迷宮に狩りに優れた無慈悲な狩人が迷い込んでいるのは確実に間違っている 作:汰地宙
文章が全然出てこなかったので何度も原作を読み返しました。そして次の話で早速原作と若干、本当に若干ながら違う流れで書かなくてはいけないことがすでに確定していて悩ましいです。
そんな心境での投稿の3話、どうぞ。
オラリオ、西のメインストリートと北西のメインストリートの間の区画。その裏路地深くに潜っていった先に、その廃教会はひっそりと佇んでいる。
年月を感じさせる外観……と良く言うには寂れすぎている、人々から忘れ去られて久しい寂れた教会だ。外壁の一部が剥落し、正面玄関の上の女神像は、顔を半ば失っている。
傍から見れば、まさか誰かが住んでいるとは到底思えないだろう。だが屋内はそれと裏腹に―――という事もなく、外観からもわかる通りに半ば崩れていると言って差し支えない。天井にはかろうじて原形をとどめている祭壇へと陽光を注ぐ大穴が開き、まともに風雨を凌ぐことすら難しいだろう。
そんな誰も足を踏み入れそうにない教会の奥、祭壇の先にある薄暗い小部屋からさらに階段を下りた先の地下室。ひっそりと隠されたように存在するそこが、発足したての零細ファミリア、【ヘスティア・ファミリア】のホームであった。
「やぁやぁ! 君が新しい眷属になってくれる子だね!」
「……」
その地下室の入り口すぐ、狩人は喜色満面で己の周りをぴょこぴょこと跳ねまわる幼……少女の小さな頭を見下ろしていた。
狩人自身がそこそこの長身だという事を加味しても、その少女は実に小柄だ。そして胸元だけはその体躯とは裏腹に成熟していて、少女が跳ねる度に豊満な果実が派手に揺れて存在を主張していた。
隣では、ここまで案内してくれた少年―――ベル・クラネルが「やりましたね、神様!」と笑顔を見せながら、未だ狩人の周りを跳ね回る少女へと微笑ましいものを見るような目を向けている。
ギルド本部からこの廃教会までの道中、ベルから【ファミリア】についてあらまし聞いた。
曰く、千年も昔に地上に降り立った神々。
彼らは娯楽を求めて下界に降り、自分たちの持つ『
彼らは地上を楽しんで暮らし、一方で地上で暮らすに必要なもの―――即ち、金を稼いで暮らしている。とは言え、殆どの神々は自ら金を稼ぐことをしていない。ではどうしているかと言えば、神々の多くは下界の者たちを集めて、彼らに金銭の工面などを任せている。
無論、ただで神に従い、金銭を捧げ世話を焼く奇特な者などそう居ない。故に神々は引き換えとして、『
その『恩恵』は凄まじく、それを与えられた人間は常人を凌駕する力を手に入れる。それを得る事で『迷宮』に潜る事が許され、眷属たちの多くはその力を以て『迷宮』を探索し、
そうして形成される『派閥』こそが【ファミリア】であり、跳ね回って疲れたのだろう、狩人の目の前でぜいぜいと軽く息を切らしているこの幼女こそが、【ヘスティア・ファミリア】主神―――女神ヘスティア、らしい。
神、という言葉にはとんと縁のない狩人だが、人外の存在、人間に比べ高次の存在には多少関わりがある。
即ち、上位者。
智慧を得なければ目にすることすら出来ぬこともままある高次の存在。狩人にとっては彼のヤーナムの地にて見慣れた存在であり、或いは狩りの対象であった存在である。狩人はその全てを知るわけでは無いが、狩人の知る上位者の全ては、一様に不可解な者共だった。
故にベルの口から『神』という単語を聞いた際、どんな化け物が姿を見せるかと多少の覚悟をして地下室へと足を踏み入れた狩人だったが。
「ぜえ、は、はぁ……と、とにかくだ! 歓迎するよ、えーっと……」
「狩人さんです、神様」
「狩人くん!! ……あれ。ベル君、それは名前じゃないんじゃないかい?」
「あれ、本当ですね……?」
少年と微笑ましいやり取りをして首を傾げるその様子からは、不可解さ、悍ましさの欠片も感じられない。かと言って、信仰を集める対象らしい神々しさを振りまいているわけでも無い。その外見に反した妙に清廉な気配を感じること以外は、ただの美しい少女である。
一つ、緩く息を吐く。上位者の如き悍ましい存在と相見えることを期待していた訳ではないが、拍子抜けだった。とは言え、これより寝食共にすることになる相手がまともであることは、実に喜ばしい。
それに、純朴な少年ベルと、実に朗らかで賑やかな女神ヘスティアの様子は、狩人の胸に仄かに暖かな感情を宿らせる。久しく、少なくともヤーナムにて目覚めてからは感じていなかった感覚だが、不思議と実に心地が良い。
狩りの為に必要だから、と所属を決めた【ファミリア】だったが……成程、悪くない。
己でも気づかぬ内に、覆面の下に隠れた口元に微かな笑みが浮かぶ。
一先ずは自己紹介を済ませてしまおうか。先程から二人仲良くこちらをちらちらと窺っている。
その実に仲の宜しそうな様子に、ふ、と今度は明確に笑みの息をつきつつ、狩人はこの地下室を訪れて初めて口を開くのだった。
◆
自己紹介を済ませ、発足したての【ファミリア】らしい質素な夕飯を済ませた後。
狩人はコロッケに似た食べ物―――ジャガ丸くんなる、どうやらオラリオではおなじみらしい軽食を片手に、ベッドの脇に立っていた。
本日の夕食であり、神ヘスティアがバイト先で頂戴してきたものだという。主神自らがバイトに勤しみ夕食を確保してくるとは、何とも世知辛さを感じさせる。そして同時に、弱小【ファミリア】では神自らも働かねば生活もままならないという事を如実に示していた。
神々と言うのは、殆どが娯楽を好む奔放な性格だとベルから聞いた。神ヘスティアもまた気まぐれな神、娯楽のみを享受したい欲求は大きかろう。しかし彼女はそれを抑え、唯一の眷属たるベルの為に労働に勤しみ、本日の夕食までも持ち帰ってきている。
少なくはないが決して多くもないその
冷めてしまっているそれを暫し見つめ、一口頬張る。このような食事は初めてだが、悪くない。次は是非出来立てを食べたいものだ―――と、月並みな感想を抱きつつそれをあっという間に平らげて、狩人は視線をベッドに向けた。
視線の先には、上半身を晒したベルとその上に跨るヘスティアの姿がある。灯りに照らされる色素の薄いベルの背には、対照的な黒い文字群がびっしりと刻み込まれていた。
その文字群こそが、神々によって刻み込まれる『
見慣れない文字を興味深く観察する狩人へ、針を手にしたヘスティアがにやりと笑みを向ける。
「興味津々って感じだね。まぁこれから君にも刻むものだし、それも当然かあ」
「あぁ。中々に、興味深い」
素直な狩人の反応を受けて笑みを深めたヘスティアは、手にした針で自身の指先を刺す。ぷくり、丸く滲み出る赤い滴をベルの背へと滴り落とせば、それはベルの背中に水面の如き波紋を広げた。比喩抜きに、文字の刻まれた背が同心円状に波打つ。
「こうやって僕の血を使って、君たちの【
「……その、【
「あぁ、流石に知らないか。それはね……」
聞き慣れない単語に首を傾げる狩人に、ヘスティアがベルの背に視線を注いだまま説明してくれる。
【
下界の者たちには見る事も叶わない事象。神々はそこから有用な『経験』を掬い上げ、力へと変換することが出来る。それこそが、神々が下界の者たちに与える『恩恵』。
理解は容易かった。過去ヤーナムにて狩りの夜を駆ける中、狩りを通して得られる『血の遺志』。狩人はそれを幾度となく己の力と変え―――自らの
即ち【
まるで不可解な神秘に思えていた『
狩人に対して【
「はいっ、終わり! そういえばベルくん、今日死にかけたなんて言っていたけど、何があったか後で聞かせておくれよ?」
「あはは、わかりました……」
どうやら終わったらしい。ベルは身を起こしてもぞもぞと服を着直し、ヘスティアは用意していた紙へと何やら書き込んでいる。何を書き込んでいるのかと覗き込んでみるが、内容はやはり読めなかった。理解できたのは、ベルの背に刻まれていた文字とは別の文字だという事だけ。
これは狩り以前に難儀する事が多そうだと、狩人は眉を寄せる。
どう勉強したものかと思考の沼に沈みかけるが、用紙をベルに手渡したヘスティアに「次は君の番だぜ!」と声を掛けられ一旦思考を打ち切った。
「じゃ、君も服を脱いで横になってくれるかい?」
「承った」
指示されるままに帽子と覆面、そして服を手早く脱ぎ去る。狩人の顔や上半身が露わになる度、傍らのベルとヘスティアは好奇の視線を向けたり、ぎょっと瞠目したりと一々反応を見せた。視界の端に移る表情豊かな二人に微かに苦笑を零しつつ、先程のベルに倣ってベッドに体を横たえる。
うつ伏せになる狩人の腰の辺りにヘスティアが座り込み、再度指先に針を刺した。
「それじゃあ、今から君に『
「あぁ」
ヘスティアの言葉に酷く簡潔に答えながら、柄にもなく微かな緊張と期待を抱く。
新たな力、この異邦にて初めて目にする神秘を身に宿すことに、狩人の心は確かに揺れ動いていた。
狩人の背に赤い滴が落ちて吸い込まれる―――瞬間、ぞわり、と。
視界が揺れた。
酷い
「ん、どうしたんだい?」
「いや……何も、ない」
狩人の漏らした声を耳にし、手を止めて問いかけてくるヘスティアへ声を絞り出して返答する。
油断していた。幾ら狩人が
或いは、それ程までに神の血は段違いの『血質』を持つのか。……否、考えるまでもない。人智を超えた存在の、それも『恩恵』と言う神秘の御業の媒介となる血。ただの獣の血と比べるのも烏滸がましい程の質であることは当然の事だ。
調子を整えるべく、目を閉じ、深い呼吸を幾度か繰り返す。油断していて面食らいはした。だが意識していればこの程度、狩りを繰り返して尚血に酔う事の無かった狩人であれば耐えられる。
暫し地下室に狩人の深い呼吸音だけが響き、それが元通りの呼吸へと戻る頃には、酩酊感もすっかりと治まっていた。
最初は様子をうかがっていたヘスティアも、大丈夫だと判断したのだろう。手の動きを再開させると、先程ベルにそうしたように、狩人の背をなぞって『恩恵』を刻み込んでいく。再度の酩酊感に襲われることもなく、何か感覚的な変化を感じるわけでもなく、本当に刻まれたのだろうかと狩人が首を傾げているうちに、ヘスティアの手が狩人の背から離れた。
「よし、終わり! これで君にも『
「……つまりは?」
「君も正真正銘【ヘスティア・ファミリア】の、家族の一員になったという事さ!」
身を起こす狩人へ、両腕を広げたヘスティアは華が咲いたような笑みと共に告げる。
背へと意識を向けると、己の目では直接確認できないが、しかし確かに【ファミリア】の一員としての証明たる刻印の存在を感じられた。まるで脳裏に刻まれる
「ようこそ、【ヘスティア・ファミリア】へ!」
ヘスティアの歓迎の言葉が狩人の心をまた揺らす。
既に幾度となく感じた暖かな感情が湧きあがり、狩人はそれを不思議がるように、或いは逃すまいとするように、胸の前で拳を握った。
―――狩人、【ヘスティア・ファミリア】入団。
「で、これが君の【ステイタス】だよ狩人くん! すごいね君は、最初からスキルが発現して―――」
「……神ヘスティアよ、一つ良いだろうか」
「ん、なんだい? 何か気になることでも、」
「……読めない」
「え?」
「私はこの文字を、知らない」
「……あー……」
前途多難、である。
下記、狩人くんの【ステイタス】です。
◆
ヴェナンディ
Lv.1
力:I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
《魔法》
【秘儀】
・
・発動時、触媒を消費。
・使用する
《スキル》
【
・狩り道具を召喚可能。
・血液を浴びる事により追加【
【
・血液を取り込む事で体力回復可能。
・血に酔う。酔いの深度は『血質』に依存。
◆
ちょっとステイタスに関しては他作品様と被ってしまうことも怖いですし、自分で納得いっていないところもあるので適宜修正していきます。
良い文章を下さい……下さい……(交信)