やはり俺達のボーダーでの生活はまちがっている。 作:シェイド
これだけ何も考えずに全作品筆が進めばなぁ…。
「メガネ君、小南。ちょっと遊真のこと、借りていいか?」
三雲修、空閑遊真、雨取千佳の3人が、玉狛支部で烏丸京介、小南桐絵、木崎レイジに、それぞれ訓練をつけてもらっていたある日のこと。
S級隊員の迅悠一が、玉狛支部を訪れていた。
「うむ?また新型のトリオン兵でも出たの?」
「いや、今からちょっと手を借りるかもしれないからな。協力を依頼しに来た。まだ未来が確定していないから…」
「む?」
「…いや、今確定した。今回のことが解決すれば、将来的に見てもメガネ君達の為にもなる。協力してもらってもいいか?」
「何?また暗躍?」
迅が暗躍すること自体は、前々からいる玉狛支部のメンバーからすると慣れたものだ。暗躍時は必要以上に他人を巻き込むことを迅はよしとしないし、必要最低限の人にしか声をかけないようにして、変える必要がある未来以外は、大きく変えることがないように気をつけていることも知っている。城戸司令率いる『近界民は絶対に許さないぞ主義』とは違い、出来る限り民間人への影響を出さないように立ちまわっているのだ。
今回も例に漏れず、必要最低限以外は人には言えない、いつもと変わらない暗躍の1つなのだと。
しかしながら空閑を連れて行こうとする迅の、普段はあまり見かけない表情に、小南は違和感を覚えた。
「ねえ迅。今回は何するわけ?」
「…悪い。具体的なことは
そして、小南関係となると、ボーダーの中でも精鋭と呼ばれる隊員達がすぐに連想できる。その中で1番目に思い浮かぶ候補者は…
「あたしだけ仲間外れ!?」
「いや、そういう意味じゃなかったんだが…そうだな。小南もそうだけど、レイジさん、京介、宇佐美も無関係じゃないし、ここらで話しておくことにするか」
そうして迅が語ったのは、現在A級2位の雪ノ下隊に籍を置く、木崎レイジに次ぐ
明確な理由は定かではないが、いつの日か、
「…あたし、ちょっと行くとこ出来たから」
「待て小南。迅が今回指名したのは空閑だ。お前が変に関わったからといって、未来が良くなるわけじゃない」
「そうですよ小南先輩。比企谷先輩のことを想うなら、ここで行ったら駄目ですって」
即座に出て行こうとする小南を、出入口を塞ぐように立って止める木崎と烏丸。気持ちを察する宇佐美は、心配そうに事の成り行きを見守りながらも、余計なことを言いかねない陽太郎の口を手で塞いでいた。
関係性はもちろんのこと、比企谷という人物の名前すら初めて聞いた三雲と空閑に雨取は、話を聞くだけに留めているが…普段とは違う、玉狛支部では珍しい…いや、初と言ってもいい、ピリピリとした空気を感じ取っていた。
「ねえ迅さん。とりあえず、おれが迅さんについて行けばいいんだよね」
「悪いな。あ、そうそう、レプリカ先生も遊真と一緒に居てもらえると助かる。一緒に居ないと、最悪の未来が変わらないんだ」
『承知した』
「…レイジさん達は悪いけど、小南を止めておいてね。俺がまた玉狛支部に顔を出すまで」
「止めておいてくれ、と言ってもだな…」
頭をかきながらも、視線は小南から外さない木崎。旧ボーダーの頃より、年齢の近かった比企谷と小南の仲の良さは知っている。
だからこそ、そんな相手が将来
そう、危ないから、何をするか分からないから、
「こなみ先輩、そのヒキガヤって人が心配なんでしょ。なら、おれが代わりになんとかしてくるよ」
「なんとかって遊真…もしね、何かの拍子でアイツと、
「っ!?」
「(空閑が黒トリガーを使っても勝てない…!?)」
小南の言葉に、三雲と雨取は驚きを隠せない。先日、A級8位三輪隊の4人を相手に、1人で余裕を見せながら勝利した空閑が、同じA級部隊の隊員に負けるというのだから。
「まあ、あの状態の八幡になるには恐らく
「もちろん、その最悪にならないように俺も動くよ。ただ、別の事情で手が離せなくなる可能性が高い。だから遊真、もし比企谷と戦闘に発展したら…三輪隊の時みたいに、メガネ君の立場とか、玉狛支部と本部の摩擦とか、余計なことは何も考えなくていい。目の前の比企谷を倒すことだけに集中してくれ。8割方戦闘になるだろうし」
迅はそう言い、空閑とお目付け役のレプリカを連れて、玉狛支部を出て行った。
残された面々はそれぞれ、小南を見張る役、三雲と雨取に関係性の説明をする役に分かれ、迅と遊真の無事を祈る。もちろん、比企谷のことも…。
外へと出た迅と遊真にレプリカ。
迅は、先程伝えなかったことを遊真に伝える為口を開く。
「遊真。さっきは小南もいたから言えなかったんだが―――
***
遠征より帰還し、俺達は城戸さんからの命令でその日の夜に、玉狛支部を目指して駆けていた。
雪ノ下達には、遠征中のこれまでいなかった間に溜まったボーダーの仕事を片付けなきゃいけないこと、遠征についての報告書をまとめる為に出てくると伝えている。あいつらに、こんな血生臭い指令は似合わないからな。…出来ることなら、今後も関わって欲しくないまである。既にA級2位の位置にいる時点で、いつかは通る道だろうけれど。
三輪の案内を元に太刀川さん達が
城戸さんからの
黒トリガーの単独撃破と強奪、そして
急ぎ過ぎるのもあれかなーと、走るのをやめ警戒区域内を歩く。しばらく歩いていると、遠くから戦闘音が響いてきた。
ゲートが開いたわけでもなさそうだし、方向的にも、どうやら太刀川さん達が先に戦闘をはじめたようだ。
問題は…件の
こんな夜遅い時間に、警戒区域内を警戒もせず歩いている時点で、自分から黒だと言っているようなものである。とても分かりやすくてありがたい。
こいつが、俺の
「…件の
「そういうあんたは、ヒキガヤって人で合ってる?」
白い髪の少年…いや、
ニヤニヤしながら暗躍する、元総合ランキング2位、現S級『風刃』の使い手が。
「迅さんから聞いたんだな」
「ご名答」
「そうか…俺はA級2位、雪ノ下隊の比企谷八幡だ。お前は名前なんて言うんだ?」
「おれは空閑遊真。あんたとは初めましてだし、詳しい事情は知らないよ。けど、おれの黒トリガーを狙うって言うなら…あんたは倒さないといけない敵だ。
迅さんのサイドエフェクトを考えれば、俺が空閑と1対1で向き合っているこの状態が、未来を見た上で一番マシな選択肢なのだろう。いつも、何を考えてるか分からない不気味さがあるが…旧ボーダー時代から、市民の平和を守る為に1人で未来を背負いこんで暗躍していることを知っているから。
…それにしては、太刀川さん達を相手に、いくら黒トリガーである『風刃』を使用したとしても、あの人数差で勝てるのかは甚だ疑問であるのだが。いや、今は目の前の近界民への対処だ。感情を鎮め、『強化神経』サイドエフェクトを操作し、4年前の自分の不甲斐なさ、無力さへとダイブしていく―――
話は変わるが、遠征から帰還して玉狛支部を目指すまでの短い準備時間の間で、次回の正式入隊日に入隊予定の留美と俺は少し話してきた。
なんで留美がもうボーダーにいるのかって?今は仮入隊をしている関係で、メキメキと実力をつけながらトリガーの使い方、正隊員の仕事を学んでいるからだ。留美の母親とは、仮入隊時に手続きするタイミングでお会いしたが、娘の楽しそうな笑顔が増えたことを喜んでいるようだった。特にボーダーに対しての拒否感はない感じだったし、勧誘した側としては一安心である。
留美のサイドエフェクトは、『超・第六感』と認定された。ボーダーの基準に合わせれば、ランクSの『超感覚』であり破格の力である。迅さんの『未来予知』と同じだし。
ちなみに俺の『強化神経』と由比ヶ浜の『感情識別体質』はランクBの『特殊体質』に分類される。他ではB級2位の影浦隊隊長である、カゲさんの『感情受信体質』も同じランクBだ。
強化とついているから、てっきり風間隊の攻撃手である菊地原と同じランクCの強化五感だと思っていたし、ついでに言えば最初の頃はランクCだったはずなのに…知らんうちにランクが上がってた。なんでだろうね?
第六感とは、①物事の本質を直観的につかむこと、②合理的な方法を使用せずに本能的に知る、といった意味合いで使われる単語だ。知り合いで留美が希望したこともあり、俺も一緒に『超・第六感』のサイドエフェクトについて詳細を聞いたが…要は留美が、聖闘士候補生たちが修行を重ねて、聖闘士になる為に必要である、
名前、せっかくなら
…そんな留美がサイドエフェクトから感じ取ったのは、白髪の少年と出会った後に俺がとる選択によって、今後の未来が変わる気がするとのことだった。迅さんの予知が聞けないなら、留美の直観を聞いてみようというわけだったのだが。
…城戸さんのこと、本部のこと、小町のこと、雪ノ下達のこと、迅さんのこと、玉狛支部のこと、空閑を名乗る目の前の近界民のこと…そして、俺自身のこと。
全てを踏まえた上で―――――俺の選択は。
「…トリガー、
…『強化神経』出力最大、
「さてさて、こっちで初めてのピンチってやつだな」
『迅の予知がついているとしても…笑顔でピンチとは何を言っている、遊真』
「こっちも最初から全開だ。トリガー、
***
「…時間はあったみたいなのに、ボーダーのトリガーについては殆ど学習してなかったようだな。ほんと助かった。最初から対策なんてとられていたら、今回は仕事としてだいぶブラック…いや別に今でも相当ブラックか。黒トリガー相手にただのノーマルトリガーで相手してるわけだしな。お互いフェアに行こうぜ」
ブラックと黒トリガーをかけたみたいになったな…うん、面白くないダジャレだ。
「っ!…あんた、面白いウソつくね」
「嘘?嘘っていう嘘でもないけどな。大体は察してるんだろ?」
『遊真、分かっていると思うが』
「ああ。初撃から攻撃するたびに、返ってくる反撃がどんどん正確になってる。これは、元から
『どうやらボーダーに所属する隊員達は、お互いの戦闘記録を見返すことができる…もしくは、それを伝える手段があるのだろう。そう仮定すれば、初対面である遊真の動きをヒキガヤが知っている理由に辻褄が合う』
空閑の横に浮かんでいる黒いトリオン兵は…なんだ?使い魔的な存在か?よく分からないが、壊せるなら壊したいところである。大体ああいうサポート役が生きていると、倒しても復活とか無理ゲーが始まる時だってあるのだ。ソースは国近先輩としたゲーム達。
バイパーの弾道を再度引き攻撃。さっきと同じように、空閑を囲い込むと見せかけて…
「…!?レプリカ!」
『…なるほど、迅や小南が言うだけあるようだ』
バイパーを空閑ではなく、レプリカと呼ばれているトリオン兵に集中させるが…『
あの空閑の声掛けから察するに、トリオン兵自身で発生させた
だが黒トリガー相手に、みすみす強化する気満々な合成弾作成の瞬間をみせるわけにはいかない。確実に妨害される上に、今回、俺にオペレーターはついていないのでサポートが見込めないのだ。
忍田本部長が、黒トリガーを強奪する強硬策に反対の立場である時点で、本部オペレーターの援護は元々期待できなかった。城戸さんの直属である、三輪隊オペレーターの月見さんが、太刀川さん達側全員の支援をしているが、俺の方まで気を配ってもらうのは流石に気が引けたので、放置してもらっていいと伝えている。
元々、雪ノ下隊で活動している時は小町がオペをしてくれるが、ランク戦以外では、俺が危険な目に合うとわかってる時、それを避けるようにオペレーションしてくる。そう考えたらやっぱゆりさんがオペレーターとしては一番だな。危険な目に合うのを気にせずに使い倒してくれるから、戦いやすいのだ。わざと危険な目に合わせるなんてことはしないし、ちゃんとこっちの意見を伝えた上で大体は尊重してくれるし。…まあ、そんなこと口にした日には、レイジさんと戦争になりそうだが。草壁?歳下にいいように使われてるの犯罪者みたいって言われてから、オペを受けないように頑張ってるぞ。たまに捕まって文句言われるけど。
今回、俺が装備しているトリガーセットはメインにバイパー、ハウンド、シールド、スコーピオン(改)。サブにバイパー、アステロイド、シールド、スコーピオンである。元から隠れる気はなかったので、バッグワームを外している。
しかし、『強化神経』で反応速度が普段と段違いに上昇しているからこそ、空閑の攻撃も受けずに躱せているが…様子見をされてる今で五分だから、勝ち目の薄いことこの上ない。今回ばかりは恨むぜ城戸さん…!まあ、そんな依頼受けたの俺なんだけど。
バイパーとアステロイドを差し向けるが、慣れてきたのか躱されることが増えてきている。戦闘センスずば抜けすぎだろうが。…いや、戦闘経験の差か。相手の方が熟練の戦士感が出てるもんね。
こういう時、横から由比ヶ浜が
「レプリカ!」
『承知した』
「
空閑が超スピードで撥ねるように動き、俺の上をとる。その状態で射撃トリガーで攻撃…って!?火力おかしいだろ!なんだあのトリオン密度!!直撃知れば一発ベイルアウトだ。
「ちっ!もう使う羽目になったのかよ!」
「?」
『遊真!避けろ!』
「っ!
レプリカの声に合わせ、近くの建物の屋上から撥ね飛ぶようにその場から退避する空閑。
あのレプリカとか言うやつ、ほんとに厄介だな。空閑だけであれば、
スコーピオン(改)で爆散させ相殺、マンティスでこっそり空閑を爆散させようとしたが、レプリカの声掛けで仕留めきれなかった。
ただ、俺の努力は無駄にならなかったことが分かっただけ安心した。空閑とレプリカが避けなきゃいけない攻撃と認識してくれたってことだし。
『比企谷くん、聞こえる?』
「…ん、ああはい、聞こえてます。どうしました月見さん?」
お互いに一歩も引かず、向き合う形でどうやって空閑を詰ませるかを考えていると、月見さんから通信が入る。
こっちのことは気にしなくていいって言ったのに…。
『目的の黒トリガーと交戦中ね?こっちの状況も伝えとくわ。迅くんが『風刃』を起動して、菊地原くんがベイルアウト。歌川くんも一撃入って、小さくないダメージを受けてる。今は太刀川くんが主体となって戦闘を続けてるところだけど…攻めに回って、膠着状態を保っているだけで劣勢ね。出水くんと三輪くん、当真くんは組んで、嵐山隊と交戦中。そっちは有利に事を運んでいる…といった具合よ』
迅さんに加えて嵐山隊か…忍田本部長が手を回したんだろうな。迅さんに嵐山隊が加われば、太刀川さん達に勝てるって算段か…?未来視のサイドエフェクトから察するに、向こうは迅さん達が勝つだろうし…こっちもゆっくりはしてられないな。
使う気なかったけど仕方がない、奥の手を使わせてもらうとしよう。
「報告ありがとうございます。こっちも決着急ぎますね」
『私が言うことでもないと思うけれど…比企谷くん、無理しすぎては駄目よ。あなたのサイドエフェクトを
「それだけはやめてくださいごめんなさい!!無理しない範囲で、最大限に頑張らせていただきます!!」
『よろしい。またね、比企谷くん。……
月見さんからの通信が途絶える。ひぇ、怖すぎる…めっちゃ微笑んでる月見さんの顔浮かんだし…。なんかさ、俺の扱いをオペレーターの皆さん手慣れすぎてません?
ボーダー本部で定期的に行われている女子会や、比企谷八幡監視委員会の面々による俺の扱い方の指南、小町がオペレーター陣と仲が良いことから、俺にどう言えば効果的かを把握している人間が増えていることを、この時の俺はまだ知らない。
「ヒキガヤ先輩って実は面白い人?感情なんて、殆どないかと思ってたよ。ずっと無表情だったし」
「実はってなんだよ、全く面白くない根暗の間違いだ。…って、先輩?」
「うん。おれ玉狛支部でボーダーに入隊したからね。だから、先に入隊してるヒキガヤ先輩は先輩だろ?」
「…本部で年に3回行われる正規の入隊日に手続きしないと、正式な隊員としては認められないぞ。だから、俺に先輩をつけるのは間違ってる」
さっきの通信を聞いていたのか、空閑が声をかけてくる。
百面相がみられたか…近界民処理時に感情は邪魔だ。月見さんと話したくなかったのには、それも含まれているのだが…過ぎたことはしょうがない。
話しかけてくれたのは好都合だしな。おかげで、合成弾を作り出す時間が稼げた。
『遊真!くるぞ!』
「
後ろ手でこっそりと
「くっ!?」
『
分断成功。レプリカの方は咄嗟に
通常のスコーピオンを伸ばし、トリオン供給器官があるであろう胸部や頭を狙うが避けられる。ま、こっちの狙いはそんな見え見えの一撃じゃないけど。
スコーピオン(改)をモールクローで地面から伸ばしたスコーピオンに繋げて、空閑の足を爆散させる。
左足を失いながらも、
「(攻撃を繰り出す時のロス時間が殆どないに等しいな。連撃を絶えず行える頭の回転とそれを実行できるだけの身体がある。だけど
「っ!?」
…やっぱりこうなったか。
ボーダーの
……だからこそ、
「トリガー、
俺の殆ど誰にも見せたことのない
「トリガー、
雪ノ下隊のエンブレムが入っている、比企谷八幡の換装体を解除。そうしたことで
4年半前、俺の両親は最期の力を使い、その身を黒トリガーと化した。大規模侵攻してきた側の敵近界民に敗北し、どちらも強奪されてしまったが、砂と化した両親が元々使用していたトリガーはどちらも残されていたのだ。
親父のを俺が、お袋のを小町が受け継いだ。だが、雪ノ下達と隊を組むことになり、親父とお袋のトリガーはそのままにしておきたいという俺たちの想いを、城戸さんは許してくれた。
だから、これは俺達だけが行える換装体の入れ替え。やろうと思えば迅さんや天羽、目の前で驚いた顔をしている空閑も使えるんだろうが、敵がいない時にこっそりとしかやれないだろう。
それだけ、トリガーの持ち替えはリスクを伴う。少しでももたついた時には、隙を突かれて終いだ。みすみす敵に生身という弱点を晒すことにもなるしな。
俺がこんなに早く判断を下せるのも、身体を無駄なく動かせるのも、全てはサイドエフェクト『強化神経』のおかげだ。多分、
「グラスホッパー」
距離を詰め、咄嗟に『盾』を張ろうとした空閑より速く。
「旋空弧月」
親父から勝手に受け継いだトリガーで、俺は空閑を斬り裂いた。
***
『三輪くん、作戦終了よ。太刀川くんと風間さんがベイルアウトしたわ。奈良坂くんと章平くんも撤退中よ』
「っ!?」
「くああ~!負けたか~!」
比企谷八幡と空閑遊真の戦いが佳境を迎えている中。
黒トリガー強奪の為に動いていた、太刀川慶率いるボーダー本部最精鋭部隊が、迅悠一と嵐山隊合同チームに敗れた。
「つーか迅さん6対1で勝ったの!?太刀川さん達相手に!?黒トリガー半端ねーな!」
ベイルアウトしていない三輪と太刀川隊のボーダーNo.2射手、出水公平は攻撃しようとしていた手を止める。No.1狙撃手である当真がスコーピオンを足から生やした木虎に倒され、嵐山隊の射撃手、佐鳥にツインスナイプを決められたところであった。作戦終了が告げられたこともあり、ベイルアウトしていない隊員達が徐々に集まってくる。
「作戦完了だ。木虎、賢、良くやったな。充と綾辻もよくやってくれた」
嵐山隊隊長、嵐山准が隊員達を褒め称える。S級隊員である迅と合同であったとはいえ、A級1位の太刀川隊、A級3位の冬島隊、A級4位の風間隊、A級8位の三輪隊を相手に勝利した事実は、嵐山隊の強さを改めて裏付けるものである。
「ん?どうした三輪、どこかへ行くのか?」
ツインスナイプを決めたことを自慢する佐鳥に対し、適当に返事をしていた出水は、作戦終了と伝えられながらも、戦闘態勢を崩さない三輪を疑問に感じていた。
それは、嵐山隊も同じである。
「三輪、まだやるつもりか?」
「違う。嵐山さん、あんた達との戦いは俺達の負けだ。だが…件の黒トリガーを使う近界民は、今は比企谷と戦闘している」
「「「!?」」」
「綾辻!本当か?」
『レーダー上には…あっ、いました!そこから南西1Km先に、黒トリガーとノーマルトリガーの反応があります!…ただこれは…』
「どうかしたんですか、遥先輩』
『いや、あのね…黒トリガーと戦っているの、比企谷くんじゃない…初めて見るトリガー反応なんだよね』
「えっと…つまり?」
佐鳥が頭を掻きながらどういうことか考えるが、答えを出す前に三輪隊オペレーターの月見蓮が全員に対し伝えた。
『比企谷くんは今、雪ノ下隊としてのトリガーではなく、父親のトリガーを起動させてるのよ。三輪くん、加勢に行きたいところだとしても、今回は撤退命令が出ているわ。比企谷くんを心配するのは分かるけれど、本部への報告が先よ』
「…」ギリ
三輪秀次は、今でも戦闘を続けているであろう比企谷がいる方面を、見つめることしか出来なかった。
***
旋空弧月で、『盾』を張る前の空閑を完全に斬り裂いた。
トリオン換装体が解かれるように、白い煙のように見えるトリオンが大量に周囲に立ち込める。
いくら黒トリガーと言えど、完璧に旋空弧月を叩きこんだのだ。これで効いてません、って方が困ったものである。
弧月を右手に構えたまま、生身となったであろう空閑の姿を探す。
だが、次の俺の視界に飛び込んできた光景は。
「
どうなってる、生身ではトリオン体へ攻撃はできないはずだろ?…様々なことが頭を駆け巡るが、『強化神経』の力で最大限まで即反射した俺の身体は、空閑の攻撃を避ける為に咄嗟に動いてくれた。
左肩から下の左腕をぶち抜かれて持っていかれたが、漏れ出すトリオンを気にせずに空閑へ回し蹴りをし、倒れたところで眼前に弧月を向ける。
「どうなってんだよ。…なんで生身でトリオン体ぶち抜けるんですかね」
「そっちこそ、初めて見せた起死回生の一発だったのに。なんで避けれたのさ?」
弧月を向けられても、空閑は毅然とした態度を崩さない。…強いな、こいつは。4年半前の俺とは大違いだ。
見たところ、年齢は小町と同じかそれより下だろうか。…あの時の俺もこいつくらい落ち着いていれば、あの時に起きたことも変わっていたのだろうか。
例えば、ゲームのように、1つ前のセーブデータに戻って選択肢を選びなおしたとしたら、人生に変化は起りえるだろうか。
…答えは否である。俺は結局俺でしかなく、当時の俺が、俺が出せた最高の俺だったのだ。
だからこそ、当時の俺に責任を求めるのはまちがっている。その
「ふーっ…そうだな、冥途の土産に教えてやる。俺のサイドエフェクト『強化神経』は、人間に許された神経反射の領域を逸脱できるんだ。咄嗟に回避できたのは、そのサイドエフェクトのおかげってわけ」
『高い戦闘能力に、豊富なトリオン量、緻密なトリオン操作。相手を見極める観察眼と、戦闘中に思い付いた閃きを即座に実行するだけの肉体。その全てを支えているのは、サイドエフェクトというわけか』
「…背後をとるなんて、2対1は卑怯じゃないですかね?」
『失礼した。だが、トリガーを2種使っているヒキガヤを考えれば、元々2対2のようなものだろう』
「…それな」
いけね、トリオン兵と同じこと考えちゃった。てへっ。
空閑と戦って、こいつは悪い奴じゃないのはすぐに分かった。玉狛支部で入隊したということは、林藤支部長と迅さんがそうした方がいいからなんだろうしな。
ただ…今回は城戸司令の
「グラスホッパー」
『っ!しまった!』
どういうわけか分からないが、空閑は
空閑を空中へ飛ばし、旋空弧月でトドメを――――――
「ごめん、こなみ先輩。約束守れそうにないや…」
―――――刺せなかった。
***
「ってわけで…こちらがっ、小南の名前を出しただけで判断が鈍り、自分から剣を下ろして追撃を止めた、比企谷八幡君です!…って、あれ?誰もいない?」
「迅さん、今すぐその口閉じないと熊谷や他の痴漢撲滅委員会の隊員達と一緒に、城戸さんに迅さんの痴漢癖が酷いから処罰をしてくれって直訴しに行きますよ」
「やめろよ!?お前が言うと冗談に聞こえない!」
安心して欲しい。冗談じゃないし嘘でもない。実際に痴漢撲滅委員会は存在しているし、次のセクハラがあった時には訴える為に準備しているし、熊谷が。俺は毎回非番の時に連れていかれて会議に参加してるだけだし…。
さっきの戦闘の最後、トドメを刺そうとした俺に対し、空閑が呟いた言葉は俺を止めるだけの効力を持っていた。
弧月を鞘に戻し、空閑をグラスホッパーで手元に引き寄せ、地面に下ろした後に換装を解いた。
月見さんからの連絡で太刀川さん達が敗北したのは聞いていたし、どうせ自称・実力派エリートが姿を現すだろうからと。
実際、空閑と世間話をしていたら、迅さん現れたしな。その後、連れ立って玉狛支部へとやって来たわけである。
小南とは旧ボーダー時代からの付き合いであり、なんなら雪ノ下達よりも前からの知り合いになる。
旧ボーダーの人数が少なかったこともあって、俺達が話すようになるのに時間はかからなかった。
小さい頃から純粋無垢に育てられ、お嬢様学校に通っていることもあってか、小南はどんな嘘にも引っかかる。
嘘をつかれ過ぎて泣いていた小南を放っておけなかった俺は、小南に対して俺だけは嘘を生涯つかないと誓ってしまったのだ。指切りげんまんしたから八幡覚えてるよ!
そんな小南となんらかの約束をしたという空閑に対して、俺は剣を向けられなかった。
「いやーしっかし、本当に敗けちゃったよ。こなみ先輩が言ってたように強いね、ヒキガヤ先輩」
「…今回限りの勝利だ。『相手の攻撃を学習して自分のものにする』って聞いてたからな。ボーダーのトリガーを学習する前に戦わないと、こっちの手の内が丸見えで不利な状態から戦闘開始になるし。俺の初見殺しも全部次ぎこんでの勝利だ。まだ弱いよ、俺は」
『どうやら、ヒキガヤは理想が高いようだな。並みのトリガー使いであれば、ヒキガヤの敗北はないと考えられるが』
「俺の目的の相手は、最悪の場合だと黒トリガー2つ…3つか。を、持っているからな。まだまだだよ。…ただ、なんだ、褒められて悪い気はしない。…ありがとな」
『こちらこそ、遊真を殺さないでもらえて感謝する。私はレプリカ。遊真のお目付け役だ』
「改めて…比企谷八幡だ。よろしくなレプリカ」
空閑と一緒にいた黒い小型トリオン兵は、空閑の父、空閑有吾が造り出した多目的型トリオン兵なんだとか。空閑の黒トリガーの攻撃があそこまで多彩なのも、レプリカの補助あってのものだとか。
…黒トリガーといえば、近界民のトリガーと同じでバランスより特化した性能のものが多いから、やはり空閑の黒トリガーは破格の性能をしている。空閑がやる気なかったにしても、よく勝てたな俺…。
迅さんや空閑、レプリカと談笑していると、2階から疲れ切った顔の木崎さんが現われた。こっちに気づくや否や、俺の両肩を掴んでくる。痛いです…。
「比企谷…前のゆりさんとの食事会に免じて今回はいいが…もう少し小南に構ってやれ。じゃないと俺達の方が持たん」
「えーなになに唐突なんですけどー…あ、はい、すみません。もうちょいきます」
言いたいことは言ったと。あとは任せたと、木崎さんは支部を出ていく。何があったかは分からないが、相当小南に手を焼いたようだ。
木崎さんを見送ったところで、いつの間にか、迅さんと空閑、レプリカまで俺から距離をとっている。
……?指差してる?後ろ…?
「八幡…」
「うげっ、小南…」
いつの間にか俺の背後には、野生の小南が現れていた。
「もうっ!うげって何よ!!こっちは心配したんだからね!!」ポカポカ
―――玉狛支部での夜は、まだ終わらない。
思わず筆を進めているうちに空閑に勝ってしまいましたが、今後は勝てなくなるのでご容赦を。
迅の予知+空閑の好奇心が重なり、今回の結果となりましたが、もう一度やれば八幡はボコボコにされます。
三輪が心配している描写を入れましたが、大規模侵攻時に両親を失っていることもあり、ボーダー設立時の荒れていた時代を知っている身として、気持ちを同じくする同士であるが、三輪が心配になるレベルで自分を追い込む癖があることを危惧しています。
2026/4/10 改稿。
ようやくここまで改稿が終わった。
今日の夜からは、更新再開できそうです。
今回の比企谷八幡のトリガーセット
雪ノ下隊Ver
メイン:バイパー ハウンド シールド スコーピオン(改)
サブ:バイパー アステロイド シールド スコーピオン
親父Ver
メイン:弧月 旋空 シールド グラスホッパー
サブ:アステロイド(拳銃) メテオラ(拳銃) シールド バッグワーム
感想くれると嬉しいです。