やはり俺達のボーダーでの生活はまちがっている。 作:シェイド
ツンドラからの身内に対しては愛情あるっていう。
んで、多分唐突に出てきたイケメンに弱い(憶測)。
あくまで個人的な考えなんで「ふーん?」程度に流し読みしてください。マジで。
「ねえ。ここって、ボーダー隊員なら何でも依頼出来るのよね?」
「そうよ。もちろん、内容次第ではあるけれど」
「雪ノ下さんなら何でも解決できるでしょ?あたし、依頼あるんだけど」
「それは依頼内容によるわね。例えばだけど、そこのシスコンをランク戦でボコボコにしろとかなら出来るけれど、シスコンを改善する、なんてことは出来ないわ」
「そんなことは聞いてない。とにかく、依頼受けてよ」
「だから内容次第だと言っているでしょう。貴女、話通じてる?」
「はぁ?」
…な、なんだこの雰囲気は。正直、今すぐにでも逃げ出したいのだが。
目の前で行われている、プライドの固まり同士の舌戦。由比ヶ浜と一色は、小町とオペレーター女子会の方にそそくさと行ってしまい、俺もランク戦しに行こうとしたが、何故か雪ノ下に引き留められて今に至る。ちょっと待て、おかしくないですか?
俺は、あの雪ノ下にですらガンを飛ばし、今も何やら言いあっている、本日の依頼人を見つめる。
「ちょっと。何そんな気持ち悪い目を向けてきてるわけ?めっちゃキモいんだけど」
「視姦谷君。依頼者にそんな目線を向けるなんて相変わらずね。でも、私の品位にも関わってくるからやめてくれるかしら」
「へいへい、悪かった悪かった」
この2人から罵倒くらうと、中学2年の頃を思い出すな…。三浦と雪ノ下に同時に罵声浴びせられるとか非常に怖かったんだよなぁ…今はもう怖くもなく、慣れきってしまっているのだが。
戸塚がいたから耐えられていたが…大規模侵攻を通じて、疎開しちゃったからたまにメールをするくらいの仲で落ち着いている。天使とのメールは最高だ。
材木座…?確か、正規隊員になろうとしたけどトリオン量足りなくて、万年人手不足の開発室に所属してたはずだ。ボーダーの評価項目に当て嵌めると、トリオン量は2とかだったから、スコーピオン戦闘だけたまに教えてる。代わりにトリガー開発や改造の時にバシバシ使ってるけど。
今回の依頼者は、B級香取隊の隊長である香取葉子だった。万能手でスコーピオンはマスタークラスになってるし、A級レベルの実力者だ。銃手としてもそろそろマスターになりそうな感じだったはずだし、コイツの戦闘は見ていて面白い。
ただコイツ、天才型だからかなのかは分からないが、とにかく生意気で口が悪いのだ。雪ノ下にランク戦を挑んでボコボコにされたことを恨んでいるのか、はたまた容姿やボーダー内での評価も関係しているのか、一方的に雪ノ下をライバル視している節がある。
雪ノ下の方はというと、完全に眼中にないとか言ってたけど。
ちなみにだが、俺も一度絡まれてランク戦でボコボコにしたところ、俺のことは完全に敵視するようになってしまった。
…染井に俺の昔の戦闘記録を参考にしてるって聞いた時は、そりゃもうびっくりしたもんだ。二丁拳銃スタイルで追い詰め、相手が接近してきたところを腕からスコーピオン生やして相手の首を掻っ切るのが、最近のお気に入りパターンらしい。
…ボーダーに所属してる女子戦闘員って基本的に容赦ないから、オペレーター組がモテる理由も分かるというものだ。どっちと付き合いたいかと言えば、お淑やかなイメージが多いオペレーター陣だろう。俺は戦闘員にもオペレーター陣にも見向きされてないけどね!
「依頼を言わないなら帰って頂戴。私達だって、次のランク戦に向けて訓練しなきゃならないし、時間は有限なの。貴女の我儘に付き合っている暇はないわ」
「…チッ、分かったわよ。アタシの依頼は……」
途中、色々と脱線していたようだが、今回ばかりは流石に香取が引いたらしい。
つーか、俺の目の前で当たり前のように俺の悪口を2人して言うな。この場で日浦みたいに泣くぞ?
…いややめておくか。雪ノ下あたりから話が出回り、後で色んな奴からドン引かれるのが簡単に想像できたし。
「アタシの依頼は、あのイケメン隊員に会わせて欲しいってこと」
「…それは、前回の入隊時に入隊してきた、C級の葉山君のことかしら?」
「葉山?ああ…あれはイケメンだけど、周りに変なギャルいるからどうでもいいわ」
憐れ葉山。三浦が近くで吠えているから、近づいてこない女子もいるみたいだぞ。
だがそれよりも、香取って葉山のこと知ってたのな。正直な話、前回の入隊者では、黒江が飛び抜けすぎててあんまり話題になってないと思ったのに。結束は除く。アイツは入隊式を見に来ては、イケメン探ししてるからな。今季ランク戦終了後に、草壁隊と片桐隊はスカウト旅に出かけることになってるから、イケメン探しが出来るとウッキウキだったし。
あれで結束自身もまた、可愛いのがムカつくんだよな…。
「アタシが言ってるのはね、前に嵐山隊とその男を除く雪ノ下隊で広報活動してた時に、フリップのみで会話したり会場に集まった人たちを誘導したりしてた、イケメン隊員のこと。あれ以降、どこ探しても姿見ないし。一緒に居た雪ノ下さんなら知ってるだろうと思ってここに来たわけ」
「…彼に会ってどうする気かしら?」
「べ、別に?まあ、ちょっとお話してみたいなーって思うくらいで…//」
「…」
おい、無言でこっち見るな。やめろ、その『お前がどうにかしろよ』みたいな目をやめろ!
香取が言っているのは、恐らく広報用に改造された俺のことだろうな。目だけをイケメン仕様に変えただけであら不思議。あのボーダー屈指のモテ男である、烏丸レベルのイケメンになってしまったのだ。
そういや、沢村さんからファンレターめっちゃきてるよ!みたいな話聞いたな。ただ、中身は俺だし、一言も話してなければ容姿が全然違う為、受け取りはしなかったが。一応今後の広報活動を考え、スタッフに中身の確認と、何個かファンレターをピックアップしてもらって、中身読んでますよアピールはするつもりだ。
そんな機会がまたあればの話だけど。
「…分かったわ。その依頼受けましょう。彼は、特殊な隊員だから普段は表に姿を現すことはないの。でも、香取さんの為に今回は私がなんとかしましょう」
「雪ノ下さん…!なんだ、話分かるじゃん!」
「明日の夕方6時にランク戦ブース前にいてくれるかしら?彼には私の方から話を通しておくわ」
「じゃ、よろしく~!」
おいおい、さっきまでの険悪さはどこ行った…?とばかりに笑顔になり、楽しそうな雰囲気を纏い、香取はニコニコ顔で隊室から出ていった。
無言のまま雪ノ下を見つめる俺と、優雅に紅茶を飲んでその視線を受け流す雪ノ下。
「おい…何勝手に約束取り付けてんだよ。香取の奴、めちゃくちゃご機嫌になってたぞ?あれで正体が俺って分かったら日には…」
「ええ、絶望するでしょうね」
…ん?
「ああいうタイプは、一度痛い目を見なければずっと突っかかってくるわ。というわけで、よろしくね比企谷君」
なんという素晴らしい笑顔だろうか。思わず綺麗と思ってしまった自分を殴りたい。
要は、香取に痛い目を見てもらう為に俺を使うということか。明日、何が起きるか分からないが、どこかのタイミングで香取に正体をバラし、絶望させろと。
…俺だと絶望するってかなり悲しいことを言われているが、現実だからしょうがない。
それにこれ、俺が香取を操ることも可能っぽいし、ちょっと色々フリップ仕込んでいくことにしよう。あとは協力者に連絡を…。
***
次の日。ランク戦ブースの前がざわついていた。
とある男女が、この場所で待ち合わせをしていたからである。
1人は、B級香取隊隊長の香取葉子。マスタークラスの実力者であることから知名度はそこそこある。
問題は男の方だ。
嵐山隊と共に、新入隊員のサポートや広報活動に顔出ししていたものの、全ての行動を無言でフリップのみを使い会話をこなすという、謎すぎるイケメン隊員その人のだった。
…実際のところ、ざわついているのは一部の事情を知らない正隊員とC級隊員のみであり、謎のイケメンの正体を知っているボーダー隊員達は「面白そう」という理由で、遠目から2人に注目していた。
「え、えと初めまして!B級香取隊隊長の香取葉子です、今日は会ってくれてありがとうございます」
『!?』
またしてもざわつく隊員達。
普段、口も悪く年上にも生意気な態度をとってばかりの香取が、こんなにも丁寧でしおらしい態度をとっているのだ。かなりの衝撃である。
…雪ノ下を初めとした数名は、笑いをこらえるので必死だったが。
『初めまして。俺は優斗って言います。あんまり声を出すのが得意ではないので、こうしてフリップを使わせてもらいますね。大変申し訳ないです』
「い、いえいえ気にしないでください!アタシの我儘で会ってくれているので…//」
『ありがとうございます。香取さんは良い人ですね』
「そ、そうですかね///」
この時点で明らかにおかしいのだが、香取は今、自分の心を落ち着かせるので精いっぱい。全く気付く気配がなかった。
普段と違い、可愛らしい香取の姿に事情を知らない訓練生や正隊員達は騒めき合い、雪ノ下に事情を説明されている一部の隊員たちは、これまた笑いをこらえるので大変な思いをしていた。
もちろん香取の方はそんなこと知る由もなく、髪をいじいじ、そわそわと落ち着かない様子だ。
『今日はこの後、何か予定でもありますか?』
「全然ないです!暇です!あ、写真一緒に取ってもらっていいですか!?」
『構いませんよ』
この後も一緒に居たいが為の暇アピールが凄まじい。
ちゃっかりツーショットも撮ってしまっている。どこかの弾バカが「あれ比企g」と言ったところで雪ノ下に張り倒されていたものの、そのことに2人が気づく由もない。
『何かしたいことはありますか?1時間くらいなら時間取れますよ』
「…な、なら一緒に食事に行きましょ!」
『ええ、いいですね』
「…やったっ」
簡単に食事に誘えたことについ喜びを隠しきれず、優斗に背を向けて小さくガッツポーズをとる香取。
その時の笑顔は大変可愛らしく、それを見たかなりの隊員たちが心を奪われてしまったが、当然、本人は知る由もない。
事情を知っている隊員たちは、記念とばかりに写真や動画を取り始めている。
どこぞの片桐隊オペレーターが「なんで気づかないのよ。あれって目だけ違う比k」と言ったところで一色に捕まっていたが、やはり2人とも気づかない。
「おすすめのお店があるんです。早く行きましょう!」
『はい』
そして、香取が優斗の手を取ろうとした、その時だった。
「あれ?
ちょうどブースに入ってきた木虎が、その場に最悪な爆弾を落としてしまったのだった。
***
場が全て凍り付いた。そんな表現が正しいだろうか。
今、俺の目の前で固まってしまった香取と、その反応にきょとんとしている木虎。
「おっ、比企谷先輩だ~!今日はその姿なんすね~ってあれ?」
そこに現れたのは佐鳥賢。嵐山隊のスナイパーである。
俺が正体を晒す為に用意したのは佐鳥だったのだが、まさか先に木虎が現れるとは。綾辻からは、今日忙しいって話を聞いてたんだけど…とりあえず、佐鳥ごめん。今度何か奢ってやるから許してくれ。
「………どういうこと?」
固まっていた香取が動き始める。いや、まだ表情引き攣ってんな。
「どうもこうも、この人はA級暫定4位の雪ノ下隊完全万能手、比企谷先輩ですよ。この顔は、広報用に目だけを変えただけのトリオン換装体です。あ、でもこれ知ってるのって嵐山隊と雪ノ下隊だけでしたかね。…もしかして香取先輩、比企谷先輩に惚れたんですか?」
途中まで説明する感じだったのに、最後の方は完全にニヤニヤしながら言ってやがる。木虎と香取とか水と油っぽいもんな。仲悪そうというより、雪ノ下同様、相性が悪いというイメージがある。
そして、ここでようやく整理できたのか、香取がズンズン俺の元まで歩み寄ってきて…
「ねえ、さっきの話ホント?」
「ひゃい、ホントです!」
「雪ノ下さんと共謀してアタシを騙したってわけ?あーもうっ、イラつく……!」
目の前で髪を掻きむしり始める香取。
その様子を見て後ろで噴き出す雪ノ下、とその他俺の正体を見破っていた勢。
…改めて雪ノ下って、敵認定した相手には容赦ないなと思いました(白目)。
香取はその後、イラついたままどこかへと走り去っていった。
ざわつきが増すブース内。ヒソヒソとこちらを見てくるC級隊員達。
…とりあえず香取の依頼は達成できたわけだし、雪ノ下を始め、笑ってる奴らをボコボコにするか。
***
「で?」
「で?じゃないわよ、料理冷めるわよ?」
「お、おう。…いや待て、なんでこうなった?」
その日の夜。
俺はトリオン換装を解いた状態で、香取と高級店でディナーを食べようとしていた。
あの後香取が逃げ出し、よく分かっていないながらも『いい気味だわ』とか言ってドヤってた木虎を始め、雪ノ下や出水、米屋達を爆散させた後、佐鳥に今度焼肉奢る約束をしてから…流石に悪いことをしたと思い、香取隊の隊室に謝罪目的で向かったんだったな。
隊室を尋ねたら染井が出てきて、『ちょうどよかった。比企谷先輩、これから葉子とご飯行ってあげてください』とか言い出して、中から出てきた私服の香取と共になんやかんやこの店に入り今に至る。
いや、振り返っても意味わからん。
「おい香取。俺は優斗とかいう作り物のイケメンじゃなくて、雪ノ下隊の比企谷だぞ?お前散々気持ち悪いとか言ってたのになんでこうなった?」
「し、仕方ないでしょ!元から予約してたんだし、もったいないじゃない!」
あー、だから簡単に入れたのか…確かにそれは勿体ないことこの上ない。
つーかこいつ、元から飯食う前提だったのかよ?断られたらどうとか考えないわけ?…って、その時には染井と行けばいい話か。
「ついでだから、ちょっと教えなさい。例えばなんだけど…」
「ああ、その場合はだな…」
その後は、今までの香取はどこに行った?というレベルでまともに会話してきた香取が、ランク戦の動画で気になったことを片っ端から聞いてきた為、飯を食べながら俺の教えられることは全て教えた。
飯を食い終わり、夜も遅いから送ろうかと思ったが憎まれ口を叩かれ断られた為、店の前で別れることに。
…まあ、たまにはこんな日もいいか。
この時、比企谷八幡は気づいていなかった。
別れた後顔が見えなくなった香取が、ほんのり顔を赤くしていたことに。
烏丸京介ファンクラブ会員でありながら、比企谷八幡監視委員会に入っている染井から情報を受け取っていることなど、今の比企谷には知る由もなかった。
ヒロイン化したい気持ちも初めはあったんですが、香取隊の恋愛模様を見てると三浦が不憫で…今のところはこのくらいにしておきます。
ちなみに華さんが比企谷八幡監視委員会に属している理由ですが、単に小町から話を聞きすぎたオペレーター陣が立ち上げた組織というだけなので、特に特別な理由はないです。
たまにお互いにお勧めの小説を教え合うくらいの関係値で落ち着いてます。