やはり俺達のボーダーでの生活はまちがっている。   作:シェイド

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2026/4/6改稿


依頼者:加古望

「失礼するわね」

 

 一般公募の新入隊員が入隊してきた数日後。

 A級6位、加古隊隊長の加古望さんが、うちの隊室を尋ねてきた。

 …要件は多分あれだろうな。

 

「加古さん、今日はどうされましたか?新作炒飯の試食でしたら、比企谷君が食べたがってましたので、連れて行ってもらって構わないですが…」

 

 おい待て、一体いつ俺が食べたいなんて言ったんだ。…いや言ったな。でもあれ絶品炒飯の方だぞ??

 どうやら、雪ノ下は俺を生贄にしたいようである。

 加古さんは、加古隊隊室の中でよく炒飯を作る。趣味らしい。しかもこれが絶品だから言うことはない…というわけではなく、稀におぞましい炒飯も出てくるのだ。

 何も知らない時に、雪ノ下隊全員でご馳走になった時は最高の炒飯で、雪ノ下が作り方を習うくらいには絶品ものだった。

 

 だから、それからしばらくしてまたお呼ばれし、雪ノ下と2人で食べに行ったのだが…どうしてブルーベリーとタルタルソース混ぜようとしたんだろうね。口の中でぶつかりあって、同席していた堤さんや太刀川さんと共に見事に死んだ事件があった。

 それからようやく、外れ炒飯なるものが存在することが分かり、堤さんと同じ時に食べると9割外れという事実も聞いた。

 …あの炒飯食べるなら、今の由比ヶ浜のクッキーを食べる方がよほどマシだと言えるくらいのものだ。や、昔のクッキーなら嫌なんだけどね。だって炭みたいなもんだし。

 

「あらそうなの?それも嬉しいんだけど…今日は依頼がしたくてきたのよ」

 

「依頼ですか?」

 

「そう、今回の新人隊員の中でトップの成績だった、黒江双葉ちゃんって子がいるでしょう?あの子をチームに加えようとして勧誘したんだけど…うまくいかなくって」

 

「それで、私たちは何を?」

 

「出来る限りでいいんだけど、加古隊に入ってもらえるように計らってもらいたいのよ。少し、奉仕部としての理念からは外れると思うけれど…駄目かしら?」

 

 奉仕部の理念。『魚を与えるのではなく魚の釣り方を教える』みたいな方針だったか。

 なら今回の依頼だと、『勧誘の仕方を教える』という感じだろうか。いや、勧誘の仕方とか分からねえよ。A級部隊の1つ、加古隊に入りませんか?コンセプトはK統一です。って新人に言って理解してもらえるわけがない。

 ちなみにKとは、名前の頭文字がか・き・く・け・この「K」から始まる人で部隊を組むといったものだ。なんでKにこだわってるのかは知らない。

 

「なるほど。彼女は、もう別の部隊に入るとか決めているんですか?」

 

「それはまだ、って言ってたわね。なんて言ってもC級だもの。ただ、もうそろそろ上がるんじゃないかしら」

 

「緑川には及ばないにしても、初回11秒は相当ですからね。…センスあるんだろうなぁ」

 

「一先ず、私達で黒江さんと接触してみます。加古さんは比企谷君連れていっていいので、炒飯でも食べさせてあげてください。結衣、いろはさん、小町さん、行くわよ」

 

「うん!」

 

「はいです!」

 

「了解です!」

 

「え、ちょ、待って。俺も奉仕部の一員…」

 

「比企谷君、隊室に行きましょうか。すでに堤君と太刀川君には来てもらってるのよね。今日はどんなものを作ろうかしら?」

 

「…はい」

 

 数十分後、加古隊隊室に3人の男の死体が転がっていた。

 どうしてキウイをすり潰したものに、ケチャップとタルタルソースを合わせたんだ…。途中、味変でかけられたのはデスソースだったし…なんでそれ出してきた…。

 

 

***

 

 

 なんとか復活した俺は、ランク戦のブースに向かう。

 そこには、緑川と見慣れない少女の姿があった。

 

「双葉、もうB級に上がったの?すごいね」

 

「駿はもうマスタークラスなんでしょ。早く追いつきたいもの」

 

「そう簡単には…あ、ハッチ先輩、ランク戦しに来たの?やろう!僕とやろうよ!」

 

 緑川が俺に気づき、それにつられて少女もこちらを見てくる。

 なるほどな、コイツが件の黒江双葉か。なんともうB級に上がったらしい。有望な隊員だし何より加古さんのコンセプトKが入っている。

 

「駿、この人は?」

 

「比企谷八幡先輩だよ。A級9位の雪ノ下隊の万能手で、個人ランキング6位だった人」

 

「だった人?」

 

「規定違反してな。10000ポイントのマイナスを食らったんだ」

 

 あれはイライラしたからな。

 ボーダーに所属する正規隊員は、ボーダーのホームページに名前が掲載される。

 たまたま中学が同じな奴らが、ボーダーの入隊試験を受けて落ちてからというもの、雪ノ下達に暴言を吐いていたのを聞いてしまって。ついカッとなり、スコーピオンを首筋に沿えて脅してしまった。

 それを生真面目に上層部に報告した結果、一時期の間の減給と個人ポイントの剥奪の処分をまた下され、今ではバイパーが1番ポイントが高くなっているというわけだ。

 …カゲさんのこと、なんも言えないからな俺は。ぶっちゃけ公になってない隊務規定違反で、大体のトリガーポイント減らされてるし。

 まあ、ポイントがあったって、近界民が怖れてくれるわけじゃないし。あくまで指標なのだ。

 

「ふーん…特徴的な目ですね」

 

「おっ、珍しい。ハッチ先輩の目のことを腐ってるって言わないの、双葉が初めてかも」

 

「腐ってるのは世界と近界民のせいだからな。あと仕事と仕事と仕事」

 

「仕事って3回も言ってる。嫌な先輩だな~」

 

「ねえ、この人って駿より強いの?」

 

「数日前にリベンジマッチ挑んだけど、20回戦って20回負けたよ」

 

「当たり前だ。いくら大型ルーキーと言われようと、センスがよかろうともすぐに負けるわけにはいかないんでな」

 

「戦闘スタイルが面倒なんだよハッチ先輩は。アタッカーのことをカモとしか思ってなさそう」

 

「そんなことはねえよ。太刀川さんとか風間さんとかカゲさんとか小南とか、関係ないとばかりにボコボコにしてくるぞ」

 

「比べてる対象がおかしいからね、それ。気づいて気づいて」

 

 さてと、緑川がなんか言ってるが放置するとして…黒江が加古さんの勧誘を断った理由が知りたいんだが、いきなり聞いたところでな…勧誘成功して入られても加古隊が強くなるから嫌なんだけどね。

 

「先輩、私と戦いませんか?」

 

「え、双葉本気?」

 

「興味があるんだもの。どんな戦闘をするのかどれくらい強いのか、どれくらい通用するのかを試したい」

 

 真剣な目で、闘う意思を宿した目を俺に向けてくる黒江双葉。

 なんだ、緑川と親しい時点で大体予想していたが、コイツも戦闘狂かよ。

 

「いいぞ。なんならスコーピオンかバイパー、メイン武器を選ばせてやってもいい」

 

「両方のスタイルは?」

 

「あるぞ」

 

「ならそれで」

 

「…分かったよ」

 

 B級に上がったばかりの新人を、大型ルーキーとはいえ本気スタイルでやるとかいじめに思われたりしない?大丈夫かな?

 ま、まぁ、なんとかなることを信じてやるか。

 

 

***

 

 

 転送された直後、一直線に俺の元へと駆けてくる黒江。

 …シールドは使えるよな。

 

「バイパー」

 

 先日の入隊式の日に見て、弧月を使うことは知っている。B級に上がったばかりとはいえ、緑川といたんだ。多分そこらの5000ポイント辺りを倒して、ある程度はシールドなんかの使い方も分かっているだろう。頼むから使ってね!

 結果として、黒江はシールドを使った。ある程度は防げていたが…

 

「あっ」

 

 時間差での、上と左右からの同時攻撃を防げずにベイルアウトしていった。

 …い、いや、黒江がしたいといったんだ。俺は悪くない…はずだ。

 

『先輩、もう1本お願いします』

 

「構わないが…大丈夫か?その、ポイントの方は」

 

『さっき減ったのが4ポイントぐらいなんで、あと20回はやらせてください』

 

「…分かった、やってやるよ」

 

 こうして、黒江との対戦は何回にも何十回にも、下手したら50を超えていたかもしれない。

 緑川曰く聞いたが、この時の対戦がブースの大画面に表示されていて、俺が大型ルーキーにお灸を据えているとひそひそ言われていたんだとか。

 俺のイメージが…いや、元から悪かったからいいか。

 闘うごとに強くなっていく黒江。緑川と同じようなものを感じるな。成長速度が速い。地味に旋空を放てるぐらいに、余裕ができてきている。

 

「バイパー」

 

「もう慣れました!!」

 

 慣れたって…全方向から時間差で撃ってるのに躱してやがる。あ、斬った。やばっ。

 そうして、だんだんと近づいてくるようになった黒江だが、本人からはどっちも合わせたスタイルが良いと言われているからな。

 

「ほいっ」

 

「効きません!えっ」

 

 あー爆発しちゃった。

 この時も緑川によれば、『最低』『新人相手にあれは…』『お兄ちゃんポイント低すぎ!マイナス!』とかいろいろ言われていたらしい。最後のは間違いなく小町だな。

 しかし、黒江は想像を絶する程の戦闘狂だ。スコーピオン(改)まで食らってもう10本て…やる気に満ち溢れすぎだろ。

 

 現在の俺の戦闘スタイルについて説明しておくと、近距離スコーピオンの二刀流感を出しながら、中距離では両攻撃バイパー。トリガーセットを変えて狙撃と、なんでもかんでも手を出している。

 一部では、2人目の完璧万能手でもあることからか、半端な木崎と呼ばれているらしい。

 ま、筋肉ないからね、俺。でも本好きだから本崎とかもう誰?ってなるレベルの呼び方はやめていただきたい。

 

 雪ノ下隊として戦う時は、バイパーを主体にしているものの、スコーピオンの方が戦い慣れている…というより純粋に強い。バイパーを時間差で放ち先回りさせ、バッグワームで隠れながら接敵し、バイパーを対処している敵にスコーピオン(改)を投げるのが基本スタイル。うん、改めて考えるとえげつないな。

 アタッカーの間合いに入っておきながら、旋空を撃たせる隙を作らせなければほぼ勝ちだ。どうしても剣を使うアタッカー達は、スコーピオンを剣で受けてしまう癖がついていることが多いので、爆散してくれるというわけなのだ。ただし生駒さんは除く。射程長すぎて、射撃用トリガーで追い詰める方がまだ理に適ってるからな。

 緑川みたく、スコーピオン使い相手であれば基本負けない。ただし迅さんと風間さんは除く。あの人達は同じカテゴリーに入れていい人じゃない。

 カメレオンなしでもトップレベルなのに、姿消されたら詰むだろ。スコーピオン(改)を開発したのは、風間さんに勝ち越す為だけに作ったまであるのだから。

 

 結局、130戦して130勝0敗。対戦ブースから出てきた黒江は、ぽかぽかと俺を叩きながら泣いていたが、悔しかったんだろう。

 C級で負けを知らず、B級に上がっても正隊員を相手に勝ち星を挙げていた。そんな状態で、よく知らない目の腐ってる男に意味わかんないことされて負け続けた。そりゃあ、悔しいに決まってるよな。

 

 …周囲の視線が痛かった為、泣き止んでもらえるように頭を撫でていたのだが、むしろロリコン疑惑をかけられてしまった。解せぬ。

 どっかの妹は『お兄ちゃんがジゴロの手口を!?どこであんな高等テクニックを!!』と興奮していたが知らん。中1相手にしてるのに、何を言ってんだって話だ。

 

「…ぐすっ、先輩。私、強くなりたいです。先輩に勝ちたいです」

 

「お前、思ったより負けず嫌いなのな」

 

 …あ、これ、ついでに加古隊への勧誘行けるかもな。

 

「なぁ、黒江はどこか所属する部隊とか決まってんのか?」

 

「いえ、初日に声をかけてもらえたんですけど、まだボーダーのこと詳しくなかったから断っちゃって…」

 

「それは多分あれだ、加古さんに誘われたんだろ?あの人A級部隊の隊長だから。…なぁ俺に勝ちたいか?」

 

「…はいっ!」

 

「なら加古隊に入ってもいいんじゃないか?俺はA級雪ノ下隊の一員だがら、次のシーズンで加古隊とも当たる。公式のランク戦で戦えるぞ。もちろん部隊同士でだけど」

 

「私、加古隊入ります!」

 

「入ってくれるの!ありがとう黒江ちゃん、いや双葉ちゃん!歓迎するわ!」

 

 うわ、加古さんいたのかよ。ってあれ…?何かを手に持ってますね?スマホ?それカメラのレンズこっちに向いてません?

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

「うんうん。これから一緒に頑張りましょ!」

 

「え、あの、加古さん…?そのスマホ、なんでこっちに向けているんです?」

 

「動画に撮ってるのよ、まあ、記念のようなものと思って!」

 

「「………え?」」

 

 嘘だろ…絶対これ出回るやつだ…。

 

 

***

 

 

 あの後俺の思った通り、ボーダー関係の様々なLINEグループで動画が拡散されていき、比企谷八幡はロリコンか?などの疑惑が浮上。揶揄われ、関係を聞かれ、更に上層部までも伝わって…説教されてしまった。

 必死に誤解だと訴えたのだが、噂になった時点でA級隊員としての自覚が足りないと言われ、今後このようなことはしないようにとまで言われてしまった。

 現隊員の中では断トツで多い隊務規定違反数を誇る俺だが、こればっかりは抗議したい。…すぐに城戸さんに睨まれて大人しくなるけど。

 当然、今回の動画は奉仕部内でも取り上げられ、雪ノ下裁判長に有罪判決を下されてしまう。しばらくの間は、部屋の掃除係を1人ですることになるのだった。

 

 対戦数が多かったと言えども、黒江とは明確な師匠、弟子の関係ではないが、会えば話すようになり、目が合ったらランク戦という間柄に落ち着いた。

 …そのうちA級の特権を生かして作成した、試作品トリガー『韋駄天』を開発した黒江に、俺は敗北してしまうのだが、勝利して目の前で喜びを爆発させた、ガッツポーズをしている黒江が可愛かったので別にいいかと思うのだった。

 

 …あれ?俺ってやっぱり、ロリコンだったのか?

 




…いつまで続くかな。リクエストとか募集するのはありかもしれない。
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