この素晴らしい王女様に自由を 作:はるみゃ
「ふぁぁ……」
身に付いた生活習慣というものは中々抜けないもので、私の目は明け方に自然と覚めた。
睡眠時間は体感で五時間くらいだろう。
いつもは最低でも九時間程度睡眠をとっていたので若干眠たさが残ってはいるが、頬を軽く叩いて起き上がる。
そして、脱げかかっていたフードを被り直し、脇に置いていた『聖剣なんとかカリバー』を抱え、馬小屋を出た。
「おう嬢ちゃん、もう起きたのか。早いな。馬小屋じゃ上手く寝付けなかったのか?」
馬小屋と言えども宿屋で借りた部屋には変わりない。
チェックアウトをするために、宿屋に入ると、就寝する前と変わらず店主が立っていた。
「いえ、私はいつもこの時間に起きるようにしていまして……店主さんこそお早いですね」
城での厳しい教育で身に付けた、外面を貼り付けながら訊ねると、店主は首を横に振った。
「いや、俺は夜勤だからまだ寝てないんだ」
「そうですか…大変ですね。ところで……宿泊料金はおいくらでしょうか?」
「あー……千エリスでいい」
店主に提示された額に胸を撫で下ろす。一エリスは日本円で約一円。雨風凌げる場所で一泊千円と考えるとかなり良心的な価格だ。
「ちなみに普通に部屋で宿泊すると……?」
「六千エリスだ」
六倍……。
一応今まで貯めていたお小遣いを持ってきている為、一月くらいなら宿を借りることが出来るくらいは手持ちがあるが、それでも節約できるなら節約しておいたほうがいい。
別に寝心地も悪くなかったし、今後も馬小屋を利用させてもらおう……
そう決意しながら、千エリス支払い、私は冒険者ギルドへと足を進めた。
冒険者になるためにはギルドで冒険者登録を行い、冒険者カードを作る必要がある。
この作業は受付の人が優しく説明してくれるから、簡単に出来るらしい ……が、一つ問題があった。
それは、カードを作る際に、自分の名前が表示されることだ。
いくらあまり外に出ていなかったとはいえ、受付の人が王族のミドルネームやラストネームを知らないとは思えない。
どれだけ容姿を誤魔化したとしても、ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリスという名前がバレたら間違いなく王族関係として見られるだろう。
そうなればゲームオーバー。
噂を嗅ぎ付けた兵士たちに捕らえられ、城に連行されてしまう未来が簡単に想像できる。
では、策はないのか……? 否、そうでもない。
事前準備として以前に城の図書館で調べたところ、そのシステムだと名無しの人達に適応されない為、公にはされていないが、偽名を表示させる方法がある、のだとか。
それは、偽名として名乗りたい名前を心の中で念じること。
それだけ。
故に私が実名バレで騒がれることはなかった――――
「――ええええっ!!? イリスさん!? 何ですか、このステータスは!? すべて大幅に平均値を越えていますよ!? あなた何者何ですか!?」
「……ただの凡人です」
「謙遜は止めてください! 本当に凄いことなんです! 何せ最初から上級職と呼ばれる≪クルセイダー≫や≪ソードマスター≫≪アークプリースト≫とかも選べるんですよ!?」
――実名バレでは。
大声で叫ぶ受付のお姉さん。そしてざわめき出す施設内に、
私は、勘弁してくれと小さくため息を吐いた。