やはり俺達のボーダーでの生活はまちがっている。   作:シェイド

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2026/3/31 改稿


雪ノ下隊③

 防衛任務を終えた俺は一度自室に戻り、始末報告書と次の防衛任務の日程確認をし、本部に提出。前回、雪ノ下達と話し合いをしたサイゼに向かっていた。

 防衛任務?二宮さんと加古さんが張り合ったせいで、俺もお金の為に近界民出てきたらぶっ殺しにいったから、中々酷い内容だったぞ。タイムアタックみたいになってた。

 近界民絶対許さないマンである三輪ですら困惑してたからな。喧嘩腰から、お互いに攻撃しなかっただけまだマシである。

 俺は三輪程強い憎悪はない。小町が1番だし。ただまぁ、あの黒トリガー野郎は別。あれは必ず俺の手で屠ると決めている。

 

 さっきまでの防衛任務を思いながら、今日も今日で私服の懐からマッカンを取り出し、飲み干す。くぅ~この甘さが脳に染み渡るんだよなぁ。

 サイゼに着き、今日の入隊日のことについて話を進める。

 

「で、どうだったんだ?」

 

 雪ノ下によると、訓練自体は問題ないらしい(雪ノ下はほぼほぼ一位で由比ヶ浜は中位ぐらいだったとか)。それに、ランク戦自体も雪ノ下と出水、ってやつが飛び抜けていたくらいで由比ヶ浜は勝ったり負けたりだったらしい。由比ヶ浜が当たり前なんだけど、雪ノ下がいるせいか劣ってるみたいに感じるな。それとなくフォローを小町に頼もう。

 一色は、射撃訓練でしかポイントが加算されないから、雪ノ下や由比ヶ浜よりもB級に上がるのがだいぶ遅くなる予定だ。その分、確実に的中率を上げていってほしいものだ。

 小町は中央オペレーターの仕事を学びながら少しずつ働き、俺たちがB級に上がってから、俺たちの隊のオペレーターに転向する予定である。

 

「それにしてもボーダーってすごいねー!銃だよ銃!撃つ時の感覚とか撃たれた時の感覚とかさ、なんかふわふわしててさー」

 

「それはどうなんですか…?」

 

「私は前に海外で剣術をやっていたからか、あまり違和感はなかったわね。あとは慣れるまで使いこなすだけだわ」

 

「さすがだなお前…一色はどうだったんだ?」

 

「えーっと、スナイパーって難しいですね!」

 

「おい、お前それ大丈夫なのか…?」

 

 一色については不安だが…B級に上がってからならどうとでもできるし、今は放置しておこう。

 また、由比ヶ浜がランク戦にハマり、全く勉強しなくなることを避ける為、ランク戦をする時は、必ず2人で一緒に行くというルールが雪ノ下により設けられた。由比ヶ浜は目に見えて勉強嫌だー!って顔をしていたが、すぐに雪ノ下に抱きつき百合百合していた。君たち仲良いよね。

 

 

***

 

 

 それから1ヶ月。

 全員がボーダーでの訓練を含めた生活に慣れ、雪ノ下がそろそろ4000が見える、とかいうところまできた。

 いや、雪ノ下ってランク戦あんまりしてないよね?この早さって、ほぼ全勝してないと無理なんだけど…。

 そんな俺は現在、雪ノ下のランク戦を観戦しにきたのである。

 

「それじゃあ、今から出水くんと戦ってくるわ」

 

「あーあれね。お前とほぼ同じポイントくらいのやつか」

 

「ええ。彼、バイパーを使いこなすのが上手いのよ。正直、勝ちきれるかどうか微妙だわ」

 

「…お前、本当に雪ノ下か?」

 

「…どういう意味かしら」

 

「いや、だってお前なら『絶対勝つわ』とか言うだろうが」

 

「その裏声で言った部分は、私のモノマネかしら?気持ち悪いから今度からはやめてちょうだい」

 

「へいへい」

 

 じゃあ行くわ。という雪ノ下を見送り、俺はC級隊員達の戦いを観戦する。

 うーん、センスを感じる奴はいねえな…ブースに映し出されている映像の隅で、由比ヶ浜が地味に相手を笑顔で蜂の巣にしているところは見なかったことにしよう。うん、俺は何も見てない。バトルジャンキーになりそうだよあの子…。

 

「おっ」

 

「きたきた!出水と雪ノ下さんの対決」

 

「雪ノ下様~!頑張って~!!」

 

 周りにいた、恐らくC級隊員であろう人達が騒ぎ始める。どうやら、雪ノ下と出水が戦い始めたらしい。

 てか様付けって…。雪ノ下の佇まいと訓練結果からみると、慕われてもおかしくないけどさ…奉仕部の活動を通して、随分とまあトゲの部分が減ったように見えるし。

 

 訓練生同士のランク戦は、転送後ほぼ真正面に立たされて、即戦闘開始となる。

 雪ノ下の前に立つ男が出水か。ちっ、金髪イケメン野郎かよ、リア充は敵だ!B級に上がってきたらフルボッコにしてやろ。

 ところで、訓練生に支給されているトリガーには、1つしかトリガーを入れることができず、また緊急回避機能もついていない。

 その為、C級は訓練時以外のトリガーの使用は禁止されており、破れば記憶消去の除隊処分だ。記憶消去とか怖すぎるだろ。

 

 俺が別のことを考えているうちに、既に闘いが始まっていた。

 出水がバイパーで雪ノ下を狙うが、雪ノ下は民家の影に隠れてバイパーをやり過ごす。

 まぁ、正直そうするしか()がないからな。訓練生用のトリガーにシールドはない。中距離から放つことができる銃型、射型トリガーは圧倒的に有利なのだ。

 出水がバイパーで雪ノ下を狙い続け、また雪ノ下はやり過ごす為に民家から民家へと隠れながら移動する。

 隠れるなんて雪ノ下らしくないと思ったが、こればっかりは仕方がない。が、次の瞬間、雪ノ下が出水の真正面に飛び出した。

 

 通常であれば、隠れてなんとか斬りつけられる範囲まで忍び寄り、奇襲するのがC級では当たり前だ。というかそれくらいしか最初は出来ないんじゃないか?

 しかし、そこは安定の雪ノ下。真正面から正々堂々と勝負するようだ。

 あいつらしいと言ってしまえばそれまでだが、さすがにこればっかりは無理があるのではないだろうか。

 見ると、出水が雪ノ下に向け3×3×3の27分割のバイパーを放った。

 軌道が上手い。どの進行にも満遍なく散らしており、躱しにくい…というか、動けるとこなくね?

 

 飛んでいったバイパーは、もちろんのこと雪ノ下に当た――――らなかった。

 バイパーの変化を見切ったのか、雪ノ下が左前方に駆け、バイパーを全てかわしきり出水を弧月で斬り裂いた。

 

「…やっぱ雪ノ下は化け物だったな」

 

 そんな感想しか出なかった。ほんと、何やらせても天才かよ。雪ノ下さん(姉)が、妹は何でもできるからつまんないって言ってたことに、今更ながら実感した。

 

 

***

 

 

「5ー5で引き分けね。次こそは勝ち越して見せるわ」

 

「いや、C級トリガーで引き分けとか化け物だろお前」

 

 あの後は、互いに一勝を続け、10本勝負はなんと引き分けに終わった。

 出水も頭が良いのか、雪ノ下の動きを読んで行く先々に弾を放ち、2戦に1回は雪ノ下を蜂の巣にしていた。奴もなかなかに鬼畜である。

 雪ノ下が躱して斬り捨てるか、出水が予測的中させて蜂の巣にするか。その勝負だった。

 この2人は、今でもう既にB級中位くらいの力はあるだろう。トリガーセットを組み上げれば、A級レベルの使い手になるかもしれない。

 

 対戦が終わり、俺の方に来た雪ノ下だが、出水の方は太刀川さんに話しかけられていた。

 あの感じは絶対に隊を組む気だろ。早く組んで先にA級隊上がってくれないかなぁ。B級で同じシーズンを過ごすのだけは、ちょっと勘弁してもらいたいところだ。

 

「そういや雪ノ下、由比ヶ浜は今ポイントいくつなんだ?」

 

「前見たときは2700くらいだったはずよ。私が10本勝負している間も闘っていたのなら今頃2800は行ってるんじゃないかしら?」

 

 なかなか由比ヶ浜も素質があるということか。

 最初の頃、射手としてアステロイドを使っていたが思うように勝つことができず、放つのが苦手だと話していた。楽しくないとの話から、同じ弾丸トリガーを使用する銃手へと転向した。

 それからというもの、アステロイドを撃っては民家を楯に敵の背後に回ったり、ジャンプして屋根の上から銃を撃ったと思えば、民家を壊して姿を隠し、至近距離から蜂の巣にするとかいうエグい戦法を使いこなすようになっていた。

 …何故だろうか。なんだか、由比ヶ浜が遠くに行ってしまったかのような、そんな気持ちになってしまっている。

 

「ヒッキー、変なこと考えてる?」

 

「うおっ!なんだ由比ヶ浜、顔は笑顔なのに目が笑ってないぞ」

 

 いつのまにか対戦ブースから出ていたのか、件の由比ヶ浜が後ろにいた。

 

「由比ヶ浜さん、ポイントは今いくつなのかしら?」

 

「えーっとねゆきのん、さっき3800の人と10本勝負して9本勝ったからか3367になったよ!」

 

「……!」

 

 あーっと、雪ノ下の目が静かに燃えている。これはあれだ、負けず嫌いが発動したな。

 今の雪ノ下のポイントは、さっき見せてもらったら3281。前まで雪ノ下が上だったらしいから、ガハマさん今日めっちゃランク戦したんだね。見た目運動できなさそうな奴が、実は銃を撃ちまくる狂気のマシーンと化しているなんて誰が思うんだろ。初見でガハマさんと当たったら、俺も負けるかもしれない。もちろんC級トリガーでなら、の話だが。

 結局、負けず嫌いが発動した雪ノ下がブースへ戻っていき、由比ヶ浜もそれについていった為、手持ち無沙汰となった俺は、隊室――現在の自室に帰ることにした。

 俺と小町の自室は、A級隊室がある箇所と同じところにある。多分だが、俺たちが隊を組んでA級に上がったら、俺たちの部屋も含めての隊室になるのだろう。

 

 部屋に着き、入り口のロックを専用のパスキーを使って部屋に入る。

 中に入ってすぐに見えてくるのはキッチンで、近くには2人用のテーブルと椅子がある。

 その奥の扉を開ければ、風呂や洗面所に繋がり、キッチンの左側の扉からは小町の部屋に、右側の扉からは俺の部屋に行くことができる。

 小町は不在だった。多分だが、中央のオペレータールームにいるだろう。

 

 俺は自分の部屋に入り、トリオン体の換装を解いて動きやすいスポーツ着へ着替える。着替え終わったら、部屋のルームランナーの電源を入れる。

 トリオン体であれば体力も上限がなく、日常での身体能力を軽々と上回る身体能力を使うことができるが、そこには現実での体の使い方がかなり関わってくる。

 トリオン体でできる動きは、あくまでも現実での体の動きの延長戦だ。トリオン体でより体を動かし、十全に機動力を上げるためには、生身でのトレーニングが欠かせないのである。

 

「はぁ、はぁ…」

 

 走り続けていれば汗が滴り、もちろん疲労が溜まってくる。

 こんな時、俺は自らに言い聞かせるようにしている。

 

 

 思い出せ―――近界民に目の前で追い詰められ、黒トリガー化した両親の姿を。

 

 思い出せ―――誰の力が足りないせいで、両親があんなことになったのか。

 

 思い出せ―――誰が、小町を悲しませるようなことをしたのかを。

 

 強く思え―――お前は弱い、弱いなら強くなるしかないんだ。

 

 強く思え―――必ず両親を取り戻すと、奴らに復讐すると。

 

 誓え―――たとえ自分の身がどうなろうと、小町だけは必ず助けると。他のお世話になった隊員達や、俺達の為にボーダーに入隊を決めてくれた雪ノ下に由比ヶ浜、一色だけは守り切ると。

 

 誓え―――もうこれ以上、自分自身を失望させないと。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ!」

 

 まだ、まだだ…もっと、もっと負荷を……!強くなるんだ、俺は!!

 

「……お兄ちゃん」

 

 

***

 

 

 そして、さらに3ヶ月後。

 

「では、本日6月24日をもって、B級10位、雪ノ下隊の結成を認定する」

 

 俺たちは、B級部隊を結成した。

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