Fate/underLine1999英雄選定   作:木浦

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とんでもなく筆が遅いですが、年単位で気長に待ってください
後日、口調・誤字・脱字などの微修正が入ります



――準備談

 時計塔の魔術師であっても、ショッピングくらいする。

 それが、年頃の女子ともなれば尚更のこと。

 ファリパ=ファハルド=ティヘリナも、そんな一人だ。

 ファリパは、欲しいものを物欲しげに眺めるわけでもなく、かといって買い漁るわけでもない。

 彼女が、興味を惹かれるものは、ディスプレーの展示品の並びや謳い文句が、いかに自然体でそれでいて目を惹くものであるかだ。

 根源に近いものとしての自負からか大半の魔術師たちは、自分たちのほうがエリートであると大衆を侮る傾向があった。

 魔術にも種類があるが、魔術師からすれば、結局のところ根源に至るための手段でしかないはずだが、その研究結果の自慢話とお貴族的な地主稼業だけで食べていけない者、代の短い新参者も同様の扱いをされた。

 要するに、上下関係が生まれるのだ。

 そんな関係の渦にも例外は存在する。

 フェリパの一族は、そんな例外の一つだった。

 

 ファリパの魔術は、世界を一つの生命とし、その魂の根源を引き出すことで世界の根源に至ることができるという理論からなるものだ。

 その過程で、発達させたのが、人への暗示や催眠、誘導に関する魔術だ。

 焼きたてのパンの匂い、これは使える。

 艶やかな華の色とそれを鮮明にする沈みこんだ葉の緑、これも使える。

 これだから、五感を喜ばせることは止められない。

 にも関わらず、政治的な理由から根源の探究、神秘の追求とは無関係な法政科に無理やり籍を置くはめになった。

 法政科は、魔術師という枠を上から押さえつけ管理、監督する学科だ。

 法政科の関係者と聞けば、魔術師は誰であれ緊張する。

 学課派閥争いの手を出してはいけない部分。

 ロードは真祖であり、警備員から教師や生徒に至るまで全て私兵、死なない兵士だなどと噂されるほどだ。

 元々、根源に興味がない姉が入っていたのだが、そんな環境に耐えられなくなったのか、三年前に突然の失踪。

 親しかった親族やお付きのメイドにすら、なにも告げないでの失踪だった。

 そんな姉の代役として、一族の長は、フェリパを抜擢した。

 まったく、あの男は毎回めんどうばかり押し付けてくれる。

 根源への興味もあるが、ファリパ自身は、たとえ陰口を叩かれるようなものであっても祖先から受け継いだ魔術を向上させたかった。

 限られた期間に、限られた範囲で、いかに対象を誘導するかは、大衆相手でも魔術師相手でも根っこの部分では同じだ。

 対象が対象だけに、そう簡単に暗示に掛ってはくれないだけで理論としては間違えていない。

 しかし、個々人に作用させる魔術と違って、不特定多数を対象としているなら、その認識し辛い対象が引っ掛かる可能性も高くなる。

 ゆえに、大衆の向けキャッチコピーはファリパにとっては良き師であり良きライバルでもあった。

 そのため、他の魔術師より、市井のものを好ましく思っていた。

 

 眉間の皺を伸ばしながら歩いているうちに、おかしな文言を見つけた。

 それが、なにかの呪文とそれを唱えるべき条件であることはすぐに気づけた。

 これは誰かに宛てたメッセージ?

 往来に置くにしては稚拙な隠蔽。

 まるで、多数の目に曝されることを前提としているようにも思えるが、周囲の人間に気付いている様子は見当られない。

 ここは、魔術師たちの子女とその講師である魔術師が集うロンドンの学園都市だ。

 そこから誰かを外部へ誘導するということは、さすがに講師を狙っての仕業ではあるまい。

 しかし、こんなやり方では、逆に上から目線で笑われるのがオチだ。

 そんなものに、興味本意で近寄って魂を喰われては堪らない。

 しかし、フェリパからすれば、惹かれるものがないわけでもない。

 それは、『各自、触媒を用意せよ』という文言。

 神秘の秘匿は、魔術を扱う者にとって基礎中の基礎以前の心構えのようなものだ。

 それでも、隠しきれない事態が起きるとファリパような隠蔽に長けた一派に声が掛かる。

 その隠蔽の過程で入手した遺品も幾つか実家にあったはず。

 それは、撹乱とたった一度の本番のためのデータ収集と聞いてはいるが……手を出すべきか、出さざるべきか。

 

 日向烈火は悩んでいた。

 この土地で行われる聖杯戦争ならば、この土地に根付いた魔術師、その中心である八家の誰かに令呪が出現する確率は高かった。

 しかし、連絡を受けてすぐ令呪が現れたということは、すでにこの地で聖杯戦争を行う準備が整っているということだ。

 身内には、事前連絡もなしに我々の土地で好き勝手してくれると憤る者もいるが、戦う身としては自分たちに気付かれず準備を済ませた主催者の力量のほうが最重要であった。

 ベルノルト=スキットル=ダールマン。

 科学側でも魔術側でも相応の評判を得ている会社の社長で、烈火の祖父が経営する会社とも、数年前、少し離れた場所に建設した支社ビルや小樽に建てたホテルなどの資材に関して取引があった。

 あの無駄に広い緑地に囲まれた支社ビルも、おそらくこの時のために建てられ、いまは支社としての機能を排除して、まるごと魔術工房となっているはずだ。

 先方には、文句はあるものの日向家の顧客ならば無下にできないと商人らしい理由で土地の使用を許可すると伝えたが、本音としては聖杯戦争での勝利への期待がある。

 根源への到達を目指している魔術師は、ダールマンが真面目に根源を目指しているかわからず、どちらに味方するか決めかねて不干渉を決めたのに対し、地域に根差した伝統主義者の魔術使いはこぞって、その監視に回った。

 アイヌはともかく、ウェンペの連中は、どう動くか分からないが、おかげで多少は動きやすくなった。

 それでも、後のことは、考えると憂鬱になるので、考えないことにした。

 知名度補正を鑑みるなら、アイヌに纏わる英霊を選択すべきだが、自分の身を危険さらす危険は少しでも避けたいので除外した。

 それでも、触媒は良いものが用意出来た。

 それは、とある戦士が使っていたとされる戦車の車輪の欠片。

 本物であれば、基本クラス全てに適性があるサーヴァントを引くことが出来るだろう。

 しかし、アサシンとして引き当てた場合、魔術とは付いていないが、電話帳に載っている工場なのだから、いざというときには、ここを出る覚悟もせねばならない。

 アサシンやバーサーカーであれば意図的に引き寄せる方法があるらしいが、避けるには先に引いてもらうしかない。

 とはいえ、本物であれば、これだけの触媒を用いながら優位とされる三大騎士クラス、つまりセイバー・ランサー・アーチャーを先に引かれるのはおしい。

 ダールマン社長は、自らの陣営はバーサーカーを使う予定であると宣言してきたが、アサシンまで引いてくれる知り合いはいない。

 烈火と幻相手の駆け引きは、数日に及んだ。

 

 ミラナ=ガイダルは、気配を消すことが得意だ。

 元々、寒風を避けるために魔術を習得した魔術使いからできた一族で、風を操る魔術に長ける者が多いのだが、ミラナは加えて虚数魔術の素養もあった。

 希少さで点を取りたくないと教師にも黙っていたこの素養と風属性を合わせて使えないかと研究、脱線した結果、原理も解らないながら、気配の一部を虚数ポケットに出し入れ出来る魔術を独学で編み出すに至った。

 おかげで、時計塔内の噂は、教授から新入生まで、内容は対立から恋愛まで耳に入った。

 魔術協会は、此度の亜種聖杯戦争には不可解な点があるとして、ロストボイスという組織から魔術師を雇うことにしたらしい。

 ミラナは、その亜種聖杯戦争に少しも悩まず参戦することにした。

 本人としては、創造科の端で燻ったまま卒業したくはなかったし、両親は、有象無象だった魔術使いが魔術師としてまとまって、ようやく八代目と歴史の浅い一族に少しでも箔が着くならと承諾した。

 触媒に選んだのは、竜の因子を持つ男性の血管の切れ端。

 誰のものかは判別していないが、竜の因子を持つ男性の血管なので、姫騎士や騎士王は喚べないが、それでも候補に上がる竜の血により力を得た英雄ならば十分だ。

 ドラゴン種は、呼吸するだけでマナを発する幻想種だけあってそれだけ強力なのだ。

 どれを引いても、万全に扱えるだけの魔力もミラナは持ち合わせている。

 竜殺しの逸話がある英霊を相手にするには少々不安要素にはなるが、そこは踏ん張り所というやつだ。

 

 開催地は日本。

 魔術協会にとっては、神秘の秘匿もろくにできていない東の辺境だが、彼にとってはパリだろうがロンドンだろうが同じだった。

 魔術師を相手に出来る殺し屋。

 ドラゴンライダー、ロストボイス、トゥルドゥス公といった身近な者から不評な異名を持つ男の手駒。

 下卑た魔術使い。

 それが、オジェット=バーネンハという男の対外的な立ち位置だった。

 その前には、情報や骨董品など諸々の売買。発掘作業の手伝いに、悪魔退治やウェイターの真似事を請け負ったこともあった。

 おかげ様で、人脈はそれなりに太くなり、経歴は無茶苦茶になっているが、過去を隠すにはちょうどよかった。

 そんな人間だから、サーヴァントの選択も雑で、そこそこの知名度があり弱点がないサーヴァントであればどれでも同じに見えた。

 長寿国なら異国より現地での知名度の高い英霊のほうがいいだろうか?

 かの国で最強と唱われた剣士の残した作品、本物かは知らないが博物館の展示されている品か御刀の鍔を触媒にすればとも思ったが、それでは養子のほうを呼んでしまう可能性もある。

 それに、彼は誰が投げたか分からない石が原因で名を下げたらしい。

 いくら強力なサーヴァントでも、誰か投げたか分からない石で致命傷を負ったなら、誰が投げた石でも致命傷を負いかねない。

 本当にそうなるとは、思いたくないが、ないとも言い切れないのもサーヴァントの再現力だ。

 可能性があれば問題は起こり得ると考えなければならない。

 さすがに、それは勘弁願いたい。

 情報源が、サーヴァントに関して妙に詳しいルカフ=マリッジという偽名の少年がうっかり漏らしたことなので、信憑性もある。

 そもそも、何らかの方法を使えば、サーヴァントの複数契約ができる以上、宝具やスキルも重要だが、死傷歴も重要なのだ。

 管理局か礼装の密売屋に、用立ててもらうのもありではあるが、

「そのときは、そのときか?」

 仲良くやれることに越したことはないので、それくらいは考慮しよう。

 前回、終始自分たちだけで事を進め、協会その他には、小聖杯に穴が開いていて、魔力は霊脈に流れていったという事後報告で済ませ、事後処理も完璧で、現地の魔術師や住民からはなんの情報も得られなかったことがよほと腹に据えかねたらしく、依頼の内容には、企画者でありバーサーカーのマスターでもある失楽園の残滓の暗殺と触媒である焼け焦げた枝の回収も含まれる。

 資料によれば、兵士としてもなかなかなので、その点も視野に入れなくてはならない。

 

 この俺、ミケリーノ=コスタは社長婦人に手を出してしまった。

 いや、まだ出していない。いや、出したか?

 他の女の子にしているように、ほんのすこしアプローチしてCQC噛まされただけだ。

 そんな、彼女に近づくため、彼女の夫の会社に就職、そこまではよかった。

 当の彼女が、大好きなお医者と仲良くアフリカの地震で死んじまった。

 俺もお役ごめんでおさらばしようとしたが、そのまま居残るはめになった。

 そんなこんなで、早数年、社長から聖杯戦争に参加せよ、サーヴァントは、仲良くし辛そうなバーサーカーにせよと来たものだ。

 しかしだ!

 だが、しかしだ!

 もし、この戦いで勝利すれば好きな願いを叶えられるというのが本当なら、これは、千載一遇のチャンスなわけだ。

 それに、化け物軍団の戦いが始まりそうな国に帰るより、大昔からおおっぴらに化け物と戦い続け、六年前に化け物勢力が一つ増えて三つ巴になっている日本のほうが楽に生きられるはずだ。

 よし、そうと決まれば、早速日本語の勉強だ!

 

「今回は、すぐに熱が下がってよかったわ」

 彼女の母親が言う。

 下がったというより安定したというのが正しいと熱を出した当人も理解していた。

 しばらく前から魔力回路の活性化による発熱が続いていたのだ。

 痛覚への刺激もあっただろうが、そちらはうまく隠せたのか、言及されてはいなかった。

 魔術を知らぬ両親と医者は、これを通常の体調不良と診た。

 笑顔の娘と二三言葉を交わした後、母親は部屋から出ていき、部屋での会話が聞こえないこと確認したのか、彼女が口を開いた。

「ごめんね、わたしが不甲斐ないばっかりに、迷惑をかけちゃって」

 召喚された時から変わらぬ笑顔で放たれたその言葉に、私は霊体化したまま首を振った。

「私は武術指南を生業としていたが、必要な休息にまでとやかく言うほど厳しくはしない」

 此度のマスター、歌方スミレは正規の魔術師ではない。

 魔力の質が良くても魔術回路の本数は極まれに市井に現れる域を出ない。

 言うなれば、魔術使いの一代目のようなものだが、私を含め近くに魔術の知識があるものは居らず、彼女の人生は、すでに魔術師になるには捨てねばならないものばかりで出来ていた。

 余程のことがない限り、彼女の素養はこの彼女一代で終わることになる。

 そんな少女が、サーヴァントを引き寄せることは、本来の聖杯戦争で開始直前になってもクラスに空きがある時の補助システムが働きでもしないかぎりは起こらない現象だ。

 そして、彼女が召喚した時に言った言葉、

「わたしね、三年前にも聖杯戦争に参加したことがあるの」

 世界中で起きているとはいえ、子供の生活圏を考えば、巻き込まれ生き残り再び挑むことは、奇跡的な確率だ。

 真実であろう。

 そうでなくては、自らの令呪の形状を知ることも、それを描いた付箋が触媒として機能するなど思い付くまい。

 以前の聖杯戦争の優勝者に喧嘩を売って参加の優先権を得たという言葉も、偽りではなさそうだ。

 その令呪も、誰の言葉にも流されるという思考が、令呪を使っても数時間しか矯正出来ないと知るや、今後のためとニ画することに消費する思い切りの良さ。

 おかげで、宝具は使えないままだが、マスターがいなくなっても数回は戦闘をこなせるようにはなった。

 しかし、これは、こちらから打ってでるためではなく現界させて置くのに必要との判断で、必要がない限り、まずはマスターや霊脈、聖杯から供給される魔力を使うこととした。

 前回は、弱いサーヴァントであったことや使いどころを見極められず、使いそびれたので今回は早々に使ったというのが彼女の言い分だ。

 だが、この手のタイプは扱いに困る。

 彼女はウソを言っていない。聞けば詳細も話してくれよう。

 多くの弟子を見てきたおかげで、誰にどの武器が合うかを見抜く力はあるつもりだ。

 しかし、私には、情報を得ても相手の内面や言葉の真意まで見通す能力に欠けている。

 言葉を、そのまま受け取って行動してしまうタイプなのだ。

 他人の内面を正確に受け取ることが出来たなら、武術を教えたクシャトリアの中にも、彼女と同じ内面を持つ者がいたと気づけたかもしれない。

 いまとなっては、それもわからぬ話だ。

「マスター」

「なに、バーサーカー?」

 彼女は、笑顔で返事をした。

「あえて言っておく。マスターのサーヴァントの原動力となる魔力の量は三流にも及ばない。令呪の使い方も今後の展開によって愚策となるやもしれん」

「…………」

「念話も出来ず、パスも短いゆえ、戦闘時も傍に居てもらう必要がある。その代わり、マスターの声は聞き取り易くよく通る。思い込みの激しい私とはその点において相性がいい。魔力が足りない分は声援と期待をくれ。さすれば、私はこの聖杯戦争での勝利を約束しょう」

「ふふ」

 彼女は変わらず笑顔で、

「雰囲気はぜんぜん違うのに、前のランサーと同じことを言ってくれるんだね。わかったわ、バーサーカー。今度こそ、わたしは命を掛けて応援し続けることを誓います」

 彼女が今回と違う方法、令呪による補助を掛けないでの運用できたサーヴァントとなると、相当弱いサーヴァントだったのだろう。

 息子が生きているのなら、自身が聖杯に掛ける願いはない。

 ならば、私は実力を備えたサーヴァントとして彼女の望みを叶えることに全力を出すだけだ。

 

 用いる触媒は、かの円卓の騎士たちが使用した椅子の一つ、その欠片。

 キャメロットのエハングウェン、その中央十三席か顧問監督官の席か、はたまた宮廷魔術師の席かは不明だが、いずれも名だたる実力者ばかりで、誰が来てもアタリだそうだ。

 触媒を用いても、喚びたい英霊を喚びたいクラスで喚べるとは限らないが、すべてアタリなら、問題はあるまい。

 それでも、緊張は抑えられず、深呼吸をしながら、椅子の欠片を設置した。

 

「――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ――誓いを此所に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者――汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!」

 放たれた魔力に、空気と肌が振動した。

 白煙が晴れ、そこに立っていたのは白銀の鎧に赤い盾、そして聖剣を携えた騎士であった。

 ステータスも高く最優のセイバーと言っても過言ではない。

 彼は、一瞬驚いた表情をして、

「召喚により参上いたしました。クラスは……遺憾ながら、誠に遺憾ながらアサシンです。貴女が此度のマスターでしょうか?」

 彼は、ひざまづき、頭を垂れた。

 その、あまりに馴れた動きは、彼がまっとうな騎士であると理解させるに十分であった。

 

 召喚されたサーヴァントは、クラスこそアサシンではあったが、セイバーとしても十分通用するステータスを持っていた。

 事実、マスターが、仕えるべき相手ならばセイバー、守護すべき相手ならばライダーとして召喚されるのが本来の彼だという。

 しかし、クラスはアサシン。

 ライダー時に連れているべき馬が、役に立つかわからない程度の低い気配遮断に置換され、宝具の最大捕捉人数も大幅に減っている。

 真名も、アサシンとなった自分には名乗る資格がないという個人的なこだわりから名乗りたくないときた。

 真名に関しては、スキルを見れば、丸わかりだが、たしかに騎士王に仕えた彼ならばアサシンであることは汚点だ。

「ステータスは高いし、その姿でアサシンだなんて」

 セイバーやランサーの枠が既に埋まっている場合や三倍段をはじき返せない剣士、武器よりも騎乗や殺害、隠密に重点を置いていた者が、ライダーやアサシンに納められることはあるが、この場合、それはない。

「それは……」

 口ごもったアサシンに、彼のマスターとなった少女は、サーヴァントになっても人間くさいところがあると捉えた。

「たしかに、気にするような問題ではなかったわね。改めまして、私が此度の貴方のマスターとなります。貴方のことは便宜上、アサシンとは呼ばせてもらうけど、そもそもアサシンとして現界することになったのもやむを得ない事情があってのこと、日陰者の私で良ければ使い魔としてではなく、一人の騎士として仕えてもらえないかしら?」

「はい、こちらこそ。我が剣と誇りに掛けて、貴女を護り勝利へ導くことを誓いましょう」

「では、よろしく我が騎士。一緒に暗殺者の汚名を灌ぎましょう」

 

 アサシンの敬愛する王の下には、彼を始めとして優秀な騎士が数多く存在した。

 その中には、アサシンの父を討った騎士もいた。

 戦争だった。

 その父が、息子たちと敵対してまで戦を挑んだ原因が母と他ならぬ王にあったこと、致命傷を与えた騎士がほかにいたことを知ったときは、後の祭り。その騎士を手に架けた後だった。

 当時は、その騎士が他の騎士の尊敬を集めるほどに道徳的な騎士であったのなら自分も彼を手に架けることはなかっただろうと思っていたし、不貞を働いた彼の息子も討つことはなかっただろうとも思っていた。

 愚直な騎士は、最後に弟たちを殺した相手に挑み敗北、連鎖的に国を滅亡させる原因の一端を担ってしまった。

 義憤に駆られたと、自己正当も出来た。

 正当な理由の下に正義の鉄槌を下すという行為に酔っていたとも言えた。

 故に、彼は考えた。

 どのような正当な理由があっても激情に囚われず大局を見据え、優先すべき目的を見失ず、なぜを考え、解らねば恥を忍んででも問わねばならない。

 それは聖杯探索の最中に聞いた言葉でもある。

 此度のアサシンとして現界も、それを学ぶため与えた試練であると。

 出来ることならば、此度の聖杯戦争での経験が、どこかの自分の役に立つようにと。

 




裏で起きている事件も多いですが、この世界の情勢や技術レベルに対するフレーバーテキストで、今作の登場人物もカルデアに対して以外には特に関わることもなく、それらの事件に関与したり解決に動く予定もないので、「ああ、あれのことか」「あいつは、どこの世界でも変わらんのだな」と流してください
整合性のために多少の変わってはいますが、基本的に同じです

その中には、2003年6月12日の事件とかみたいに、年代も結末も変わってるものもあります、現在は揃って京都在中、存命です

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