「___あれ?友希那~?こんなトコでなにしてるの?」
バイトを終えた帰り道の橋の上。
川の水面に移る夕陽の色に染められた鮮やかな銀髪が視界に靡き、そんな儚さを孕んだ情景は無造作に私の心臓を跳ねさせる。
此方に視線を寄越した幼馴染の瞳には、困惑に似た疲労の色が何時もより濃く見えるように感じる。
「リサ、今日は六時までバイトじゃなかったの?」
「店長が早めに来たから今日はもう上がっていいってさ。それよりどうしたの?なんだがいつにも増してお疲れみたいだけど?」
友希那は隠し事があると目を逸らすから分かりやすい。
「別に…なんでもないわ」
「んー…友希那がそう言うならそういうことにしておくけど、辛くなる前にアタシ達に相談してね?」
「ええ、そうさせてもらうわ」
「ならよし。それじゃ、ちょっと早いけどCircleに行こっか?」
今日は新曲の音合わせの日だ。
友希那のことだから、きっと夜遅くまで音の調整をしてたんだと思うけど。
歩調を合わせ、目的地までの道中、雑談に興じる。
とは言っても、私がお喋りして友希那が相槌を打つだけだから雑談ではないのかな?
そこまで考えて、不意に悪戯心が芽生えた私は先ほどの話を掘り返してみる。
「___で?あんなとこでまた歌詞でも考えてたの?」
「なんでもないって言ったじゃない」
途端にそっぽ向いてしまう友希那。
歌詞のことに触れてない…つまり、音楽以外のことで悩んでるわけね。
そのくらいの考えを読み取れる程度には私は湊友希那という女の子を理解しているつもりだ。
伊達に十数年、彼女の幼馴染をやってない。
「なるほど、音楽は関係ナシか~………じゃあ、恋煩いとか!?なんてね?」
友希那に限ってそれはないか。
四六時中バンドのことを考えていて(猫に関する事象を除く)、ストイックの権化みたいな私の幼馴染が異性に興味を持つということ自体考えづらい話だ。
(…あれ?)
返事が返ってこない。
それどころか、いつの間にか足音が私のものだけになってることに気付く。
「友希那?」
また、道端の野良猫にでも目を奪われているのだろうか?
そんな可愛らしい彼女の姿を予想して振り向くと___私が見たことのない顔をした幼馴染がそこにいた。
耳まで真っ赤にして、顔を隠すように手の甲を唇に当てて、弱弱しく顰めた眦に浮かんだ恋慕の色。
同じ性を持ってる私は本能的に理解した。
彼女は人生で初めて、誰かに恋をしてるんだと___
◇◇◇
「___優希夜。ちょっと楽譜打って欲しいんだけど…何してんのアンタ?」
モカ達バンドメンバーと話し合って浮かんだフレーズとメロディを一刻も早く楽譜に残したかった私は、コンピューターの操作に長けてる弟の美竹優希夜(みたけゆきや)の部屋に返事も聞かずに入室する。
ちょっと前までノックがどうとか言ってたけど、襖をノックするのってどうなの?と問うてからあの子は何も言わなくなった。
優希夜は基本優秀だけど肝心なところでポンコツになる節がある。
根が優しいのだろうが、他者からの押しに異常に弱いのはどうかと思う。
姉として弟の将来を心配している今日この頃だ。
そんな弟を顎で使ってる自分のことは大いに棚に上げて私は現状を整理する。
先ず、弟が布団に包まってなんかクネクネしてた、気持ち悪い___以上だ。
「……姉さん」
「何?」
布団に包まったままの弟が何か言ってる。
聞かないと楽譜打ってくれなさそうだから黙って話を聞いてみる。
「初対面の女の子の頭を撫でるのって犯罪かな?」
「死刑だね」
我が弟ながら、それは一回死んだ方がいいと思う。
「そうだよねー…はは………ああ、死にたい…」
「__そんなわけないからさっさと出てこい愚弟」
いい加減、苛々が沸点寸前になった私はウジウジしているミノムシの外郭である布団を剥ぎ取るため、シーツを持つ手に力を籠める。
「ちょっ!?やめてよ姉さん!!」
「どうせアンタの悩みなんて一晩寝れば忘れる程度のものだから。それより早く楽譜打て」
「最低だよこの女!?それが人に物を頼む態度かよ!」
「…人?」
「最早姉さんにとって僕は人ですらないの!?__ちょっとホントで、今だけは勘弁して下さい!お願いお姉ちゃん、いや蘭様!!」
「ウザい」
「イヤ――!!」
布団をはぎ取ると、一人の女性が映ったスマホを抱える弟の姿。
「__え?」
その画面に映った女性のことは私も良く知っている。
彼女は___
どうも、苺ノ恵です。
性懲りもなくBanG Dream!のssに手を出してしまいました。
他の作品と同時進行で亀更新なのは明白ですが、評価が良ければモチベが上がり執筆速度も上がる単純な作者なので、ぜひぜひ感想・評価の方よろしくお願いします。
それではまたの機会に