Dr.STONEとロード・エルメロイ二世の事件簿にハマってる苺です。
突然のラブコメを描きたい衝動に駆られたので投稿です。
案外早かった主人公の出番
あれから二週間の時が過ぎ去った。
その間____特に何もなかった。
これが夏休みだからとか、彼女が転校してとかならまだ分かる。
ただ、平日は学校に通い、休日は曲作りに勤しむ、そんな毎日に特別なイベントなんて起こるはずも無かった。
そう、現実なんてこんなもんだ。
どういうわけか姉さんの元気がなくて、パシられる回数が減ったのは僥倖なわけだが。
そのためか、趣味の作詞・作曲が驚くほどに進んだ。
しかし、何故か曲のテイストが全て失恋になってしまっているあたり、僕の音楽観はもう終わっているのかもしれない。
僕がいきつけの猫カフェで出会ったあの運命の女性の名前は湊友希那さんといって、Roseliaというガールズバンドのボーカルをしている人らしい。
この一か月で、何度Roseliaの練習場所であるCircleに足を運ぼうとしたか分からない。
でも、それってもしかしなくてもストーカーだよね?って思ったらもう家から一歩も出る気が無くなった。
それどころか、行きつけの猫カフェに通う気すら起きなくなった。
店長から安否確認のメールが来て泣きそうになった。
ミルク、マドラー、ボス(お気に入りの猫の名前)…みんな元気かな…?
ふとした瞬間、ついつい足があの楽園の方に向いてしまう。
しかし。
もし、万が一、那由他分の一にも湊さんと鉢合わせることになったとする。
恐らく僕の心臓は生命活動を投げ出すことになる。
これが姉さんやつぐみ姉さんなら話してても何ともないのに…。
それだけ僕は湊さんに惹かれてしまっているというこのなのだろうか?
好きな人に会いたい気持ちは募るばかりだけど、会ってからのことを考えると心臓が握りつぶされるような悪寒に襲われる。
「…もう、諦めた方が楽になるのかな…?」
そんな若干センチメンタルな気分でモップを惰性のように動かしていると、関係者以外立ち入り禁止の扉から見知った人物が顔を覗かせた。
「___お?優だ。おつかれさまー」
「お疲れ様です。花園先輩。…珍しいですね、先輩が時間ギリギリに来るなんて」
花女の制服を携えて訪れたのは花園たえさん。
僕が中三の時にバイトのカラオケ店で指導係として師事を仰いだのがこの花園先輩だ。
基本の仕事を教わる上で問題はないけれど、ちょくちょく先輩は僕の理解に苦しむ発言をしては僕を困らせる。
ただ、今日の先輩はどこか余裕が無い様子だ。
肩で息をして頬が若干朱くなっていることから、走ってここまで来たことが窺える。
先輩の長くて綺麗な黒髪が少しだけ乱れており、肩から胸の前にサラリと落ちる髪の束の滑らかさを見て、何となく居た堪れなくなった僕はモップを握る手に少しだけ力を込めて視線を外した。
「うん。ちょっと香澄達と新曲のアイディア出し合ってて。ごめん、すぐ着替えてくる。__あっ、残りの準備は私がやるから、優はのんびりしててよ」
ロッカー室の扉から顔だけ覗かせて、思い出したように先輩が開店準備の交代を提案してくる。
「いえ、あとは掃除くらいなんで先輩こそ時間までゆっくりしててください。あんまり寝てないんでしょ?」
「え?何で分かるの?」
僕が目の下をなぞりながら理由を示すと先輩の細い指も自然と眦に伸びる。
「隈。先輩、普段は化粧をあんまりしないので目立ってます」
「………優のえっち…」
バタンッ。
蝶番が悲鳴をあげそうな勢いで閉じられた扉は、僕の困惑した感情など預かり知らぬように静観を貫いていた。
「なんでさ…」
女の子は難しい。
◇◇◇
お客さんが入り、徐々に忙しくなるにつれて余計な思考をせずに済むようになったおかげか幾分の心のゆとりができた僕は、シフトの時間通り出勤した後続に仕事をパスして、休憩室の椅子に腰かけたタイミングでスマホを起動する。
そして、それまでに思いついた脳内のフレーズを片っ端からメモ帳に打ち込んでいく。
作詞・作曲は僕の数少ない趣味の一つだ。
音楽というのは案外気分屋なもので、いいものを作ろうと意気込んで作るよりも、普段の生活で感じることをなんとなしに音楽へ落とし込んだ方が意外と凄いものができることが多い。
僕だけかもしれないけど、音楽が人間によって生み出されている限り、人間の心が譜面に滲み出てしまうのは避けようがないと思う。
だからこそ、音楽は人の心を激しく揺さぶってくるんだと僕は信じてる。
「…擦り切れた小さな手…隙間を埋めるまで…色の消えた記憶…拾い集めた…」
あの日、湊さんと会った時の衝動を、色を、呼吸を。
溢れ出てくる詩を音に乗せる。
そして____
「___中二病?」
「すいません花園先輩。僕の内情知ってるんですから邪魔しないでもらえますか?」
いつの間に忍び寄ったのか。
先輩は僕の肩口からスマホの画面を覗きこんでくる。
健全な高校生である僕は、そんな状態に耐えられず机を挟んで向かい側の椅子に腰を落ち着ける。
先ほどまで僕の座っていた椅子に腰かけた先輩は机に置かれたお茶請けを摘まみつつ独り言ちる。
「優は椅子取りだね」
「何の話ですか?」
「サルって人が草履取りなら、イスを温める役割の優は椅子取りだなって」
「何ですかそのクソ使えない現代の木下藤吉郎。というかいつから僕の役割が椅子を温めることに?」
「天下統一までもうすぐだよ、ガンバレ」
「椅子温めて天下がとれるならパチ屋の客なんてもれなく全員天下取りですね」
「おお…、このチョコレート美味なり」
「そうですか。良かったですね」
「褒美をとらす」
「それ持ってきたの店長ですけどね」
「__って優が言ってた」
「さり気なくキラーパス送ってくるのやめてもらえます?」
そんなどうでもいい雑談をして暫く。
不意に先輩が問いを溢す。
「そういえば優に一個聞きたいことがあるんだけど?」
「何ですか?」
作曲のこととかだろうか?
そんな予想をしていた僕は、スマホの画面に目を落としたまま返事する。
「子供の名前はどうするの?」
「何を口走ってるんだ?この天然ポンコツクール美女は?」
おっと、思わず考えたことがそのまま口に。
やらかしたと思いつつ視線を上げると、ワザとらしくしおらしい表情を浮かべた花園先輩がこちらに流し目を送る。
「優の気持ちは嬉しいけど…私にはオッちゃんがいるから」
「何で僕が先輩に告白してフラれたみたいになってるの?というか今僕、もしかしなくてもウサギに負けました?」
何故だろう。
思ったよりもショックだ。
でも仕方がない。
オッちゃんの可愛さの前では、核ミサイルの発射ボタンに指を置いた軍人でさえ破顔すること間違いないのだから。
可愛いは正義だ。
因みにオッちゃんはオッちゃんであっておっちゃんではない。
これを間違うと先輩はキレるから要注意だ。
僕が妙な独白をしていると更なる爆弾発言が先輩の口から飛び出す。
「男の子?女の子?」
「先ず前提が間違ってます。僕にはまだ子供なんていませんから」
「まだ?」
「揚げ足をとらないで下さい。それとも僕、生涯独身なの?」
「強く生きろよ、少年」
「やかましいわ___そもそも先輩?どうしていきなりそんな話を?先輩らしくないですね?」
サムズアップする先輩の指にチョコレートがついており、ティッシュペーパーを渡す。
先輩は指を舐めようとチロリと舌を出して、寸前のところで思いとどまったのかそのまま指を拭きながら舌をしまう。
「だって優、花女じゃあ有名人だから。最近は優の話題で持ち切りだよ?」
折角綺麗にしたてでまたお菓子の包みを開け始める先輩。
太るぞという禁句は胸の奥底に押し込んで、僕は別の言葉を返す。
「は?………ふん。騙されませんからね?花園先輩。僕程度の人間の話が話題になるほど世間は甘くないんです。また僕のことをからかうつもりですね?そうはいきません。暴君(姉さん)の圧政から解放された今日の僕は一味違うんです。先輩の虚言に一々動揺する僕じゃな___」
「優と湊先輩が赤ちゃん作ったって」
「話を聞こう___どんな事件だ??」
「優、キャラ変わってる」
いや、これ大事件だよ。
セリフの多いキャラは私の推しである可能性が高いです。
皆さんの推しもできるだけ出演して頂きたいので、感想欄で推しへの想いを熱く語っていただけると推しのセリフの量も増えるかも…?
今日はこの辺りで。
またの機会に