目を覚ますと瓦礫が散乱した薄暗い室内、ロウソク一本で照らされた部屋で俺と鎧武者は対面していた…
「生きて……る? 本当に?」
「・・・・・」
鎧武者が言った言葉に反応するも、此方からの話には返答はなく沈黙を貫いている。でもそれは、肯定……しているんだと思う。何となく雰囲気と感覚が【 死ではなく生 】と、言っているように幻聴が聞こえる。
「生き残れたんだな、俺……」
上を見上げ、天井を見つめるが暗いので分からない。でも、生き残れた実感と、終わったことによる安心感に心は満たされていく。
「フン、貴様が生存者ならば周囲にいた奴等もまた同じ事。 それは紛れもない事実だ」
鎧武者は言う。自分だけじゃなく、周囲にいた人達も生き残ったと。激戦の中、機体や戦艦が動けないように見えたから不安に感じてはいたが、あの時の自身にはそんな余裕はなかった。
(そっか…ジョーイや博士、皆無事だったんだ。 良かった)
だけど、その安心感は鎧武者の次の一言で全て吹き飛ぶ事になった。
「貴様は何か勘違いをしているな。 先の戦いなど序章に過ぎん、これからが世界が大きく分岐を迎える事だろう」
「っ!? そ、それは…どういう…」
あの戦いが序章だとしたらプロローグみたいな扱いになる。イケメンお兄さんが乗ったロボットは、確かに本気は見せてないかもしれない。でも、俺は…オレは……
「・・・・・・」
「何も言えんか? 本当の戦いを知り、己の弱みが浮き彫りとなった今、貴様はどうする?」
鎧武者の言った言葉は、全て事実だと断言出来る自分が何処かにいた。今まで俺は、戦いを……ゲームという画面の向こうでしか知らなかった。実際、戦争や戦乱といった時代を俺は生きていないし、戦いとは遥か彼方に置いた平和の中で生きていた。戦争はまだ、実際に体験した老人から聞いてはいたし映画は幾つもの作品を見た。体験が出来るとしたらゲームでしか体感するしかない。
だけど、今回戦いを経験して思い知った……痛感させられた。
次に、対策をちゃんとしてなかったのも原因がある。ゲームの知識と経験ならどうにかなると戦闘訓練(シュミレーター)をしてなくて、ただマニュアル本を読んだだけのど素人が希望的達観を決め込んでしまった。
これら全てが、俺の弱みとなってしまった。今回は、まだ結果的には良かったかもしれない……でも、最もやり方や経験があれば状況が変わったかもしれないし、他にもあったかもしれない。結局、後悔しても過去は変わることはない。
「このまま逃げるか? あの孫権と同じように逃げ、迷いも覚悟も戦いも全てを否定するか? 貴様は……どうする?」
鎧武者は俺の心を追い詰めていく。あの戦いの直前に聞こえた謎の声も今と同じように問い掛けをしていた。
【 迷い 】と【 戦い 】。どちらも違うけど、考えてみるとどちらも今回の件に繋がる。二つの問いの最善な答え…それは……
「……逃げない。 覚悟はあるかは分からない、でも戦いの中で迷い続けないといけないんだ。 そこに答えがあると信じてるから…」
「・・・・・」
あの声と鎧武者の問い、そこから今出せる回答をするが俺自身は間違ってないと思える。黙ったままな鎧武者は、俺から視線を外し背中を向けて暗闇の中に行こうとする。呆れてしまったのか、それとも期待外れだったのかは定かじゃない。でも、今言わないといけない言葉がある…
「あ……ありがとう……包帯…してくれて。 それから、俺の名前……カズマ…」
一度は立ち止まるが、振り返ることなく暗闇に消えていった…。
(あの人は、もしかしたら俺を心配してくれたのかな? だから、敢えて厳しく言ってくれたのかも……)
鎧武者には聞きたいことは沢山ある……あるけど、取り敢えず眠ることにした。話に集中していた影響か痛みがまた広がり始めたのもあるし、この薄暗い場所で変に移動して迷ったら迷惑しかない。今はご厚意に甘えよう……悪い人ではないと、思え……た…か……ら……
…………………………………………
夜空に映る星々が輝き辺の草や木、動物達を静かに照らす。
静けさの中、岩の上に座り瞑想をする先程の鎧武者がいる。そこに、白く煌く者が近づく。その周りには蝶々達が飛び舞いを舞っているように…
「奉先、あの者は良いのか?」
「……天は奴を欲した、それに俺は応えた。 それで良い」
「だが、それは奉先がやらなくとも、あの時周りには何人も力を有した者がいた筈だ。 出る必要など…」
白く煌く者は鎧武者に問う。助けた事に対して意味はあったのか、出る必要があったのかを。自分が知る者が、何故こうしたのかを知る為に…
「奴には力が……カズマには武器があった。 だが、やり方の知らぬ者では宝の持ち腐れでしかない。 周囲にいた奴等も、また同じこと…」
「・・・・・」
「しかし、ならば何故看病をし奴に問ったのだ?」
「…カズマもまた、漢になる……その為だ。 だが、まだその時ではない」
やはり、変わらない。漢とは、曹操・劉備・孫権など認めた相手を指す言葉であり、自分にとって立ち塞がる脅威でもある。だが、強大になる程に戦いの中で奉先の魂が昂り天へ近づく。
今はまだだが、近い将来私や奉先と敵対し越すかもしれんが、期待するのはあまりない。
「……分かった。 奴の方は奉先に任せるが報告もある。 加藤機関が動きを開始した」
「・・・・・」
月に照らされた二人は、空を見上げこれから先を見定める。加藤機関とカズマ、それから先々に出逢うだろう者達にどうするべきか。いや、それは関係ないかもしれない。どんな状況になろうとも、変わらないものがあり成すべき事は分かっているのだから。
………………………………………
あれから二週間程度が経過した。日数は曖昧で相変わらず薄暗い部屋だけど、今は朝方なのでヒビが入った窓から日差しが差し込む。何の不自由なく生活しているけど、人間誰しも慣れれば住めば都ということだろう。ただ、未だに博士やジョーイ達には連絡してないから心配していると思うと申し訳なく感じてしまう。
怪我はだいぶ治ったが、激しく動くとまだ鈍い痛みが傷跡から出てしまうので万全ではない。
「…呂布、料理出来たよ」
只今居候中の俺は、何か出来ないか呂布に聞いたら料理をすれば良いと言われた。因みに名前については、怪我を負ったあの日の夜。急に叩き起こされると、名前だけを言ってまた暗闇の中に行ってしまったんだ。眠気と疲れであまり記憶にない…けどね。次の日、さん付けしたら断られたので仕方なく呼び捨てにしている。
さて朝食なので、目玉焼きとハムとパンを人数分準備して丸テーブルに置く。夜だと丸テーブルの中央にロウソクを立てて食事をしているが、基本的にその時は一人なので寂しい食事だ。
「……いただきます」
「・・・・・」
静かな呂布と食事。本当ならもう一人いる筈だけど、あの人は一回会っただけで話も何もしていない。呂布に聞いても何も答えないのでお手上げの状態、結局毎朝は呂布と食事をしているけど嫌ではない。
「……行くぞ、カズマ」
「分かった」
食事を終えた俺は、食器を洗い場に置き運動靴に履き替えて外に出る。出た先には、既に準備を済ました呂布が立ったまま目を閉じ瞑想している。呂布は両手に木刀を持ち下段の構えのまま、俺は自分が使う一本の木刀を手に取り中段の構えをする。
(怪我した次の日から、この呂布との修行。 未だに一太刀も与えてないし、勝てるイメージも沸かない)
この修行は、俺から呂布に頼んだ事だ。無力な自分には、頼める人が居ない。博士やジョーイは難しいし…後は知人が殆どいない。
だからこそ、目の前にこの人に申し込んだ。世界の歴史の勉強にて、三国志に度々出てくる名前と同じ【 呂布 奉先 】という最強・無双と言われた者と同じ名を持っていたから。これは俺のイメージでしかないかもしれないけど…。
勿論、断られると思ってはいた……昨日の出来事があった後で、まだ怪我も完治してない状態。他にも、至らない点は幾つでも出てキリがない。
しかし、結果は今に至っている。何故了承したのか聞いたけど、毎度の黙秘なのでスルーするしかない。修行に付き合ってもらうだけ感謝しかない。
『・・・・・・』
両者は沈黙のまま、木刀のぶつかり合う音が響き渡る。呂布は二刀を軽々扱い隙を見せないよう攻撃を次々と仕掛けてくる。対して防戦一方になっているが、どうにか一瞬の隙を見つけて攻撃に転じるが容易く防がれてしまう。
(これでも駄目か。 でも、動きはなんとか目で追えるなら…)
呂布はこの修行に二つヒントを言っていた。
<一つ目、どんな小動物だろうと動きを見極めれば対処は出来る>
「でやあぁぁぁぁ!!」
大声を出し呂布に急接近する。急接近した俺に対して呂布は一瞬だけ行動を止めた瞬間、俺は右足を上げ呂布の左手にあった木刀を蹴り飛ばし、勢いのまま左回転をして自分の左手にある木刀を振る。
しかし、呂布は残った右手にある木刀で防がれてしまう。だか勢いは残ったまま…
「はああぁぁぁぁ!!」
勢いのまま右腕の拳で相手の顔を殴った。殴られた呂布は、身体を蹌踉めき膝を地面につける。
<二つめ、武器は手持ちだけに拘ってはいけない。多種多様にある武具があるが、状況に対応出来なければ持ち腐れでしかない>
「っっっっ!?」
しかし、呂布は鎧を身に付けているので顔もまた然り。つまりは、素手の右手が物凄く痛い……めっちゃ痛い…
「ふふふ…ははハハハ!!! 良いぞ、カズマ!! 刀ではなく貴様の拳で決めたか!!」
俺の感動よりも呂布の昂りは凄いと二度目ながら思う。最初は夜に突然に叫びまして…
「遂に繋がりが始まり、天に響く声が広まるか………魂ィィィィィ!!!」
と、叫んでいたから初めは驚きと呂布の普段との差に唖然としたのは良い思い出だと思う。
それに二つ目のヒントからこうなったけど……
「一太刀じゃなくて、一撃で…?」
「どちらも同じ事よ、俺の魂が荒ぶり震えてくるぞ……だが、この続きは今ではない。 カズマ、今から行くべき場所に向かえ」
呂布の昂りは急に鎮まり、俺に行くべき場所があると言う。でも、行くべき場所って一体何処に?もしかして、博士の所とかかな?
「貴様が乗る機械が示す筈だ。 今、呼び出すのだ」
予想とは違い、ヴァルホークを呼ぶよう促される。
「でも……アレは。 それに呂布は……?」
そう、先の戦いで俺がこうなりヴァルホークも同じく損傷している。この間に直るにしても、ナノマシン(再生力)がないヴァルホークじゃあ無理だ。それに、呂布には恩返しの一つも出来てない…
「…奇怪な顔をするな。 貴様は自身の成すべき事に集中し、然すれば廻って俺に意味を成すだろう」
呂布の目は真っ直ぐ俺を見つめ、何時もとは違い声に温かみと柔らかさを感じた。遥か高みにいる呂布からとは思えない姿だが、これは俺しか知らない……いや、あの人も知ってるのかな?
(成すべき事……やるべき事……行ってみるしかない)
「ヴァルホーク、来い!!」
俺の言葉と共に、空から風圧と機械音がする。そこには修復されたヴァルホークが飛んでおり、ゆっくりと後下し着陸した機体は直ぐにハッチが開いた。
「・・・・・またね」
機体に向かう前、別れ際に再開があるように言葉を言う。呂布は無言のまま見つめるだけだ。
ヴァルホーク搭乗後、ハッチは閉まり機体は空に飛び始める。呂布とボロい建物が小さくなり周りが見えてくる。
「孤島……だったんだ」
外に出ても修行で探索しなかったけど、まさか孤島だったとは…
[行き先、固定しました。デルタポイントに指定。時空間の歪みから侵入し目的地に入ります、総時間は一時間]
機械音声から行き先を告げる。
呂布の言った通りになったが、デルタポイントに何かがあるようだ。ならば、一時間の猶予もあるのでシュミレーターを使うことにした。前回のオチを繰り返したら呂布の修行が意味をなくしてしまうからね。
それから一言、心で言っておこう…
(博士、ジョーイ……まだまだ帰れなくて ゴメン)
……………………………………
俺は奴が飛び立った後、いなくなった空を見上げる。
「・・・くくく」
笑いが込み上げてくる。この俺が、この呂布が弟子を作るなど誰が予想するだろうか? 俺も予期しなかったが、作った事に対して嫌な気はしない。
(俺に情があったと? 笑わせる!! これは更なる高みの為の精でしかない)
だが、一興が出来たのは良い。後は何処まで登り詰め、俺の魂を昂りさせてくれるか……何かが来る、これは…
「・・・・総司令が来るとはな?」
「奴がそうなのか?」
「・・・・・」
…………………………………
「そのオーラマシンは何じゃ!! 貴様はサコミズと繋がっておるのか!? 答えぬのか!?」
(行き着いた先で、お爺ちゃんにカツアゲされています……誰か助けて)
<ちょっとした、主のイメージ話(誰得感)>
・呂布のイメージについて
ゲームだと、攻撃する度に魂と叫ぶ人。
アニメだと、ダークヒーローな感じで悪役と味方を引っ掻き回す人。
どちらも、話してはいるが沈黙感が拭えないように見える。
(漢は背中で語る…人だ)