Fate/underLine1999英雄選定   作:木浦

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やっちまったなと思うことその一『ガイダルは女性詞ではない、ミラナは女性です』
やっちまったなと思うことそのニ『ライダーのステータスと口調がFGOと違った』

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――4日目・前編

 街は、こんな状態だが、聖杯戦争は中止などされない。

 たとえ、泊まっているホテルが倒壊してしまったとしてもだ。

 むしろ、痕跡を隠しやすくなったといえる。

 魔術師としては、ありがたいが、それだけでは、人としては失格だ。

 現在ホテルは損害の確認中、避難を奨められたが仕事で離れられないと断った。

 詳細については、我ながら、うまく誤魔化せたと思う。

 その時、どこぞの会社のビルで、炊き出しなどの支援が行われていると聞いた。

 このビルは、セイバーは昨日まで在ることが気にならなかったという。

 無用心に行けない場所だ。

 さりとて、いまは復興作業の準備中で、どこもかしこも騒がしく、行かねばならない場所もない。

 これから、どうなってしまうのだろう?

 

 昨日の夜、あの戦いから声が聞こえる。

 ほかの誰も聞こえている様子はない、つまり幻聴、そもそも、声と認識しているだけで、本当に声かも怪しい。

 頭の中に、誰かが入り込んだみたいで、気持ち悪い。

 その声は言う、人類を滅ぼして世界を守れ。

 何様だ、馬鹿らしい。

 それなら、逆に人類を守ってやるわ!

 

 あの後、街中で人を助けて回った。

 ライダーを、コスプレと言う人もいれば、こちらからコスプレだと説明したりもした。

 女性の平均身長より少しばかり低い謎のコスプレ剣士。

 銃刀法違犯のおじさんと薙刀を持った高校生が街を駆け回っていたわけだけど、警察はほかで手一杯なのか、見逃してくれてるのか、ご厄介にはならずに済んでんだ。

 剣の腕は確かなのだから、真名が愛称として知れ渡ったかもしれない。

 それはともかく、寝る前より身体が重い。辛い。他愛ないことをさも重要そうに考えてしまうのはこのせいだ。

 小時間だけとはいえ、雨の中の作業。

 防寒具を着ていたのに、風邪を引いたとは思いたくないが、どうだろう。

 熱はなかったし、少し休めば動けるようになるはず。

「ライダー、付き合わせたのに悪いが、もう少し休ませてくれ」

 学校に被害はなかったけど、この状況なら休みだろうし、押し掛けてくるのも顔見知りくらいなものか。

「構わんぬ。拙者はお主のサーヴァントで、その前は将軍、その前は武者であったが、その前は農民で、民とは身近であった。率先して民を助けたマスターに文句を付けるはずもない。ゆるりと静養されよ」

 ライダーは笑顔で答えてくれた。

「ありがとうよ」

 気温、雨、倒壊した建物。昨夜だけで何人死んだかわからない。

 生存の確率は、時間が経てば経つほど下がっていく。いまからでも助けられるやつがいるかもしれない。

 いや、落ち着け。

 日向やテヘーラさんが、街のために動いてくれているはずだ。

 いまは、ローテーションの休息時間、落ち着け……落ち着け……。

 ゆっくり自分に言い聞かせる。

 

 街に昔からあった結界、これの配置に規則性はなく、結べば特定の形になるわけではない。そもそも、当時の人間に結界なんて概念があったかも怪しい。

 カタカタカタ。

 アーチャーの張った監視網、これは幅広いが一筆書きは出来る。

 時間の関係で死角なしにとはいかなかったが、通った道がすべて死角であったのは偶然だとは思えない。

 カタカタカタ。

 それに、アーチャーが気を向けられないように施されていたというダールマンのいる支社ビル。これについては、どこに結界の点を配置していたのかすら、わかっていない。

 アーチャーが気を回せるようになったのは、昨日の一件で綻んだか、破壊されたということだ。

 カタカタカタ。

 消された八家の一つも気になるが、そちらの洗いだしは祖父たちがやってくれている。

 こちらは、その間、被害確認に託つけてダールマンのいるビルへ行くことになった。

 霊体化出来ないアーチャーを連れていても、まさか、避難した人や支援物資を求めて人が集まっている場所で、仕掛けてくることはあるまい。

 カタカタカタ。

 海藤のほうは、考えて動いていたら、なにをしているか逆にわからなくなるから、同じ目線で考えたほうがいいか。

 カタカタカタ。

「で、お前はさっきからなにをやっているんだ?」

 街がこの状態でネットも使えないはずなのに、アーチャーはパソコンを使っていた。

 プリインストールされていたゲームをしているにしたって、タイピングスピードが速い。あれでは、パソコンの処理速度を越えてしまう。

「昨日のあれをなんとかする方法を考えてたら、やっぱり、私の宝具みたく殴れるタイプがいいと思ってね。それの基礎設計と制御システムだけでも用意しようと思ったの。昔……いや、未来かな? 姉さんが友達に預けた領域でのことだから細かくはわからなかったけど、影の国にそういうのを持ち込んだ女の子がいたから、たぶんいけると思う」

 基礎設計に制御システム、サーヴァントがパソコン上とはいえ、ロボットでも造るのか? そのパソコンにそんなことが出来るスペックはないはずだぞ?

 それに、影の国にマシーンで乗り込むなんて、いつの時代の何者だよ。

「昨日のやつと戦うなら20mくらいあったほうがいいかしら? そうなると、フレームや装甲にルーンを刻まなきゃいけないけど、それは我慢しましょう。でも、すぐ真似されたら癪だから、ほかの特徴、どこでも動けるようにしましょうか」

 パソコンを覗き込んでみた。

 こいつ本気だ。サーヴァントが本気でロボットを造ろうとしている。

 当然、金属製になるから、使いたくないルーンまで使うほどしっかりとしたものをだ。

「新商品の開発をしてくれるのはありがたいけど、あんまり要求スペックが高いものを提出してくれるなよ」

 我が社では、資金やパイロットを、ポンと用意出来ないし、人型メカなんて技術的に造れない。車両から非人型を経由すれば、なんとかなるか?

 パイロットも、秀にお友達価格でもやらせれば逆にいいのが出来るかもしれない。

「私がやれるのは、この通りに造ればいいってものの設計図を書くまでよ。ひとまず空陸水どこでも共用で動けるようにしておくから、武器とか通信機とか時間が掛かりそうな装置一式は任せるわ」

「マジかよ」

 サーヴァントは、天才以上とは言ったが、そこを外してくるのは予想外だ。

 

 アーチャーの言葉遣いは、この国での生の言葉遣いとして参考になるし、烈火とのオシャベリは気が楽だが、聖杯戦争の参加者同士で馴れ合いは良くない。

 烈火に相談するわけにいかないなら……そうだ、先生に相談しよう!

 そう思い、読めない文字を頼りに、語学教師殿の自宅を捜すことにした。

 住所、文字なんてただの記号だ。意味や成り立ちまで理解する必要などない。ましてや、読み方など……など……。

「外観だけでも聞いておけばよかった」

 歩きで回るには広く、倒壊している建物もある。

 電信柱についている標札と門に付いている表札から探してみた。

「セイバーは、人探しって出来ないの?」

「そこに、財宝の匂いでもあれば、見つけられるが、ただの人間相手ではな」

「ようは、財宝を持っている人であれば、見つけられるのか?」

 セイバーが欲しがる財宝なんて、こんな街にあるのか?

「隠し方にもよるな。当然、マスターに日本語を教えただけの人間なら興味はない。が、そいつが宝を隠しているなら話は別だ。手は貸してやるから名を教えろ」

「言われれば手伝ってくれるつもりだったのか。ありがとう、見逃さないでもらいたい文字はこの二文字、意味はわからなくていいから聞かないで」

 教えられた文字を描いて見せた。

 しかし、教えられた家のファミリーネームと先生のファミリーネームが一致していない。

 おかげで、人に訪ねても、必ず正解に当たると限らないじゃないか!

「ふむ、二文字は多くあったが、喜べマスター、その文字はなかったぞ。ところで、マスター、オレは貴様の師の匂いは知らんが、宝の匂いに関しては鼻が利く。もちろん、その男が宝の一つも秘蔵していないと思うなら、このまま宛てもなく探し続けることになるがどうする?」

 こいつ、名前を確認するだけだったのに、宝探しを提案してきた。

 宝にしか興味のない悪竜の意見だが、たしかに宝の一つも所持していないと思うのも失礼な話だ。

「上手く見つけたら、報酬に宝を要求するつもり?」

「つまらないことを聞くな。オレが行うのはあくまで略奪、報酬で宝を得るつもりはない。それも聖杯を手にした後にやるつもりだ」

 聖杯を手にして、巣を作った後か。

 でも、その時にこいつを倒せば、貴重なドラゴンの死体が手に入るわけか。

 手に架けて、咎められる相手でもなし。そうするか。

「わかった、略奪は報酬の聖杯を手に入れた後で存分にやればいい」

「ああ、マスターが願いを叶えた後の楽しみが増えたよ」

 根源に到達した魔術師に、ドラゴンの一匹がどれだけ対抗できるか見物だわ。

 

 自分が鋼を打つ後ろで、男たちが話をしている。

「ここを出ていく、その意思は変わらないか?」

「ああ、俺の仕事はアルファルズが引き継ぐだろうさ。もっとも、見た目や個性を着ける想像力なんてないだろうがな」

 『キャラかぶりでも個性』と言う感性はよくわからないが、姉妹が仲良くしているのが良いことだということは、わたしでも判る。

「きみもベルヴェルクのようにされるかもしれないぞ」

 ベルヴェルク。

 女を愛し、地位も記憶もすべて捨て、戦場へと赴いた。

 彼女のためならばと、愛すること、愛したことも不要。思い出も、これから作っていけばいい。

 それは自分に取って聞こえのいい言葉で、彼女に取ってどんなに残酷なことか考えが及ばなかったのは、やはり我々だと云える。

「詩を謳うしか取り柄のなかったベルヴェルクを仕官先ごと潰して、戦乙女の管理者だった俺には、なにもしないってのは、ちょっと考えられんな」

 たしか、生まれ持った役目の重要度に関してベルヴェルクは下から数えたほうが早く、彼は上から数えたほうが早い。

 それに、彼の仕事は容易にこなせるものじゃない。

「戦乙女を差し向けられるぞ」

「それも覚悟の上、自分の娘に殺されるなら、それも本望、ってのはカッコつけ過ぎか?」

 本気なのか、ふざけているのか、わかり辛いことを言う。

「そんな妄言を言っている場合じゃない、大王の四騎士も我々を狙っている。考え直したほうがいい」

 妄言か……。

「いまのが妄言に聞こえたなら、お前も相談役は向いてないぜ、ビヴリンディ」

 おれもそう思うよ。

 おかげで、打っている剣が名ばかりのものになってしまった。

 

 ドアの叩く音で、おかしな夢から自宅へ戻ってきた。

 無視したかったが、ものすごい叩いてくる。

「どれ、ここは一つ、拙者が行って」

「いや、一緒に行くよ」

 そう、自分にも言った。

「しかし、宝具の使用で消費した魔力が回復しきってないのではないか?」

 これ、風邪じゃなくて魔力消費が原因だったのか。

「でも、知り合いだったら、おれが出ないと逆に心配されるだろ? 顔見せくらいしてもバチは当たらないさ」

 そうでも思わなきゃ、メンドクサくて、動く気にならない。

 義眼の消毒どころか、外しもしていない、我ながらヤバい状態だ。

 ついでに、それもやっておかないと。

 薙刀を手に取り部屋を出る。少し重い。

「ライダー、必要だと思ったら」

「心得た」

 ドアを開けたとたん、不意討ちされる可能性もある。

 ライダーの剣みたくビームを射つことも出来るやつがいないとも限らない、アーチャーも巨人を使えば家くらい簡単に潰せる。

 家にいれば、安全とは言い切れないのだ。

 いや、そもそも、勝つことや生き残ることは、目的ではなかった。

「おれの目的は、街の人間を聖杯戦争から守ることだ」

「うむ」

 所詮自称の護衛役。それでも、

「その役目を放棄したら、堕落してほかのことも頑張れなくなる。先導したりも出来ないから、こういう言う方しかない。頼む、協力してくれ」

「サーヴァントの力を善行に使う。拙者にとって、これほど嬉しいことはござらぬ。こちらこそ、よろしく頼むぞ、マスター」

 自分への言い聞かせ、ライダーからの返事、薙刀は壁に立て掛け、深呼吸をしてドアを開けた。

「どちらさま?」

 そこには、やたら背の高い赤毛の女性と彼女と身長を比べちゃいけない男が立っていた。

 山で会った女性二人もそれなりに背が高かったが、彼女はそれ以上、男のほうは、ライダーと彼女の真ん中くらいだ。

「ッ! あなた、ライダーのマスター! です」

 出会い頭に、驚かれた。いや、本来ならこちらも警戒すべきところだった。

 日本語を習うのに、ダメな講師に当たったであろう、違和感のない発音で不自然にですを取って付けた彼女ではあるが。

「この場所は、あのシスターから聞いたのだ。不思議ではあるまい? それになるほど、名の通りか」

 後ろの男が言う。

 あの日、アサシンと戦っていた男。

 頭がフラフラして、動けなくなるスキルか宝具を使うやつ。

 クラスは、たしかセイバー。

 おれのところにライダー、日向にアーチャー、歌方にバーサーカー、フェリパさんにアサシン、オジェットにランサー、そして、主催者の部下にキャスター。うん、合ってるな。

 名の通りの意味はわからないが、テヘーラさんがなにか言ったのだろう。

「植物と同じ名前なんて気にすることか?」

「植物?」

 違うのか。この家におれがいることも知らなかったし、なにをしに来たんだ?

「そっちじゃないなら、誰の名前が気になってるんだ?」

 サーヴァント連れに警戒されては、ゆっくりお茶でもというわけにもいかない。

 頑張って、失礼だけはないようにしないと。

「ヴァーヴズ=オーダイン先生よです」

 よです。聞きづらい日本語だ。

「なるほど」

 我が祖父よ、あなたが変な日本語を教えたせいで、狙われてるんじゃないだろうな?

「残念ながら、昨日、入れ違いで旅に出たぞ」

 おれも彼女も入れ違った。

「――――……」

 なんと言ったかわからないが、マジかよ……とか、そんなところだろう。

 そんな表情をしてる。

 セイバーのほうは、やはりなという顔をしている。

「おれは、海藤秀。植物と同じ名前でライダーのマスターだ」

「カイドウシュウ」

「秋海棠って植物があるらしい」

「私は植物科ではないので植物は詳しくないです」

「草なんかより、オーディンと財宝の気配がするほうが重要だ。やつは役に立つものには、妥協しない。それが種一粒であったとしてもだ」

 オーダイン、オーディン、北欧の軍神。片目繋がり。

 魔法が身近だから、神の名も気になるのか。

 本当に力があったなら、片目を潰す一族に生まれた母も、息子が自分たちの死ととも思い出も忘れられることもなかったろうに。

「オーディンに関しては、名前が同じなだけだし、財宝もない。聖杯戦争に参加することになったのも、偶然。聖杯に掛ける願いもないし、一般人を巻き込まないようにしてもらえば、戦う理由もない」

「一般人を巻き込まないのはともかく、聖杯戦争の参加者は、率先して参加するか、聖杯に掛ける願いがあるかのどちらかで、偶然ではないです」

 なるほど、それがテヘーラさんの言っていたシステムが参加すべきと判断する基準か。

「たしかに、人に言える言えないはあっても、願いの一つもない人間なんていないから、理屈としてはそうだけどさ。おれにとってはどっちでもいいさ、聖杯も欲しけりゃくれてやる。でも、無関係な人間を巻き込まないことが条件だ」

「そこを気にするなんて、よほどこの街が好きみたいねです」

 この街が好きと言うほどではないが、記憶なしにとっても安心できる場所は、たしかに重要だ。

「祭りの時期すら覚えないけど、嫌ってはいないかな」

 この街に骨を埋める予定があるわけでもない、街はただそこにあるもの。

 その程度の認識だ。

「普通だよ、普通」

「その考えはオーディンの身内とは思えん。いや、やつの子でもまともなところはあったな」

 この口振り、トールとかとも知っているのか。詳しいやつならセイバーの真名を言い当てられるのだろうけど、おれの知識では足りない。

「――、―――――――――――――――――――」

 あんたは、日本語で話してくれ。

「現地に身内が居て、マスターが日本行きを決めたタイミングに都合よく現れたオーディンの名を冠する片眼の老人が、日本語を教えるためだけに時計塔に出入りしていたと思うか?」

「――――」

 名前だけで、なんでこんなに過大評価されてるんだか。

 孫が知らなくていい世界なのか、記憶が飛んだから過保護になってるのか。

「オーディンの身内を名乗れる実力があれば、昨日はもっと上手く動けたと思うよ。いまのままじゃ、渾名にも愛称にも出来ない」

「謙遜のつもりか?」

「事実だよ、素人なんだ」

 そう、素人なんだ。

 魔術に関しては、本当になにも知らない。

 アーチャーの魔術だって、ただ指を動かしていたわけじゃないから、見よう見まねで指を動かしてもなにも起きないはずだ。

「先生が本当にただ者なら、家になにもないはずです。探させてもらうです」

 たぶん、その先生は貴女方が思っているよりただ者だぞ。

「疲れてるから、寝かせて欲しいんだけど」

「そちらは寝ててもらって構わないです。わたしたちはかってに調べるからです」

 これは、断ったら難癖つけてくるぞ。

 これだから外国人は。

「ライダーを監視に付ける。それでもいいか?」

「構わんです」

 ライダーが武芸百般で対悪・対混沌に特化宝具持ちで、そこの混沌・悪面のサーヴァントに優位に立てるのを知らないからって、そんなことを。

「すまん、ライダー。お願いするよ」

「心得た」

 無言で会話を聞いていたライダーに仕事を押し付けてしまった。

 一国の主同然の大将軍に頼むべきことではないのだが、そろそろ立ったまま寝そうなのだ。

 背中を見せないよう、靴を脱ぎ、薙刀を手に取り、部屋に戻る。

「ライダー? 人?」

「姿が変わっているな。なにがあった?」

 ドアの影、死角にいたから、いるのはわかっても姿は見えてなかったのか。

「宝具を使ったら変わった」

「なるほど、セイバーと同……いやなんでもないです、我々は宝探しをするです!」

「ああ、ここには教会に運ばれた宝と同じ気配がある。なにが出てくるか楽しみだ」

 二人は、靴を脱がずに家に入って来た。

「待たれよ、お二方」

「なっ、なんです? この廊下に罠はないです」

「いや、日本では、家に上がる前に三和土で靴を脱げって教わらなかったか?」

 ライダーに任せればいいのに、思わず割り込んでしまった。

「靴です?」

「足跡がついてる。言っとくが、スリッパなんてものはない。文句があるなら、捜しものは諦めろ」

 仕方がないので、ありがちなギャップを指摘した。

 ライダーが素足で出入りしているのは、気づかないでくれ。

「よその国は知らないが、日本では普通のことだ。わかれ、セイバー組」

 焦っていたせいか、靴のせいか、セイバー組って言っちゃたせいか、彼女はポカンとしている。

「……ミラナです」

「ん?」

 ミラナ?

「ミラナ=ガイダール。名前です。マスターはわたしで、サーヴァントをメインにされるのも気に食わないです」

 そう言って、呼びづらいファミリーネームの彼女は靴を脱いで玄関に揃えた。

 対して、セイバーは、

「オレは貴様の命令に従うつもりはない。しかし、マスターの守護と財宝の探索という仕事があるのも事実だ。なので、貴様の巣に土足で入ってかつ床を汚さない方法を取らせてもらう」

 などと言うから、どんな手を使うかと思えば霊体化だった。

 確かに、靴は脱いでないし床も汚さない。下らないトンチか。床を汚さないよう配慮してくれてありがとう。

「オッケー、ミラナ組。おれが寝てる間にトラップと一緒に関係ないものまで壊さないでくれよ」

「靴は知らない慣習だから失敗しただけで、トラップなんか、発動前に解除できるわです!」

「たしかに、知らなかったなら仕方ない。トラップにも引っ掛かったら助けてやれないから、その心配がないのもありがたい話だ。安心して寝ていられる」

 それでも、起きたら関係ないものがトラップとして壊されてたり、ライダーが羽根で壁を擦ったりするくらいは覚悟しておこう。

「そんな顔をされると、先生秘蔵の霊装を見つけても、教える気が失せるです。あのサーベルみたいな霊装が出てくれば、あの突然現れる不死だけでなく、サーヴァントにも対処し易くなると思わないです?」

 日本で不死に対処出来る霊装、かどうかわからないけど、あれか?

 斎藤一も、丈夫な刀として一時期使っていたらしいから、男しか住んでいない家にあってもおかしくはないし、すべての力を引き出せば、スキルと宝具を封じたサーヴァントなら互角に渡り合えるけど、所有許可なんて取ってないから、我が家にあったら銃刀法違反になる。

 あるなら、大事になる前に、見つけてもらわないと。

「マスター、あれはサーベルではなくカタナというものだ。だが、材質はなんであれ、我が宝物に加えておく価値があるものも多い」

 現れたセイバーが、こちらを見ながら言った。見つけたら、いただいていくぞとアピールらしい。

「使えたとしても、サーヴァントと戦うのは勘弁してもらいたいね」

 もし、サーヴァントと同じだけ動けるようになったとしても、手を読まれてぼこぼこにされるのがオチだ。

「せいぜい、頑張って奪ってくれ。おれは寝る」

 その欲しがってるモノは、番を選ぶ。

 選ばれなければ力を貸さないことをセイバーが訂正しないのは、マスターの夢を壊したくないからか?

 ……なんで、おれはそんなことを知っている? そんな話を聞くことがあったか?

 いやいや、あれは番じゃなくて武器からデータを……まぁいいや。

 ほかにも、なにかやろうとしてた気がするけど、とにかく、寝直そう。

 

 朝が来て、昼が来た。

 フェリパはいつもの通り、昼食を作り、食べ、片付けた。

 この家に戻って来たのは、あの時、施錠している時間がなかったからだ。

 食事はもののついで。

 節約してもよかったが、食材を放置する気にはならず、通常通り使った。

 すぐ腐ることはないだろうが、これも慣習だ。

 街がこんな状態なのに、インフラが無事なのは気になる。

 さすがに、災害やらが多い国だけで片付けるには、無理がある。

 これから、どうすればいいか? というのが、目下の課題だが、この状況になっても、お嬢さまからはなんの指示もない。

 なにもなければと思ってしまうのは、メイドとしての性か?

「明子さんは、いつ帰ってくるかわかりませんし、いまのうちにスミレさんも誘って、街の様子を把握しに行きませんか?」

 被災した者は、学校などの公共施設へ避難しているが、この時間なら誰も彼もそこに籠っているわけではない。

 ここが襲撃される前に、この街のどこでなら戦えるかも、把握して置きたい。

「はい、私がいまだ現界しているということは、聖杯戦争はまだ続くということ。次の戦いのためにも、情報収集は積極的に行うべきでしょう」

「では、決まりですね。まず、スミレさんの自宅へ。不在なら、そのときに考えましょう」

 スミレには、先走るなと釘を指したが、彼女の性格からして攻撃されれば引かずに反撃するだろう。

 穏やかだけど、こだわっていることに関しての沸点はわりと低い。

 お年頃というより、優しいせいで大事なものが多く、それを傷つけられるとしっかり怒れる女の子。

 誰も手を出さなければ、家に潜んで居てもおかしくはない。

 避難しようと言う親と喧嘩になるまえに顔を出しておこう。

 

 オジェットさんによると、あの支社ビルの広場では、桜良心製薬やユグドラシル・コーポレーションなどいくつかの会社がボランティア活動をしているらしい。

 手配の良さに、ベルノルト=スキットル=ダールマンは、この事態を事前に読んでいたかのように思えた。

 事前と慈善、読んでと呼んで。

 我ながら、ダジャレみたいな言い回しになってしまったと表情が崩れそう。

 避難した人に紛れて襲撃したくもあったけど、神秘は秘匿すべし、ディアナさんに言われたことだ。

 この言葉がどれだけの拘束力を持つかわからないけど、いま騒ぎを起こせば、フェリパさんの迷惑になるかもしれない。

 母は帰宅していないどころか、足取も掴めない。

 この惨状で、電話も使えない。

 こういうときに、携帯電話はまだ早いというのが足を引っ張る。

 水道とトイレが使えるだけ、まだマシか。

「今日の夜、ダールマンのいるブルースカイウィズの支社ビルに乗り込む。お前はその間、敷地の外からビルを見ていてもらいたい。サーヴァントの眼があれば、ほかは動かないはずだ。その間に、ダールマンは仕留める。1時間もあれば、片付くだろう。その上で余裕があれば、キャスターも始末する」

 と、朝に告げに来たオジェットさん。

 相手は、乗り込んできたオジェットさんにはもちろん、バーサーカーにも気を張らなければならない。

 それだけで、オジェットさんがダールマンを仕留める確率が上がる。

 そう、ただ立っているだけ。

 とにかく、夜まで寝てまてばいい。

 だから、眠くなくてもベットに入っていた。

 そこへ、窓を割ってなにかが来た。

 先に気づいていたバーサーカーが斧で止めてくれたおかげで、飛んできた槍は刃先しか部屋に入らず窓ガラスも飛び散らなかった。

「あれが件の槍か。マスター、家に穴を開けることになりそうだ」

「穴だらけにの間違いじゃない?」

「いや、特性を見抜けば……」

 バーサーカーが動き、わたしの身体は痛んだが、バーサーカーは鞭のような剣で壁を貫いてきた槍を巻き取り、それを足で抑えつけた。

「後は予測できる」

 加減なく魔力をもっていかれるのは昨日もやられたけど、最小限の動きで済ますなど、バーサーカーなりに加減はしてくれている。

 でなければ、作り笑顔どころではなく痛みで死んでしまう。

「バーサーカーはスゴいね」

 特性の自動追尾、そこから、いつどこからくるかまで予測できるなんて、これも無窮の武練の効果?

「オジェットさんが行く前に、キャスターが先手を打ってきたのかな?」

「まだ断定出来ないが、マスターを狙っているのは間違いない」

「そっか」

 この槍の形状、あのとき見たのと同じだ。

 大量生産すれば、自動追尾するミサイルの出来上がり。

 そんなもの、一級のサーヴァントでなければ相手にならない。

 家ごとやられても、いまの街の惨状を考えれば、誰も騒がない。

「たしかに、わたしは、槍一本で済む力しかない」

 悔しいが、それは事実だ。

「でも、バーサーカーは違う。バーサーカーの強さはきっと誤算になる」

 本来、戦闘技能の乏しいサーヴァントが、せめて殴りあいだけでも優位に立てるようにしたのが、本来のバーサーカーだ。

 そんなバーサーカーでありながら、彼の実力は数々の戦士を育て、自らその相手もした一流のもの。遅れを取るはずがない。

 その分、負荷は凄いが勝つためには耐えなくてはならない。

「神話で、この槍が折られた話や新しいのを創ったって話は見つけられなかった。つまり、新しい槍が飛んでくることはない。バーサーカー、この槍は残しておけない」

「了解した」

 バーサーカーが、力を込める。それでも、槍が折れることはなかった。

 バーサーカーは、マスターのせいでステータスが下がっているが、筋力はBランク。

 アサシンも同値だが、いまの時間帯ならそれ以上の力が出せるし、聖剣もある。

 この槍には、優位なのだ。

「破壊して」

「了解した」

 が、それに頼るまでもない。

 バーサーカーは、魔力の消費量ゆえに、実戦では真名解放できない宝具を器用に使って槍を灰にした。

 

「……我が神槍、いま焼かれました」

「そうか」

 シスターの言葉に、片目の老人は静かに答えた。

「授けたものとはいえ、あの槍は大神にとっても、貴重な品。それをローサーヴァント一騎に対して無用に消費した。いったい、なにが狙いです?」

 バルズ神父代行が老人に質問した。

「それはな、戦いに置いて、あの槍がどれほど役に立たないか見せておく必要があったからよ。世界は広く、世界樹の上からでも見えぬものはある。それを解らせるには実演してみせるのが手っ取り早い」

 そうしなければ、焦って枝を抜きかねない。

「あの方から不信を買いかねませんよ?」

「あれは、力の大半を委ねた老人や神槍を焼かれた戦乙女が歯向かうとは思っても足を掬われるとは思うまい。神槍よりサーヴァントのほうが役に立つとわかれば、貴公の忠言を聞き入れる余地があるはずだ」

「……言伝てがあれば承ります」

「わしのほうからは、事実を伝えてくれるだけでよい。シスターはどうか?」

「では、私闘と神槍を失った処分はいかようにとお伝えください」

「承りました。しかし、弁護については期待しないでいただきたい。なにせ、わたしは口下手ですので」

 そう言い、彼は教会を後にした。

「次はお主の番か。避難者の出前、いま消えられては困る。槍を使わせた分の手助けはしてやりたいが、ダメか?」

「ダメですね。冷徹なわがまま娘を待たせてもろくなことになりません。違契借家の身の上で挨拶はしたくはないのですが、多面他人ではないことは伝えてはおかないと、込み入っているときに来られても困りますから」

 魔術師、ましてやその裏家業の人間に身内の情など期待出来ない。

「彼女が、こちらの手を把握するまえに終わらせてきます」

 老人は、ケルト十字にも似た盾を持った彼女を見送った。

「たしかに、あれこれ言える立場ではなくなったが、必要とあらば難民の話し相手くらいはしよう。老人の発する言葉だからこそ聞こえるものもあろう」

 

 身体に染み付いた感覚故か、彼女の位置はすぐにわかった。

 視線を向けると、バルズ神父代行が離れるのを待っていた彼女は姿を現した。

「こんなところで、シスターの真似事ですか? それとも代行者の使い走りに落ちましたか?」

「…………」

「ご当主が、駒を動かそうとしています。貴女も本来の役割を果たしていただきたい」

「……残念ながら、その役割を果たすべき彼女は死に、いまいるのはしがない機織り女に過ぎません」

「機織り女? さっきの修道士にでも惚れて気が狂いましたか?」

 ディアナは、この発言は心底気持ち悪いと思った。

 本人は、挑発ではないのはわかるが、相手の性格と恋愛対象と見れるかは別だ。

「いいえ、違います。貴女なら判るでしょう? ワタクシが貴女の姉とは別の」

 その目を見たフェリパは、テヘーラの言葉を遮るタイミングで攻撃を仕掛けた。

 

「ディアナなら反応出来ないと思ってのことですか? ワタクシは、貴女が笑っていた言葉遊びをしていないでしょう? ワタクシの言ってるのは比喩ではなく事実です。ワタクシはディアナではありません」

 メイスを姿勢を変えずに受け止めた姉の身体を使うなにか。

「では、問います。貴女は何者ですか?」

 メイスを打ち込んだ瞬間消費された魔力はサーヴァント並みの魔力放出だった。

 七騎以上のサーヴァントが現界する聖杯戦争など、本物の大聖杯もなしにできるわけがない。

 まさか、この街に? たしかにそれだと、いろいろと辻褄があってしまう。

 しかも、ディアナに憑いているのは、ただの亡霊の類いではない。

 あの臆病な次期当主が、ディアナを使って降霊術をするとは思えないし、弟のほうにはそこまでの技量がない。

 何者の仕業だ?

「ワタクシが、何者かは考察するのは自由ですが、いまは聖杯戦争の監督補佐、シスターテヘーラ、一人の人間に過ぎませんよ」

 魔術の種類だけ、どうやったかが存在する世界で、どうやったかを問うのは、まさに愚問だ。

 考えるべきは、ディアナに憑いている理由、目的だ。

 彼女がやったことで特筆すべきは、先ほどの投げ槍、バーサーカーか、そのマスターを狙ってのこと。

 自動で向かうなら、狙うのはマスターだが、歌方スミレは強化魔術すら使えないマスターで、魔力もサーヴァントを使役するには心もとないどころか最底辺を下回るのレベルで、始末しようと思えばいつでもできる。

 なら、あの場に、別の誰かがいた?

 これは、情報を集めないといけない。

「この状況で3秒も悩むくらいなら、早々に引き上げていただきたいのですが、いかがでしょう」

「そうですね、今回は我々の敗け。大人しく引き下がるとしましょう」

 わかったのは、投げ槍と盾、機織り女。

 正体には届かない。そもそも、サーヴァントのような伝承があるかもわからないのだ。

 最高峰の使い魔であるサーヴァントには劣るとは思うが、侮るのは危険だ。

「貴女は、パスも回路もそのままなのに、私の打ち込みを片手間で止めました。そんな使い方で身体が持つとお思いですか?」

 私たち姉妹に身体能力の差はない。

 それに、ディアナは使いなれた暗示が効かない相手、護衛対象、相手も無傷で下がらせねばならないと悪条件が重なっても、圧倒しているふりはしない。

 身体と中身で戦闘スタイルや思考パターンが違うということは、

「重要な局面で足を掬われる前に、ディアナの身体から出ていくことをお奨めしますよ」

「なるほど、人間でもパスを繋いだ者同士ならではの気づきというものがあるのですね?」

 つまり、人間ではないが、人間ではない者同士でパスを繋いだことがあると?

「姉妹が大切なのはわかりますが、ワタクシにも仕事があります。それが済むまで、この身体を渡すわけにはいきません」

「その仕事は、いつ終わるか、わかっていますか?」

「…………」

「やはり、そうですか。未定なら、こちらの用事に手を貸してくれても問題ないと思います」

 当主どころか、次期当主までやる気を見せている。

 もう、内部からでは、止められない。

 なら、自分たちにとって有用な魔術師に勝ってもらうしかない。

 そのためには、少しでも多くの戦力が必要なのだ。

「残念ながら、ワタクシは役目を果たすだけのシステムに過ぎません」

「なら、役目を果たせなかったシステムがどうなるか、それを忘れないで」

 捨てゼリフを残して、逃げていないかのように、この場を去る。

 いま置けるカードは、すべて置いた。

 あとは、相手がこちらの手に負える相手であることを祈だけだ。

 

 ミケリーノたちは、歌方スミレの家に神槍が撃ち込まれるのを、会社の屋上から見ていた。

 会社の屋上、社長室の上からの眺めは、なかなか良かったが、そこで見たのは、家に入ったまま神槍が戻っていかないという、ヤバいものだった。

「マスター、我が智神の槍は、その場に留まる槍ではないのだ」

 それは、あまり聞きたくなかった話だよ。

「私は、神槍の行方、そして、それにどう対処したのかを知らねばならぬ!」

「だめだ、絶対にだめだ!」

 たのむから、余計な仕事を増やさないでくれ!

「いざ!」

 キャスターに掴まれたミケリーノは、屋上にいたこと、キャスターの横にいたことを激しく後悔した。

 少女は、それをニヤニヤと眺めていた。

 

 キャスターは神秘の秘匿など無視して街の上空を飛んでいた。厳密には、ビルを蹴った勢いで移動、ようはジャンプしているのだ。横に。

 キャスターに掴まれたミケリーノは、このスピードなら服が破れるなりして、落下したら、魔術で強化しても死ぬなと考えていた。

 サーヴァントのやることに、魔術で挑むのはバカのすることではあるが、こんなバカな理由で死にたくない。

 かといって、このまま目的地に到着しても衝撃で死にそうだし、いまさら令呪を使っても結果は変わらないだろう。

 いや、難しく考えるな、判断が遅くなる。

「キャスター、着地する前に俺を上空へ投げて、一度着地してから上空にいる俺をキャッチしてくれ」

「うむ、了解した」

 こちらの意図が上手い伝わったかも判らないが、とにかくやってもらうしかない。

 バーサーカーのマスターの家がぐんぐん近づいてくる。

 さぁ、こい。

 無事に生き残るか、お嬢様に笑いをお届けするだけで終わるか、勝負だ!

 

 宝具を使わせた瞬間、痛みが走って、身体がおかしくなった。

 まるで、身体の中でなにかが切れたような、目の前は赤くなり、痛みは消えた。

 なるほど、魔力を吸われ過ぎると人間はこうなるのか。

 かまわない、もとより死ぬ気でやっている。痛まないなら好都合というもの。

 槍か焼かれるのを事前に予測していたのか、怨敵が来た。

 厳密には、まったく同じってわけでもないし、マスターを上に投げて落ちてきたところをキャッチした理由はわからないけど、とにかく、

「敵討ちの機会が来たってことね」

 部屋で待機か、人目を避けられる場所へ行くか。

 相手はこんな状況でも攻撃してきたやつだ。

 場所を変えても意味はない。

 それに、背中を見せるのも危ない。

 キャスターのマスターと目が合った。

 敵に、パジャマ姿を見られるのは非常に恥ずかしい。

 せめてもの抵抗として、睨んでやった。

 彼は額に手を当てた。

 次にこちらの見た時は、目付きが変わっていた。

 なるほど、殺す気なったというのは、こういうことか。

 目の色が変わったという表現はぴったりだ。

「お初にお目にかかる、我はキャスター! 貴公がどこの国の英霊で、なにを得意としているのかも、いかようにして我が智神の槍を排除したのかも、わからぬ。ゆえに、貴公には全力を見せていただきたい!」

 キャスターの言葉に反応し、バーサーカーは声を掛ける間もなく割られた窓から飛び出して行く。

 身体は痛まない。

 そうだ、全力でやってもらうからには、この程度で動けなくなっては困る。

 わたしの反撃は、これからだ。

 

 まず、上空にいる間に矢を射ってきた。

「智神の槍よ!」

 その矢は神槍で打ち払った。

 続く槍は神鉄の盾で払った。

 着地したバーサーカーは、今度は金属の鞭を振るう。

 これは神槍の石突きを持って巻き取った。

 ならばと、空いている手で斧を神鉄の盾に打ち込んでくる。

「貴公の技からは、神の息吹を感じる。神域に達したもの、神の加護を受けたものは数居れど、神の技を写したものはそうはいない。実にスバラシイ!」

 バーサーカーの武器は神の加護も受けたものであるが、それとは別に神霊サーヴァントでないにも関わらず、技自体が神霊のような気配を放ってくる。

 神でなく、神の加護でなく、神の域に届いたわけでもない。

 実に学びがいのある、全力を出させた甲斐のある相手だ。

 

 この槍を焼いても、三本目、四本目と出されるだけ。

 それなら、マスターの負荷の高い宝具は使うまい。

 どのような力であっても、この剣鞭なら真名を解放せずとも巻き付けておくだけで封じることが出来る。

 破壊するのは、この男が槍を使うときでいい。

 それより、部屋から飛び出した一瞬だけ走ったパスのノイズ。

 マスターから送られてくる魔力量は増えはした。

 なにかある。が、予測は狂化に邪魔されてか浅いところで止まってしまう。

 だから、あえて真名解放はせず、打ち負かす。

 すでに片腕は封じているのだ、次は反対の腕を突破すればいい。

 斧を打ち込んでも、盾は砕けそうにない。

 斧を天に返し、今度は棍棒を呼び出す。

 棍棒を打ち込んだ盾は鑼のような音を響かせたが、砕ける様子はない。

 しかし、叩き続ければ盾が無事でも、腕のほうは無事では済むまい。

 

 キャスターとバーサーカーの戦いの音がここまで響いてくる。

 キャスター、令呪を使う。なんとか堪えろ、なんなら勝ってもいい。

 念話で、キャスターに指示を出し、返事を待たずに令呪を一画使用した。

 社長のバーサーカー対策を使えなくしたのは、キャスター自身なのだからそれくらい責任を持ってもらう。

 人間が一度に放出できる魔力には限界がある。

 しかし、サーヴァントは回す魔力は多ければ多いほど強化される。

 一級のサーヴァントに、無制限の魔力、そこに狂化も乗って、もともとAだったステータスなら、+が三つ付いているものがあってもおかしくない。

 考えるのを止めて、神に祈りたくなる事態だ。

 対して、キャスターは、主神の恩寵でステータスの底上げされているとはいえ、それでも、魔力切れをしない全力のバーサーカーに勝てるとは思えない。

 不本意な仕事だ。あの娘がどれだけ世の中を怨んでいるかは知らないが、個人でしていいことには限度がある。

 バーサーカーのマスターは、相変わらずこちらを見ている。

 そんなに見つめてくれるな、気分が悪くなる。

 割れている窓に向かって、一発射ってみた。

 それは最低限の動きで避けられた。やはり、これだけ離れていれば、弾道予測はできるか。

 凡庸なサーヴァントや回避特化の人間でも避け難くなる3m圏内からの射撃なら、当てるぐらいはできると思いたい。

 それでも、通常弾が効いてくれる保証はない。効かなかったら、令呪でキャスターを呼ぼう。

 成り立てなら、サーヴァント1騎でもなんとかなるはずだ。

 窓へ飛んで無防備になるわけにはいかないので、正面から家に入る。

 案の定、上から見た家の奥行きと内部の距離が一致していない。

 その上、光源はいじられていないので、窓のない通路の奥は薄暗い。

 スイッチを入れて点灯するライトは二つ。ないよりマシか。

 ドアの隙間の足元に侵入感知のためであろう、血判が捺されている。

 足元に設置したのは、汚れと勘違いさせるため、攻撃性がないのは、これの存在を気取らせないための小細工。

 バレれば、襲撃者を急かすことになる。

 これを付けたときは対面するまでの時間を少しでも長くしたいと考えていたはずだ。

 指のサイズ、子供のものじゃない。形からして、あまり指に力を入れない性格。

 思い付くのはアサシンのマスター、事前情報のわりに体力がなく体幹が弱いとは思っていたが、顔だけ変えた別人だというなら、納得だ。

 問題は、この状況。手間取れば味方に、早く済めば敵になるアサシンの存在だ。

 一目すればこちらの味方にするのは昨日の行動からもわかるが、アサシンが敵になったとなれば、危機感から自分の転移能力に気づくかもしれない。

 そうなっては、後々面倒だ。

 早急に駆除しなくてはならない。

 そのためには、奇襲役が必要になる。

 元々が普通の民家なら、二階へ行くのに複雑な通路はあるまい。

 銃の弾数はただの子供一人殺すには十分だが、何発で死んでくれるかわからない相手への道中で無駄弾は使えない。

 かといって、ゴリラではないから、ナイフだけで突破しようとするのも自殺行為だ。

 だまし絵の中でリトライを繰り返すのも、ごめん被る。

 戦闘は極力回避して、迅速に進むのが一番だ。

 ナイフで壁に一撃入れた。

 キズはつかない。

 木製に見えるが、実際は研いた鉄より固い硬質。

 それでも、建物自体が生きているという可能性はなさそうだ。

 呼吸、脈拍、心拍数、どれも許容値。

「確認できることは確認した。それじゃあ……行くとしますか!」

 彼は、当然のことながら、靴を脱がず敵陣に踏み込んだ。

 フェリパ以外の人間が丁番に細工をしていることに気づかずに。

 

 スミレの家の近くで、大きな魔力の衝突、それに続けて、家に魔術回路を回しながら侵入したやつがいる。

 家の周りにも、同じ結界を張っていたが、昨日の騒ぎのせいで切れてしまっていたらしい。

 家の中には、なにも仕掛けてない。バーサーカーが誰かと戦っているなら、スミレは無防備だ。

 この状況では、急いでも間に合わない。

 間に合わなければ、仇討ちをするだけだが、急げは助けられると思いたい。

 戦っているのは、バーサーカー以外のサーヴァントで、バーサーカーはスミレの近くに控えている可能性だってなくはないのだ。

 罠を警戒すべきなのに、こんなことを考えているのだから、根が戦い向きの性格じゃないのはわかるだろう。お嬢様はわからなかったのか?

 アサシンに担がれて移動するのはいい、友人が増えたのもいい。が、それ以外の部分で文句を言いたい。

 お嬢様、いまどこにいらっしゃいますか?

 

 相手がモンスターの類いなら、どこから不意討ちしてくるかわかったもんじゃない。

 だから、警戒は天井から床までしっかりしなくちゃならない。

 奇襲にも警戒しつつ、ドアがあれば、耳を着けて中の音を盗む。

 音がしないのを確認して開けたら、なんの仕掛けもない壁だった。

 そんなことが、続いているが、確認を怠る訳にはいかない。

 なにせ、予測に反して、二階への階段が見つからない。

 日本の家は狭く角もない。

 そのおかげで、距離感が弄られていても端にあるリビングまでいくのは容易だった、途中に階段はなく足元や天井にも仕掛けがないため、ドアを一つ一つ開けて確認する必要が出てきたというわけだ。

 本来はどうだったかわからない上、窓の数も数えていないから、予測するしかない。

 ありがたいことに、化け物に遭遇することなくドアのチェックが終わった。

 いつもなら、ひどい焦らし方だと思うだけだが、今回は仕掛けた当人にも厄ネタになっているから。

 マスターとサーヴァントを引き剥がせたのに、肝心のマスターにたどり着けない。

 たどり着けたからといって、あの化け物相手では、経験しか優位なものがない。

 一番楽な相手だったはずが、一晩でこんなにも厄介なことをしてくるようになるなんて思わなかった。やはり、あれを人間の常識で考えるのはいかんな。

 バーサーカーが、人類の敵なら誰であれ容赦しないタイプだったら、こんな苦労もなかったというのに。

 さすがに、アサシンのマスターは屋根を渡らずに来るだろう。

 そうなると、先に狙われるのは、二階ではなく外から丸見えの位置にいる敵だ。

 共闘も、状況を把握してもらわなければ、無理というものだ。

 魔術師の足なら10分、サーヴァントの足ならもっと速い。

 ここに入ってから5分が過ぎようとしている。

 つまり、先にアサシンと鉢合わせする可能性が高い。

 時間がない。

 バーサーカーがあれでは、トドメをさせない位置にキャスターを呼ぶわけにもいかない。

 戦場で生き残る術は、それなりに知っているが、一体を確実に仕留める術に関しては、素人同然だ。

 少なくとも、集中を乱していいことはない。

 愚痴でも言って落ち着いておこう。

 いまさら、無理をしていた凡人なのでこれ以上のことは出来ませんで済ますわけにはいかないのだから。

 

 屋根の上にいるバーサーカーと初めて見るキャスター。

 様々な武器を駆使しながら戦うバーサーカーと高笑いを上げながら戦うキャスター、その姿はどちらがバーサーカーかわからない。

 スミレの家の二階の窓は割れ、玄関のドアは開けられたままだ。

 キャスターの相手はバーサーカーに任せて、先にスミレの安否を確認しないと。

 人探しのための魔術は知らない、キャスターのマスターに先回りは出来ないという考えを振り切って、二階から入る。

 子供部屋、そこにいたのは、塩の化け物。

 昨日ので全部じゃなかったのか。

「アサシン!」

 向かってきたところをアサシンに首を跳ねさせた。

 

 なんで?

 

 人型と呼べなくもない姿だったそれは、絶命して粉々になった。

 大きさは、スミレより二回りほど大きい。

 襲われれば、スミレの生存は絶望的だ。

 もしかしたら、どこかに隠れているかもしれない。この部屋でなくても、別の部屋にいるかもしれない。

 まだ希望は……。

「先を越された、いや、手間を掛けさせたか?」

 部屋に入ってきたのは、おそらくキャスターのマスター。

「スミレさんを、バーサーカーのマスターを知りませんか?」

 努めて冷静に聞いた。

「ここにいた化け物が……俺の場合、窓から入ろうとしたら無防備になるからな。時間が掛かるのを承知で下から向かっている間にやられちまったんだろうな。バーサーカーがまともだったら、結果も違っただろうが」

「…………」

 バーサーカー、いったいなにがあったのか、彼ならマスターを連れて逃げることだって出来たはずなのに。

「マスターがいなくなったバーサーカーには、話す時間もない。あいつの始末はキャスターにやらせとく。お前らはここに居てやってもいいし、気の済むまで家の中を探すでもいいし、好きにやりな」

「…………」

 たかが、数分のやり取りでどっと疲れた。

「アサシン、少し警戒をお願い」

「御意」

 友人の死というものは、存外堪えるものだ。

 

 やればやるほど、出来ないという根拠がつみ重なっていく……。

 それでも、諦めずに……。

 

 人間は物事を忘れる生き物である。

 しかし、忘れていたことを、いきなり思い出すこともある。

 世界地図が、記憶と実際とで違う場合もあるから世界線を飛び越えている可能性もある。

 77,772,227回。

 それが、歌う灰の母体と対面で戦って返り討ちにあった回数で、ほかのを含めるともう少し多い。

 ……たぶん、少しだけ。

 生き残るためと割り切って犠牲を出しても、結局は失敗してしまう。

 人が創れる聖杯では、歌う灰の母体を消しさるだけの魔力をくべられない。

 代わりに、肉叢をすべて消しさっても、自分たちを強化しても、一時しのぎにしかならなかった。

 世界は霊長が無意識に考えている方へ流れる。

 肉叢にアラヤを抑えられた時点で、霊長が起こす奇跡に頼ることも出来なくなった。

 だから、正道を外れて場所にいる方を頼ってみた。

 フィリップや剣崎さんの手を借りて、ようやく巡り会えた盟主の言葉。

 あなたには、足りないものがある。

 それが自覚出来なければ、名も無き兵士に劣る。

 他のことは他の者に任せて、自分のことに専念せよと。

 言われて、数年ぶりに日本に帰ってみれば、異様に強くなった歌う灰の母体の前に、第0は吾朗の生徒も含めて全滅。

 レッドドラゴンという切り札を失い、ドラゴンをサーヴァントとして召喚する作戦も失敗、防いでくれる壁のなく日本中を駆け回る肉叢に対し政府も乱立した組織も壊滅寸前、上位者の狩人のおかげでなんとか持たせている、北米にいる間に気づかないのことがおかしい状況になっていた。

 理外の執行者の全力を見た。

 それでも、あの時の歌う灰の母体は打倒できたとは思えない。

 対して、フォースライザーが使えるとはいえ、マスターが一人も死んでなくても、強化魔術がなければ日常生活もままならなくなっている身体。

 だから、力だけで打倒するというのは違うと思う。

 日本で起こる聖杯戦争に関わり続けていれば、あの異常な歌う灰の母体にならず、レッドドラゴンが勝つこともある。

 問題は、肉叢の活動に影響が見られない、つまり、粉々に崩れただけの可能性があること。

 レッドドラゴンが、意思を感じなくなったというから時間差や統括個体に権限が移っただけなのかもしれないが、どちらにせよ、統括個体の排除が終わる前に、他所から世界規模の被害が出る攻撃がきて終わる。

 特に、外核を漂いながら、聞き馴染みのある物質からCパルスやライフストリームなど詳細を教えてもらえないオカルト物質まで好き嫌いなく吸い上げている岩でできたハリネズミみたいな化け物。

 世界の地熱を少しずつ下げているヤバい存在なのだが、スケールがでかすぎて人理をまるごとぶつけないと打倒できないレベルなのに肉叢のせいでそれが出来ない。

 盟主も、こちらは任せろとは言うものの、組織のある北米からも火の手が上がるあたり、雰囲気に騙されているだけで思ったほど頼りなる方ではないのかもしれない。

 未来を思い出すのも、日本で起きる特定の聖杯戦争でマスターが死んだタイミングだから、世界を守っている各組織が手を取り合って事件に対処してもらうには、結局のところ時間も情報も信用も足りない。

 記憶以外に引き継げるものがあれば、もう少しやりようがありそうものだが、いまのままでは完全に手詰まり状態だ。

 

 濁った緑の空の下。

 目の前にいる影は、投げれば自動で動く槍を持っている。

 おまけに雷撃。

 かたや、肝心な時に壊れる形だけ似せた薙刀を、乱造と強化でやりくりするスタイル。

 意気込みだけで向かうには怖い相手だ。

 アイギスのようにやれればいいが、あいにくそう上手くいかない。

 それも、なんとか全勝している。

 ここで殺されれば、それはそれで変化があるかもしれないが、それは抵抗する気力がなくなってからだ。

「自分の女が死んだ時のことを忘れるようやつに世界は救えない。そのことをわからせてやる」

 いつもの口上。

 彼女と死別してから現れるようになった影。

「忘れてないさ。口に出ないから、そう見えないだけだ」

 何度目かの同じやりとり。

 おそらく、ついさっきまで元気だった彼女が、ついさっき殺されたのだろう。

 大人になるまで生きて、見た目が同じになっても同じ人間に見えない。

 遺伝子や魂が一緒でも、なにかが違うのだろう。

 『歌方』と『スミレ』を同一視出来ない。

 知っている人間が死んだ、それ以上の感情が持てない。

「おれが、どう思っているかをかってに語ってくれるな。お前は、おれじゃない」

 浮気をするには、甘え過ぎた。

 

 影が踏み混んでくる。

 電撃で間合いを取りながら、槍に仕留めさせる作戦を取れば楽なものを、こだわりが捨てられないタイプらしく、初手にこうしてくることが多い。

 突くための武器を降り下ろされる。

 威力はあるが、初動から動きは読めるし、押し負けるほど力の差はない。

 間合いを調整して、槍を受け止めた。

 久方ぶりに受けた槍は、記憶より重く感じる。

 その分、いつもより苦戦した気がする。

 

 もしかすると、記憶を持ち越せていないだけで、続きを見たこともあるのかもしれない。

 同じ年に死ぬ記憶を積み重ねれば、発狂もするし、鬱にもなるし、世界に命を狙われている感覚に陥る。

 すがるものがないと、人格に異常が出てしまう。

 それだけ、この世界の人間は弱い存在なのだ。

 困ったことに、人間と造りが違っても、差が出るほど強くない。

 それでも、戦うために強くあらねばならない。

 そのためには、ただ、不幸に耐えるだけではダメだ。

 戦う理由、リトライする理由が必要だ。

 世界を滅ぼす事件をすべて潰し終えるまで安心はできない。

 それなりの回数を重ねて、諦めていないのは自ら挑んで返り討ちに合いながらも一手ずつ先に進んでいるて考えられているから。

 他人に期待することで未来に希望を持つことは出来るから。

 

 この聖杯戦争が終わったら、日本の地形、世界各国の国境と政府機関のチェック。

 年単位でする作業で、徒労に終わって嘆くこともあったが、いまは後回しでいいやと割りきれる程度には成長している。

 部屋には、父が買ったプラモデルやオモチャが置かれている。

 いまはまだまだ狭い稼働域だが、どんどんが進化していく。

 先見の明というより、精神的に実家から逃げきれてないだけだが、相性のいいサーヴァントたちの触媒になってくれたようなので、感謝しかない。

 クローゼットから新品のくせに色褪せている青いコートを出す。

 趣味がいいのか悪いのかは別として、ないよりマシ程度には機能する魔術礼装。

 魔術に対しての耐性はないが、悟られず手入れ要らずで収納性が高く一年を通して着ていられるのがいい。

 

「お前ら、出かけるぞ」

 今後の準備を済ませたおれは、のんきに人の家のプリンを食べていた三人に声をかける。

「マスター、これは」

「出かけるって、どこにです?」

 狼狽するライダーはどうやって食べているかいまだわからんし、この頃のミラナは紅茶があればジャムを一瓶を空けるし、嫌がらせで二つ食べているセイバーは気にすると喜ばせて話も長くなるだけから無視して、話を進る。

「キャスターのところへ威力偵察に行く。それに、もたもたしてアーチャーたちがキャスターに負けたら後味が悪い」

「烈火たちがです?」

 今回は、烈火呼びか。

 この三日間でなにがあったか知らないが、三人の幸せのために、背中を押すのもやぶさかじゃない。

 期待出来る未来は多いほうがいいのだ。

「なんで烈火たちがキャスターのところへ行くことを知っている!? ……その情報はどこから聞いたです?」

「見聞きした話じゃなくて予測だよ。キャスター陣営は元々この街を拠点にしてる上に、昨日の騒ぎで無傷。おれやバーサーカーのマスターもこの街の人間だけど魔術回路があるだけで魔術師じゃないからいつでも潰せる。残りを相手にするには相手の工房がどれだけ被害を受けてるか気にしないといけない。その点、最初から被害を受けてないなら、ブラフを気にする必要もない。逆に、野放しにしておくと、街の権力構造にも影響が出かねない。日向烈火ってやつは理由がなければサボるけど、理由があれば動くタイプなんだ。それにおれたちが少しでも隙を作っておけば、ランサー辺りがキャスターを倒してくれるかもしれない。手を貸しても損じゃないだろう?」

 むしろ、オジェットさんが動いてくれないと、第0との繋がりも薄くなって、情報収集が面倒になるので、上手くやりたいところ。

「たしかに一理ある、手を貸してやるです」

「助かるよ。聖杯戦争でミラナみたいに頼りになる魔術師が味方してくれることはそうそうないからな」

 いまは携帯電話のことも知らない、なにもないところで転ぶタイプだが、時計塔の基礎学科を飛び級したり、短期間で聖杯戦争の準備を一から済ませるほど優秀ではあるのだ。

「そうです、頼れるです」

 もし、なにかあってもフォローするのは日向の役目だから、おれは少し動くだけなのもいい。

「じゃ、いくか」

 慣れたことだが、不信感を与えないように慎重に、油断なくいこう。

 

 魔力量が心許ないわけではない。

 しかし、サーヴァント並みの魔力消費を一度にされるのは、さすがに堪える。

 理由もパスを繋いだ相手を攻撃したので、それを受けるために使われたという間抜けなもの。

 こんなこと、ほかでは起こるまい。

 さすがに、メイドのほうも自分の状況を理解してくれている頃だ。

 面倒に巻き込まれる前に、アサシンたちと合流しよう。

 

 現在のマスターとサーヴァントの行動パターンの一つ。

 キャスターはバーサーカーに攻撃をしかける。

 アーチャー組とオジェットさんは手薄になったキャスター組の拠点へ。

 ランサーは、オジェットさんと一緒か歌方のところ。

 セイバー組、もといミラナ組は現在同行中。

 リタイアしたのが歌方なら、バーサーカーも一緒にリタイアしている。

 問題は、アサシン組。

 困ったことに、この組はどこにいるかはパターンが多すぎて逆に特定出来ない。

 ビルで起きることを考えると、ちょっと手が足りなかったりするが、借りを作るために捜す時間も惜しい。

 アサシンのマスターが、今回の聖杯戦争を生き延びた場合、その後どうしていたかは記憶にないが、外様の魔術師だ、単純に会うことがなかったのだろう。

 歌方のところへ向かっていれば、へこんでいるところを急かすことになって、アサシンに睨まれる。

 それに会った時、どんな顔をすればいいかもわからない。だから、遭わないで済むならそうしたかった。

 しかし、見掛けてしまった。

 どこで会うにしろ、これなら見なかったことにするのが最善なのだが、昨日と同じく身体が反応してしまった。

「げっ!」

 ロシア人も、げって言うんだな。

「フェリパさん、大丈夫か?」

 顔色が悪くても、美人は美人だ。

「……敵の心配などしている余裕がありまして?」

「余裕はないげど、見つけたから。急ぎたいからミラナは少し待っててくれ」

 口調と雰囲気が、昨日とは違う。それだけ余裕がない状態なのだろうが、サーヴァントを連れているのに、この寒空の下でなにがあった?

 長くても短くても、聞きたくない話か?

「おれたちは、これからキャスターの工房に行く。揚げ足を取らず邪魔もしないでほしい。マスター殺しはしたくないんだ」

 生き残ってほしいと言いたくなったが、強化が使えなくても魔術師だ、甘さを見せてはいけない。

 イライラするほど疲れているなら、一緒に来てもらう必要もないだろう。

「出来ることを出来る時にしておく。それが人生を楽に生きるコツってものよ」

 会った記憶が少ないせいで、上手い返し方がわからない。

「こっちは、キャスターの工房まで、万全の状態で行くのが優先。正面からならともかく、ここからならアサシンに奇襲されてもマスターも含めて相討ちに持ち込める。それなら、そちらも漁夫の利でも狙ったほうが得だろ? 昨日の借りとアサシンの要望のためってことで見逃してくれ」

 この言い方は、傲慢と思われるか甘過ぎると思われるか。

 避けたいことを考えないようにするのはダメだな。

 ひとまず、後ろで不機嫌になっているミラナが爆発する前に先を急ぎたい。

「アサシンの要望ですか。わかりました。私とアサシンは、どちらの味方もしません。存分に潰し合いなさい」

「ありがとう、助かるよ」

「礼を言われることじゃありません。さっさと行きなさい」

「わかった。いこうぜ、ミラナ」

 実際のところはわからないけど、たぶん正解を引けたと思う。

 

 魔術師同士なら、すれ違っただけで接触したと言われ兼ねない。

 だから、避けて通りたかった。

 ランサーのマスターは、それを阻止しよう、先回りをしてくる。

 あちらも見えていると仮定しても、足はこちらのほうが速い。

 少しずつではあるが、目的地へ近づいていた。

 それを、薙刀をバッグに積めたバカがひっくり返してきた。

 会っていたのは、昨日の戦闘の間だけ、ライダーの部下がまだ使えたからといって、アーチャーに気付かれず、連絡を取り合うには力量が足りないはずだ。

「なんなんだよ、お前ら!?」

 三人の反応は三者三様だが、驚いているのはミラナだけだ。

 いままでのはなんだ、演技か?

「落ち着けって。実は家でこんなものをみつけてな」

 海藤が取り出したのは、ブルースカイウィズの社員証。

「本物か?」

 ランサーのマスターが反応してくる。部外者でも社員証があれば、少しの間は安全に動ける、そう思っているのだろう。

「どうぞ。オジェットさんには不要でも、おれには必要なものですから折らないよう注意してくださいよ」

 海藤はランサーのマスターに社員証を渡す。

 それを見たミラナは、抗議の声を上げているが、イギリス訛りがひどくてなにを言っているかわからない。

「礼装じゃないから別にいいだろ? 乙女チックなことに頭回すより落ち着きなよ」

 その言葉に、顔を赤くして抗議するミラナ。

 オトメチックなことを言ったのか?

「天国を目指しているやつの情報がいつまでもある保証はないですが、行くのでしたらタイミングよくお願いします」

 確認を終えたランサーのマスターは社員証を海藤に返し、無言で俺や海藤たちが来たほうへ歩いていく。

「日向、ダールマンのところに行くんだったら、おれとライダー、ミラナにセイバーも連れてけ」

「話が飛びすぎだ。お前はなにを知ってるか、まずは、そこを話せ」

「言っただろ。なにも知らないで巻き込まれるやつを減らしたいって。あそこには、死人を出すことに躊躇がないやつがいる。神秘の秘匿にもなるから協力してくれ」

「なら、質問に答えろ」

「おれが知ってることは、教えたらまずいことだよ。それを証明するには時間が足りない」

「本性が見えてきたな」

「なるほど、そういう化けかたもできるのね」

 セイバーとアーチャーは、なにかに勘づいたらしい。

 こいつ、何者なんだ?

「本性でも化けてるわけでもなくて、利用されてるだけだよ。これからまた、十八年間苦労することは自分で選んだからかまわないけど、さっきも言った通り証明するには時間が足りない」

 こいつの言っていることが事実なら、少なくとも十八年の間に魔法の一つが消えることになる。

 魔術世界で、そんなブレイクスルーが起きるものか?

「確かに、時間が面倒を運んでくることもあるか。坊っちゃん、ここは折れてやりなさい」

「……わかったよ。けど、これからは、時間がないのに頭を冷やしたくなることしないでくれ。それと責任はとれよ?」

「ああ、責任、しっかり取ってやるさ」

 言ってくれる。

 なにかあった時の責任なんて誰も取れやしないのに。

 

 目的地では、寒空の下、多数の多数が動き回っていた。

「日向に海藤、こんな状況で、なんで美人を連れてるんだよ!?」

「木野、おまえまでいるのか?」

 烈火は偶然居合わせた同級生をにらみつける。

 にらみつけられた木野はたじろぎ、秀は二人の間に入る。

「日向、街がこんなになってるんだから近所の同級生の一人や二人いるもんだ。木野、言っとくが、おれはなにもしてないぞ。こちらのアーチャーさんは日向のところに仕事で来た人で、こっちのミラナさんはうちのじいちゃんの生徒だけど、おれと会ったときは日向のことを烈火って呼んでた。つまり、抜け駆けしたのは日向だけってことだ」

 秀は、烈火が誤解したり、ミラナが暴れたりしないよう言葉を選んだ。

「初めまして、木野くんでいいかしら? 彼が言ったように日向くんのところに仕事のことで来たのだけど、いろいろと大変でね。二人のことも温かく見守ってあげると嬉しいわ」

 アーチャーは、木野の手を握り、ミラナに手を出さないように言った。

「そうですか、大変ですね。ビルの中も近くも寒いです。それじゃ、俺はこれで」

 手軽な暗示にかかった木野が去っていく。

「なにか面白い話が聞ければと思ったけど、一般人目線ならこんなもんか。このぶんなら、ほかの人からもたいしたことは聞けなさそうね?」

「邪魔が入らないならいい、いくぞ」

「あいよ」

 

 確かに、ビルの中の温度は外気より低く感じたが、内部の状況から早くても昨日の夜から下げられたようだ。

「雨が降ってきたら、さすがに入ってくるだろうから早めに済ませないとな。おれたちは、招かれてないから階段で行くよ。なるべく急いではみるけど、烈火はちゃんとミラナを守ってやれよ。おれや他のやつには出来ない、お前しか出来ないお前の役目だからな。あれで人見知りなところがあるみたいだから、大変だとは思うけど、いざとなったら一緒に逃げるのも手だ。頑張れよ」

 言葉の違和感に気づいたときには、秀は階段をかけ上がっていた。




脱字はなといいなぁ
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