Fate/underLine1999英雄選定   作:木浦

2 / 5
思いの外、ステイナイトとかぶっている部分が多くて困ります

日常会話すらもガンガン削っていますから、完成度はこちらのほうがだいぶ低いですけど

名前や名称を間違えるポカをやらかしたので、修正
20/02/25



――1日目

 初めて来た日本。

 気温は、ロンドンと差して変わらないらしいが、飛行機内との気温差もあって肌寒く感じた。

 これだけ寒ければ、夜間に外出する者も少ないだろう。

 そこから、アサシンの運転する車で移動すること数時間。

 現地に到着した時には、辺りはすっかり闇夜に包まれていた。

 

「さすが、車の運転も紳士のたしなみと言ったところかしら?」

「この程度のことであれば、いくらでもお付き合いいたしますよ」

 アサシンはスキルの関係上、日が昇っている時間のほうが戦闘力は上がるのだが、神秘の秘匿を考えるのならば、活動時間は自ずと夜間がメインとなってくる。

 神秘の秘匿は、怠るとこちらが討伐対象になりかねないし、なにより根源から遠ざかる。

 フェリパも催眠に関しては自信があるが、周囲の人すべてに影響を与えるのは楽ではなく、アサシンの真名隠しも兼ねてセオリー通りに夜間に行動し、日中との戦闘力差を比べられないようにしなくてはならない。

「ええ、次の機会も楽しみにしてるわ」

 お互い、その約束は果たせないと思いながらも約束した。

 そう思えるほど、彼の運転は心地よかった。

 

「マスター」

 霊体化しているアサシンが念話で話し掛けてきた。

「はい、どうかしました?」

「どうやら一騎目が、食いついたようです」

 アサシンは、フェリパに緊張感を持って告げた。

「そうですか、開幕一戦目は私たちになりそうですね?」

「おそらく。いずれ劣らぬ強者たちとの戦い、楽しみです」

 アサシンが自信のほどを覗かせた。

 フェリパのほうも、戦闘用の暗示の影響で至って冷静だ。

 ほかにも、無意識下で周囲の気配を察知し、サーヴァントによる奇襲も運が良ければ避けられるほどの強化な暗示も掛けてある。

 自分の意識が割り込めば避けられないだろうが、奇襲による初撃さえ避けられれば、後はアサシンがなんとかしてくれる。

 相手に、気配遮断系スキルがあればそれも難しいだろうが、その筆頭であるアサシンはここにいる。

 

 市街地から少しばかり離れた山の麓。

 ここなら、誰も通るまい。

 アサシンは、霊体化を解き、フェリパは、呼吸を整えた。

 振り返った先には、白波のような冠毛の兜を持った男が立ちっていた。

「オレなんかよりずっとセイバーらしく見えるな。ライダーか?」

 どうやら、セイバーはアサシンをライダーと勘違いしたらしい。

 無理もない。この見た目で、まさか、アサシンだとは思うまい。

 当のアサシンは、不快感を感じているようだ。

「まぁいい、我がマスターはそちらを最優先の討伐対象とした。早々に敗退してもらいたい」

 セイバーのマスターは、日陰者とはいえ、それなりに長い家系の生まれで、時計塔に籍を置く魔術師のサーヴァントを討ったとなれば、魔術師として箔が付くと考えたのかもしれない。

 セイバーが兜を被った。

 途端に圧迫感が増した。まるで嵐の海に放り出された気分だ。

「悪趣味な!」

 アサシンは、聖剣を構えた。

「では、これもどうかな!?」

 剣に構えたセイバーが踏み込んでくる。

「小細工を!」

 アサシンは手にした聖剣でセイバーの突きを受けた。

「見事な剣だ。そんなものを見せられては、血が疼いて仕方がない!」

 アサシンの剣は、その高名さゆえに真名を気取られ兼ねない。

 しかし、それを隠すスキルもアイテムも彼にはない。

 フェリパも、そのための礼装を調達する伝も自作する技術もなかった。

 セイバーのマスターや他のマスターもそれぞれの方法でもこれを見ているに違いない。

 しかし、フェリパは、それを確認することもできずにいた。

 まさに白と黒の戦い。

 とくに白銀の騎士は、闇夜に置いてもことさら鮮やかで、邪竜に挑む勇者のようで、聖剣はその主にふさわしく太陽のようであった。

「ちっ!」

 アサシンの剣が、セイバーを捉える。

 セイバーは、アサシンの剣による斬撃を受けても血の一滴も流さないほど頑丈だが、耐久が劣っていても、剣士としての技量はアサシンのほうが圧倒的に上だ。

「その程度の腕でセイバーとは、笑わせてくれる!」

 アサシンは、剣を構え直した。

 すでに何度か打ち込んでいるにも関わらず倒れる気配がない。

「たしかに、オレはセイバーよりアサシンやバーサーカーでいるほうがお似合いだろうさ」

 気配遮断で近づき、あの相手を威圧する能力で動きを封じ仕留める。

 彼がアサシンとして現界していたらと思うとゾっとする。

「だが、セイバーとして期待されている以上、意地くらい見せねばな!」

 セイバーは、突きの姿勢を取った。

 セイバーなら、剣もしくは剣技に纏わる宝具があるのだろうが、それこそ奥の手。

 真名も予測されていない初戦のうちに切り札を切るなど、愚策もいいところ。

 こちらを最優先ターゲットとしたからと言って、セイバーとマスターがともに聖杯を諦めるつもりでもないかぎりそれはない。

 それとも、真名がバレても構わないタイプか?

 いや、いかに優秀な英霊であろうとも、サーヴァントである限り、個々にできることには限りがある。

 万能などありはしないのだから敵に真名がバレて良いことなんて一つもない。

「チッ」

 しかし、セイバーは舌打ちをして消えた。

 どうやら、セイバーのマスターには、最低限の忍耐力はあったらしい。

 放たれていた圧迫感も一緒に消えてくれた。

「どうやら、撤退したようですね?」

「ええ、ですが」

 普通に撤退するだけなら、霊体化を使うはず。

 セイバーの消え方は、まるで瞬間移動したかに見えた。

 令呪を使えば、それも可能だろうが、そんなことに令呪を使うなら、セイバーを強化してアサシンを仕留めたほうがまだ効率がいい。

 まるで、状況が見えていないようだ。

「敵の事情を考えても仕方がありません。いまはあちらに居合わせてしまった一般人の対処が先決かと」

 不幸にもセイバーの能力範囲内に居合わせてしまった一般人がいたらしい。

「気配は一人。罠の可能性もなさそうです」

「そうですか、一般人相手ではちょっとしたものしか、お見せできませんけど」

 暗示そのものは、目立たないことが前提の魔術だ。

 さりげなく混ぜることも技術の一つだが、あれだけ派手な戦いを見せられた後では自分も派手なことをせねばならないという気にもなる。

 

 海藤秀は、体力に多少の自信がある一般人である。

 趣味は登山で部活は武道系、運動神経もある。

 それは疑いようもない事実だ。

 そんな一般人が運悪く聖杯戦争を目撃してしまった。

 本来は殺すのが筋だが、彼の場合、見つかった相手が良かった。

 そもそもサーヴァントたちが死闘を繰り広げていた場所は地元民も日帰りで足を運ぶ山の麓、つまり、これは人気のない場所と思っていたフェリパ個人の調査不足が原因なのだ。

「なんだってんだよ」

 秀は、登山が趣味なだけあって健脚であった。

 それでもサーヴァントから逃げるには遅すぎる。

 瞬時に追い付かれなかったのは、アサシンが後方のフェリパを気遣いながら走っていたからに過ぎない。

「痛っ!」

 勝手知ったるとはいえ、山の中を別け行ったため、枝でちょっと深めに頬を切った。

 腕で拭っても、血は、まだ流れている。

 それでも、立ち止まる気にはならない。

 命懸けで走った。

 こんな時間に下山したのは、眼鏡の美人二人に誘われるままお茶をしたせいなのだが、恋人のいない男子高校生からすれば断る理由もないのだ、理不尽というほかない。

 それに対し根を上げたのは、追いかけているフェリパのほうだった。

「アサシン!」

「了解しました」

 彼女は、枯れ枝や枯れ草で、もみくちゃになりながらも、自分のことはいいからとアサシンに先行するよう命じた。

 当人たちにその気がなくとも、秀には、始末しろという意味に聞こえた。

 いくら恐怖で足が速く動せようが、魔術なしでは、アサシンが気にするほどの速度は出せない。

 アサシンは、剣を切り上げた。

 しかし、その一閃は空を切った。

 力は加減しても剣速は加減していない。

 そのアサシンの剣を常人が避けるなどあり得ることだろうか?

 当の秀が一番驚いたことではあったが、奇跡は二度も続かない。

 即座に、降り下ろしが迫る。

「これで!」

 終わり。

 しかし、奇跡ではないことが起きた。

 軍配団扇が、アサシンの聖剣を受け止めたのだ。

「理由がなんであれ、丸腰に小僧相手に、剣を振り下ろすのは善行とは言えんな?」

 こうして、七騎目のサーヴァント、ライダーは現界した。

 

 此度、現界するサーヴァントの数を知っていたのは、監督役の教会、主催者、その情報を提供されていた陣営だけで、残りの陣営には知らない。

 しかし、目の前で現界されたアサシン陣営は当初の目的を嫌がおうにも変更せざるを得なくなった。

 なにせ、アサシンの聖剣を軍配片手に受け止め、余裕を見せるほどの力の持ち主だ。

 アサシンの戦友である片腕怪力の騎士でも、もう少しぐらつくだろうに、このサーヴァントは、それ以上に怪力なのか?

「そう急くな。我が軍配は剣に劣らず、だ」

 ライダーがアサシンの剣を弾き飛ばした。

 日本には、軍配で刀を受け止めた逸話のある英霊がいるのだが、英霊に疎いフェリパには、なにがなんだか解らない。

 アサシンは、自らのマスターに、念話で撤退を進言し、了承を得た。

「軍配で我が剣を受け止めた様は、見事としか言い様がない。此度の勝負は預けるが、いずれ我が剣を受けていただく。それまで、射撃には特にご注意をされるように」

 これは、軍配一つで真名を気取られるライダーに対しての礼儀だ。

「うむ、忠告痛み入る。が、某は個人で武を誇る武人ではないゆえ、再戦の約束はごめん被る。巡り合わせに期待するがよい」

「ならば、そうするとしましょう」

 アサシンは、秀を一瞥しフェリパとともに撤退した。

 

 アサシン組の気配が消えたのを確認し、ライダーは後ろの少年に向き直った。

「さて、間者の目がない場所で話したいところではあるが、仕方あるまい。我がクラスはライダー。聖杯の招きにより参上したサーヴァントである。貴殿が某のマスターで相違ないか?」

「マスター……この状況で違うと思うか?」

 赤法衣の武将がマスターだのサーヴァントだのといった横文字を使うというのは、奇妙な感覚ではあったが、ともかく、右手に浮かんだこの赤い痣が契約の印なのだろう。

「なるほど、これは一本取られたわい」

 なんとなくは理解できた。

 なぜ、選ばれたのかは解らないが、今さっき、自分はマスターというものにされた。

 先ほどの二人もマスターとサーヴァント。

 確認もせずに、いきなり襲いかかってくる危険なやつらだ。

「ほう、やつらが許せぬか?」

「そんな顔してるか?」

 目撃者は消す。というのはありがちな話だし、恐怖から解放されて怒りがこみ上げてくることもあるだろうが、いまの自分はそんな気持ちなのかと秀は疑問に思った。

「うむ、その義憤、大いに結構。後は足元への注意を怠らなければさらに良い」

「それについては任せろ、なにしろ趣味は登山だ」

「なるほど、我がマスターは、なかなかに愉快なやつのようだ」

 豪快に笑うライダー、釣られ秀も笑った。

 

 ひとしきり笑った後で、

「ライダー、おれは、この戦いを犠牲なしで納めたい。出来るか?」

「出来ぬ。これは我らを含めた七陣営の戦であり、敵もいずれ名だたる猛者ばかりである。平穏無事はなく最後の一組になるまでぶつかることになるだろう。貴殿にとっては厄介極まることではあろう」

 さっきの二組以外に、あんなのが四組もいるのかと思うと気が滅入る。

 ともわれ、情報は得たいところだ。

「なら、被害が出る前に終わらせることは? いや、そもそも、なにが目的の戦いなんだ?」

 ライダーは自らの髭を撫でた。

「ふむ、説明するのは良いが、そこからとなると、少しばかり長話になる。さすがに、腰を据えて話せる場所はないか?」

「……おれの家でいいが?」

 高校生の身分では、結局のところはそれほど選択肢がなかった。

 

 時間は、数日前に遡る。

 烈火は集まった一族の者たちの前で、サーヴァントを召喚した。

 ここでサーヴァントの機嫌を損ねて皆殺しにでもされたら目も当てられない。

「召喚に応じ、参上したわ。なんでこの格好でアーチャーなのかは私にもわからないけれど」

 現れたのは、木製の杖にローブの姿の、いかにもキャスターな女性だった。

 本人は好みではないようだが、武器制限がない上に、アーチャーでありながら、なぜか所持している陣地作成スキルは、現地に魔術的な拠点を持つ烈火にとってはそれほど悪くない。

 マスターの後ろから鳴り響く拍手にアーチャーはため息を衝いた。

「あなた、ボンボンなの?」

「立場的には、ボンボンかも知れないが、そう呼ばれるほど、資産があるわけじゃない。後ろの連中に関してはスルーしてくれ。悪のりのごっこ遊びなんだ」

 これが、烈火の部下がやっているなら否定できるが、両親と祖父母が面白がってやったことだから本当にお遊びとしか言えない。

「なんとまぁ、こんな僻地でご苦労様ですこと」

 他人から見れば、中小企業の跡取り息子なんてそんなものだ。

 後ろで、父と祖父がすごくダメージを受けているが、スルーした。

「まぁいいわ。ここに契約は完了しました。マスター、次はどうしたい?」

「そうだな。なら、工房の強化をお願いしたい。これがうちの敷地図なんだが、全体を工房にするにはどれくらい掛かる?」

 工場の地図を見せた。

 サーヴァントに与えられた現代知識に縮尺など地図の見方が入っているかは解らなかったが、幸いアーチャーは理解してくれていた。

「あなたねぇ、この敷地全部をチビチビと固めるくらいなら最重要な場所をガチガチにするべきでしょ? それだって凝ってしまえば、時間はいくらあっても足りないのに。聖杯戦争の開催期間がどれだけだか知ってる?」

 たしかに、聖杯戦争は長くてもニ週間程度で決着が着く。

 拠点に引きこもるにしても過ぎてしまえば、過剰な防衛装置にしかならない。

 戦う相手もいないのにそんなものを残して置いては、魔術協会からどんな難癖を付けられるかわかったもんじゃない。

 それでもだ。

「敷地内にってのは当然として、俺とアーチャーの最重要な場所が必ずしも一致するとは限らないからな。敵もどこからくるか解らないなら、網が広いに越したことはないだろう?」

 目の前の炉は代々伝わる炎の欠片を穂先に持つ槍を種火とした、一族にとって最重要の場所だ。

 その槍自体も、使いこなせれば、相応の魔術礼装となるだろう。

 最後の手段となれば、この槍をアーチャーに使わせることもやむなしだ。

 彼女ならば、アーチャーであっても、にわが仕込みの学生が使うよりマシなはずである。

「一理あるわ。私も、ここは悪くはないのだけど、最重要になるかは歩いてみないと解らないものね」

 当のアーチャーは、暗所好みかと思えば、そうでもないらしい。

 むしろ、逆位置。影を侵略する者としての属性があるようだ。

「じゃあ、敷地案内も兼ねて回るとするか?」

「ええ、面白いものを見せてちょうだい」

 アーチャーは、思いの外、子供っぽい笑顔を見せた。

 賑やかしの前で、アーチャーに聖杯に懸ける願いを言わせるなどという愚行を犯さなかったのは、アーチャーからは好印象であった。

 

 時間は進む。

 アーチャーは、霊体化が出来ない、金属を持っていると弱体化するという問題を抱えていたものの、紋章魔術に関しては一流で、石一つで気配遮断の真似事まで出来た。

 陣地作成を所持していることといい、まるで、キャスターになんらかの方法でアーチャーの霊基を付加されているようであった。

 

 二人は、召喚を行った炉の前と洗濯物を干すのに使われる寮の屋上を重点に、敷地の木々のいくつかに防犯と防火、それに敷地をぐるりと囲むサーヴァント避け。

 その後、街中にも網を張った。

 そうとは知らない、サーヴァントを連れた少女たちと霊体化したサーヴァントたち。

 着けているほうのサーヴァントとそのマスターとの距離がどんどん離れているが、様子見目的にしてもこの二組が激突するのは時間の問題だろう。

 問題は、それ以外の魔術師。

 サーヴァントは、マスターとそうでない魔術師は見分けが着くのだが、問題はその人数。

 地元の名主権限で聞き出した情報によると先日から外国からの観光客が、急に増加したらしい。

 電車で小樽中心街まで乗り換えなしで行ける穴場とはいえ、さすがに急過ぎる。

 地元民が互いを監視しあっている中、余所者や根なし草みたいな連中が幅を利かせているのは良くない。

「まさか、全員がそうだってことはないよな?」

「あまり、考えたくない事態ではあるわね」

 ごくごく希に、サーヴァントを失ったマスターに敗者復活のような形で令呪が再出現することがあるのだが、さらに稀に、他の魔術回路を持つものに令呪が発現することがあるらしい。

 もしかすると、マスターを殺し続ければ、いずれ自分が参加できると夢見ている愚か者が大挙して街に押し掛けてきているのかもしれない。

「どっちにしたって、このままだと、妨害には遇うし、そう上手く野良のサーヴァントや令呪が出るわけもない」

 そもそも、殺されないようにサーヴァントを失ったマスターは、早急に審判役の教会に保護してもらうのが通例である。

 保護されているマスターを狙って、教会へ突撃などすれば、相応の返礼が返ってくる。

 サーヴァントが控えていても、それをすり抜けてマスターを潰す方法くらい、教会側は熟知しているはずだ。

 自意識過剰な連中がいくら返り討ちにあっても構わないが、サーヴァントを相手にして山のように積まれた死体の片付けだって楽ではない。

 しかし、おろそかにすれば、なおのこと面倒なことにもなる。

 これは、教会へ伝えなくてはならない。

 

 セイバーがアサシン組に攻撃を仕掛けた頃、ミラナは、久方ぶりに感じた視線に機敏に反応していた。

 授業中に使っていると、授業を脱け出したと思われるので使わないが、それでも視線が気になることはなかった。

 それに、自分は顔もスタイルも大したことない。

 出っ張りも無ければへこみもない、人目を惹くような見た目ではないのだ。

 故に、これは、妙だ。

 かと言って、セイバーを呼び戻すには足りない。

 しかし、この感覚はいかんともし難い。

 セイバーが離れて心細くなった?

 まさか、そんなことはないだろう。

 それでもいまはまだ、慎重に事を運んでおくべきだ。

 ひとまず、人目は避けた方が良いだろう。

 そう思って、ミラナは裏路地へと入った。

 

 土地勘のない場所で女性が裏路地へ入るのは良くない。

 しかも、ミラナは自分が狙われる側とも思っていない。

 ようするに、カモなのだ。

 サーヴァントを警戒してすぐに襲われることはなかったが、そのせいでぐいぐい奥へ入っていった。

 屋上からは死角になっているため、狙撃されることはなかったが、サーヴァントがいないと勘づいた者に出会い頭にナイフを降り下ろされ、ようやく現実に気づいた。

 セイバーへ魔力を回し、自分の気配遮断が疎かになっていたらしい。

 さて、どうする?

 砂を掛ける程度のガンドなら使えるが、それ以上の戦闘技能があるというわけではない。

 それでも、とにかく射ちまくって逃げなくては。

 後ろから追いかけてくる男やら女やらを振り切れず、裏路地から出たにも関わらず、また通りを渡って裏路地へ入る愚策を何度か繰り返した。

「にっ、人数が増えて……」

 この辺りは、普段は夜でも治安はいいほうなのだが、いまは魔術師・魔術使い問わず獲物を狙って徘徊している。

 後ろからに聞こえる理解出来ない言葉に不快感を感じながらも、ミラナは走り続けた。

 追いかけているほうに追跡のプロがいなくても、これだけ単調な逃げ方をしていれば、次に選ぶ道が読まれてしまう。

「捕まえた!」

 追いかけてきた者たちの一人が、ミラナの腕を掴んだ。

「―――――!」

「なにを言ってるかわかんねぇが、離して欲しかったら、令呪とサーヴァントを寄越しな!」

 思わず、母国語が出たが、解らないとは無教養な魔術師もいたものだ。これだから僻地の人種は!

「あなたに譲るものなんてなにもないです!」

 仕方がないので、日本語で文句を言ってやった。

「なら、腕ごと貰うまで――」

 言い掛けた男の身体ごどミラナは倒れた。

 少年が、男を蹴り飛ばしたのだ。

 ミラナは、即座に男の手を逃れ、壁を背にした。

 そこへ防寒コートを着たサーヴァントが、ミラナを庇うように入ってきた。

 翻ったコートの下の衣装は現代風で、いつの時代のサーヴァントかは判別が出来ない。

「堪えろって言ったのに。貴女もこれ以上ひどい目に遭いたくなかったら、教会に行くか令呪でサーヴァントを呼び戻しなさい」

 やはり、サーヴァントにセイバーが近くにいないことは誤魔化せないが、敵に背中を見せるとは、よほどの自信家か、侮られているのか。

 彼女は、ミラナに見切れないほど素早く指を動かした。

 遠巻きに見ていた魔術師たちとの間に、氷柱が立ち上がった。

 ともあれ、サーヴァントが出てきたなら仕方がない。セイバーを呼び戻さなくては。

 

 此度のセイバーは、本来はセイバーとして現界できるほどの技量があるサーヴァントではない。

 しかし、肉体はとにかく頑丈な上、ジークフリートやアキレウスのように致命的な弱点があるわけでもない。

 加えて、持っているだけで作用する相手を威圧し、幸運と魔力以外のステータスをワンランク低下させる兜とランクに関係なくどのような護りも貫通しうる可能性がある剣。

 勝てはしないかもしれないが、負ける確率も低い、耐えて勝つタイプのサーヴァントなのだ。

 しかし、セイバーには、自らを打倒し、その返り血を浴びた者に新たな能力を授け、最終的に悪竜化を感染させる宝具を所持している。

 このセイバーにも制御出来ないこの宝具で授けられる能力は、個々に違うが、人間である以上は欲があり、悪竜は糧となる魂と宝物を得るために人を襲う運命に変わりはない。

 もし、その能力が受肉であった場合、その者は魔力の制限なく暴れる悪竜となる。

 受肉した時点で、魔力切れで弱体化することはあっても消滅することはない。

 現代の人間の科学や魔術でそれを打倒するには、かなりの犠牲を払う必要になるだろう。

 そうでなければ、相応の価値のある物品を抱えさせ、巣に誰も近寄らせないようにしておくか。

 それを防ぐには、勝ち残るもしくは令呪による縛りが必要だった。

 『どのような攻撃に対しても血を流すな』という縛りが。

 結果、ミラナは、気休め程度のことに令呪を消費し、使いきったも同然であった。

 

 サーヴァントが近くにいたのでは、いくら欲が深くても手を出す気にはならず、ほとんどの者は早々に引き上げていった。

 

 そして、彼の宝具は、残った者、逃げ遅れた者問わず、威圧を与えている。

 これでは、友好的にとはいくまい。

「キャスターか?」

「いいえ、あなたのクラスは?」

 アーチャーと烈火は、フェリパたちが感じていたものと同じ威圧感を感じてはいたが、もともとの性格からか暗示や該当する加護なしでも動けなくなることはなかった。

「さて、なんだろうな?」

 セイバーが、一刀を浴びせた。

 アーチャーはそれを、あろうことか素手で止めてみせた。

 いや、手と剣の間に、見えない力場があるようだ。

「アイデアを聞いたときは、まさかと思ったけど、うまくいくとはね」

 どうやら、本当に防げるかどうかは賭けだったようだ。

 つまり、本来は持つスキルや宝具の類いではないということだが、この時代にサーヴァントに能力を追加する技術があるのか?

 彼女自身が半信半疑だったとすれば、施したのは他のサーヴァントか令呪にほかならないのではないか?

 その証拠にマスターの令呪は一画消費している。

 果たして、令呪を一画と釣り合うだけの効果時間を得られているのか?

「その剣じゃ、私には勝てないわよ」

 女が笑う。

「私たちは、増えすぎのザコに消えてもらうために教会へ行くの。せっかく、あなたのマスターを助けてあげたのだから邪魔しないでくれる?」

「ほう?」

 彼女が本当にキャスターではなくとも、杖を持っているなら、戦闘は魔術主体としてくるだろう。それなら、セイバークラスが負ける道理がない。

 あの力場は厄介だが、剣の真名解放を使えば問題ない。

 しかし、ここは無理はするまい。

「状況は理解した。我がどんくさいマスターが手間を懸けさせた」

 セイバーは、剣を鞘に納めた。

「ッ!」

 ミラナは、憤慨した。

 セイバーに、様子見を提案しようとした矢先にこれだ。

 この男は、全くもって空気が読めない。

「落ち着け、あんたはこの辺りの地理に詳しいわけじゃないんだ」

 烈火は、ミラナに指摘した。

 セイバーからの威圧感とミラナの存在感の薄さが同時に下がって、妙な感覚ではあったが、返答を聞かねばならない。

 言われて、ミラナは一呼吸置いた。

 なんとか、どんくさいだけでも撤回させたいが、それはまた後にでもすればいい。

「貴方は、この辺りの地理に詳しいです?」

「ああ、地元民だからな」

「なるほどです」

 彼のサーヴァントは、文句があっても我慢するというタイプには見えない。

 教会へ行き、あの無用に集まった魔術師たちを離れさせることに手を貸してほしいのだろう。

 それに地元なら、近場に工房の一つや二つ持っていてもおかしくない。

 無下に扱っても損をするだけ。

 いまみたいに狙われなくなって恩も売れる。

 素晴らしい案だとミラナは思った。

「たしかに、あまり好ましい状況ではないです」

 ミラナは、努めて澄まして言う。

 三人には、虚勢で表情と言動が一致していないのが見え見えで、いきなりなに言い出してんだこいつとしか思われなかった。

「ですが、一組だけで教会に行っても門前払いにあうだけです」

「おっ、おう」

 烈火は、この言葉使いがおかしい残念美女が悦に入っていくのを、どっちか止めろと思った。

 アーチャーは、マスターであるお坊ちゃんを、男の子って単純と眺めていた。

 セイバーは、アーチャーから財宝の香りがしないのに安堵した。

「なので、わたしたちも一緒に行くです。二組からの進言なら監督役も動かざるを得ないです」

「協力してくれるのか、ありがとう」

 烈火はひとまず礼を述べて置いた。

「はい、どういたしましてです。では、エスコートをお願いしますです」

 ついでに、セイバーにも母国語で、それで構わない? と聞いた。

「ああ、おれも構わないが、マスターは一人の相手から持たれるイメージは、一つに統一したほうが良いだろう」

 それだけ言ってセイバーは霊体化した。

 ミラナは、意味はわからなかったが、妙にイラっとした。

「……消えてから言うのもなんだけど、私は霊体化が出来ないから見える場所で見張っててもいいわよ?」

 アーチャーは、マスター狙いではないことを証明するためなのか、少しでも魔力を消費させたいのかわからないが、霊体化出来ないとは理由としてはどうかなのか。

「そうか」

 とりあえず再び現れたセイバーの腹に、無言で一撃入れた。

 手は痛かったが、気は少し晴れた。

 

 ライダーとの戦闘から撤退したフェリパたちは、今日は、拠点へ向かうことにした。

 拠点の条件。

 それは、サーヴァントの魔力の回復に適していること。

 魔術工房を作成することができること。

 若い外国人が居ても怪しまれないこと。

 そして、なにより快適であること。

 いくつかの候補からマンションで一人暮らしをしている女性宅を選択した。

 その女性は、若い医師で金銭に余裕はないかもしれないが、暇もなければ恋人もいない。

 ある程度、距離があるほうが、干渉されずに聖杯戦争に集中できるというもの。

 後は、フェリパは外国の知り合いであり、聖杯戦争が終われば、疎遠になったと徐々に忘れるよう暗示を掛ける。

 同時に、帰宅すれば、他から受けた暗示が消えるようにして置いた。

 マンションのチャイムを鳴らした。

 すっぴんの家主と言葉を交わし、来客がいないことを確認した。

 その間、アサシンには霊体化したまま室内へ入り、安全を確認してもらった。

 しかし、弱者を守護する騎士である彼が、必要とあらばと家主を見捨てられるものか?

 そして、フェリパ自身も……。

 かくして、自分たちも気づかないうちに、拠点とともに弱点を抱え込むこととなった。

 

「あら、先客がいたのね?」

 教会に到着したセイバー・アーチャー組を待っていたのは、聖杯戦争の間だけの一時的に滞在している修道女と男がニ人。

 一人は、ニ槍の朱い長槍を持つ、右目の近くに傷跡がある東洋人。

 服装は、黒いスーツだが、こちらはサーヴァント。

 クラスは、ランサーだろう。

 そうなると、こちらの一般人が思い描く魔術師の格好をした男。

 西洋人のようだが、複数の人種の混血なのか人種までは解らない。

 ずいぶんとでかいバッグを背負っている、こちらが、マスター。

 後、目に着くのは円にパーツを後付けした、鈍器のようなケルト十字架が二つ立て掛けてある。シスターの自衛用か?

「要件はおそらく同じでしょうが、まずは、ご挨拶をさせてください。ようこそ、神聖な教会へ。ワタクシは、テヘーラ=グラニ=ルネア=メビ=ド=ヘルペテ。ここでは囗許武不、皆様、武力の行使はご遠慮願っておりますわ」

 名前は偽名くさく、雰囲気もシスターらしからぬものがあるが、聖杯戦争の審判役はこれくらいでないと務まらないということなのだろう。

 しかし、顔といい言葉使いといい、彼女はまるで、

「了解しています。シスターテヘーラ、此度の用件は街に溢れた余所者の魔術師のことです」

「余所者のですか?」

「はい、彼らの存在は、聖杯戦争の妨げとなります。即刻、退去するよう警告を」

「警告だけか? 魔術師にしては甘い考えだ」

 マスターの男は、なに食わぬ顔で烈火に言葉を返した。

「甘いか? 死体の後処理が面倒なだけで警告に従わない場合はサーヴァントによる排除も覚悟してもらうつもりなんだが」

「死体は事故、戦闘の跡は大方ガス爆発として処理される。神秘の秘匿に関わってくるからこの点については抜かりはなく手間も惜しまない。面倒だのなんだのというのは、自身の本心を隠す言い訳に過ぎない。もっとも自覚があるかどうかまでは知らんがね」

 烈火は男を睨み付けた。

 見透かされた上、嫌味を言われたことに対するささやか過ぎる抵抗だ。

「名乗るのが遅れた。おれは、オジェット=バーネンハ。何処にでもいる、至って普通の魔術師だ。サーヴァントはランサー、真名まで明かす義理なかったな?」

 何処にでもいる普通の魔術師に、協会が依頼などするものか?

 ミラナはそう言いたかったが、後ろに協会がいる彼に因縁を吐けられるのは避けたい。

 他陣営と衝突して早々に敗退してくれるのが理想だ。

「その槍の色、気に入らないわ」

 そう思っていた矢先、アーチャーが難癖をつけ始めた。

 セイバーが難癖を吐けるよりましだが、下手をすれば巻き込まれかねない。

 気になることはあるけど、いまは黙って置こう。

 

「おれは気に入ってるけど、姉さんは気に入らなかったかい?」

「ダメよ、ダメダメよ」

 ランサーからすれば、目立つからと生前から好んで使っていた色だ。

 もしかして血の色に見えたか? とも考えたが、サーヴァントでありながら、血が苦手だの嫌いだので、文句を言うのは対決時ならまだしも初対面するものか?

 うむ、わからん。

 そうして、ランサーは知能労働をあっさり放棄した。

 女心は、嫁の担当。でも、堂々と意見を言える女とノリのいい女は好きだ。

 一晩中、電撃マッサージをさせられたことを、ウソは言ってないのノリで言いふらして蹴り飛ばされありがとうございますしたのもいい思い出。

 アーチャーの真名を知る烈火からすれば解らないでもないが、ランサーからすれば、とばっちり以外のなんでもない。

 対して、ミラナには、ただワガママを言っているようにしか見えなかった。

「でも、マスターがせっかく用意してくれた槍だからな。じゃんじゃん使っていくよ」

「じゃんじゃんか」

 その言葉にオジェットは苦笑した。

 本来なら、咎めねばならない発言に、なぜオジェットが苦笑したのか四人にはわからなかった。

 実はこのランサー、武器は消耗品としてしか見ていないのだ。

 そろばんは弾けるが、貴重だ豪華だと使い渋るタイプではない。

 おかげで、ただの槍も宝具として使用できるようになったのだ。

 ついでに、惜しまず使い潰されてゆく槍の代金はオジェットが前金で支払っている。

「それより、いまは魔術師です。追い出せるです?」

 ミラナは、話を戻した。

「そうですね。通達は出しますが、あまり期待はしないで下さい」

 ミラナや烈火から見ても、彼らも遊びで来ているわけではないのはわかる。

 魔術師は、一般人から見て、無情で、傲慢で、人当たりが悪いだけなのである。

 その中でも、殺されるかもしれないとわかっていると言いながら、殺される直前まで自分は大丈夫と考えている愚か者ばかりが集まったのだ。

 術者としての実力や魔術回路がどれほどかに関わらず、油断や慢心が身を滅ぼすのは何事においても変わらない。

「戦争の妨げになる要因を排除するのも、我らの勤め。ワタクシも若輩者ではありますが、頑張らせていただきますわ」

「……あれこれ抱え込んで、身を滅ぼさんようにな」

「ええ、忠告痛み要ります。ですが、先ほども申した通り我らの勤めですので、動ける範囲で、やれるだけのことをやるだけですわ」

「そこまで繰り返すなら、好きにすればいいさ。こちらはもう帰らせてもらうよ」

 オジェットは席を立った。

「今日はもう戦うつもりはない。誰も後ろから切り掛かってこないことを期待している」

 そう言い残して、彼は教会から出ていった。

「おれは、なにもしてないからどっちでもいいんだけどマスターはいやなら仕方ない。それじゃ、姉さん方もご武運をだ」

 ランサーもそれに続いた。

「挑発されたわよ。お坊っちゃん?」

 彼は、襲わないとわかっている相手にわざわざ襲わない言い訳を先に用意していったのだ。

「言わせておけ。今日は俺たちも帰ろう」

 アーチャーもいまは襲うべきではないと判断して、マスターと呼ばず、あえてお坊っちゃんと呼んだ。

「帰るです」

 それにしても、彼女に発音は完璧なのに、日本語は語尾にですを付けるなんて吹き込んだのは誰だ?

 

「社長! 社長! 社長!」

 ミケリーノは、勢い良く社長室のドアを開けた。

「社長! 社長!」

「騒々しい、どうした?」

「あのキャスターだか、バーサーカーだかわかんないやつをどうにかしてくれよ!」

 ダールマンは、わがままな部下と話を聞かない上司を持った中間管理職の気分になった。

「なんだよ、あいつ苦行苦行って、メシアも仏陀も言ってたぞ。苦行は無駄だって! 心理学者も言ってたぞ、人間は苦労した分だけ見返りがあると思い込むって!」

 ダールマンは、どうなだめればいいものかと悩んだ。

「心理学については知らんが、あのキャスターは、苦行を乗り越えるたびに力を得ていった英霊だからな。苦行をしていないと落ち着かんのだ」

 こちらは、お前がノリノリで日本語の勉強をするのに付き合うという苦行を乗り越えのだぞ。と言ってしまおうかと悩んだが、もうしばらく待つことにした。

「にしたって、いくらオレが不死身だからってあいつのペースに合わせてたら死ぬっての!」

 それが、不死身でなくとも思いのほか死なんのだ。と言ってしまおうかと悩んだがしばらく待つことにした。

「会長はあの歳で美人秘書とデートなのに、なんでオレは……いや、オレたちは留守番なんだよ? この時間になっても帰らないってことはお泊まりで朝帰りコースだろ!?」

 下世話な。と言ってしまおうかと悩んだがしばらく待つことにした。

「父娘で街を散策するくらい良いではないか?」

「……あれ、会長とあの秘書さん父娘なの?」

「……大方、あんな美人と会長や私が血縁には見えないと言い出すのだろう?」

「ああ、わかるわけがない。三人に血の繋がりがあるなんて」

「まぁ、そう思えるのは、わからんでもない」

 そもそも、我らは養子だからな。と言いかけたが、話が振り出しに戻るので止めた。

「だろ?」

 ミケリーノは、ダールマンがなにを思っているかも知らず、かってに納得した。

「ともかく、二人とも、数日は帰ってこない。お前の活躍は記録して置くから見えないところでもサボらず努力している様を見せることだ」

「そうなると、アレに言うことを聞かせないといけなくなるんですけど?」

 そこへ、

「おお、ここにいたか、マスターたちよ。さぁ、苦行を続けようぞ!」

 片眼のキャスターが突入してきた。

「げっ、追い付いて来やがった!」

 キャスターは、キャスターでありながら、狂化によって修行が苦行へと変わり、それに付き合わせたがる男と化しているのである。

「やべぇぜ、社長!」

 断る方法はあるが、キャスターと耐えた苦行は耐えた分だけリアルラックとして反映されるから悩ましい。

 まぁ、しかし、なんだ、

「キャスター。貴殿には、いま我々が苦行に耐えているのが見えていないようだ。私にはそれが残念でならない」

「なんと!」

「少なくとも私は苦行だと感じているよ。ミケリーノ、君はどうかね?」

「そうそう、オレも絶賛苦行中!」

「しかし、私はこの苦行に慣れ始める頃合いだ。この慣れを取り除くため半日の有余を設けた後、貴殿とともに新鮮な苦行を行うとしよう」

 実際は、助けを求めて来た喧しい男との会話という苦行にはまったく慣れていないのだが。

「おお、新鮮な苦行! 実にいい響きだ!」

 無意味にポーズを決めるキャスター。

 ダールマンは、この男はどのクラスで召喚されても時もこの性格だろうなと思った。

「ゆえに、ミケリーノともう少し話をするから席を外してくれ」

「うむ、待っているぞ!」

 なにが、ゆえになのか言ってる本人にも意味不明であったが、キャスターは納得したらしく、高笑いをしながら、社長室から出ていった。

「明日は、社長業務を休まんといかんな。それはそれで有難くはあるが」

「なんだよ、さっきみたいにごまかせないのか?」

「できん。キャスターの苦行は断り続けると運気が下がる。おまえの場合は……そうだな、女を口説いている最中に雰囲気を壊すトラブルが連続するようになる、か」

「なに! それは困る!」

 ミケリーノもナンパ師の端くれとして雰囲気がいかに重要か知っていた。

「くっ、仕方ない。社長、あんたが出るならオレも付き合うぜ」

 拳を握り悔しがるミケリーノに対し、小賢しい。と言ってしまおうかと悩んだがしばらく待つことにした。

「ならば、明日に備えて寝るがいい」

「ああ、そうするぜ」

 ミケリーノは来たとき同様バタバタと出ていった。

「せめて、今しがた使った分の運気くらいは稼がんとな」

 ミケリーノも、自分がドアを開けっ放しにしていたおかげでキャスターにドアを破壊されずに済んだ幸運に気づかないとは、まだまだだ。

 

 街に集まっていた魔術師たちに、一通りの通達を出し自室に戻っていたテヘーラだったが、聖堂に明かりが灯されたのに気付き、様子を見るため、聖堂へ戻ってきた。

「あら、帰っていたのですね?」

「ああ、今しがたね。起こしてしまったなら申し訳ない」

 テヘーラが、礼拝堂へ出向くとバルズ神父代行が、動物たちに囲まれて一人でワインを飲んでいた。

 彼は、何らかの理由で聖杯戦争の参加者が何組か訪ねてくるだろうと言い残し一人で出かけていたのだ。

「貴方が留守の間、面白いことに三大騎士とそのマスターが同じ理由で訪ねて参りました。そちらはなにか収穫がありましたか?」

 理由は、予想済みというよりそもそも魔術師たちの情報を流したのは、このバルズ神父代行だとテヘーラは見ている。

「うん、今後も期待できる有望な人材が巻き込まれてくれたようだ。彼女も君が望んだ通りのスキルを持つサーヴァントを引き当てている。残念ながら、クラスがバーサーカーになったせいで、帳消しになってしまったけどね」

「まぁ」

 仮に、彼女の魔力の質とマスター適性が一級であったとしても、魔術回路の数は、多く見積もっても一桁を出ないし、魔力の総量も少ない。

 その上、自衛手段もサーヴァントと子供の足しかない。

 これでは、どのような方法を用いても、望みの成果も得られまい。

 そのために、せめてスキルでの補正をと期待したのだが、ダメだったようだ。

 困った。

 なにせ、本命の前には、スキルが使えない時間で令呪によるアシストも不要と見謝ったとはいえ、防御特化時は、ライダーの聖剣の真名解放に耐えきった相手を排除する必要があるのだ。

 一撃にすべてを掛ける戦い方では、彼女の目的を達成することはできない。

 いつカウンターガーディアンやルーラーの介入があるかわからない事案からは、さっさと手を引いてほしいのだが、知らない間に頭をいじられたのか、敵意が強すぎるのか、暗示を掛けても忘れてくれない。

 そもそも、魔術なんていう世界情勢が見えていない連中に関わるべきではないのだ。

 まったく、ディアナは余計なことを言ったものだ。

 いや、ディアナのせいなどと他人事のように言ってはいけないな、これは私事だ。

「戦闘力は、バーサーカー、アサシン、アーチャーが頭一つ上で拮抗しているね。といっても、バーサーカーは下手に動けないし、アーチャーも同等の実力はあるけど、マスターは初見にしか通じないような小細工を労したいタイプらしくて、セイバーとだって、あのまま戦っていれば、たぶん最初の脱落者になっていただろうさ」

 あの二組は、戦ったあとだったのか。昔からの知り合いのように見えたが、魔術師ならそういうこともあるか。

「最後に、ライダーを引き寄せたマスターは、命じられた通り一体目のサーヴァントが脱落する前まで放置するように」

「…………」

 命じられた通りか。

 誉められたものではないが、テヘーラは、彼と違ってその『命じた主』が嫌いであった。

 六年前に新宿に現れた歌う灰の母体のようにカウンターガーディアンに袋叩きに遭って消滅すればいいとすら思っている。

 偶然を装おって、命令回避ができないものか?

「……いろいろ調べ歩いたおかげで、明日は寝不足のまま、仕事をすることになりそうだ。来訪者があれば応対するけど、それ以外は寝過ごして、かまわないかい?」

 誘っているのか? それなら、それで構わない。

「なら、買い物に行っている間の来訪者の応対だけお任せします」

「ああ、任されたよ。好きなだけ楽しんでくるといい」

 去年の九月に勧誘した少女たちも、ようやく輪廻に還し終えたところだ。

 どうせ、バルズ神父代行たちに街全体を把握する能力はない。

 どこからどこまでが、アドリブなのか解らないが、楽しんでこいというなら楽しんでくるとしよう。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定