SIX FEET UNDER   作:えまる

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プロローグ

 むかしむかし、地球にはニンゲンとモンスターという二つの種族がいました。

 

 ところがある時、二つの種族の間に戦争がおきました。

 

 そして長い戦いの末ニンゲンが勝利しました。

 

 ニンゲンは魔法の力でモンスターたちを地下に閉じこめました。

 

 それからさらに、長い時が流れ…………

 

 

 イビト山 20XX年

 

 それは「登ったものは二度と戻らない」と云われる伝説の山でした──。

 

 

 

 

 

「ちょっと、ちょっと来てフリスク! ここに穴があること、あなたは知ってた?」

 

 

 

 自分、フリスクは親友のミリカに呼ばれて、その穴を見た。四つんばいになってようやく入れるであろう、小さな穴が壁にぽっかり空いていた。

 

「へー……自分も知らなかったよ。この隠れ家にこんな穴があるなんてさ。今までソファの裏に隠れていたから見えなかったんだね」

 

 ミリカは興奮が止まらないのか、“すごい”、“びっくり”、“まさかこんな所に! ”と、返事を聞くことなく彼女は一人、自分自身との会話を続けた。

 

 いつもそこには、三人が座ることができる革製のボロのソファがあった。力の弱い自分たちにはソファを運ぶことができないので、ソファを動かしたことは一度もない。だから自分たちは穴の存在に気づかなかったようだ。しかしこの隠れ家は昨日の大雨で浸水したのか、ソファの位置がかなり動いていた。それは他の家具も同じでことで、すべて泥にまみれている。

 

 役に立たなくなった憐れな家具たちを見て、自分は眉をひそめた。

 

 

 

 ──この隠れ家、気に入っていたのに──

 

 

 

 この隠れ家はイビト山のふもとにある小さな洞窟の中にある。イビト山は自分たち二人が住んでいる田舎町「フォートラン」の中央にある、町を象徴するとても大きな山だ。その大きさ故に、この山で行方不明になる人間は後を絶たない。

 

だから、自分を含め山の周りに住んでいる子供たちは全員、小さい頃から“イビト山に登ったら二度と帰ってこれない”と、大人たちに耳にたこができるほど聞かされていた。

 

 ここを隠れ家にしてから一年が経ったが、自分たちは問題なく家に帰ることができている。

 

この洞窟を自分たちが見つけたのは偶然だった。面白半分で山に入ったら、洞窟が目に入った。ただそれだけだった。人気のないこの山はガラクタを捨てることにうってつけの場所なのか、家具、電化製品、雑誌、そしてアニメのビデオテープなどがあちこちに捨てられている。このボロのソファは自分たちが来た時にはすでに洞窟の中に捨てられていた。

 

 ちなみに、自分はイビト山で他の人間を見たことがない。ガラクタが一年前から何も変わっていないことを考えると、この山に来る人間は、自分とミリカの二人だけのようだ。この山には、人を寄せ付けない「なにか」があるのかもしれない。それ故に、自分はここが気に入っていた。

 

 

 

 大人も、学校の同級生も、だれも邪魔しない静かな環境。

 

 

 

 退屈をしのぐには、イビト山は充分すぎる場所だった。

 

 しかし現在のこの有様では、これ以上来ることはもうないだろう。自分は辺りを見回した。家具は泥にまみれ、地面はぬかるんでいる。雑誌に関しては、表紙も内容もまるっきりわからなくなっていた。

 

 深くため息をつくと、ミリカが不機嫌そうな顔でこっちを見ていたことに気がついた。

 

「ごめん。聞いてなかった」

 

「もう! ちゃんと私の話を聞きなさいよ。……これってさ、どこに繋がってると思う?」

 

 ミリカはしゃがみこんで、その穴をじっと見つめた。デニムのジャンパースカートが泥で汚れることは気にしていないようだ。

 

 さあね、と自分はこたえた。一寸先は闇で、穴の奥がどうなっているのか見当もつかなかった。ミリカは少しの間あごに手を置き、そしてすぐに何かを思いついたかのように手を叩いた。ミリカは、イタズラを企む子供のような笑顔だった。

 

 嫌な予感がした。ミリカは手に持っていた懐中電灯のスイッチを入れると、穴に潜り込み始めたのだ。

 

「ミリカ! 雨が降った後なのにこんな所に入るなんて危険すぎる……今すぐこっちに戻りなよ!」

 

 自分は穴に入ったミリカに声をかけた。そんな場所に入って穴がふさがりでもしたら、確実に助からないだろう。

 

 しかしミリカは、心配性ね! とだけ言って、どんどん奥に進んでいった。放っておくわけにもいかないので、慌ててミリカの後に続いた。

 

 

 

 ──穴に入ってすぐ、自分はミリカについて行ったことを後悔した。穴の中はサイアクな環境と言わざるを得なかった。湿った土は独特の臭いを放ち、肌にじっとりとまとわりついてくる。時折、地面から露出した石が手や膝に当たるので、怪我をしないように注意して進まなければならなかった。

 

 そして何よりも、一匹の黒いクモが突然目の前に現れたときは発狂した。多分ヤツはセーターに潜りこもうと企んでいた。自分はこの一件でクモが大嫌いになった。

 

 ……とにかく、この穴は想像以上に、奥深くまで続いているようだ。体感時間では、もう十分は経ったように感じる。

 

 自分には、先の見えない今の状況がとても恐ろしく思えた。しかし、「不安」という言葉は彼女の頭には全く思い浮かばないようだ。

 

「ねえ。この先には、なにがあると思う? でっかい空洞? 山のむこう側? もしかしたら、ヒミツの研究所に繋がってるのかも!」

 

 ミリカは穴に入ってから口を閉じたことが一度もなかった。その様子はまさに好奇心の化身と言えるだろう。お気楽な彼女がほんの少しだけ羨ましくなった。しかし……この先がどうなっているのか非常に興味深いところではあるが、少なくとも研究所はないだろう。自分は苦い笑顔でミリカの話を聞いた。

 

 数分後、ミリカは突然立ち上がった。穴の出口に出たのだ。ミリカに続いて自分も立ち上がると、頭をうつことなくスムーズに立つことが出来た。まず第一に、自分の体についた土を落とすことを優先した。入念に土を手で掃うと大体は落とせたが、セーターの袖口についた汚れだけが落ちなかった。汚れを落とすことを諦めて、一人で探索しているミリカに足元に注意しながら近づいて話しかけた。

 

「それで。秘密の研究所は見つかった?」

 

 ミリカはくるりと振り返ると、満面の笑みで抱きついてきた。

 

「いいえ! でも、そんなものよりもずっとずっとすごいものを見つけたわ!」

 

 ミリカはそういうと、ある場所を懐中電灯で照らした。

 

 

 

 ──そこには巨大な、先も深さも見えない穴が地面にぽっかりと空いていた──

 

 

 

 声を発することができなくなった。それは、深さの判らない奈落の落とし穴に対する恐怖からではない。

 

 自分たちに降り注ぐ約束された「奇跡」を。

 

 好意から生まれた「悪意」を。

 

 

 

 決して抗うことのできない、「物語」の行く末を悟ったからだ。

 

 

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