香澄の記憶喪失 〜Lost memory〜   作:FeNiX/As

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消えるはずのない大事な大事な——


“温かい思い出”


第二話 記憶の欠片

その翌日も香澄の家に行った。香澄の記憶の中に私が居ないって思うと寂しさで胸が押し潰されてしまいそうになる。

香澄の家の前で一度大きく深呼吸をしてインターホンを鳴らした。

 

「毎日ごめんね、学校が終わってすぐだから大変でしょう?」

 

「いえ、私はただ香澄と……」

 

「上がって。あとでお茶を持って行くね」

 

「あ、香澄のお母さん」

 

「どうしたの?」

 

「お邪魔で無ければ、これからも通い続けても良いですか?」

 

「ありがとうね、有咲ちゃん。香澄も喜ぶと思う」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「さ、香澄の部屋に行ってあげて」

 

「お邪魔します」

 

部屋に入ると香澄がこっちを向いて嬉しそうに笑った。その顔を見ると、嬉しい反面なんか恥ずかしくなって来た。

 

「今日も来てくれたんだね、ありがと!」

 

「気にするな、私は香澄と話がしたくて来てるんだから」

 

いつもなら照れ臭くて言えないけど、今だからこそ素直に言える。

 

「私ね、1人でいる時不安で仕方がない時にあなたの顔を思い出すの。あなたが居ると安心出来るから」

 

「そっか、私が毎日来てやるから安心しろ」

 

香澄の手を握って誓うように言った。香澄が元通り笑えるように、私がその分微笑んであげるんだ。

 

「ありがとう。やっぱり私……あなたの事が好きみたい」

 

面と向かって言われると凄く恥ずかしい……けど、悪い気がしない。

 

「私も好きだ。だから早く思い出して欲しい。いつもの香澄に戻ってくれよ」

 

「そうだね。頑張らないとね」

 

香澄が少し悲しそうな顔をした。一瞬戸惑ってしまったが、香澄が私にしてくれたように香澄を抱きしめる。

 

「私もこんな事しか出来ねえけど、不安で押し潰されそうになった時、私がそばにいるって事を思い出して欲しい」

 

それが私の本心だった。香澄は頷きながら抱きしめてくる。私はこの温もりが大好きだ。

 

「お茶入れて来たよ。ってお取り込み中みたいね」

 

香澄のお母さんが少し照れ臭そうに微笑みながら言った。私はなんとか誤魔化そうと必死に言葉を探すけど、何も言えずに固まることしか出来なかった。

 

「あ、あの。これは……」

 

「良いのよ。一緒にいてあげて」

 

「いや、その……」

 

「私、あなたに抱きしめられると安心出来るし、やっぱりあなたの事が好き」

 

香澄が耳元で囁いてくるから余計に恥ずかしさで顔が熱くなる。

 

「いや、私もだけど……」

 

「まぁまぁ、これからも香澄の事よろしくね」

 

「はい……」

 

香澄に好意を向けられていた事に気付いていなかった。いや、香澄からも自分の本心からも逃げていただけだ。

 

「まぁ、香澄のお母さんにも頼まれたし。ずっと一緒にいてやるよ」

 

「ありがとう、名前聞いても良い?」

 

「私の名前は市ヶ谷 有咲だ。有咲で良いよ」

 

「有咲……ちゃん?」

 

「有咲で良いって」

 

「うん!これからもよろしくね、有咲!」

 

ようやくスタート地点に立つ事が出来た気がする。

 

「香澄〜来たよ〜」

 

「香澄ちゃん、大丈夫?」

 

おたえとりみが入って来て、急いで香澄から離れようとしたけど、香澄が離してくれない。

 

「香澄!?」

 

「このままでいたいの。駄目かな?」

 

「駄目じゃないけど……」

 

凄く恥ずかしい。おたえとりみは微笑みながら見てくるし。この恥ずかしい状況はなんなんだ?

 

「沙綾は?」

 

「沙綾は家の手伝いで今日は来れないって」

 

沙綾も家のことで大変だろうから、香澄のことは私に任せて家のことを優先して欲しい。家のことも香澄のこともってなると沙綾の落ち着ける時間が無くなってしまうから。

 

「そっか」

 

「おたえちゃんとりみちゃん?」

 

「おたえで良いよ」

 

「わ、私はりみりんって呼んで欲しいな」

 

「おたえとりみりん?」

 

「そうだよ、おたえだよ〜」

 

「これからもよろしくね!」

 

初めてポピパを結成した時のことが自然と頭の中で蘇ってくる。

 

「うん!香澄ちゃんもね!」

 

「あ、そうだ。香澄のランダムスターってどこにあるの?」

 

「ランダムスター?」

 

部屋を見渡すと隅っこの方にスタンドに立てかけられた赤いギターがあった。おたえがそれを香澄に渡す。

 

「香澄、キラキラ星弾いて」

 

「おたえ、無茶言うな」

 

「きーらーきーらーひーかーる」

 

「え?」

 

「どうしてか分からないけど、これを持つとキラキラドキドキした感じになるの。不思議だね」

 

全部忘れてても、私たちの絆を繋いだ大事なギターのことは覚えててくれたんだ。正直驚いたけど凄く嬉しかった。

 

「今日はもう帰るわ」

 

「うん」

 

「明日も来るから」

 

香澄は寂しくそうな顔でうつむくから、手を強く 握って励ますように言った。

 

「うん!バイバーイ!」

 

香澄が元気に手を振るのを見てから部屋を出た。

 

「すいません、香澄のお母さん。少し良いですか?」

 

部屋を出た後、香澄のお母さんにずっと疑問に思っていた質問をした。

 

「香澄の記憶喪失の原因は何ですか?」

 

「病院に行って検査したけど、異常が無いの。ただ記憶だけ無くなってる状態で、治療法が分からないから家で安静にするようにって言われて……」

 

「そうですか」

 

「これからも香澄と話してあげて欲しい。何かを思い出してくれると思うから」

 

「分かりました」

 

その日は家に帰って、何も考えずに休むことにした。明日は土曜日だし、朝から香澄の家に行くって決めてたから早く寝ることにした。

 

「ん……準備しねえと……」

 

朝の身支度を済ませて家を飛び出した。一刻も早く香澄に会いたくて、その一心で香澄の家へと向かった。

 

「お邪魔します!」

 

「香澄は部屋にいてるから、色々話してあげて」

 

「分かりました」

 

香澄の部屋の前で大きく深呼吸してから入った。

 

「香澄、遊びに来たぞ」

 

「あ、おはよ!」

 

「何か良いことでもあったのか?」

 

香澄が記憶を失って以来初めて香澄の明るい顔を見た。

 

「今日はすごく楽しい夢を見たの!」

 

「へ〜、どんな夢だったんだ?」

 

「人がたくさんいる前で、赤いギターを弾いて歌ってたの。他にもどこかの蔵みたいなところでも練習してたよ!楽しかった!」

 

突然そんな事を言われたから驚いた。思い出したのかと思った。

 

「でも、どこか懐かしく思うんだ」

 

「そうか」

 

「私……痛っ」

 

香澄が突然頭を抑えてうずくまる。前にも1度あった。

 

「香澄!大丈夫か!?」

 

「あ、あり、さ……バン……ド出来……くて、ごめん……ね」

 

途切れてはいたが、香澄が伝えようとしていることは分かった。記憶がうっすらと残っているのだ。それを私に伝えようと必死に話してくれてるんだ。

 

「香澄!しっかりしろ!そんな事今は良いから!」

 

「ごめ……ん、ね」

 

私は香澄を抱き寄せ、手を握りながら大声で香澄のお母さんを呼んだ。その後、香澄は救急車で病院へと運ばれた。

 

「有咲ちゃん、ごめんね」

 

「いえ、香澄の記憶が戻りそうだったんです」

 

「え?」

 

「急に頭を抑えてうずくまった後、バンド出来なくてごめんねって。香澄、全部忘れた訳じゃないんです」

 

起きた出来事を香澄のお母さんに伝えると少し驚いていた。だけど、すぐに優しい表情に戻って微笑んでいた。

 

「そうなの」

 

「はい」

 

「有咲ちゃん、これからも香澄の事よろしくね」

 

「分かりました」

 

その日は病院から帰ろうとしたけど、香澄の事がどうしても心配だったから病院へと向かった。

香澄はまだ目を覚ましてなかった。そんな香澄の手を握って話しかけた。

 

「一緒にいてやるから。こんな私を必要としてくれる香澄のために」

 

病室で1時間ほど経った頃、沙綾たちが病室へと駆け込んできた。

 

「香澄大丈夫!?」

 

沙綾が少しパニックになりながら聞いてきた。

 

「ああ、大丈夫だ」

 

「よかった〜」

 

安心からか膝から崩れ落ちるりみ。ただ香澄は今も目を覚まさない。目を覚ますまでここに居るつもりだけど。

 

「有咲、何があったの?」

 

沙綾は心配そうに聞いてきた。。私は起きたことを細かく説明した。途中でりみが泣いてしまったけど、沙綾は最後まで真剣に聞いてくれた。

 

「という事は、まだ香澄の中に記憶が残っているってこと?」

 

「ああ、多分……香澄が記憶を無くした日も私の名前を呼んだしな」

 

「そうだね」

 

「お腹すいてきたなぁ」

 

「おたえ、こんな時ぐらい空気読もうよ」

 

「私は香澄が目覚めるまで、っていうか今日は一泊して行くつもりなんだけど」

 

「私もそうしようかな」

 

「沙綾は家の手伝いとか大丈夫なのか?」

 

「うん。大丈夫」

 

「わ、私も」

 

「じゃあ私も」

 

沙綾もりみも香澄のことを本気で心配してるし、おたえも香澄を心配そうに見つめている。

 

「りみもおたえも家に連絡入れといてくれよ」

 

「分かった〜」

 

それから香澄が目覚めるまでみんなで待った。香澄が目覚めたのは夕焼けが窓に差し込み暗くなってきた時間帯だ。沙綾たちは疲れて眠ってしまってる。

 

「あれ?私、ここどこ?」

 

「おはよ。ここは病院だ。香澄が倒れた後、救急車で運ばれたんだよ」

 

「そっか、有咲。ありがとう!」

 

「何がだよ?」

 

「約束守ってくれた! 一緒にいてくれたから!」

 

「感謝されるような事はしてねぇよ」

 

「ねぇ、有咲」

 

「どうした?」

 

「記憶を無くす前のこと教えてくれる?」

 

「良いぞ」

 

それから、私は香澄に話した。蔵のことやポピパのこと、香澄の日常とかを話した。香澄は話を聞いて、笑ったり驚いた顔をしていた。

 

「ねぇ、有咲はそんな私を嫌いにならなかったの?」

 

「口では突き離していたけど、香澄は私を必要としてくれた。香澄のお陰で見る世界が変わったんだ。私はそんな香澄が好きだったんだ」

 

「私も香澄には感謝してるんだよ」

 

「沙綾、起きたのか」

 

「うん、たとえ香澄が記憶を失っても私たちは香澄の友達だしバンドメンバーだよ」

 

「ありがとう。私も早く思い出したいのに、今覚えてるのは有咲が好きだったって事しか覚えてないの」

 

「恥ずかしいからやめてくれ……」

 

「あ、有咲!否定しないんだ」

 

「沙綾、恥ずかしいから茶化すな……」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

「まぁでも、私は香澄のそばにいるから」

 

「ありがと!有咲!大好き!」

 

「こら!病院だぞ!静かにしろ!」

 

香澄には振り回されてばっかりだ。それも悪くないけど。

香澄が記憶を失ってから私は以前よりも香澄に素直になれた。一緒にいる時間も遥かに多くなったし、気持ちを伝えることもできた。でも、香澄には思い出して欲しい。以前の私たちや、香澄が大切に思っていたものや人も。

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