「漸くですね。やっとマトモな生活を送らせてあげられる」
私の手の中には先日行ったギャスパーの封印解除に関わる試験の合否を告げる書類が握られている。主は私ではないので当然未開封ですが結果は知っています。審査に関わる貴族の奥さんがホストクラブにはまっていまして、其処のナンバーワンから情報が来たのですよ。
「……はぁ」
ギャスパーの訓練に携わった者としては素直に嬉しい。魔眼の暴走は魔力のコントロールの不備と精神状態から来ていたのでネットを通して交流を図り、次に壁を挟んで話して馴れて貰った後は基礎である魔力のコントロールを目隠しをした状態で行い、応用である魔眼のオンオフや範囲、強弱等の応用の訓練へと移行していった。
上層部が彼を封印したのは力の暴走を危惧してですが、あのままではお嬢様が力で無理に押さえつけられる程に強くならないと解除認定はされなかったでしょう。主の力不足で封印されたからとお嬢様の訓練を頼まれたりしなくて本当に助かりました。でも、他に指導者の候補は居るはずなのに、ちゃんと訓練していた様子は無いのですが……。
「……多分力でねじ伏せる様に指示されるのが嫌だったのでしょう」
それか訓練を任された私を信用して領地の管理に集中したかったのか、と、将来的に関わりそうな問題から目を逸らしながら結果を伝える為に転移する。溜め息の理由は呼ばれた時間に居る人物が理由でした……。
「お嬢様、結果が出ました。見事に合格。本日より晴れてギャスパーはグレモリー家の家臣として力を遺憾なく発揮する事でしょう。これも全てお嬢様の人徳あっての事。では、私はこれで」
「あら、もう少し待ちなさい。今日はソーナと新人の顔合わせをする予定なのよ。彼女も貴方に会いたいだろうし、命令って事で」
「はっ! ご命令とあらば部屋の隅をお借りいたします」
それを知っているからこそ機械的に対応して即座に退散しようとしたのですが、残れと命じられて断ることは出来ない。本人からすれば悪意はないのでしょうが私としては迷惑此処に極まる。そのソーナ・シトリーに会いたくないのですから。
「入りますよ、リアス」
本心を隠し無表情で部屋の隅に立っているとノックの音が響いて数人の学生が入ってくる。その先頭に立つ冷静そうな顔の少女、ソーナ様は私の顔を見るなり驚いた表情になり、後ろの少年はアレは誰だと訝しげな視線を私に向けていた。そして、その視線に不機嫌さを感じさせる鋭い物、嫉妬が含まれるのは直ぐのこと。
「メルギスさん、どうして此処に……」
入ってきた時の冷静そうな顔が一変して驚きと動揺、喜色が浮かんで髪型を気にし始める。昔迷子になったのを助けてから妙に懐かれたが、成長と共に別の感情も含まれるようになったのは、彼女の姉である痛々しい格好のシスコン魔王セラフォルー様が遠回しのつもりで探りを入れてきたので知っては居た。どうせ婚約者が居るのだし無視しても支障が無かったのだが……。
「会長、あの怪しい仮面の野郎は誰っすか?」
どうやら彼はソーナ様に恋心を抱いてしまったらしく、私を見て態度を変えた事で内心を察したのか言葉にもトゲがある。失礼な糞餓鬼が、ぶっ飛ばすぞ……等の本音は一切顔に出さず、微笑みながら仮面を外して重度の火傷痕を見せる。
「ああ、これは失礼しました。確かに顔も晒さない部外者が居れば警戒は当然。……この様に積極的にお見せしたい物ではないとご理解下さい」
「いっ!?」
初見の一誠君達は私も素顔を見て絶句する。アルジェントさんが僅かに反応が薄いのは聖女としての治療で酷い傷を見てきたのがあるでしょうが、動きからして最近まで一般人の彼らにはショックが大きかったらしい。ですが、こうやって火傷痕を見せておけば大概の方は安心して嫉妬を収める。あの少年もこの顔なら大丈夫とでも思ったのでしょうね。
「申し遅れました。私はメルギス・ヘール。グレモリー公爵の兵士をやっている者です。どうかお見知りおきを」
本当は此処までする必要はないのですが、無理にいさせようとしたお嬢様への意趣返しもあります。友人が好意を寄せているからと無理に残らせるから良心が少々痛むことになるのですよ。
あっ、因みにヘールというのは母の名字ですら有りません。完全な偽名です。
「……サジ、失礼ですよ。彼は既に中級悪魔であり、最年少で上級悪魔昇級試験に推挙されています。……あの、メルギスさん。宜しければお詫びを兼ねてお茶にご招待したいのですが。眷属達に色々とお話を聞かせて頂きたいですし……」
どうやらサジというらしい少年を厳しい声で叱咤したソーナ様は何やら期待が込められた目を向けて来ますが、私は静かに頭を下げて応える。
「折角のお誘いは大変光栄ではございますが、先程おっしゃった様に矮小の身に多分な評価を頂いた事で、テレビでとある方との対談を行う事になっておりまして、本日はその打ち合わせが入っております。故に大変恐縮ではございますがまたの機会に」
「そう…ですか。では、今度お誘いします」
「……それと出過ぎた真似では御座いますが、私は七十二柱に連なる高貴な方々に比べれば野良犬も同然の存在。さん付けなどなさらず、身分相応の扱いをなさって下さい」
正直言って私は彼女に良い印象を抱いていない。耳にした彼女の夢は成功したとしても今の社会情勢では暗い未来が見えており、そもそも行動が伴っていない。それと姉が鬱陶しい。まさか口に出す訳には行かないので遠回しに余り関わるなと伝えればサジ君は再び不機嫌に。ああ、実に面倒くさいです。
予め渡されていた紙に描かれた魔法陣を使って転移した先は森の中のコテージ。魔力を霧状に薄く広く広げても潜んでいる者は居らず、コテージの中でくつろいでいる男ただ一人。どうせ来たことは向こうも分かっているのだからノックもせずに入れば茶菓子が用意されたテーブルを挟んでソファーに彼が座っていました。
「最近ゲームで圧勝した相手がショックで行方不明になったと騒がれていますが大変ですね、皇帝殿」
「君は君で大活躍じゃないか。どうせ大王家の部下は君の足を引っ張っただけだろう、
私の前に座るレーティング・ゲームのチャンピオン、ディハウザー・ベリアルは一頻り笑った後で着席を促す。……今の私なら戦いになりますよね、スラムでの初対面時と違って。彼の一族の特性は教授に施された禁術には一部のみ作用しますし。無駄だから戦いませんけど。
「それでわざわざ呼び出した理由は? テレビ出演にこの時間……俺は暇じゃねぇんだよ」
猫を被るのを辞めて本性を出す。此奴は大王家に従い俺達を倒した男。今は共犯者だけど正直嫌いだ。向こうがこっちに罪悪感を感じている部分も含めてな。
俺の早く帰りたいという意思を察してか茶で喉を湿らせてディハウザーは話し出す。今の社会を揺るがす事実を……。
「あのゲームの後、ビィデッセが陰で接触してきてね。接戦の予定なのにどうして恥をかかせたって言ってきて……漸くチャンスが巡って来たと思ったよ。命乞いをしながら王の駒について教えてくれた。力を十倍に高めるって物らしい」
「……確かに凄いが普通の駒だって一般人クラスが車を蹴り飛ばすレベルに強くなるし、神器だって本人の力どころか敵対する神の創造物だろ。っていうか最近数万倍に力を高められる知り合いが出来たばかりだからな……」
隠している事は確かに問題だが、程度の差はあれど似たものは浸透している。……いや、逆に考えれば隠さなければならない程に上はそれらを警戒しているのか? ……あの眼鏡の夢、上を粛正でもしないと前途多難過ぎるな。
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