グレモリー家の野良犬   作:ケツアゴ

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野良犬と負け犬

 貴族が関った工場からの排煙で覆われた空と廃棄されたゴミ山の悪臭、隙間風だらけの廃墟同然の建物が日常の風景だった。

 

「……毒だな。それも数年前に摂取した物が身体を蝕んでいる」

 

 

 貧しく身分の低い民、貴族からすればゴミ同然の存在が住む場所。そんな場所に好き好んで住んでいた変わり者の医者は倒れた母さんを診察して告げた。もう長くないと。

 

 誰が母さんに毒を飲ませたかは分からない。でも、何の為に飲ませたかは分かっている。俺を宿した母さんが邪魔だったから殺そうとして、俺を守るために母さんはこの貧民街に身を隠した。

 

 何処の誰かかは知らないけど、俺には自分の素性を知る権利があるとして母さんが父親が貴族であるとは教えて貰っている。

 

「……私のせいでごめんなさい」

 

 母さんの最後の言葉は涙を流しながらの謝罪で、俺の手を握り締めた母さんの手から力が無くなっても暫くは泣けなかった。謝る事なんて何一つ無い。俺の今までの人生は幸せだった、そう言いたかったからだ。

 

 ……掃き溜めの様な場所でも住民の結束は強く、俺は大人達の世話になって過ごし、恩を返すため、俺も大人になって子供達を守るためにと力を付け……ある日、父親と出会った。

 

 

 

 

 

 

「悪魔社会において力は重視される。人間を見下すのも極僅かを除いて悪魔に大きく劣るからであり、下級悪魔に対しても然り。……なら、負け犬は負け犬らしく勝者に従うべきでは?」

 

 私の目前には死屍累々(辛うじて死んではいませんが)、立っているのは極僅か。本日はリアスお嬢様の結婚式当日であり、本来ならば旦那様の眷属である私も警備として参加するべきなのですが横槍が入ったのです。貴族の中で最も貴い血筋であり私に元次期当主の初陣を台無しにされた家の依頼で不審な行動を見せている一派を調査、同行した連中が派手に騒いだあげくに逃げ出したので単独で撃破したという訳です。

 

 目の前に転がっているのは誰も彼も本来ならば貴族社会で活躍していてもおかしくない血筋ですが、クーデターの際に前政権に味方して政治中枢から締め出された方々。それが野良犬同然の私に敗れ、骨のある方は睨んでいますが最早抵抗する余力もなし。ええ、殺すのが一番楽ですが、目減りした純血悪魔を減らすのは公爵家の使用人としては憚られます。なので生け捕りにしたのですが、手加減をしすぎたのか戦闘を続行する余裕のある方がお一人。

 

 

「おのれっ! 私は先代レヴィアタンの末裔なのですよ! それを中級悪魔如きが……」

 

「はあ……」

 

 私が投げかけた言葉など馬耳東風とばかりに返事をしない女性こそサーゼクス様達が中心となって転覆した政権の次期トップを担った筈のカテレア・レヴィアタン様。辺境に追いやられ憎悪をたぎらせた彼女を見て思ったのは……漫画の理事長のテンプレな見た目だな、と、我ながら呆れる呑気な内容でした。

 

「貴方、それだけの力があるのなら此方に付きなさい! 下僕としてですが相応の地位を約束しましょう」

 

「いえ、ですから大戦後の混乱があったとはいえ政権側として体制が整っていた段階で負けたのに、落ち着いてきた現政権側を裏切ってまで味方するメリットを提示して下さらないと断るにしても考える素振りも出来ないと言うか……」

 

「気まぐれで慰み物となった売女の子の分際で私を愚弄するか! 良いだろう。ならば私の力、その身で理解させてやるっ!!」

 

 ……いえ、別に怒ってはいませんよ? 此方が挑発した結果、怒り狂ったカテレアが何故か私の出生に関してのことをを知っている口振りで母を侮辱しましたけど、安い挑発で怒っては認めるような物。負け犬の遠吠えなど無視してしまいましょう。

 

 何やら小瓶の中身を飲んで力を増大させるカテレア様を見ながら私は落ち着き払って警告をする。辺境に追いやられた方がどうやって武装発起の準備を整えられたのか、私の母について誰から聞いたのかそれは純血悪魔と何一つ関わりのない私が知るべき事でもなく、単に職務を全うするだけです。

 

「カテレア様。貴女方は力が劣っていたから魔王の座を奪われた。ですが本当の忠義があったからこそ相応しくない者が魔王の名を継ぐのを阻止したのでは?」

 

「死ねぇえええええええ!!」

 

「……魔王クラスにまで上がっていますが、矢張り貴女は魔王の座を引き継ぐに値しないようだ」

 

 放たれた魔力に正面から魔力を放ち、放出を続ける魔力は二人の間で拮抗する。道具を使ってパワーアップするのは別に構わないのですが、戦力分析は出来ていない様子。だから私は評価を下した。

 

 サーゼクス様は滅びの魔力を持った上で魔王クラスの十倍の魔力を持ち、アジュカ様も同格だとか。それに魔王クラス程度で挑むと言うことは力を把握していないという事になる。三大勢力の大戦の際は有力な味方で、クーデターの時は最も危険な敵だった筈なのにだ。意図して情報を伏せられていたとしても、信じられなかったのだとしても、双方ともに王としての資質に問題が有っての結果だ。

 

「馬鹿なっ!? 今の私は先代を超えているのに互角なんて……」

 

「いいえ、互角ではありません」

 

 このタイミングで横槍が入らないという事は彼女は捨て駒か伏兵が居ないという事になる。魔力が拮抗したことが信じられないという顔の彼女の手元の魔力から内部を突き進んでいた魔力の先端が飛び出し、二カ所ほどを貫く。途端に上昇した魔力が元に戻り、血を吐きながらカテレア様は倒れ込んだ。

 

 

「き、貴様、何をした……」

 

「先程飲み込んだ物体と、魔力を生成する臓器を貫かせて頂きました。ええ、ご安心ください。私としても純血悪魔が絶えるのは心苦しいので」

 

 火種になると分かっていても処刑されなかったのはそんな理由でしょう。だから力を奪うだけに留める。結構深刻なダメージを与えたので今後は以前のように戦えないでしょうけど……子宮には問題がありませんし、相応しい方と結婚して下されば正当な魔王の血筋を次期魔王の座につけて現政権にくすぶる前政権支持者へのアピールにもなる。ああ、アジュカ様やフィルビウム様は独身でしたね。

 

 取りあえず舌を噛んで自害を計られても厄介なので猿轡をするとして……言い過ぎた気もするのでフォローをしておきましょう。

 

 

 

「あの、現レヴィアタン様が貴女より魔王に相応しいとは思っていませんよ?」

 

 別に録音をされた様子もないですし、この程度は構わないでしょう。実際、あの痛々しい人は敵だらけの悪魔が攻め込まれていないなど外交手腕が良いですが治世者としてはカテレア様と五十歩百歩ですし。早速連絡を入れて回収を頼もうと思った時、携帯に小猫から重要性の高い時用のメールアドレスに連絡が入っていました。

 

 

 

 

「……成る程、そう言う事ですか」

 

 一誠君が結婚式に乱入、手引きしたサーゼクス様の提案でライザー様と決闘し、勝利して破談に持ち込んだとの連絡にミリキャス様を魔王の座に推挙する方々の反応や世間からのグレモリー家の信頼の失墜、経済への影響など悩みは多いですが、サーゼクスが何故其処までしたのか推測が出来ました。

 

 妹の為? いやいや、これで息子の将来に影響が出るのにそれだけでは無いでしょう。魔王としての思惑もある、そうだろうと思います。

 

 

 

 

 

 

「……貴族社会に染まっておらず、赤龍帝という分かりやすく強力なネームバリューの転生悪魔。……改革のための旗印、生け贄、御輿、色々と言い方はありますが……」

 

 同情はしますが現在の社会状況を考えれば改革は必須。なら、多少の犠牲は黙認いたしましょう。正義ぶって青い理想を語れるお綺麗な存在では有りませんしね。

 

 

 

 

 

 母を毒殺した者だけは何があっても絶対に探し出して始末しますけど……。情報漏れを悟らせない為に口封じでカテレア様を殺せたなら情報を詳しく聞き出したのですがね……。

 

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