逃げ出した少女   作:みっくん

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3話

 

「ふむ……リアスの治めている領地に堕天使か……最近はちょっかいが無くて安心してたのだが」

 

リアスから送られてきた書類を読みながら思案するグルド。結構な量の書類で一人で読みには時間がかかりそうだ。

 

要点をまとめているページに目を通すと納得する。

 

堕天使は複数いたようで彼女らの目的はアーシアと呼ばれる聖女だった少女の神器を確保することが目的だと捕虜にした堕天使から聞いたようだ。

 

グルドの記憶が確かだと件の少女は現在日本の駒王町に向けて移動中な筈だ。リアスたちに保護をさせるのもいいが、自分が出た方が確実だろう。都合よく戻っているグレイフィアを呼びつける。

 

「グレイフィアすまないが、代行を頼んで良いだろうか」

 

「リアスの所へ向かうのですね。かしこまりました。領地に関しては私たちにお任せを」

 

「ああ頼んだ」

 

何も言わずに了承してくれる眷族を持ててうれしいものだ。

 

上級悪魔と呼ばれる以上の存在は眷族を持つことを許される。四大魔王が一人アシュカ・ベルゼブブが開発した悪魔の駒(イーヴィル・ピース)によって他種族、或いは純粋な悪魔が上級悪魔の眷属となる。

 

この駒の良い点では転生悪魔と呼ばれる他種族から悪魔の駒によって悪魔になった者たちが増えることで悪魔の総数が増える事。先の大戦で数を大幅に減らした悪魔は存続のためにこの駒を作り上げた。

 

悪い点はこの駒を利用して神器と呼ばれる今は亡き聖書の神が力を持たない人間が対抗できるようにと人間に宿らせたものを不届き物が狙う事。悪魔に限った話ではないが神器を狙う者は数多い。神器はそれだけの魅力を秘めておりモノによっては神をも殺せるとまで言われている。最も神が作ったものが神を殺せるとは限らないのだが。

 

悪魔の都合で転生悪魔にさせられたものの多くははぐれ悪魔と呼ばれる主に反旗したものとなることが多く、彼らは捕まれば処刑される。

 

グルドも悪魔の駒を使用して眷族を従えている。グレイフィア・ルキフグスには女王の駒をリアス・バルバトスには騎士の駒を。

 

駒にはそれぞれに役割があり、女王は女王を除く全ての駒の力を扱うことが出来る。騎士の駒はスピードが上がる。スピードと言っても一概に理解できるものではなく、移動速度や思考速度はてには体の動かす速度など様々に渡る。リアスに騎士の駒を与えた理由は彼女の得意とする滅びの魔力の連射速度を考慮してだ。

 

他の駒は現在空いているが、兵士の駒でもいいからと眷族にしてほしいと歳若い悪魔に言われているので現在悩んでいる。

 

駒王町へと転移する魔法陣を敷いてある部屋に入り魔法陣に身を任せた。本来冥界から駒王町のある人界へ訪れるには二つの世界を繋いでいる列車を使用する必要があるのだが、大事があった場合を想定して駒王町のリアスが暮らす家や、眷族が拠点にしている家などにグルドの屋敷から通じる魔法陣を敷いてあるのだ。

 

その為、移動に時間を掛けずに駒王町へグルドはやって来れた。今回はリアスの家に転移したので、グルドの前にはリアスが待っていた。

 

「お久しぶりです、グルド様」

 

「ああ久しぶりだねリアス。いや、今は二人だしリアスちゃんかな」

 

「……もう、そうやって私を子ども扱いをするんですから。これでも人間の年齢でいえば大人みたいなものです」

 

「ははっ、俺にとってリアスちゃんは子供みたいなもんだからね。一応親父の養子だから妹だけどさ」

 

彼女がグレモリーからバルバトス家に姓を変えた際にリアスはグルドの父親の養子という枠組みでバルバトス家に入った。おかげで血の繋がりはないがグルドとは歳の離れた兄妹という扱いになっているが、二人の間にある年齢という壁の前には親と子の差がある。

 

故にグルドはリアスを我が子のように慈しんでいる。彼女を駒王町管理代理にさせたのも親として娘に箔を付けてやりたかったのと同時に、領地経営の大変さを触りでも学んで欲しかったのだ。

 

「報告は読ませてもらったよ。あれから進展はあったかな?」

 

「ええ、ありました。何でもシトリー家の次期当主であるソーナ・シトリーが赤龍帝を眷族にしたようです。先日学校で秘かに聞かされました」

 

「ほう……赤龍帝か……龍は強い実力を持っているが同時に災いも呼び寄せる。悪魔全体で見れば嬉しい事だろう。堕天使には白龍皇が所属しているからね。政府も焦っていただろうね。万が一でも戦争が起きた場合苦戦は必至だから。そう考えると赤龍帝を手に入れた意味はある。しかし個人的に言わせて貰うと悪手だ」

 

かつての大戦時に三種族に大打撃を与えた二天龍と呼ばれる赤龍帝と白龍皇。

 

歴代の力を見る限り倍加の力と半減の力を互いに持っており、二龍の実力は拮抗。宿主の才能や努力によって覆るだろう。どういうわけか二天龍は互いをライバルと認識しており神器に封印された今でも宿主同士を争わせ、凌ぎ合っているらしい。

 

シトリー家を通して厄介ごとを冥界に持ってきてほしくないのがグルドの偽りなき心情だ。過去の出来事を見る限りに二天龍の争いは大地すら抉り地図を塗り替える。為政者としては避けたい事項だ。

 

「では本題のアーシア嬢はどうだろうか。現在は移動中だと認識しているが」

 

「グレイフィアからの報告で駒王町入りしたそうです。現在グレイフィアが後ろを付け、堕天使の動きを警戒しています」

 

「了解した。俺は今からアーシア嬢に接触を図る。その間リアスちゃんはそのシトリーって子を見張っててくれないかな。赤龍帝を眷族にしたをみるに調子に乗ってアーシア嬢に手を出してくる恐れがある」

 

「畏まりました」

 

情報を纏めるとグルドはリアスの家を後にする。グルドが家を出たのを確認するとリアスは使い魔を放つ。勿論ソーナを見張る為だ。万が一を考え使い魔には隠蔽魔法をかけ見つかりにくくする。リアスの見解ではソーナ・シトリーの保有する眷族は主であるソーナを見るにそこまでの実力は持っていない。それでも万が一を考え魔法を掛けておくのだ。

 

☆☆☆

 

家を後にしたグルドは眷族相手に通じる念話でグレイフィアに連絡を取る。件の少女の場所を聞くと真っすぐに向かう。

 

眼付きは優しいものの、がっしりと鍛えている肉体は凄まじく歩いているとヒソヒソと声が聞こえる。冥界でも結構言われているのでグルドは慣れているので無視だが。

 

周りの声を無視しながら歩くと前方に今の時代に似合わない恰好で白昼の下歩く少女を目にする。

 

清楚さを強調する白色の聖職者の服。ベールを被る頭は陽によって反射しキラキラと輝くような金色の髪。歳相応な肉付きをしている太腿が歩くときに目に入りその手の趣味を持つ人には涎モノだ。

 

ただ不安げにキョロキョロと辺りを見渡しながら歩く様子を見れば寧ろ庇護欲が沸く。聖職者の服装から覗く胸元のロザリオが彼女が本物のシスターであることを示している、

 

『初めましてお嬢さん』

 

冥界で目にした報告書が正しければ目の前の少女、アーシア・アルジェントはイタリア人だ。日本に単身で訪れ言葉が伝わらず不安なのだろう。

 

少しでも不安が和らぐように聞きなれているであろうイタリア語で話しかける。悪魔には自動翻訳と呼ばれる力があるがグルドはどういう訳か人界に存在する各国の言語を学んでいる。

 

『は、はい!?こ、言葉が通じる人です!』

 

キラキラと大きな瞳を輝かせ返事を返してくれる。

 

グルドが次の言葉を口にしようとしたその瞬間、

 

『きゃっ』

 

道端の石にでも躓いたのかグルドの方向へと転びそうに来る。ふわりとベールが宙を舞うも今はそれよりも少女のみの方が大事だ。

 

悪魔の力を使わず周囲に不自然さを見せないように一気に少女に近づく。転ぶと分かったのか目をぎゅっと閉じている少女は見ているだけでも不思議と愛らしい。

 

場に似つかわしくない感情を抱きながらもグルドはアーシアを優しく抱き留めた。

 

『大丈夫かな?』

 

『あ、ありがとうございます』

 

聖職者故か男とであるグルドに抱きしめられたアーシアは顔をリンゴのように真っ赤にしながらも礼を口にする。

 

昨今では悪魔人間関係なしに礼を言える人が減ってると感じているグルドにとってはアーシアの何気ない感謝の言葉が好感度アップに触れる。

 

『君はこんな所に来てどうしたのかな?見たところ観光目当てではなさそうだけど』

 

アーシアが引いていたキャリーバッグを見る。女子らしくピンク色のキャリーバッグはアーシアに似合う。

 

『えっと……私はこの服の通りシスターです。この町の教会に派遣されたのですが、言葉も通じず道も分からなくて……』

 

『なるほど。でも一つ付け加えると、この町の教会は無人だよ。寧ろ所々壊れていて人の入れる場所ではないかな』

 

『え?本当ですか?私は司祭さんに言われてきたのですが……どうしましょう』

 

しょんぼりと肩を落とすその姿は小動物を彷彿させる。庇護欲を何処までも書きたてるその姿には動物が好きなグルドの心を何処までも擽る。

 

バルバトス家の所有する森の中には彼が様々な国や街で集めた動物が沢山生息している。勿論けんかをしないように言い聞かせているので争いの心配はない。

 

『……ふむ。此処であったのも何かの縁だ。私の家で良ければ招待しよう』

 

『で、ですがご迷惑では?家族さんにも』

 

『あぁ、気にしないでくれ。娘みたいな子がいるが、君と歳は近い。寧ろ君が来てくれるとリアスにも友達が出来て俺として安心かな』

 

『えっと……その、お名前を聞いていいですか?』

 

『そうだったね、肝心の挨拶をしていなかった。俺はグルド。グルド・バーバルだ』

 

『グルド……さん。私はアーシア、アーシア・アルジェントと言います。そ、その不束者ですがよろしくお願いします』

 

そういう挨拶はまだ早いよとグルドが大声で笑う。釣られて恥ずかしそうに頬を染めながらもアーシアも小さく笑う。

 

何はともあれグルドとしては目的の少女と接触に成功したのだった。




ヒロインが一人アーシアちゃんが出てきました。
HSDDのヒロインの中では一番好きな子ですね。シスターって響きが良いと思います。

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