やはり俺達のボーダーでの生活はまちがっている。 作:シェイド
B級に上がった俺たちは、早速割り当てられた隊室を改造していくと同時に、ランク戦に参加しA級への昇格試験を受ける為、トレーニングルームで連携の確認を行おうとしていた。
「第一目標であったB級部隊を組む、ということは達成したのだけれど…今の私達では、悔しいけれど現在のB級部隊に必ず勝てるとは言えないわね。勝ってA級部隊に上がる為にも、今シーズンのB級ランク戦は見送ってもいいかしら?」
隊長となった雪ノ下が、俺たち全員へ向けて提案してくる。
これは前々から話し合っていたことだが、B級に上がったばっかりの俺たちでは、まだ個人個人の熟練度やチームとしての戦術、試合のスタイルなどが決まっていない為、早速とばかりにランク戦に参入したところで、勝ち上がれはしないだろう。
負けることで学ぶことがランク戦の意義ではあるが、チームとしてのスタンスや動き方が決まってない状態でランク戦をやっても意味がないとの判断だ。
ちなみに隊長が雪ノ下になった理由だが、大前提として、雪ノ下はなんでもこなせる天才である。その中でも、同時に2つのことを行える並行処理能力も高い。
部隊の中での役割として最も重要とされているのは、隊としての動き方や味方への指示出し、方向性決めを行うリーダーと相手の隊員を倒して点を取るエースだ。
雪ノ下は、戦闘スキルもB級上がりたてとは思えないくらいに高く、味方への指示も出して戦える指揮官になれる人材である。俺も東さんに師事して学んでいる最中だが、まだ戦術で相手を動かす段階にはない。そしてトリガーを使用し始めた歴の長さもあり、戦闘力としては俺の方が上。
そういう
リーダーがエースを兼任するのはそいつに負担がかかりすぎる。いくら雪ノ下であろうと、例えばだが太刀川さんの相手をしながら俺や由比ヶ浜に指示を出すのはかなり、いや、とてつもなく厳しいだろう。というか現時点では絶対に無理だ。
2ヶ月前、雪ノ下がB級に上がったばかりの頃だったか。正規隊員のトリガーセットを組み、現個人総合1位である太刀川さんに10本勝負を挑んだ。
結果は1ー9。すぐに1本取れたことにはかなりの衝撃を受けたが、雪ノ下自身は「次は必ず勝ってみせるわ」と相変わらずの負けず嫌いを発動させており、かなり熱心にトリガー開発や改良にも取り組み、ランク戦の頻度も増やしている。
が、最新の戦闘結果も1ー9。剣の達人との差は大きい。
単純な話、雪ノ下の剣が太刀川さんと相性が悪いということもあるのだろう。あの人の攻撃力どんどん上がってきてるし…やはり、まだまだルーキーから抜け出した動きの雪ノ下では、太刀川さんには張り合えないのだ。
俺の方はここ最近、3ー7とか4ー6とかが多い。スコーピオンを愛用し出してからは張り合えることが増えてきているが…迅さんやら風間さんやらがスコーピオンを使ってガンガン太刀川さんと戦う所為で、俺の動きを初見で見ても「それは風間さんとの戦いで見たぜ!」とか言われて対応されるのシャレならん。オリジナルティを出さなければ…。
孤月だけだったら1ー9だったけど。雪ノ下と同じだね、もう追いつかれのかよ。早過ぎィ!
以上、このような理由から、雪ノ下が隊長をした方がいいと全員一致で決まり、雪ノ下隊を結成した。
…俺の目が近界民侵攻で更に腐りが増し、隊としての顔にするなら雪ノ下一択だったってわけじゃねえからな!…違うよね?ちょっとそこで顔を背けてる3人!
「いいんじゃないですかね?私としてはまだまだ練習足りてませんし、実戦で動く隊員を狙撃できる自信がないです」
「うん、ゆきのんがそう言うならそうした方がいいよ!」
「小町も雪乃さんに従いますよ~!」
一色の奴が珍しく素直である。一色の狙撃スキル自体に関してはそこまで悪くはないが、現時点でトップレベルではない。こればっかりは、技術や経験としてコツコツと積み上げていく他ないだろう。東さんからは、基礎をしっかりとこなせる子だとお墨付きが出ている。真剣に取り組んでいるようで関心してしまったのは記憶に新しい。
由比ヶ浜と小町は自分でちゃんと考えてないだろ。そんなだとすぐに他所の隊にアホの子ってことがバレるぞ。
「ありがとう。では目標として次のチームランク戦シーズンでの全勝。そのままの勢いでA級部隊昇格、というところかしら。では早速……」
B級部隊のチームランク戦は年に2シーズンあり、1シーズンごとに上位2チームがA級部隊への挑戦資格を得る仕組みである。現在のB級部隊はうちを合わせて10チーム。このうちの1位と2位だけがA級への挑戦権を得られるのだ。
早速雪ノ下先導の元、チームとしての練習がスタートした。
相手部隊からしてみれば、俺や雪ノ下は早めに人数をかけて潰しておきたいはずだ。俺は旧ボーダー時代から所属していることに加え、最初期の総合ランキング1位で、隊務規定違反でポイントを引かれたものの、攻撃手4位に射手3位、個人総合7位の為必ずマークされるだろう。雪ノ下も今期の新人王争いを出水とし続け、その称号を得た大型ルーキーである。
その為、俺や雪ノ下を囮にして由比ヶ浜がバッグワームでの奇襲をする戦法や俺の動きで相手を釣り、一色の狙撃で仕留める戦法。俺と雪ノ下のコンビネーション、俺と由比ヶ浜のコンビネーション、雪ノ下と由比ヶ浜のコンビネーションと、考えつく戦法をひとまず一度行い、実戦でも使えそうなレベルのものを何度も繰り返し練習する。
「……なぁ」
「ん?どうしたのヒッキー?」
そして、この訓練を始めてわかったことが1つあった。
「俺、人と合わせるの苦手だわ」
「知ってるわよそんなこと」
「まぁ、ヒッキーだしね」
「まぁ、先輩だし」
「まぁ、お兄ちゃんだしね」
「お前ら仲良いな!」
来る日も来る日もチームとしての練習をし、結果として、俺は単独行動を。雪ノ下と由比ヶ浜が転送位置によるものの、基本は合流してから攻める。一色が全体の援護、という形に落ち着いた。
一色が自分の狙撃スキルが不安だと伝えてきたので、東さんへ弟子入りをお願いしにいき、狙撃について更に深く学ぶことにした。俺も新しく出来たライトニングについて、アドバイスを貰っている。
一色が根気よく練習したおかげか、チームとしての練度がさらに高まった。
ずっとB級個人だった俺が隊を組んだのに、B級ランク戦に参加しなかったせいか、痺れを切らした二宮さん達から声をかけてもらい、東隊との模擬戦も何度かした。最初はズタボロで負け続け、酷評をくらい続けていたし、一色なんかは「なんですかあの人は!」とかつらつらと二宮さんの悪口を言ったりしていたものだ。
最近の対戦ではようやくといった形で張り合える時もあり(なおステージ設定は俺達が決め、作戦を練ってからそれの対応だけを東さん達にしてもらうでようやく引き分けや1人差負けレベル)、手応えを感じるぐらいには、いいチームワークが出来るようになっていたと自負している。勝つ為に個人ランク戦や訓練に勤しみ、防衛任務をこなす日々。
そして数ヶ月後、B級ランク戦の新シーズンが始まろうとしていた。
***
『B級ランク戦開始まで、あと2分です。各隊転送』
「あ~緊張するよー!」
「始めてのランク戦なら誰だってそうだろ」
「そういう比企谷君の方は平気そうね?」
「まぁな。最近二宮さんにランク戦ガンガンやって…怖いものがなくなった」
「あー、あれ先輩が可哀想なくらいに穴だらけされてたやつですね」
「おいこら、思い出しちゃうからね?そういうお前だって、色々言ってたのバレてからボコボコにされてただろうが」
「あーあー聞こえないです、なんのことですかねー?」
「また告げ口するぞ」
「やっぱり先輩だったんですか!?あの後大変だったんですからね!?加古さんがいなかったらどうなってたやら…」
「そろそろ転送時間なので、指定の位置にしっかり立ってください!」
「「はーい」」
「ごめん、お米」
「お米言うな天然水!」
「何をぉ!?」
「もうっ、いろはちゃん!戦う相手は小町ちゃんじゃないよ!」
「全くあなたたちはね…」
…なんというか、俺達は俺達らしさのまま…それこそ奉仕部で活動していた、放課後の時間みたいだ。
こういう、かけがいのない時間を大切にする為に、終わらせない為に俺たちは勝ち上がっていくんだ。
『B級ランク戦昼の部、転送開始』