「……は? レーティングゲームで婚約を決める? そんな我が儘許した時点で借りを作ったて分からないのか、あの我が儘姫は」
戦闘後、高ぶっている時に受けた報告に地が出てしまう。貴族同士の婚約とは同盟締結の一種であり、どちらの家に入るにしても権限の一部を他の家に明け渡し、何かあった時に否が応でも連携せねばなりません。今回の場合、家柄が上のグレモリー家が有利な関係を結べる筈だったのですが、貴族内での評価の低下と同時に力関係への影響を及ぼす。
「それで旦那様は何と? ああ、小猫さんへの指導はゲーム終了後まで延期ですね」
当然ですが、私はグレモリー家の家臣として家の実益のために動く義務がある。彼女への教育もその一環であり、当主である旦那様の意志に反して行う試合の為の訓練中に指導を行うのはその義務に反する。好きにしろとの事なのでそうさせていただきましょう。
「ぐっ……」
「この……」
足元で呻く少女達に目を向ける。青髪と栗毛の悪魔祓いのコンビで、はぐれ悪魔の討伐任務後に遭遇、私を人を襲っていた件の悪魔と勘違いして襲ってきたので叩き伏せた所だ。青い髪の方は切り札らしき聖剣を出して来ましたが手刀に魔力を纏って刃を切り落として差し上げましたよ。彼女、この聖剣を使うことは出来ても使いこなせはしてませんでしたね。オーラが無駄に拡散していました。
「さて貴重な聖剣使いを殺せば厄介な事になりますね。小競り合いでは済みませんし……見逃して差し上げます」
腕の骨はへし折りましたが立ち上がって病院に行く程度は出来るでしょうし、放置の方向で。……これで何の価値もない有象無象の一人ならサクッと殺しておく所なのですが……。
「勝ってしまわないと良いのですが……」
どうも最近ついていない気がする。この前もアルビオンを宿した戦闘狂いと遭遇して周囲の仲間を巻き込まない為に相手をさせられた。禁手化は大抵が叫んで発動のコントロールを行うので顎の骨を先ず砕き、触られないように両手首を掴んでゼロ距離爆破しましたが結局堕天使幹部の介入で帰すしかなかったのが残念です。災いを呼び寄せる道具など所有者を殺して別のに移るよりも抜き取って封印すれば良い物を……。
「いよいよ時間ね。小猫、そう言えばメルギスがライザーのお兄様と余興で戦って勝ったって聞いたのを思い出したけど、どうやって勝ったのか知らないかしら? 何か参考になるかも知れないわ」
試合前、目を閉じてイメージトレーニングをしている最中に部長が訊いてくる。フェニックスの不死を破るには兎に角攻撃を繰り返すか特大の一撃で一気に吹き飛ばすのみ……だったのですがメルギスさんは別の方法で勝ちました。部長の期待する内容ではないのですが。
「風の魔力を利用して周囲の酸素を薄くして炎の勢いを衰えさせ、冷気の魔力を纏いながら気道と動脈を締め上げた、そう聞いています」
「……今の私達には無理ね」
フェニックスはあくまで傷が一瞬で癒えるだけで酸欠などでの気絶から一瞬で立ち直るわけでは有りません。まあ、水の魔力で顔を覆っても炎で蒸発するので簡単な話ではないでしょうが。部長も軽く引いていますけど、同じ理由で内容は広まらなかったんですよね。
『旦那様には勝てと言われたし、フェニックス卿からは不死を過信し過ぎていたとお礼を言われましたが、普通の方法で勝った方が良かったですね。余興ですので変わった方法を選んだのですが』
あの人、言外に普通の方法で勝てるとも言っていますし、締め上げている間に炎を受け続けたのに大した怪我もしないとか相変わらず強いです。
「じゃあ、皆気合いを入れて行きましょう。特にイッセー。このゲーム、貴方が勝利の鍵よ」
部長の言う様に数でも経験でも劣る此方側にとってフェニックスを倒すには神滅具を持つ先輩が重要な鍵になってくる。……のは良いのですが譲渡も使えませんし、戦闘中に覚醒とか不確定要素を重要な策に盛り込む訳にも行きません。……だから、部長が立てた作戦に変更を進言させて貰いました。
「たった一人で乗り込んでくるとか……いや、もう一人居るわね」
ゲームの舞台は学園を模した空間で現在イッセー先輩と共に体育館に乗り込んだ所。私が合図したら後から出てきて下さいと言っていますが予想通りバレた様子。
「小猫ちゃん、此処は……」
「いえ、貴重な倍加を無駄にしないで下さい。……此処は私が全滅させます」
両手には鉤爪の付いた手甲、両足には膝まで覆う金属製のブーツ。出てこようとするイッセー先輩を手で制し、格下に舐められたと思ってか少し苛ついた四人に一気に駆け出します。先ず、チェンソーを持った体操服とブルマ姿の双子。
「バラバラですー」
「バラバラになっちゃえー」
起動したチェンソーの刃が床を削りながら私に迫り、振り上げようとした腕を間をすり抜ける瞬間に深く切り裂く。骨を爪の切っ先が削った感触が手に伝わり、鮮血が散ると同時にチェンソーが床に転がる。
武器を持った相手と戦う場合、それをどう無効化するか、手甲の扱い方を習っている最中に学んだ事です。腕を押さえ悲鳴を上げる味方に硬直する棍術使いとチャイナ服、ついでにイッセー先輩。さて、相手が冷静になるまで後数秒程度。
「……えい」
床に落ちたチェンソーを足ですくい上げてチャイナ服に蹴り飛ばす。当然避けられますが冷静になる前の回避行動は体勢を崩す。戦車は騎士のように速くはないですが強化された筋力で床を踏み込めば爆散すると同時に砲弾のように身体が押し出される。正面衝突する寸前、先程も使った猫妖怪の身軽さを活かして頭上を飛び越え頭を掴んで引き倒す。そのまま顔面を何度も踏み続けた。
『容赦する必要のない相手には徹底的に非道になりなさい。逃げられても恐怖を心の芯まで刻むのです』
少し物騒な気もしますが実際に残った一人と先程の双子の顔から戦意が消え始めた様子。侮った相手からの速攻で戦意を挫かれ完全に冷静さを失った状態。
「……つまり攻めるなら今です」
真横の空間が歪み、手を突っ込めばジャラジャラと音を立てて鎖が引きずり出され棘だらけの鉄球(実際は別の金属)が姿を現す。鎖を持って跳躍、棍術使いの頭上に振り落として床の底に沈め、着地と同時に真横に振り抜く。直撃した双子纏めて壁をぶち抜いて飛んでいった。
「さて、次に行きましょう」
体感時間にして十秒程。ゲームが終わったら映像を見せて貰って反省点の絞り出しですね。何やら引いている様子のイッセー先輩ですが堕天使と戦った挙げ句に部長にとどめを刺すように言ったでしょう。……あの戦いで武器がない時の決定力不足を自覚して未熟だった空間への武器の収納を身に付けましたが本番で上手く取り出して良かったです。
「本当は体育館ごと吹き飛ばす予定だったけど結果オーライだな!」
先ずは一手先取。つまり、大抵は下調べが済んだ相手のみ任されているであろう未熟な若手が油断する瞬間。
「ふんっ!」
鉄球を上空に向かって放てば衝撃と共に熱波が伝わってくる。敵を倒して油断をした相手を狙うのは基本中の基本。空を睨めば爆炎の魔力を放った女王ユーベルーナが浮かんでいました。そして敵の撃破を知って本来の計画のように体育館を吹き飛ばす予定の副部長が相対しますが、私はイッセー先輩を置いて彼女の前に飛び出る。
「……すみません。彼女は私に任せて下さい。……ちょっと腹が立っていまして」
ゲームが決まった日、ライザーは言いました。女王以外に戦力になる眷属は居ないと。つまり、私を強くしてくれたメルギスさんへの侮辱です。貴重な時間を割いて訓練に参加させて貰い、実戦稽古だと任務に有無を言わさず同行する羽目になりました。だから相手の最強の眷属を私が倒す。あの人は部長の勝利を望んでいないでしょうけど、それとこれとは別の話ですから……。
「殺す…殺す…殺す…っ!」
敵に対しては絶対的な憎悪と殺意を向け、口にも出す。鼓舞にも威圧にもなるからとメルギスさんに教わりました。手甲の爪を合わせて鳴らし、鉄球の鎖を振り回す。では、主が侮った戦士の力をその身で味わって下さい。