グレモリー家の野良犬   作:ケツアゴ

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野良犬とサキュバス

「ほら、眠る時間ですよ。一旦手を止めなさい」

 

 只今の時刻は二十時三十分、目の前の馬鹿が一時間だけ眠る時間。丁寧な言葉遣いなんてむず痒いけど、此奴がやれている事を出来ないのは腹立たしいから我慢している。仲間内ではどちらが先にボロを出すかで賭けていて、何故か私に賭ける奴らが多い。

 

 ……え? 地の文の口調が本性? この働き詰めの馬鹿みたいに無駄な事はやってられないわ。人前で猫かぶってりゃ良いだけじゃない。

 

「ああ、何時ものを頼む……」

 

 ベッドに横になるメルギスに跨がるようにして顔をのぞき見ながらサキュバス……夢魔としての力を発揮する。別にエロい夢を見せてストレスを解消させる訳じゃなくて、睡眠の質を最適化してあげるの。だって二十三時間の殆どを仕事とその勉強、戦闘訓練に使っていたら人間にも居るショートスリーパーでも身体が保つはずがないもの。

 

「さてと……」

 

 この状態の此奴は非常に無防備。だから誰かが側にいて守ってやる必要がある。……私達の為に無茶してるんだから、この馬鹿を守ってやることに文句なんて無いわ。今の内に補佐官としての仕事を進めて起きた後の仕事の負担を減らし、厨房の彼奴に連絡して夜食の手配を進める。その後は……。

 

「……言っとくけど私が強く成る為だから」

 

 誰に聞かせるわけでもなく呟いて……。

 

 

 

 

 

「それにしても立派な屋敷よね」

 

 窓から屋敷の一部を眺めながらスラムの家を思い出す。ぶっちゃけ廃墟よね。此処の主の一員になるんだから例の坊やも納得……出来るかしら? メルギスが予測したサーゼクスの企みでは成功しても失敗してもお嬢様は意中の相手と結ばれ、坊やは将来的に身体がガタガタになる。

 

 成功した場合、壊滅的な悪魔社会の将来を回避できて、チップは実家の社会的地位や影響力。純血の跡取りは両親か自分の新しい子か……メルギスを据えれば問題なし。成功時のリターンは他にも有るし、確実な代償が気に入っているとはいえ赤の他人なんだからそれほど惜しくはない。まあ、情愛っつっても過ごした時間や血縁の有無で差が出るのは当然。最悪、全部妹に被せた上で隠居でもさせるって手もあるし、合理的と言えなくもない。

 

 ……実際、スラム育ちの私達だから分かるけど、今の社会って薄氷の上に有るのよね。

 

「っと、そろそろ起きる時間だわ」

 

 時計を見れば起床予定三分前。口の周りを拭き取って風の魔力で臭いを逃がし、口の中の粘着きを水を飲んで流し込み、口臭をスプレーで消して後始末は完了。無茶のおかげかメルギスは短期間で少し力が伸びたみたいだ。一ヶ月でこれってどれだけ無茶したのかと俯せにして背中を見れば案の定……。

 

「前は七割、五割、八割って所だったのに……」

 

 メルギスの背中には三重丸を描いた入れ墨のような模様が三角形の頂点に当たる様に計三つ有るんだけど、三つとも極僅かな部分が緑に発光しているだけで残りは黒く染まっている。最近の任務の数からして全部貯まったので使ったと言うことだ。

 

「……こんなんじゃ駄目ね。もっと頑張らなくちゃ。守って貰うだけのお姫様なんて性に合わないわ」

 

 先程摂取したアレのお陰で力が漲って来るのを感じるが、目の前で眠る馬鹿との差は開いてしまうばかり。私の……いや、此奴と共に戦うって決めた皆の背中にも同じ物がある。適正のせいで大抵一個、私でも二個だけど。だから、もう少し修行をしようと思った。だって仲間のあり方は色々だけど、私は並び立っていたいから。

 

「って言うかアンタが私に惚れれば全部解決するんだけど? そん時は仕方ないから受け入れてやっても良いくらいには評価してやってるってのに、この仕事中毒の修行馬鹿」

 

 サキュバスの力を今以上に活用できれば力を一気に増せる。でも、その気じゃない奴に迫るのも悔しいし? 私は仲間としか思ってないし? 取り敢えず腹が立ったので仰向けに戻すと頬を掴んで引っ張って遊ぶ。時間まで何しても起きないってのは本当に便利だわ。

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず何時もの通りに仕事しながら食べられる物にしたから。……不本意だけど」

 

「オフの時には食事に集中させるわ。所で私の料理はピーマンを抜いてって頼みはどうなりました?」

 

「却下。大人なんだから我慢して食べて。……あと、君が敬語使うのって相変わらず違和感マックス」

 

 深夜前、夜食を届けにきたのは長身で黒髪オールバック、眼帯に傷だらけの身体っていう威圧感だらけの男、スカー。味わって食べて欲しいって態度を隠さないのは隠すような間柄じゃないから。同じスラム出身で、人前に出なくて良いと思って厨房で働いている。褒める時とかに呼ばれるって私達も知らなかったけど……。

 

 ハムとチーズのパニーニにマグカップに入ったポタージュスープのトレイをメルギスに渡すと私は一旦退室する。今日の労働は終わり。

 

 

 

 

 

「じゃ、夜更かしは美容に大敵だから寝るわ。夢魔の力も自分には使えないし」

 

「ええ、お休みなさい」

 

 こんな時こそお母さんが生きてたらと思う。私も短時間睡眠で保つようにしたり、落とし方をもっと詳しく……は別に良いとして……。ああ、間抜けにもピロートークで重要事項を漏らした馬鹿貴族死ね! って言うかスラムの焼き討ちの理由ってお母さんが居るかも知れないからじゃないの? よし、何時か絶対殺す。

 

 復讐を誓いながら部屋に戻った私はシャワールームで汗を流した後は下着姿でベッドにダイブする。このまま心地良い眠りに……と思った所で机の上に放置してた手紙の山が目に入った。炭酸ジュースこぼしちゃったから読まずに置いてたんだっけ、別に読みたくないけど読まない訳にはいかないってのが面倒だ。

 

 

「美しいって罪よね。……パッと読んで寝よ」

 

 私はとても美しい。すれ違った通行人が思わず振り返って姿を目で追うレベルで。スタイルも抜群だし、男共が放置しておかないのよ、スラムの仲間は別として。彼奴等、マジで金○付いてるのかしら?

 

 それは兎も角、補佐官としてメルギスの仕事に同行してれば私の美貌に心を奪われる奴は出て来るし、そういうのを避けるためにメルギスと裏でデキちゃってる風に装うんだけど、知らなかったり知った事じゃないって連中は一定数居て、会った時に感想聞かれて中身を把握してないんじゃちょっと困る。だから流し読みをしているんだけど……。

 

 

 

「……は? この詩ってナルルから借りた詩集に載ってた奴じゃない。こっちは金やら権力やら見事に自分自身のセールスポイントが皆無な上に、カカロアからの情報で財政状況がヤバいって知ってるっつーの。てか、此奴等全員婚約者居るでしょうが。アレか? 今から愛人を確保しておこうってか? なんか読んでいるだけでムシャクシャして来たわね……」

 

 余程私を安い女と侮ってるのか恋文の文句が陳腐で呆れ果てる。中には知人であるソーナ・シトリーの婚約者の名まで見つけてしまった。……あの女のかぁ。ちょっと嫌いなのよね。

 

「えっと、何が切っ掛けだったかしら? 確か小さい頃にピクニックに行った時に蝶を追いかけてはぐれた上に野犬に囲まれた所を彼奴が助けて……止めとこ止めとこ。無駄よ、無駄。さーて! もう寝ましょう」

 

 最後に若手ナンバーワンとか呼ばれている奴の手紙を読まずに放り出し布団を被って目を閉じる。ああ、本当に無駄な時間を過ごしたわ。陳腐で下らない口説き文句ばかり並べたって私の心は動かない。私の心を動かせるのは彼奴の何気ない褒め言葉……。

 

 

「お休み!」

 

 浮かんだ顔を忘れるように睡魔に身を任せる。ちょっと顔が熱かった……。

 




ソーナはヒロイン……では……
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