迷宮に狩りに優れた無慈悲な狩人が迷い込んでいるのは確実に間違っている   作:汰地宙

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 連載期間(約2ヵ月)より休載期間(約1年半)の方が長いってマジ!?
 長いなんてもんじゃないじゃないですか! ヤダーーー!!!

 連載期間より休載期間の方が長いので実質初投稿です。



Hunt.4 平穏

 翌日。

 そこそこの早朝から狩人とベルは既に目覚め、廃教会の地下室を後にしてメインストリートを歩いていた。

 

 朝早くだからだろう、昨日歩いた時のような喧騒が噓のように街道は静寂に包まれ、軒を連ねる商店はみな鎧戸を下している。静かな街並みはあの夜のヤーナムを思い起こさせるが、あれほどの陰鬱な雰囲気はない。ちらほらと人影はあり、開店の準備に勤しむ者や、如何にも冒険者然とした装備を身に着けた一団の姿がある。

 日中や夜のあの活気に向けての、静かながら確かな人々の営みを感じる静寂だった。

 物珍し気に辺りを見回した後、狩人は隣を歩くベルに視線を向けた。

 

「済まないな、貴公。朝から面倒を掛ける」

 

「いえ、そんな! 冒険者として登録をしないと、迷宮には潜れませんから」

 

 本来ならばそのまま『迷宮』へと潜るところを、今日は狩人の冒険者―――先日の同業たちの、この都市に於ける呼称らしい―――としての登録をするべく、先日も訪れたギルド本部へと一旦寄る事になっていた。

 本来ならば彼に同伴してもらう必要も無いのだろうが、生憎狩人はこの都市で使われる文字、共通語(コイネー)の読み書きが出来ない。故に『ベルくんと一緒に行けばいいさ!』との神ヘスティアの言葉に従い、こうして共にギルド本部へと向かっているというわけだった。

 手間をかけさせることを一言詫びれば、ベルは大げさに胸の前で手を振り、人の好さそうな笑顔を見せた。彼の人の好さが出た仕草に釣られて狩人も僅かに口角を上げ――それこそマスク越しには表情の変化が窺えないほど――ギルドへの道を連れ立って歩く。

 

 途中、ベルが不意に立ち止まって挙動不審に辺りを見回したり、その後気が抜けたか腹を鳴らしたり……などと言うことを横目に見ながら歩いている内、無事にギルド本部へと到着する。

 先日も見た荘厳な万神殿(パンテオン)の入り口をくぐろうとすると、「おい!」と誰かに呼び止められる。

 声の方へ顔を向けてみれば、見覚えのある男性職員が険しい表情でずんずんと歩み寄ってきていた。

 

「お前昨日の……! 【ファミリア】に加入しなきゃ登録は……」

 

「あぁ。なので言われた通り、加入してきた」

 

「できな……あ? か、加入したって?」

 

 懲りずにまたやってきたと思っていたのだろう、予想外の狩人の言葉に目を丸くした職員は、狩人の隣に立つベルの姿を見ると心底驚いたという風に狩人とベルの間で何度も視線を往復させた。

 そして狩人の言い分が本当だと理解したのか、がしがしと頭を掻くと苦笑を見せる。

 

「あー、すまなかった。俺の早とちりだったな」

 

「いや、構わない。昨日は迷惑をかけた」

 

「あぁいいさ、知らなかったのは仕方ない。血塗れだったのはよろしくなかったけどな」

 

「以後、気を付けよう」

 

 元来人がいいのだろう、すぐに快活な笑顔を見せた男性職員は「頑張れよ」と一言言ってギルド内に戻っていった。その背中を見送り、今度こそギルド内へ入る。

 

 こっちです、と先導してくれるベルの後をついてロビーを抜けて向かった受付には、見目麗しい女性の職員の姿。何か書類を整理していた様子のその女性職員は、自分の方へ向かってくるベルの姿を認めると手を止めて笑みを見せ――そしてその後ろを歩く狩人に気づき、その美しい笑顔を罅割れさせた。

 呑気に『エイナさーん』なんて手を振りながら彼女の前に立ったベルは、そのエイナなる職員が硬直していることに気づいて笑顔を曇らせ、その視線の先にいる狩人と彼女との間で困惑気味に視線を行ったり来たりさせる。彼女の妙な様子の原因が自分であるなど当然察することのできない狩人もまた、微かに首を傾げた。

 

 ギルド受付に形成される奇妙な空間。

 事情を知らぬ冒険者や職員たちは怪訝な視線を向け、先日の血みどろの闖入者を目にしていた職員たちはエイナへと同情の視線を向ける。

 ようやく凍り付いた表情が解凍され始めたエイナの口角が、ひくり、と震えた。

 

 

 

 

 

 

「……それでは、明日またいらしてください」

 

「あぁ」

 

 先程の凍り付いた表情が嘘のように可憐な笑みを張り付けたエイナなる女性職員が、文字の書けない狩人の代わりにベルが代筆してくれた申込用紙を持って受付を離れる。……その際に一瞬、狩人の隣に立つベルをきっと睨みつけてから。

 先程の受付の彼女のように表情を凍り付かせたベルに視線を向けると、視線に気づいたベルが硬直した表情を苦笑へと変えて狩人を見上げた。

 

「じゃあ……どうしましょうか」

 

「そうだな……少なくとも私は明日までダンジョン、だったか。には潜れないようだが」

 

 そう、先程『明日また』と言われた通り、狩人が冒険者として登録されてダンジョンに潜る資格を得られるのは明日になるらしい。今日の所はダンジョンに潜り始める明日に向けての準備に終始することになるだろう。

 と言っても、既にある程度の敵とは交戦している以上、今更準備などすることがあるだろうか……そう考え、ふとあることを思い出す。

 

「突然ですまないが、ベル。貴公は既にダンジョンに潜っているんだったな?」

 

「あ、はい。僕はもう何度か……」

 

「であれば、これが何かは知っているか?」

 

 これ? と首を傾げるベルの前で狩人が虚空から取り出して見せたのは、大小様々な紫紺の石が詰まった小さな袋だった。

 この都市に登ってくるまでに狩人が倒した敵のうち、霧散せず形を残していた者の死体の中に必ず見られた奇妙な石。何に使えるかはわからないがきっと何かに使えるだろう、と半ば癖で気まぐれに取り出しては仕舞い込んでいた物である。

 何か妙なものを感じはするものの何に使えるのか皆目見当もつかない代物であったが、この都市に住まう彼であれば何かわかるだろう。そしてベルは狩人の期待通りこの石を知っていたようで、中身を見るなり『これ、魔石じゃないですか!』と声を上げる。

 

「魔石……なるほど、魔石と言うのか。それで、これは何に使える物なんだ?」

 

「えっと、この魔石が僕たち冒険者の主な収入源で……例えば、ああいう魔石灯なんかに加工されて使われるんです」

 

 そう言ってベルが指さす先には、まだ少し薄暗いギルド内を照らす照明器具がある。確かによくよく見てみれば、中で光を放っている物は袋の中に詰まった紫紺の石に似ていた。

 この石がなぜあのように光るかはわからないが、今後彼や自分、ひいては拠点で狩人たちの帰りを待つ神ヘスティアが飢えない為にも必ず集めなければならないことはよくわかった。まさかこんな妙な石が金になるとは……と、照明の光で微かに光るそれを眺める。

 それならば砕けてしまった分は少々勿体無かったな、と思いながらベルへ視線を戻すと、彼は心底驚いた様子で狩人を見ていた。

 

「どうした、貴公。随分と落ち着かない様子だが」

 

「あっ、いや、あの……その、何で狩人さんが魔石を持ってるんですか……!?」

 

「何か、まずかったか……む、いや……そうか」

 

 問いを返されて生まれた疑問は、先程受付で聞いた言葉を思い出すことですぐに氷解した。

 狩人がダンジョンに潜ることが出来るのは、先程も言われた通り『明日から』である。そしてこの魔石はダンジョンに潜ることでしか得られない物であり、即ちこれは狩人が本来所持しているはずのない代物であるということだ。

 そしてベルの様子から察するに、無断でダンジョンへ潜るというのはよろしくない……というより、有り得ない行為(・・・・・・・)であるといったところか。

 

 先日のうちに、冒険者というものがどんなものか、そしてダンジョンというのは何なのかはあらまし聞いた。

 冒険者は先日狩人も授かった【恩恵(ファルナ)】を得てダンジョンへ潜る。これはダンジョンが【恩恵】あって初めて足を踏み入れることの出来る魔窟であるという事。

 【恩恵】無き者が足を踏み入れたならば……その最後など敢えて言うまでも無い。ダンジョンとはそれだけの危険地帯だと。

 そして先日の時点でギルドに登録するどころが【ファミリア】にも属さず、【恩恵】など知りもしなかった狩人が潜って生きて帰ることなど出来ようはずもないのだ……普通なら。

 

 さてこれはどう誤魔化したものか。

 素直に伝える? 『気づけばダンジョンの中に居たので、敵を狩りながら登ってくる道すがら拾い集めていた』と? ……論外である。そんなことを言われたなら、まず気狂いではないかと疑われる。少なくとも狩人がベルの立場であったなら間違いなく疑う。

 かといって何も知らない狩人に、上手く誤魔化すような知恵があるわけもない。そもそも狩人は弁の立つ方では無いし。

 答えを待つベルの視線を受けながら、狩人は重々しく口を開く。

 

「……今は、聞かないで欲しい」

 

 ベルがぽかんと目を丸くしたのが、あまりにもいたたまれなかった。

 

 

 

 

 

 

 結局、あれで誤魔化せてしまった。

 狩人のあの苦しい答えを聞いた彼の答えは至極単純で、

 

『わかりました……なら今は聞きません。いつか聞かせてくださいね』

 

 その言葉と共にいつも通りの人の好さそうな笑顔を向けられては、狩人の感じた罪悪感は良心を押し潰さんばかりであった。

 

 とはいえ、誤魔化せたこと自体はいいことだ。あの後ベルに袋を渡し、周囲に怪しまれることなくあの魔石はすべて換金できた。これで証拠隠滅も完璧である。

 その臨時収入をもらってくれ、もらえませんの押し問答の末に何とかベルに渡してやると、最初は渋々ながら受け取った彼も『神様においしいものを買って帰れる……!』と最終的にはそれは嬉しそうに笑ってくれた。狩人の良心の痛みは加速した。

 

 今日の所はその臨時収入を持ってホームへと帰還、その後狩人に街を案内しがてら外食でもしよう、という運びとなり、狩人は足取り軽く先を行くベルを追い掛ける。

 外には人の姿が増え始めており、だんだんと先日目にした活気が街へと満ちていく。

 

 思えば、戦う事のない穏やかな日など記憶を失ってから初めてかもしれない。記憶を失ってから狩りを成し遂げるまでの狩人の記憶は、狩るべき獣の姿と血の匂いばかり。こんなごく普通の人々の営みなど、ついぞ目にしていなかった。

 だからこの『当たり前』が妙に落ち着かなく、それでいて気分は穏やかでもある。

 

 こうして平穏に包まれているのも、悪くはない。

 少し遠くにあるベルの背中を追い掛ける狩人の口元には、確かな笑みが浮かんでいた。




 何がつらいって、忙しさ半分他の事しまくってた半分で日々を過ごしている内に当然ながらダンまちほんへは進んでいて、15巻でベルくんが受付された際に「明日来てください」って言われてる描写を見つけちゃったせいでこの話で迷宮に潜れなかったってことなんですよね。そういうの一回見つけると気になって無視できない……できなくない?
 まぁちゃんと書いてないお前が悪いと笑ってやってください。

※追記
 ループしてました。お恥ずかしい。
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