FateAccelZeroOrder--if-- 作:煽伊依緒
「ねえ、あんたの願いは何?」
「願い?」
龍之介とキャスターがアジトにしていた家を出て、ジャンヌと少年は夜の街を歩いていた。
外に出た理由といえば、キャスターが
「このような場所はジャンヌにふさわしくありません。ですが!
私が必ずあなたにふさわしい居住地を見つけてまいりましょうぞ!」
などと言ったのが発端であった。
マスターのはずの龍之介は半分呆けた様子でキャスターを見ていたが、直ぐ後にキャスターから色々と説明され、納得した様子だった。
「願い、ね……」
「ええ、さぞかしこの私が仕えるにふさわしい願いなんでしょうねぇ?」
「この世界への復讐」
「――――今なんて?」
ぼそぼそと言った少年の言葉は、聞こえなかったわけではないが聞き返された。
だから、少年はジャンヌの顔を見てしっかりと言い放った。
「この世界への復讐だ」
「復讐って、あんた何かされたの? 親でも殺された?」
場所は丁度住宅街。
人の気配はよるということもあってほとんどなく、街灯が弱々しく輝くだけだ。
「親は魔術師に殺された。それに書いてあったんだ『世界に復讐しろ』って」
「はあ? あんた正気?」
ジャンヌはガチャガチャと音を立てている鎧姿のままで、少年を上から見た。
「親に言われたから復讐する? そんなのあんたの『復讐』じゃないじゃない。いったい何に復讐するかも分からないのに」
「それでも、俺はそうするんだ」
少年は確かめる様にそう呟いた。
頷きながら、一歩一歩確かめる様に。
「ジャンヌ」
ほんの少しだけ前を歩く少年は、立ち止まったジャンヌに告げた。
「まず俺は、衛宮切嗣を殺す。俺の復讐はそこからだ」
「……」
「手伝ってくれ、ジャンヌ」
正気を抜かれた様に、ジャンヌは少年を見返した。
「ええ、良いわよ。さぁ、復讐を始めましょう?」
頭にノイズが走る。
ジャンヌはその感覚を不敵な笑みの下に隠し通した。
私はあいつじゃない。
なら私は誰?
私は――――――そう、
「私たちは復讐者なのだから」
そう言うと同時に、ジャンヌは虚空から旗のついた槍を出現させ、飛んできた小ぶりな黒一色のナイフを叩き落とした。
不敵な笑みは自然と彼女の頬に現れていた。
「そんなに殺気を出されたら気が付かないわけないでしょう?」
「……」
虚空から現れたのは全身がナイフと同色の体に、どくろの仮面をつけた男。
「クックック……何、この程度の殺気も気が付かないなら復讐者というのもそこが知れると思い、試しただけのことよ」
「へぇ? ねぇあんた、私たち舐められてるわよ?」
「……お前は誰だ」
距離にして十五メートル。
月光を背に受け逆光でよく見えない視界の中で、少年は相手の姿を視界の真ん中に捉える。
「真面目に答えると思っているのか?」
「ああ、俺もそう思うよ」
少年がそう叫ぶと同時、ジャンヌは槍を掴んで仮面の男目掛け突撃していく。
その速度は少年の目視できる限界を超え、まばたきの後には男の目前に迫っていた。
「死になさい!」
「フッ」
猛烈な勢いで振るわれた槍は男の薄皮を少しそぎ落とし、続く二撃目、三撃目が男の首筋を狙う。
「ハハハハハ! やはり復讐者とはこの程度であったか!」
「言ってなさい!」
言葉と同じタイミングで投擲されたナイフが、少年とジャンヌの二人を襲う。
だが、それをさも当然の様にジャンヌが全てを薙ぎ払った。
「あんた、戦えないならどっかに隠れていなさいよ!」
「俺だって戦える。お荷物になる気はない」
「あっ、そ。でもあんた今は凄く邪魔よ」
ジャンヌはそう言うと槍を手に再び男に刺突を繰り出す。
何度も、何度も。
刺突を繰り返す度、住宅街に破壊音が響き渡る。
これが真っ当な魔術師とサーヴァントの戦いであれば、人気のない場所を探して戦うのであろうが……。
当然の様に少年の頭に"神秘の秘匿"などという考えはない。
少年は復讐だけ出来ればいいのだ。
むしろ復讐こそが少年といえるだろうか。
「くうっ……!」
「ククク……どうした、私はこっちだぞ」
男は度々住宅の陰に身を潜め、まるで瞬間移動するかの様にジャンヌの背後に回る。
そして、そのままジャンヌを狙う――のではなく、マスターである少年を狙う。
「こんのぉ!」
ジャンヌの伸ばした槍が、飛来したナイフを弾き飛ばす。
カラカラと軽い音を立てて、ナイフはアスファルトの上で音を止める。
ドクッドクッと、頭に血が上る。
――主よ%&%$%#&&。
――主よ%&%$%げます。
「カアッ!」
一瞬ボーっとした頭が即座に現実へ引き戻される。
頬を掠めていくナイフが、赤い鮮血を散らし、通り抜けていく。
苦々しく表情を歪めるジャンヌ。
「チッ……」
「クク、やはり
「うっさいわね。あんたこそ、こそこそと闇に隠れてんじゃないわよ」
「ククク……何を言う。それこそが我が神髄。闇に隠れずして、どうして我と呼べようか」
「あっそ、じゃあやっぱりあんたはアサシンのサーヴァントって事ね」
呆れた様に言うジャンヌに、仮面の上からでも分かるほど笑いながら、アサシンは告げる。
「左様。我こそがアサシンのサーヴァントである」
「……まあいいわ。こそこそ動き回るような奴に負けるほど私は弱くないし」
「先程までの無様さを踏まえた上で言っているのか? あそこまで弱いと流石に笑ってしまっ……ククッ……」
「……」
ジャンヌのボルテージが上がるのを少年は感じた。
そして、こちらの準備も整った。
「ジャンヌ!」
こちらが術式を組んでいることをアサシンも気が付いているはずだ。
そして、ジャンヌは術式を組んでいる少年を守るように戦っていた。
ジャンヌ自身にそのような意思がなかったとしても、マスターを守るという行動は結果として少年の術式完成までの時間を稼いだ。
「
「ぬっ⁉」
少年の術式はいたってシンプルだ。
対象を動けなくする、もしくは動きを鈍くする。それを弾丸とし、追尾性能を与えただけ。
サーヴァントに人間の魔術では効果が薄いかもしれないが、ほんの一瞬でも動きが鈍ればこちらが勝利するだろう。
少年はそう考えた。
だが。
「ジャンヌ!、おい!」
「……くっ、うっさいわね!」
苦し気な表情を浮かべたジャンヌがそれでも尚少年に認知できない速度でアサシンに突撃する。
「甘いわ!」
バインドをまともに食らったはずのアサシンは、ほんの一瞬だけ動きが鈍っただけ。
既に元の状態に戻っている。
「クソッ……」
悪態を吐く少年の心とは裏腹に、ジャンヌの頭には声が響いていた。
――――――主よこの身$%げます。
もう一度、声が頭に響く。
数秒前まで襲っていた感触が、腕を鈍らせる。
「同じ芸しか出来ぬようだな、復讐者とやらは」
「うっっっっさいわね!」
横なぎに振るわれた槍を軽々と躱し、アサシンは住宅街の一角。
一つの民家の屋根の上に着地した。
「……ならば、ここで終わりだな」
アサシンはそう言うと、ナイフを手に取った。
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冬木の聖杯は危険を感知した。
×××××という少年の存在。
あれは危険だと。
だからこそ、聖杯は
召喚したはずなのだ。
ジャンヌ・ダルク。
救済の少女を。
ゴポッと音がする。
全てを飲み込む音がする。
だが、誰も気が付かない。
誰も――――――そう、たとえそれがジャンヌ・ダルクを召喚した聖杯だとしても。
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