グレモリー家の野良犬   作:ケツアゴ

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野良犬の弟子 下

 これはちょっと前、メルギスさんにご指導頂いていた時の話です。

 

「さて、悪魔社会で格闘技術が軽視さている理由が分かりますか?」

 

 肉体作りだけでなく座学も教えて貰っているのですが、この人は最初から答えは言わず私やギャー君に考えさせるようにしています。勉強で最も必要なのは知識を得ることではなく考えることに慣れる為という持論からだそうで、私も少し考えて答えます。

 

「魔力に対する絶対的な自信からでしょうか?」

 

 残念な事にメルギスさんが言うように私の主な戦法である近接戦は悪魔社会において軽視されるしレーティング・ゲームの学校でも基本的な事しか教えないと聞いた事があります。魔力とは悪魔特有の臓器がオーラを変換して作り出す力。家特有の特性や上級悪魔故の生まれつきの量の多さ、主な敵が光の槍を扱う天使や堕天使である事を考えれば自尊心と戦略の面からも仕方ないのでしょうが、身体能力が同じなら人間の武術の嗜みがある人と悪魔が格闘戦を行えば圧勝するのは……という位に悪魔社会の格闘技のレベルは低いです。

 

「正解です。後は格闘技の多くが地上に足が着いているのを想定して磨き上げられた物という事も含まれますね。空中では禄に本領を発揮できませんが、悪魔は飛べるのですから飛んで当たり前。寧ろ飛ばない理由が有りません。ルチャなど空中戦主体のも有りますが、魅せる為の技の要素も大きいですから。……つまり対処法も禄に学ばれていないという事ですよ」

 

 成る程、道理だと思う。接近戦より魔力を放った方が見栄えもしますし、上級悪魔なら魔力一発で山の一角を吹き飛ばせますが拳で山の一角を崩せる人が中々居ないように威力も下。ならば接近戦を軽視する傾向になっても変ではなく……付け入る隙になる。……訓練による疲労困憊で倒れているギャー君を眺めながらこの時の私は感心していました。

 

 

 

 

 

 

「このっ!」

 

 ……業腹だが認めましょう。目の前の敵、ユーベルーナは私よりも強い。爆炎の魔力など無防備に受ければ頑丈さが特性の戦車の駒の力……だけが耐える手段の私では一撃です。頑丈な種族なら兎も角、私は身軽さと仙術が売りの猫妖怪。熱への耐性も頑丈な骨肉や鱗も無ければ、速度が落ちるので防具も着けていない。

 

 ……ですが、当たらなければ問題はなく、防具はなくても武器はある。放たれる魔力に正面から鉄球を叩き込めば空中で爆散して互いの耳と目を爆炎と爆音が阻害する。相手はベテランですので私の動きを読んでいるのでしょうが未だ侮りがある様子。私が相手の位置を把握出来ていないと思っているのが位置から丸分かりです。

 

 

 ……驕りとは強者を殺す猛毒であり、私の嗅覚を侮ったのが貴女の敗因です。先程相殺された鉄球は衝撃で弾かれ、繋がった鎖から落下しているのが伝わってくる爆炎の衝撃と重量、その二つが合わさって猛烈な勢いが生まれ、私はそれを利用する。

 

 

「……せい」

 

 無理に引き戻すのではなく、円の動きで向きを変え、遠心力を乗せてユーベルーナさんに投げつけると同時に鉄球を盾にしながら突撃する。

 

「なっ!? だが、この程度っ!」

 

 当然のごとく魔力で撃墜される鉄球。ですが、此処まで接近すれば私の牙が届く。着弾の瞬間に眼帯で視野が狭まった方に回り込み、反応して此方に向けて来た腕に鉤爪を振り下ろす。魔力を放つ為には一瞬の溜めが必要で、今の距離ならば私の方が先に攻撃可能。斜め下に滑り込むようにして懐に潜り込み、腕を深く切り裂いた。

 

「ぐぎっ!?」

 

 格下からの思わぬ痛撃に困惑と苦悶で顔が歪み動きが止まる。それでも手を向けてきましたが足を掴んで引っ張り体勢を崩し、魔力を見当違いの方向に撃たせると同時に腹を切り裂く。血飛沫が舞い散りますが未だリタイアの様子は無い。女王は戦車の特性も持っているからでしょう。

 

 

 

「でも、これで終わりです……」

 

 武器とは鋭い爪も牙も持たない人間が獣に立ち向かうために作り出した物。実際、武器がなければ今頃一方的に食い散らかされて居たでしょう。……ですが、私は元猫妖怪。大型の肉食獣程でなくても猫も肉食動物としての武器は持っているのです。

 

 相手が痛みに耐えながらの一撃を放つ前に、窮鼠所か獅子の反撃を受ける前に私はユーベルーナに抱きつき、首筋に八重歯を突き立てた。同時に全力で首に巻き付けた腕で締め上げれば……ほら、魔力を練り上げる余裕もなく、私同様に特性に任せただけの力を使い怪我を負った腕で懐の私めがけて慣れない拳打を空中で放っても……。

 

 

『ライザー・フェニックス様の『女王』一名リタイア』

 

 ……さて、部長の眷属という立場や義理から戦って手柄も上げましたけど勝ったら不味いですよね? 関わった家との関係も、活躍した私を指導したメルギスさんの立場も。……どうしましょう?

 

 ……この時、私は思い悩んでいました。ですが、それは観戦しているメルギスさんも同様で……。

 

 

 

 

 

「へえ、小猫君は大金星だね。君も先生として鼻が高いんじゃないのかい?」

 

「はっ! では、僭越ながら意見を述べさせて頂きます。先ず、相手がいたぶる気なのか手を抜くなど慢心していたが故に虚を突けた事など幸運に恵まれた事が大きく、視野が狭まった方向から向かって来るという基本を相手が考慮している事を考慮した様子が無く、小刀の類を忍ばしていたなら首筋や、背中から心臓を刺されていたなど問題も多く……及第点ではないかと」

 

 レーティング・ゲームの観覧席、当主の眷属である私も当然出席してゲームを眺めていましたが、小猫さんの活躍に会場が沸き上がり、最後の方で少々引きながらも評価は中々。サーゼクス様が話し掛けて来やがった……話し掛けて来られたのはそんな時でした。恐らくですがこの方はお嬢様の勝利を願っているのでしょう。……自分が恋愛結婚とはいえ政治的な意図がなければ成立しなかったとでも思っているのでしょうか?

 

「あははは。厳しいね。君はどっちに勝って欲しいんだい?」

 

「……私はグレモリー家の家臣、それは永遠に永久に変わらぬ事。ならば自ずと応援すべき方がどちらなのかは決まっています。これ以上私ごときが魔王陛下のお時間を独占する栄誉を得るのは恐縮の極み。どうか栄誉はそれに相応しい方々に……」

 

 要約すると、あっちに行け、ボケが。他の貴族と話していろや。実際、私の出自を知らない貴族は眷属ごときが魔王様と長く話を……といった顔をしていますしね。

 

 そんな間にも戦況は進み、不味いことにお嬢様が優勢。朱乃さんが雷の魔力で一気に蹴散らす上に一誠君は譲渡の力を土壇場で使えるようになった様子。……ですが、体への負担を考えれば使用回数は片手の指で数えきれる程度。それを考慮していないのか、倍化の負担による使用回数制限を知りもしない……は戦術的に調べるべき事なので流石にあり得ないとして、ライザー様を相手にするには少々勝算が薄い。

 

 前衛が動きを封じて後衛が強力な魔力を浴びせるなどすれば希望があるのでしょうが、どうなる事やら。あっ、残った眷属は妹のレイヴェル様のみ。戦う気がないそうですのでこのままでは……。

 

 最悪の未来は婚約破棄からの領民への悪影響ですが、私が無理に出自を明らかにされて正式に家に入れられる可能性もある。領地で養っている皆を想えば出奔も出来ませんし、さっさと昇級して何処かに婿養子に入るのも手かも知れないと思っていた時、駆けつけていた小猫さんがレイヴェル様を指差した。

 

 

「……絶対に負ける訳には行きません。ですから万が一を考え、後顧の憂いを断つ為に私が足止めをします」

 

 ……さて、これで勝ち確定ですね。どちらの……等と言うまでもなく、実際に大勢の希望と思惑通りにライザー様の勝利で幕を閉じる。お嬢様達は全体的に装甲の薄さが目立ちました。広範囲を焼き尽くす不死鳥の炎に対して防御の魔法陣を張れるのがお嬢様だけでは……ですね。

 

 

 

 

 

 

「さて、式に向けて仕事仕事。つつがなく終えれば良いのですが……」

 

 少し嫌な予感がしますね……。

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