やはり俺達のボーダーでの生活はまちがっている。 作:シェイド
2026/4/7 改稿。
「頼む!この通りだ!助けてくれ!」
目の前で、ボーダーNo.1である太刀川慶が、土下座をしていた。
それを冷たい眼差しで見下ろすのは、我らが隊長兼部長の雪ノ下雪乃。別名、雪の女王である。
「…比企谷君もそこに座りなさい」
「は?」
え、なに、心の中読まれた?サトリなのん?
「何かしら私に対して、失礼なことを考えていたでしょう?」
「そ、そんなことないぞ」
「この際だから言っておくけれど、この前小南さんと腕を組みながら、商店街を歩いていたの見たのだけれど?」
「あー!あたしも仁礼ちゃんと楽しそうにお好み焼き食べてるの見たよ!!」
「先輩、この前加古さんの車に、黒江ちゃんと真衣と杏と一緒に乗ってましたよね?ねえ、楽しかったですか?」
「…お兄ちゃん、昨日、香取先輩と何してたの?」
おかしい、太刀川さんの頼みを聞くところから何故こうなるんだ……。
確かに小南と食材を買いに出かけた。前の100本勝負の報酬とか言われて、小南に腕を掴まれたのは事実だ。
だが、腕を組んでたのはほんの一瞬で、次の瞬間にはお互い恥ずかしくなったから離れて歩いてたぞ。その瞬間を知ってるって、一体どれだけピンポイントで見られてたんだ?
仁礼とお好み焼き食べてたのは、別に普通のことだろ。最近カゲさんとこの店行ってなかったから、行こうと思って店に入ったら、先に1人で入ってた仁礼に誘われてそのまま一緒に食べただけだ。途中からカゲさんにゾエさん、絵馬も来たから2人で食べてたわけじゃない。
加古隊と一緒にドライブに行かされたのは時事だが…やっぱり、助手席に座ってたのがバレた原因か?あの後、市外の森林公園でピクニックしたのは言わない方が良さそうだ。
それに昨日…?記憶が混濁してるんだけど…俺、香取といたのか?何故かは分からんが、昨日に何をしていたかが思い出せない。誰かから、差し入れという飲み物を貰ったことは覚えてるんだが…そこからの記憶がない。
「…黙秘権を行使する」
「結衣、いろはさん、小町さん…判定を」
「「「アウトー!!」」」
「くっ、卑怯な数の暴力だ……」
渋々太刀川さんの隣に座り込み、同じように土下座をする。
でも、よくよく考えてみたら、小南と買い物に行ったのって雪ノ下から逃げる為の口実みたいなものだったし、由比ヶ浜に飯誘われたけど、1人で食いたくて外出てお好み焼き屋に行き、仁礼と食べちゃってるし。その2つは俺が悪いわな、素直にごめんなさい。
だが、加古隊とピクニック行った件は別に良くね?普通に楽しかったし、いいリフレッシュになったのだ。加古さんにはいつまでも頭が上がらないな…といっても、本人は自分がしたいことのついでで俺を付き合わせくれているみたいなのだが。黒江ちゃん達と仲良くしてくれてるからってのが主な理由だったし。
問題は昨日だな。こっちを見ている小町がヤバい目をしている。話的に、香取が絡んでるっぽいが、昨日の記憶が本当にないのだ。防衛任務をした覚えはあるんだが、如何せんどこの隊としたのかも定かではない。…なんか、見覚えのあるデブがいるな。材木座が何かしたのか?
「俺の話を聞いてくれ。次のレポート出さないと、今期の単位落としちまうんだよ!頼む、手伝ってくれ!」
「俺もとりあえず、すんませんでした」
「太刀川さんについては、自業自得ですから。私にも大学生の姉が1人いますが、姉は全単位S評価楽勝だったと当たり前に言ってました。成績を加味せず、単位をとるだけなら、必要最低限だけでも最低評価でもいいんですよね?どうしてやらないといけないと分かっているレポートをやらないのか、理解に苦しみます」
「レポートは、まあなんつーか、気づいたら貯まってることが多いな。あと、大学行って講義出るよりランク戦した方が楽しいんだよ。それに雪ノ下の姉だろ?比較対象が間違ってる」
雪ノ下の姉である、魔王こと雪ノ下陽乃と比べるのは、確かに太刀川さんが可哀そうだ。あの人、雪ノ下以上に完璧超人だし、成績も姉の方が良いとか聞いている。
家を継ぐ為の勉強と関係づくりや顔を知ってもらう為に、母親からボーダーへ入ることは許可されなかったと聞いたが…もし入ってたらどうなってたか。考えるだけで末恐ろしすぎる。
トリオン量はわからないが、たとえどんな状態であろうと、色んな手を使って絶対A級に上がってくるだろうな。いや、加入時期によるが、東さんに師事したりすれば…太刀川隊越えの化け物部隊とか作ってくるかもしれん。んで多分色んなことのしわ寄せが俺に来て過労死する。そう考えると、入ってくれなくてホント良かった。
ボーダーとしては、あんな人材スカウトしてでも欲しいだろうなとは思うけどね。
「あー、それは分かるかも。あたしも学校の勉強よりランク戦してた方が楽しいし!」
「だよな!由比ヶ浜はやっぱ分かってるじゃねえか!」
「はい!勉強なんて面白くありません!」
おっと、目の前で馬鹿と馬鹿が共鳴し始めたぞ。
雪ノ下の方は、こめかみに手を置きながら、頭が痛いポーズをしている。結構そのポーズ好きだよね、よく見るよ。
「…反省の色はないようですのでお引き取りを。
「なん、だと…」
「ねえ結衣。連休中に出された課題はもう終わったのかしら?昨日、今日中に終わらせると言っていたから見逃したのだけれど。…まさか、終わってないなんて言わないわよね?」
「え…えっとね、ゆきのん。…その、ね?」
絶望した表情をする太刀川さんと、固まった後、アタフタとし始める由比ヶ浜。
既に太刀川さんのことは眼中にないのか、謝り倒している由比ヶ浜を連れ、隣の勉強部屋に行く雪ノ下。
…お、これは俺、無実解放されるパターンか?よし、今のうちに逃げ…
「先輩」
「お兄ちゃん」
つい、気が緩んで顔を上げてしまった。
目の前には、満面の笑みを浮かべている一色と小町の姿が。
この2人いたの完全に忘れてたわ。空気消すの俺並みにうまくね?
「ねー先輩?この可愛い後輩のお誘いを断っておいて、他の人と出かけていることについて、ちょーっとお話聞きたいんですけれどもー?」
「い、一色!お、落ちちゅけ、お前が誘う前から誘われてたんだ。だったら、先にした約束を優先させるのは当然だろ?」
「お兄ちゃん、どうして香取先輩にお兄ちゃんとか呼ばれてたの?小町がいるのに?なんで変なプレイしてるの?」
「小町も落ちつくんだ!香取が俺をお兄ちゃん呼び?そんなことあるわけ『お、お兄ちゃん……』……嘘やん」
怖い怖い怖い怖い、めっちゃ怖い。なんで女子って皆怒ってる時ニコニコしてるんだろうね。
その後は言うまでもなく、一色に全てを話すまで解放されず、洗いざらい吐かされた挙句に、今度の休み、2人で出かけることを決められてしまった。日にちまで決められてるし、諦めて従うか。
小町に関しては本当に覚えのないことなので、俺には小町しかいないことを必死に伝え続け、楽しみにしておいたハーゲンダッツ様を献上することでようやく許してもらえた。
ちなみに太刀川さんがいつの間にか消えていたが、恐らくは隊室に戻って自力でレポートをやり始めたのだろう。
…ま、国近先輩との約束もあるし、ちょうどいいか。雪ノ下は奉仕部として受けないとは言ったものの、俺が手伝うことに反対はしなかったからな。
***
「お前ら、ホント助かるぜ。今度飯奢ってやるからな」
「じゃあ焼肉で」
「お前さぁ…焼肉好きすぎだろ。俺たちと行って、この前には東さんに奢ってもらったんだろ?」
「いやいや、寿寿苑は自費だと行きづらいだろうが。奢りで行くからもっと美味く感じるんだよな」
「それは分かる」
雪ノ下隊室から出た俺は、同じA級部屋にある太刀川隊の隊室を訪れ、太刀川さんのレポートを手伝っていた。
ボーダー最強の男が大学で留年とかされると、かなりボーダーのイメージ悪くなるからな。この人地味にテレビ出てるから、もし留年したなら…
『ボーダー最強部隊のA級太刀川隊隊長、太刀川慶さんが大学で留年したとの噂ですが、それは誠でしょうか?』
『その件に関しましては、少々事情があると言いますか…』
などと、ボーダーに対して攻撃的な記者に攻められ、頭を悩ませながら対応する根付さんの姿が簡単に想像できてしまう。
大学がどのようなシステムなのか、俺は詳しく知らない。だが、基本的に単位は出席してレポート出して、テストで7割取れば落ちることはないって聞いたぞ。
この人このレポート達を出さなかったら落単して留年って、どんだけサボってたんだ…。
「しかし、比企谷が手伝ってくれるとは心強いな。奉仕部に行って土下座までしたのに助けてくれなかったから、本当に終わったって思ってたんだぜ?」
「雪ノ下は奉仕部として受けないとは言いましたが、それ以外は言ってないので、比企谷八幡個人として手伝いに来たってわけですよ」
雪ノ下は、由比ヶ浜を見るので精いっぱいってのもあるがな。
それに俺は、約束を果たしに来たってのもあるのだ。
「あー!比企谷君、来てくれたんだぁ!」
「うっす、国近先輩」
そう、俺が太刀川隊に来たのはレポートの為だけではなく、この人との約束があったからだ。
太刀川隊のオペレーター、国近柚宇先輩。俺の1つ上の先輩であり、無類のゲーム好きで有名だ。
以前、ボーダー隊員対戦カードゲームを作る際に協力してもらった1人でもあり、手伝いをしてくれるかわりに対価として、
「なんだ?国近と約束でもしてたのか?」
「ええ。とある案件を手伝ってもらう代わりに、いつかタイミングが合う時に一晩中寝ずにゲームする約束をしてまして」
「柚宇さんも関わってるって言ってたあれか!柚宇さん、あれめっちゃ楽しかったですよ!」
「うんうん、公平君も楽しんでくれて何よりだね~。ゲームには一家言あるからね!」
出水には既に何のことか告げていたので納得顔であり、国近先輩にお礼を言っている。なんか楽しそうだな…まあ分かるぞ、国近先輩可愛いし。前にうちの隊室でお泊り会をした際、恋バナに花を咲かせたことがあったが、国近先輩と名前で呼び合うことが出来るようになったと、嬉しそうに言ってたし。
置いてけぼりの太刀川さんは、ずっと首を傾げたままだ。
しかし、まだこの人にカードゲームのことを教えるわけにはいかない。だって、この人は絶対にハマる。ハマった上で、色んな人とバトリ始めて大学を疎かにする。全隊員集めるとかいうコレクター性がないだけまだマシそうではあるが、勝てない相手とかいたらずっとやってそうだし。
大学からレポートを風間さん達の催促なく、自力で出せるようになるまでは伝えないようにしておこう。そうなると多分、一生教えることないだろう…なんて思ってないよ?オモッテナインダヨ?
***
数時間後、ようやく太刀川さんのレポートが終わった。
俺と出水で手伝って、それでもなおこの時間って…。
ちなみにだが、今日は唯我が家の用事で来ておらず、俺達のレポートが終わるまでの間、国近先輩はゴロゴロしながら鼻歌を歌いつつ、恐らくこの後やるのであろうゲームを並べてた。
おいおい、いくつする気なんだ…?これ、もしかしてだけど、明日の夕方からの防衛任務まで解放されないな?
今回は太刀川さんと出水もいるし、交代でやれば休む時間も少しは…ってあれ?
「あの、2人ともどこへ?一緒にゲームやる予定じゃないんですか」
「俺か?俺は、諏訪さんと冬島さんに誘われてる、麻雀大会に参戦する予定があるからパスだ」
「俺は参加するつもりだったけど…悪い、普通に眠いんだ。昨日も結構やったし、一旦パス」
え、マジで?俺、これから国近先輩と2人で夜通しゲームするのか?死なない?休憩時間なくない?
「さあ、比企谷君!はいこれ、コントローラーね〜」
「…はい」
これも約束だったし、仕方ないな。ブラックコーヒーだけ後でもらおうっと。
結局この後、徹夜でゲームをした挙句に案の定がっつり昼に寝てしまい…夕方からの防衛任務に遅れてしまった。
雪ノ下達からは初めてのことで心配されたのだが、後に理由がバレて、ひと騒動起きてしまうのである。
俺が自分の開発したスコーピオン(改)を雪ノ下達全員(なんと小町まで)に使われ、爆散されることになるとは、この時の俺は知る由もないのだった。
続く。