 

「……なあ、マジで結婚する?」

 

「ぴゃっ!? ……其処まで気が滅入っているのね、アンタ。ま、まあ、どうしても……あら?」

 

 気の迷いが口から飛び出たが、近寄ってきた気配に瞬時に飛び起きて障壁を張る。ガラスが激しく割れたかのような音が響き、振り下ろされた手刀によって障壁は粉々に砕かれる。だが、相手の動きも一瞬止まり、障壁を張った手から魔力の散弾を放った。

 

()っ! 破破破破破破破破破破破破っ!」

 

 だが、襲撃者は咄嗟に後ろに跳びつつ拳で魔力を逸らし、弾き、叩き落とす。タッと着地して止まった瞬間、地面の上を滑るかの様に跳びながら向かってくる男に対して魔力を込めた拳を突き出すも僅かに身体を横に向けて回避され、そのままの勢いで真横をすり抜けた男は俺と背中合わせになり、そのまま背中を叩きつけて俺を吹き飛ばした。

 

「がっ!?」

 

 鉄山靠……中国拳法の技の一つだ。実際、襲撃者は中国人と貴族悪魔のハーフだ。黒髪黒目の三白眼。鉄面皮は相変わらずで、離れているのに脇を締め掌底を突き出す。先程張った物より頑丈な障壁に罅が入り、第二撃で砕ける。だが、第三撃は来ない。

 

「……俺の勝ちだな、浩宇(ハオユー)

 

 さっきから地面の中に忍ばせていた魔力の鎖が身体をがんじがらめにする。これで俺の勝利……と思ったんだが。

 

 

「破っ!」

 

「……気合いでぶっ壊しますか」

 

 息を一瞬吸い込み、気合いで粉々に鎖を砕いた男は俺に近付き……ハイタッチを交わした。

 

 

 

「久し振りだな、二人とも」

 

「帰るなら連絡くらい入れろよ」

 

 ……ったく、相変わらず俺の仲間は癖が強いぜ。

 




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