FateAccelZeroOrder--if-- 作:煽伊依緒
「…………」
少年は路地裏をぶらついていた。
ほんの少しの魔導書を抱え、食べるものもなく、頼る人もおらず、ぶらつくしかなかった。
おじいさんには帰り用の飛行機のチケットを貰ってはいた。
だが、飛行場に行きつくための交通費を、少年は持っていない。
おまけに、
「つっ……」
おじいさんの家を出てからというもの、少しずつだが右手が熱く、痛みを増していくのが感じられた。
それも常時痛みがあるのではなく、断続的に何度も襲ってくる。
それが少年の心をより深く抉っていく。
「痛い……苦しい……誰か……」
少年は気付かなかった。
おじいさんの所にいた時はまだ、おばあさんやおじいさんの優しさに救われていたのだと。
「……誰、か……」
「じゃあ、お兄さんと一緒に来る?」
茶髪の、若い男が、そこにいた。
少年がそう認識した時には既に、少年の意識はほとんど残っていなかった。
「よし、今日はこんなもんでいっかなーー」
男はそういうと腕輪の様なものを振るい、数人の子供を引き連れて先に進む。
もしも少年が、もう少し万全な状態でいればこの男の催眠術などへでもなかっただろう。
だが、もう少年は疲れていた。
「……やっと、眠れる……」
おじいさんの家を出てから少年は擦れていた。
父を殺した衛宮切嗣への復讐心など、二か月の間に薄れ、そして漠然としたものに変わっていたのだ。
それは偏に少年の心がまだ幼かった、おじいさんとおばあさんの優しさに心を温められた、の二点。
だが、その優しさも失われた。
「…………衛宮、きりつ……ぐ……」
少年の幼い心は再び『目的』を追い求めた。
自分が生きている理由を、対外的に求めた。
「殺……して……や…………」
少年の意識はそこで潰えた。
「旦那――今戻ったよ――」
とあるマンションの一室、若い茶髪の男は数人の子供を連れながら静かに帰宅した。
「あれ、旦那もしかして出かけてる?」
連れてきた子供たちを家の奥へと押しやる中、男は一つ一つ部屋を見て回る。
だが、どこにも男の探す人物は存在しない。
「あっれ――こんな時間にどこ行っちゃったんだろ旦那」
そう呟くと、男は先ほど連れてきた数人の子供たちをとりあえず居間に通した。
旦那――と呼ぶ人物が帰ってき次第、彼らを見せるためである。
「旦那、喜ぶかな――? 喜んでくれるよな――」
男が子供たちを座らせて待つことおよそ十分。
男の意識に一つの気配が浮かび上がる。
「あ、旦那お帰り――。それから見てくれよこの子たち!」
「おぉなんとみずみずしい命でしょうか!」
何とも言えない奇妙なローブの様なものに身を包み、目をぎょろりとさせた男が虚空からいきなり姿を現した。
そして現れるや否や、その男は一人一人の子供たちをよく観察していった。
「いやー大変だった大変だった。最近はどこの家もすぐに締まっててさ――探すのがめんどくさいったらないよ全く」
「そうでしたか、それは手間を取らせてしまいましたね龍之介……」
「なーに良いって事さ、おかげでこんなにも良い子たちを見つけられたわけだし!」
龍之介はまるで天を仰ぐが如く、両手を掲げるとその場でクルクルと回った。
だが、天を仰ぐ龍之介とは対照的にもう一人の男は金切り声を上げる。
「龍之介! こ、この子は……!」
「え? どうしたんだい旦那、飛び切りの美少年でもいた?」
「いいえ! この少年は――――
――――令呪をもっているではありませんか!」
その瞬間、龍之介のサーヴァントであるキャスターは少年の首筋を握りしめ、力を入れた。
「この子は危険です龍之介! 今すぐに殺さなくてはなりません!」
「ま、待ってくれよ旦那! そんな直ぐになんて!」
そこが居間であった事が災いした。
その場には龍之介がキャスターを召喚した召喚陣が残っていた。
龍之介の声かけで一瞬力が弱まってしまったキャスターの手元で、少年の目が輝きを取りもどす。
「ッガアア!」
「な……」
少年は覚えたての魔術でキャスターに対し火を突きつける。
だが、その魔術は発動と共に暴発、意図しない爆発が少年とキャスターの間を作り上げた。
「っ龍之介! よろしいですね! この子を殺しますよ!」
「だ、旦那ぁ……」
キャスターの魔法が少年を切り殺すよりも早く、少年は呟いた。
少年の令呪が輝いた。
「殺して、殺してやる‼ お前ら全員! 絶対に!」
令呪が、ひときわ明るく、燃える様に輝いた。
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「おかしい、こんなことがあるわけが……」
「どうしましたか、言峰さん」
「いえ……」
つい先ほど召喚を終えた遠坂時臣という男は、語尾を渋る言峰璃正にいぶかし気な目線を送った。
そのすぐそばには時臣の弟子である――今現在、公には袂を分かったとしていた――言峰綺礼も立っている。
「……今しがた八騎目となるサーヴァントの限界を確認したのですよ……」
「八騎目ですって⁉」
「……!」
いつもは寡黙な綺礼ですら驚きを隠せない。
聖杯戦争とは普通七騎のサーヴァント同士で覇を競い合うものだ。
八騎目など異例も異例である。
「まさか魔道具の故障などではないでしょう……であるならば本当に八騎目が現界したと考えるべきだろうか」
言峰璃正の歯ぎしりをしながらのセリフを真横で聞きながら、遠坂時臣もまた悩んでいた。
これが本当であるのか、ただの誤認であるのか、という疑問。
加えて、もしそれが本当だとするのであればそのマスターが一体どのようなマスターなのか。
疑問の種は尽きなかった。
「失礼ですがわが師よ、今すぐにでも動くべきなのでは?」
ただただ黙って考えていた時臣は綺礼のその一言でふと我に返った。
「八騎目が召喚された事は我々以外知らぬはず。今からでも探りを入れ、しばらくは戦況を見守る方がよろしいかと」
「……そうだな綺礼。君の言う通りだ」
時臣は口元から手を離すと綺礼の方へ体の向きを変えた。
「綺礼、予定を変更して今日はアサシンに街中を探らせてくれ。勿論、他の誰にも気取られぬように」
「分かりました」
綺礼はただ一言そう言うと、部屋を後にした。
残った二人はその場で黙って顔を付け合わせた。
この聖杯戦争は既に狂っていた。
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「召喚に応じ参上しました。あんたが私のマスター?」
「……おま、えは……」
少年は急激に発生した魔力低下をその身で感じながら膝から崩れ落ちた。
召喚したサーヴァントは、短くきりこんだ白髪を翻し、キャスターと龍之介に会対した。
「そんで、あんたたちは―――」
不敵な笑みを二人に投げかける。
その場にいることがマスターとサーヴァントであることくらい、今しがた召喚された身でも分かる。
「私の敵?」
手のひらで火をもてあそびながら八騎目のサーヴァントは楽しそうにそう言った。
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