グレモリー家の野良犬   作:ケツアゴ

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野良犬の休日

 今、俺の目の前には絶世の美女が居る。カラスの濡れ羽色の髪を夜会巻きにして、普段は落ち着き払った態度でスーツを着こなした知的で有能な美人秘書。だが、今は夜会巻きを解いてスーツを床に脱ぎ捨てて下着が見えていても気にせず着崩した格好のまま酒を飲んでツマミのイカゲソを咥えていた。

 

「何って言うか……普段とは別人だな、テメー」

 

「あら、それはアンタもでしょ? って言うかアンタに合わせて上品ぶってるんだから感謝しなさいよ。その感謝は是非お金で表して欲しいわね」

 

 ワイシャツの胸元のボタンを外し、床に置いたクッションに座り込んでいるから黒い下着が見えているが互いに気にしねぇ。

 

「アホか。給料は俺のポケットマネーから出てるんだろうが、相応な額をよ。餓鬼の頃から業突く張りは変わらずってか?」

 

 この女の名はルーリア、俺と同じスラム出身の腐れ縁で昔から頭の回転が早かった。それが俺が公爵の眷属になってスラムの皆を呼んだ際に、こう言って来たんだ。

 

「いや、一から十までアンタの世話になるのは癪だしお金貸して。娼館でも始めて三倍にして返すから」

 

 別に仲が悪い訳ではなく、昔から自立心が強いんだ、この女は。俺は安心して住める場所と職業訓練の機会を皆に提供する気だったが、どうしても内容は絞られる。自分の進む道を他人に制限されるのは嫌だから自らの悪魔としての種族でも特に色に特化したサキュバスとしての能力と持ち前の知能を活かして成り上がろうって魂胆だ。

 

「そうか。ルーリアには補佐官をやって貰おうって思ったんだけどな。頭良いし、俺よりも世渡りが上手いからな」

 

 この頃、切磋琢磨の結果から評価と仕事量が上昇していた俺は補佐官を雇うことを提案されていた。だが、公爵家の伝手を使って決めた相手にスケジュールを管理されたくない。だが、此奴ならスラムにいた頃から仲間の行動計画を作って管理したりと能力は信用できる。

 

「……給料次第ね。ああ、やるとしても通常の業務までだから。手を出そうとしたらアンタの引きちぎって犬の餌にするからね」

 

「ははっ! なんで俺がテメーに手を出すんだよ? 意味不明過ぎて笑えてくる」

 

 軽口には軽口を。昔からそれが俺達の関係だった。今回も有り得ねぇ事を言って来たからお返ししてやったんだが、真剣な顔で数秒何やら考えた後で肩を竦めてため息を吐きやがった。

 

「……あー、うん。私を口説こうとするアンタを想像したら吐き気がして来たわ、マジで。気分転換に酒でも奢りなさいよ」

 

「水でも飲んどけ、ボケ」

 

 互いに冗談の様で本気も混じっている。この女はやると言ったら本当にやるし、俺も美人と認識しているが異性として意識出来ない。そんな自分が想像できない。

 

 こうして俺の補佐官になったルーリアは短期間で仕事を熟練者以上にこなし、完璧に猫を被っていた。どうも馬鹿な男を手玉に取るためと幼い頃から母親が仕込んだらしい。そのお陰もあって人前では本性をさらさず、俺に縁談が来にくい様に影ではそんな関係で有るかのように表向きは振る舞っている。……因みに業務外として特別ボーナスを要求しやがった。

 

 まあ、昔からの仲間だけの時は今のように口調が崩れるんだ、俺は。仲間達は普段の俺を笑い話の種にしやがるし、禄なのがいやしねぇ。

 

 

「……にしてもお嬢様は今後どうするのかしら? ちゃーんと情愛の名に相応しい所を見せて欲しいわ。まっ、無理だろうけど」

 

 此奴が言っているのは一誠の事だろう。あの我が儘姫の願いで婿に選ばれたんだ……本人の意思や両親の合意も関係なくな。やっぱ、息子の思惑に手を貸す気だろうな。グレモリー家の本格的な後押しで転生悪魔の希望の星にってな。

 

 ……セールスポイントが神器による戦闘力な以上は今後も戦闘での活躍を望まれるだろうよ。倍加の段階や回数が限界を超えればぶっ倒れちまう程に身体の負担が大きいってリスクがあってもな。まあ、改革を押し進めるのを早めれば悪魔の頑丈さと医療技術で間に合うか? 数百年後にゃ杖や車椅子が必要なくらいにガタが来てるだろうけどな。本来の数万数十万倍の力を出すんだ、リターンと比べりゃ軽いリスクだ。

 

 あのお嬢様もその辺は分かってんのか分かってねぇのか。信じるのと問題を直視しないのは別なんだがな……。取り敢えず小猫を通してサポーターとして活躍する様に進言してみるか。ただ、俺がやるのはそれだけだ。

 

「分かってると思うけど余計なことは止めときなさいよ? アンタが余計な物を背負う事になるんだからね? 只でさえ今後は面倒だってのに」

 

「……分かってる」

 

 ……悪いな。今の社会において純血貴族以外の扱いはマジで酷い。切っ掛けさえあれば非常時でも反乱が起きるだろうって程にな。人間の血が混じったら七十二柱の末裔でも家の復興は無理なんだ。昇格して貴族になっても、上り詰めた力に期待して、とでも言って有事の捨て駒なのが目に浮かぶ。

 

 俺の内心を察してか目を細めながらの忠告を飛ばして来たルーリアが投げ寄越した缶ビールを喉に流し込む。今日は久々の休日であり、心と体を休める日だ。先日の一件もあって今後は大変そうだが忘れるとしよう。

 

 

「当然お前にも苦労して貰うぞ。他の奴らにもな」

 

「上等! 皆揃って冥府の底まで一緒に落ちてやるわよ」

 

 只一方的に守られるのは俺達の関係ではない。一切迷い無く言い切る仲間には本当に助けられるぜ。ついつい口調が戻っちまう程にな……。

 

 

 

 

 

 

「君の功績を評価して上級悪魔の昇進試験の受験資格を与えようってなっているよ」

 

 翌日、屋敷に顔を出したサーゼクス様の言葉に私は耳を疑った。

 

「……先日の一件は大王家家臣の皆様のご助力あっての事。私の働きなど微々たる物ですし、常日頃の働きは大恩ある主へのご恩返しという家臣としての当然の行為。余りに早すぎでは?」

 

 先日の一件、監視中に騒いで存在を知らせて直ぐに逃げ出した方々と共に旧魔王派を捕縛したと報告してある。大王家の顔を立てるという当然の行為です。それが明らかに故意に足を引っ張る行動であったとしても。なので二十程度の若造が中級悪魔になっているだけでなく、上級悪魔へ推挙されるなど有り得ない。

 

「……ああ、成る程」

 

 リアス様の今後について根回しをした事でミリキャス派を初めとした方々が騒ぎ出したのですね。次期魔王に推挙したいが公爵家の当主の子供が純血でないのは不愉快な上に威信に関わるとでも。母は一応公爵家に奉公に上がれる程度の家の出身ですし、それを知らない別の一派も魔王の血族を倒した者が中級悪魔なのは色々と都合が悪いと……。

 

 私が察した事が正解だったのか、察した事を察したらしいサーゼクス様は苦笑している。本当にいい性格をなさっておいでだ。

 

「私としてはこれ以上の昇格は望まず、生涯を家臣として過ごしたいのですが……」

 

「うーん。君が昇格しないと他の下僕悪魔も昇格させ辛いんだよね」

 

 大体、政務など重要で大勢の人生に関わる仕事を気軽に受け持つべきでないし、受け持ってはならない。スラムの仲間の生活基盤を守るには今の地位と領地で十分だが、昇格したならば背負うべき者が増えすぎる。当然、グレモリー家から支援を受ける事になり、縛られた結果どうなるかは目に見えているでしょう。

 

「君なら公爵の眷属として恥じない成績を出すと信じているよ」

 

「……精進いたします」

 

 私は能力故に眷属になったのだと証明を続けると誓った。なので無様な結果は出せはしない。……それを分かってか。

 

 

 

 

「所で一誠君に関してどう思いで?」

 

「リアスも彼に夢中だし、働きには期待しているかな? 色々と大変だと思うけど、働きには報いるつもりだよ。まあ、新しい家族だしね。……血は繋がっていないけど」

 

 ……ああ、正しく貴方は悪魔の王だ。実に合理的でいらっしゃる。この時、私は彼の厄介さを再認識するのであった。

 

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