ガンバライダーロード000   作:覇王ライダー

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第4話

八月に差し掛かった今朝、実験は行われた。

重そうな鉄のドアが開きロードと引率した研究員が実験室へと入った。そこで待っていたのはシルバや九重を含んだ研究員と医務官として呼ばれた環だった。ロードはそんなことも気にせず、一歩前に出た。シルバも一歩前に出てロードへと近づいた。

「今回実験を担当するガンバライジング社で支部長を勤めるシルバだ。よろしく頼む。」

「こちらこそよろしく。」

ロードは差し出された手を握った。どよめく周囲をよそにシルバは説明を続ける。

「今回行うのはロードシステムというシステムの実験だ。システム上完璧だし君の身体能力でオーバーフローまで向かわないように制御してある。」

自分の名が付けられているのは皮肉かそれとも意図はないのか。ロードは静かに話を聞く。

「そして相手はアレだ。」

指さしたそこに装置が置いてある。ロードも見たことがある機械だった。

「アレって俺がぶっ壊した泥のやつか。」

シルバはうなずいて映像を映した。そこには数字やら難しい設計図やらが書かれていた。

「以前のシステムから改良を加えて出力の向上と仮面ライダーの形成に成功した。出力もきっと君に似合う相手になるはずだ。」

ロードはわかったようなわかってないような顔でシルバの言葉を頷く。シルバも難しかったかと苦笑いした。

「まあ戦えばわかるから早速取り掛かっていこう。そこのベルトを持って試験場へ入ってくれ。」

ロードは頷いて置いていたベルトと呼ばれてたマシンのようなものを手に取り実験室へと足を踏み入れた。環がいたので話しかけようとも思ったが後で看護してくれるだろうしその時でも謝罪は遅くない。

環はロードに一言かけようかと歩こうとした。九重はその足を止めた。

「実験の後でも遅くないですよ。僕らの実験は成功します。」

環は不安げな表情を浮かべて頷いた。これは親心なのかもっと違う感情なのか、九重にはそれを見分けることはできなかったがおそらくは前者だろう。

ロードが入ったことを確認するとシルバはマイクを使ってロードへと指示を送る。

「では実験を始める。腰にそれを当ててくれ。」

ロードは指示通り先ほどのマシンを腹部にあてた。するとベルトのようなものがロードの腰に巻き付いてマシンを腹部に固定した。なるほど、ベルトと言っていたのはこういうことか。

すると体が光に包まれて彼の体に鎧を纏った。赤い複眼と赤いアーマー、目つきの悪いその目は裏切り者を狩る悪役そのものだ。ロードはその手を見て驚愕する。皮生地のようなそのアーマーは触っていて心地がいい。これがこの会社お墨付きのガンバライダーというやつだろう。

「よし、始めてくれ。」

シルバがそう指示するとマシンが動き出し、泥よりも黒いその影は人の形を成してロードの前に立った。これが先ほど言っていた仮面ライダーというやつだ。

「では開始!!」

そうスピーカーから声が聞こえると影はロードへと襲い掛かる。襲い掛かる影をロードは回し蹴りで叩き落した。影はロードへ殴り掛かるがそれを前蹴りで押し出し、そのままとびかかってその影の顔面目掛けて左ストレートをふるった。

前を見ると影は増えて六体ほどに増えていた。ロードが殴り掛かろうとするとスピーカーからシルバの声が聞こえた。

「その手から君の思い描く武器を作り出すことができるからやってみてくれ。」

ロードは握ったその手を開いて前へ突き出した。するとその手から粒子が流れ出し、大きな斧へと姿を変えた。その斧を手に取って一気に影へと振りぬいた。

シルバはその数値を見ながらロードの戦うその姿を見ていた。九重もその姿を見ながら安堵の声を上げる。

「出力こそ不十分だけどこれなら他のガンバライダーとも戦える出力だ。」

「あぁ・・・出力の安定もよし、これなら何とかなりそうだ。」

恐らくロードの戦闘センスもあるのだろうが他のライダーの攻撃を確実に回避しながら戦っている。ガンバライダーの複眼についているモニターが優秀なのもあるのだろうが、彼の戦いの読みの高さと動くスピードが他よりも断然高い。恐らく聞いていた数値以上の力を引き出しているのだろう。

もう少し彼の戦いを見ていたいところだがこの数十分でデータも取れたことだしそろそろ切り上げようとしたその時だ。

「なんだ・・・これ?」

周囲のモニターが青く光る。そこにはAKU-TOの文字が刻まれていた。

「アクー・・・ト?」

「アラート発生!!なんだこれ・・・ウイルス?」

九重の椅子退けてすぐさまモニターを見た。制御されていたシステムのロックが外れて暴走の域まで数値が上っていた。こんな数値が出てしまうとマシン自体が壊れてしまうはずだ。シルバはすぐ試験室のモニターを見た。そこには圧倒されて胸倉を掴まれるロードの姿があった。

「第二次アラートが発生!!社全体に向けられたものです!!」

「なんだ!!!」

そのアラートはESCAPEと映していた。こんな時に脱走者なんて何をやっているんだ・・・。シルバは頭を抱えて倒れ込んだ。九重はすぐシルバの肩を支えた。

「もし何かあれば僕が出る。君は実験を続けるんだ。」

シルバをゆっくり持ち上げると、九重はすぐPCへと目を向けた。

一方でロードは増える影に防戦一方を強いられていた。

「なんなんだこの強さ・・・。」

斧を振りぬいては攻撃をよけての繰り返しだが数は一向に減らずこちらの体力だけが削られていく。

ロードはすぐさま盾を召喚して銃撃を防ぐがこの数では押し切られることなど目に見えていた。

"wake up

"ファイナルベント"

ロードへと二つの蹴りが飛びそのパワーは盾を打ちぬいた。そして衝撃がロードを吹き飛ばして壁へたたきつけた。

「クソ・・・ッ。」

立ち上がろうとするが力がうまく入らない。手から落ちた斧を拾って力の限り投げたが敵に届かぬまま地面へと落ちた。黒い影は群をなしてロードへと近づいていく。その時スピーカーからシルバの声が聞こえた。アラートの音がうるさいがかろうじて聞こえる。

「ロード君、システムがハックされてこちらも今は身動きが取れない。今すぐそこを離脱してくれ!!」

とは言われてもこっちももう力が入らず立ち上がることすらままならない。実験にも役立たずただ死ぬだけのゴミだったのだ。自分はもう・・・そう思った時だ。

"力が欲しいか?"

その声は紛れもない自分の声だ。だがその声は自分よりも威圧的で荒々しかった。なにかはわからないが考えてる暇はないと思い頷いた。

"分かった。なら俺に代われ"

意識が消えていく。深い海に落とされるように少しずつ自分が消えていく。俺は・・・僕は・・・

ゆっくりロードは立ち上がると一気に加速して影を切り裂いた。そのスピードは影を圧倒して追いつけないスピードだ。

「なんだこの数値・・・。」

九重とシルバは呆気に取られた。瞬間的に数値は先ほどの数倍に上がった。傷だらけになりながら攻撃を続けるその姿は先ほどのロードを人とするならまるで獣だ。数値は見る見るうちに上昇していく。九重はあることに気づく。

「セーフティーが作動していない・・・。自ら外したのか?」

「暴走・・・。」

シルバの言葉に九重は頷く。シルバがすぐスピーカーを繋いでマイクを持った。

「ロード君聞こえてるなら答えてくれ!!今すぐそのベルトを外してこちらへ戻ってこい!!」

ロードはシルバたちのほうを向いた。聞こえたのかと安心した時だ。

「危ない!!!!」

九重はシルバを抱いて後ろへ飛んだ。言葉をかけたその瞬間ロードはこちらに向けて盾を投げたのだ。ガラスは割れて周囲の研究員は血だらけになって倒れていた。立ち上がった九重とシルバは辺りを見渡した。そこに環の姿はなかった。

「まさか・・・。」

外を見るとそこにはベルトを装填して立つ一人の仮面ライダーがいた。環の変身するセレジオンだ。しかしその姿は以前変身したオレンジアームズではなく赤い鎧に盾と剣を備えていた。

「まさか・・・。」

そう、あれは以前から実験を進めていたリンゴのロックシード、実験段階では成功しているがここで使うなど無茶だ。

セレジオンはゆっくりロードへと近づく。ロードは剣を生成してセレジオンへと襲い掛かった。セレジオンはその剣を盾で受け流しながら持っていた剣を肩へぶつけた。ロードの肩からは火花が散り、鎧が削れる鈍い音が響いた。

倒れて退いたロードはもう一度剣をふるう。セレジオンはそれを剣で止めて防いだ。

「そうだよね。」

こんな筈じゃなかった。この子は兵士として戦うために生まれたんじゃなく普通の子供として世間を知りもっと広い世界へ飛び立つべきだ。大人のエゴがロードという兵器を生み出し、彼を傷つけた。何も悪くない、悪いのはすべて自分を含めた大人たちだ。なのになぜ彼が傷つく必要があるのか?大人がそういう世界を作ったからだ。

「もしこのロックシードが人の闇を喰らうなら・・・。」

今いる自分の大人としての汚さや闇を喰らって強くなるなら今は

「私を殺してでも君を止めるよ。」

セレジオンは壁へと追い込んだ後、つばぜり合いをした剣を弾き飛ばしてロードのベルトへと剣を突き刺した。ロードはその剣ごと壁へ突き刺さって身動きを取ろうにもとれない。

セレジオンは剣と盾を捨ててベルトのナイフ部分を下ろした

"リンゴスパーキング"

放った一撃はロードごと壁を打ち抜いていく。壁へとめり込んだロードは変身解除してそのまま眠るように倒れた。

変身解除した環はロードへと近づこうとするが自分の体へ異変が起きていることに気づく。

「・・・そっか。」

彼女の体から光が漏れて掌が消えていく。恐らく実験段階のロックシードを使った副作用だろう。消えていく光は空で飽和していた。

「ごめんね。」

もっと広い世界を見せてあげたかった。大人になる君を見届けたかった。そんな思いがこみ上げて静かに涙がこぼれてきた。

「環さん!!」

九重は環へと叫ぶ。環は九重へと何か言ったが九重には聞こえない。

環はリンゴロックシードへと近づいて蹲った。これを握る手すらもうない。

「あとはお願いね・・・九重くん、シルバくん。」

暴走した悪魔を止めた儚い騎士は光となって消えていった。少年とロックシードはその場へと残った。

 

あの実験から一ヶ月が経った

ロードが起こした実験は極秘として行われた実験だったと檀を含む関係者に通達され、失敗した事件として闇に葬られることとなった。

ロードシステムはプロトタイプとして実験が進み、暴走した同型のタイプはロードアナザーという呼称で呼び進められることとなった。

製作者のシルバは暴走したガンバライダーの処理と追及の果てにGRZ社を追放された。唯一の生存者となった九重はリンゴロックシード含めてただ一人残り事件の真相について研究している。副支部長には新しく配属された研究員が担当となって進められている。

逃げたガンバライダーは現在も失踪を繰り返していて現在も捜索中とのことだ。暴走事件の際に使われていたマシンのデータが一部ハックされていて、逃亡したガンバライダーはそれが目的だったなんて話も出ている。

ロードは以前と同じく戦闘訓練に参加できるレベルまで回復したが

「うらぁ!!!!!」

「またマシン破壊しやがった!!!!」

以前のような静かな冷血動物とは違い荒々しい獣のような破壊へと向かっていた。破壊されたマシンは残骸一つ残さず粉砕されて粉々となった。

彼に聞くと記憶がないらしく消えた環のことやその時の事件、その前のことも覚えていないらしい。当初それを聞いた研究員たちも驚きを隠せなかったが、証明する方法もなくその言葉通り迷宮入りである。

あの時環は九重に何を残し、ロードに何を与えたのかまでは分からない。しかし彼女はあの地で戦い、後にロード達に何を託すのか。それはまだまだ先の話である。




ガンバライダーロード000話を読んでいただいてありがとうございました
これを書き始めたとき、皆からオリストが欲しい!ということだったので制作した次第です。もちろんロードの正統な外伝でもありエピソード0でもあるわけなんですが。
実はこの最終話、最後音楽をかけながら配信したりして書いていたんですが、エグゼイドBGMのTo heartだったり島谷ひとみさんの深紅だったりと泣ける曲が続きながら書いたりしてたものです(苦笑
印象に残っているのはやはり最後の環の言葉でしょうかね。僕自身親とか大人ってなんだかんだああいう生き物なんだろうなと思いながら環のセリフを書いていました。結局のところ子供や次の世代に対してこんなはずじゃなかった。もっと良くしてあげたかった。皆さんにもきっと経験があることだと思います
僕はこの作品が好きですし外伝という形でロードのこういう姿を描けたのは大きな成長であり感謝なのかなと思ってます。

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