この素晴らしい王女様に自由を   作:はるみゃ

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緊急クエスト

 

 確かに呟きがアナウンスで掻き消されたのは幸運だった。

 だが、同時にギルド内に王女としての知り合いがいると分かった今、不運でもあった。

 

 正直今すぐにでも離れたかったが、アクセルにいる冒険者全員に呼び掛けたアナウンスをこうしてギルド職員であるお姉さんの前で聞いた以上、離れるに離れられない。

 

 バレるかも知れない恐怖にギリギリと胃が痛むのを感じながら、私はお姉さんに緊急クエストについて問いかけた。

 

「ところで……緊急クエストって何でしょう?」

 

 冒険者全員に呼び掛けるほどのクエストだ。余程の難易度に違いない。

 

 近隣で暴れていたグリフォン、マンティコアがいよいよ街に襲撃に来たのか? ……いやもしかしたらドラゴンのような上位種が現れたのかもしれない。

 

 ――そんな強大な敵と戦うとして、私は存分にパフォーマンスを発揮できるだろうか……?

 いつもみたく一人ならまだしも、正体バレの恐れがある観衆の前で、ララティーナの前で全力を発揮することが出来る……とは断言できなかった。

 

 しかし、返ってきたのは思いもがけない言葉だった。

 

「キャベツの収穫ですよ。そろそろ収穫の時期ですし」

 

 きゃ……べつ?

 

 この世界に、緑の野菜である「キャベツ」があることは、王城にいた頃に何度も食卓に並べられたので知っている。

 前世ではレタスと混合されがちだったのに対し、この世界では、なんか知らないけど皆がこぞって絶賛してた野菜だ。

 

 曰く、食べると強くなるらしい……

 まぁ、確かに前世でのキャベツと比べることが烏滸がましいくらいに美味だが……流石に食べるだけで強くなるのは信じがたい。

 

 信憑性は食べて痩せるダイエット並みに低いと言えるだろう――

 

 ――と余談はさておいて、

 

 この世界では絶賛されているそんなキャベツだが、流石に野菜の収穫を緊急クエストにはしないだろう。

 

 となれば同名のモンスターか……――

 

 そんなことを考えていると、お姉さんとは別の職員が、ギルド内にいる冒険者に向かって大声で説明を始めた。

 

「皆さん、突然のお呼び出しすいません! もうすでに気づいている方もいるとは思いますが、キャベツです! 今年もキャベツの収穫時期がやって参りました! 今年のキャベツは出来が良く、一玉の収穫につき一万エリスです! すでに街中の住民は家に避難して頂いております。では皆さん、できるだけ多くのキャベツを捕まえ、ここに納めてください! くれぐれもキャベツに逆襲されて怪我をしない様お願い致します! なお、人数が人数、額が額ですので、報酬の支払いは後日まとめてとなります!」

 収穫? 一玉? 捕まえる? 逆襲?

 ちょっと意味が分からない。

 

 いや捕まえると逆襲だけなら分かる。同名モンスターなんだ、と。

 けど収穫と一玉が分からない。それは野菜のキャベツに使う言葉だろ。

 

「「「うおおおおおおッ!!」」」

 

 と、その時、ギルドの外で歓声が沸き起こった。

 どうやら噂のキャベツがやって来たみたいだ。

 

 ――百聞は一見にしかず……。考えてても分かんないし、見てみた方が早いか。

 

「……」

 

 そう考え、人混みに交ざった私の目に飛び込んで来たのは、空を悠々と飛び回る緑色の野菜だった。

 

 ――え、なにこれ……

 

 開いた口が塞がらず、唖然としていると、私と同じようにキャベツを見に来たのだろう。いつの間にか近くにいた暫定日本人のサトウ カズマに語り掛けるように青色の髪の少女――アクアが口を開いた。

 

「この世界のキャベツは飛ぶわ。味が濃縮してきて収穫の時期が近づくと、簡単に食われてたまるかとばかりに。街や草原を疾走する彼らは大陸を渡り海を越え、最後には人知れぬ秘境の奥で誰にも食べられず、ひっそりと息を引き取ると言われているわ。それならば、私達は彼らを一玉でも多く捕まえて美味しく食べてあげようって事よ」

「俺、もう馬小屋に帰って寝てもいいかな」

 

 呆然と呟くサトウ カズマの言葉に私は同感せざるを得なかった。

 

 

 

 

 

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