infinite DRAGON KNIGHT in 明日未来   作:伊勢村誠三

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ケイタ「前回までのinfinite DRAGON KNIGHTは遂に!一夏が復活しました!」
心愛「一夏ぢゃ〜ん!」
一夏「わ!心愛ちゃん泣かないの。」
ケイタ「後は福音へのリベンジだけだぜ!さてさてどうなる!?」
(op Anything Goes! 大黒摩季)


the Heat その7

1

空中で胎児の様に丸まった鋼の何かが動かないで浮遊している。

あの戦闘から延々とその場に止まっている銀の福音だ。

 

静かに翼に抱きしめられた鋼の胎児は月の光を受けてどこか神話の一場面の様な美しさがあった。

そして今、その神話が一発の砲撃によって妨げられる。

 

「初弾命中。続けて砲撃を行う!」

 

砲撃の主はラウラと砲戦パッケージ『パンツァー・カノーニア』を装備したシュヴァルツェア・レーゲンだ。

 

(!? 敵機接近が予想より速い!)

 

目の前のISを兎に角倒せ!

そのプログラムに突き動かされ銀の福音はラウラに迫った。

 

機動力特化の銀の福音に対して砲戦パッケージを積んだレーゲンはそんなに早くは動けない。

連写性能も向こうの方が上だ。

距離を詰めた福音の右手がラウラに伸ばされる!

 

「セシリア!レン少佐!」

 

事はなかった。飛び出して来た青と黒の機体に弾かれる。

強襲型パッケージ『ストライク・ガンナー』を装備したブルー・ティアーズと高速戦用パッケージ『サムライソニック006』を装備した打鉄黒翔だ。

 

セシリアはレーザーライフル『スターダスト・シューター』を、蓮はサムライエッジliv004で福音を攻撃する。

 

「テキ…排除!」

 

「節穴。」

 

「遅いよ」

 

それは陽動だった。セシリアと蓮の背中に隠れて現れたシャルロットと簪は真後ろからショットガン二丁と機関砲を浴びせて福音の体制を崩す。

 

しかしそれも一瞬の事、すぐさま光弾を背後の二機にも飛ばすが、

 

「悪いけど、この『ガーデン・カーテン』はそのくらいじゃ落ちないよ」

 

「お前なんかのが通じるほど、この『不動岩山』は柔じゃない!」

 

2枚ずつ展開されたエネルギーシールドと物理シールド、

そしてスクリーン型のバリアに尽く阻まれる。

 

そして防御の合間にもシャルロットと簪は武器を取り換えタイミングをもって反撃する。

 

加えて高速機動射撃のセシリアと蓮に、

砲撃のラウラ、砲撃の檻に閉じ込められた福音はじわじわと消耗を始める!

 

「ク、空域カラ離脱ヲ!」

 

全方向に光弾を放った福音は全スラスターを開いて強行突破を計る。

 

「させるかぁ!」

 

海面から2発の砲弾…否、砲弾と化した紅椿とオーランディ・ブルームとその背中に乗った甲龍と赤龍改だった。

 

「今ここで叩き落とす!」

 

福音へと肉薄する紅椿とオーランディ・ブルーム。

その背中から飛び降りた鈴音は機能増幅パッケージ『崩山』をケイタは『逆鱗閃甲』を纏わせた『クアッド・ファランクス改』を展開する。

 

両肩の衝撃砲と共に増設された二つの砲口がクアッド・ファランクス改と共に火を吹いた。

福音にも勝る火炎球と砲撃ビームが福音に雨霰と降り注ぐ。

 

「やりましたの!?」

 

「フラグを建てるなオルコット!

お約束通りまだまだだぞ!」

 

両腕と翼を目一杯広げた福音が光を放ち、爆ぜる。

光弾の一斉砲撃が始まった。

 

「畜生!皆俺たちの背後に!」

 

両腕と一体化した盾に『逆鱗閃甲』を纏わせたケイタに、シャルロット、簪が前に出て盾になる。

 

「こいつはヘビィだぜ!」

 

いくら単一仕様や防御用パッケージとは言え軍用機の攻撃に晒されて続ければ長くは保たない。

元にたった今シャルロットの物理シールドが一枚破られた。

 

「セシリア!ラウラ!ロラン!ケイタ!」

 

「言われずとも!」

 

「お任せになって!」

 

「了解だ!」

 

「よし来た!」

 

後退するシャルロット、簪に合わせて上下左右に分かれた4人は交互に砲撃、射撃を行う!

 

「足が止まればこっちのもんよ!」

 

そして直下から鈴音は双天牙月による斬撃と至近距離からの拡散衝撃砲を浴びせる。そして遂に!

 

「もらったあああっ!!」

 

エネルギー弾を全身に浴びながらも鈴音は頭部のマルチスラスターを破壊した。そしてそのまま拡散衝撃砲との連続攻撃で片翼までも奪う!

 

「はっ、はっ……!どうよぐっぅ!」

 

隻翼になりながらも福音は直ぐに体勢を立て直し鈴音の左半身に回し蹴りを叩き込む。

腕部アーマーの破片を撒き散らしながら鈴音は真っ逆さまに海に落ちて行った。

 

「鳳!」

 

「鈴!おのれっーー!」

 

箒と蓮は空裂とサムライカリバー001を構えて福音に斬りかかる。

両肩に刃が食い込んだ。

 

(獲った!)

 

(このままブッタ斬る!)

 

そう思った瞬間福音は二本の剣を掴み、光弾の砲口を2人に向けた。

 

「なっ!?」

 

「滅茶苦茶は、お互い様だな!」

 

ぐるん!と剣を軸に1回転した蓮はサムライカリバーを()()()()()()()福音の背中に爪先蹴りを浴びせる。

 

「やれ!篠ノ之!」

 

「だあああああっ!!!」

 

箒も同じ様に1回転して展開装甲を発動した爪先で残った翼を蹴り壊す!

遂に両翼をなくした福音は海面に落ちて行った。

 

「おい皆生きてるか!?」

 

珍しくラウラが慌てながら全員に問いかける。

 

「俺は平気だ。皆は?」

 

「なんともない。」

 

「大丈夫だよ!」

 

「う…ギギ……こちら鈴。今どっか海の中。

左手が馬鹿みたいに痛いけどそれ以外は。」

 

「てことは!」

 

私達の勝ちだ! そう誰かが言おうとした時、

蓮はおかしな物を見つけた。

 

「おいアレなんだ?なんか海の中が光って」

 

それより先を蓮が言う事はなかった。

海が破裂するのと同時に放たれた青白い雷に撃墜されたからだ。

 

遅れて一同が海を見ると、そこにはクレーターが出来ていた。

その中心にいるのは、溢れんばかりの殺意を鋼の瞳に宿し、

エネルギーの翼を広げた銀の福音第二形態だ。

 

「まさか、セカンド・シフト!?」

 

「言ってる場合か!散れ!」

 

「ギャアアアアア!!!!!」

 

エネルギーの翼から無数の小さな羽が芽吹いて中から破壊の矢が放たれる。

まず1番遅いラウラが、次にロラン、簪、シャルロット、セシリアと次々仲間たちは撃墜されていく。

 

(軍用機ってあんなデタラメなのかよ!)

 

《通常セカンド・シフトしてもここまでにはならん!

まずいぞ、全員辛うじてバイタルは確認出来るがシールドエネルギーが尽きかけてる。損傷も激しい。

もうまともに飛べてるのは我々と篠ノ之箒だけだ!)

 

今ある戦力で最強の布陣で臨んだ。

全力を持って戦った。その結果が全滅?

 

「んな事認めてたまるかあああああっ!!!」

 

海上に浮かんでいたロランのレイピア・カウスと鈴音の双天牙月の片方を掴み上げると『逆鱗閃甲』を纏わせて光弾を斬りながら進む。

 

よく見ると福音のバイザーに覆われた顔に飢えた獣の様な文様が浮かび、アーマーにも不気味な血管の様な柄が出ている。

 

「それっぽくなって来たじゃねぇか!」

 

崩れかけの武器を捨て、背中のマウントラッチから『鳳羽』を引き抜き、跳ぶ!

 

「いっけえええ!!」

 

『よせケイタ!今の赤龍改の装甲では蜂の巣にされるぞ!』

 

「もう引き返せるか!」

 

最大の光弾がケイタと箒に迫る、その時

 

 

 

2

「もしもし!もしもし!誰か!誰でもいいから応答してください!誰か!」

 

誰も応答しない。

バイタルだけは全員が無事だと知らせてくれるが、

なんの気休めにもならない。

真耶と心愛は管制室で固唾を飲んで見守るしかなかった。

 

「せ、先生!どうしよう?私どうしたら!」

 

「落ち着いてください保登さん。

私達が取り乱しても事態は好転しません。

きっと、きっと大丈夫です!」

 

後半は殆ど自分に言い聞かせる様だった。

 

『もしもし!もしもしこちら甲龍!誰か応答して!』

 

「鳳さん!?こちら管制室、どうしました?」

 

『先生助けて!

銀の福音が第二形態移行して、皆撃ち落とされて!

さっきアキヤマ見つけたけど息してないの!

助けて先生!アンタ仮面ライダーでしょ!?』

 

「……鳳さん落ち着いて下さい。

アキヤマ君の心臓は動いてますね?

こちらからバイタルが確認できます。

まずは人工呼吸を」

 

そこまで言ったところでキーン、キーンと耳鳴りの様な音が響く。

鏡を見ると谷本と相川がサメ型のビースト、アビスラッシャーとアビスハンマーに連れ去られようとしていた。

 

「不味いですね。保登さん!」

 

「ウェ!は、はい!」

 

心愛にヘッドセットを渡し、

人工呼吸の仕方をなるべく丁寧に早口でまくし立てると真耶はデッキを構えてポーズを取る。

 

「カメンライダー!」

 

真耶は片翼になったセイレーンに変身した。

 

「ま、待って先生!私が、私がやっても!」

 

「保登さん!今助けを求めと来たのはあなたにとって何ですか?」

 

「? 友達です。」

 

「ならあなたが助けてください。

今それを出来るのはただ1人あなただけです。

私は私にしか出来ないことをして来ます!」

 

はい!と心愛が頷くとセイレーンはベンタラ側にダイブしてカードをきった。

 

<GUARD VENT>

 

ブラウンウイングの背中を模した小型の盾、

ウイングシールドを装備し、羽型のエネルギーチャフを展開する。

 

混乱する二体にブラウンバイザーで斬撃を与えて谷本と相川を解放する。

 

「鏡に向かって走って!早く!」

 

2人を逃して、まだチャフの中で右往左往する二体のビーストに斬撃を与えて行く。

 

(よし、このまま!)

 

しかしパターンを読まれたのか5度めの攻撃でアビスハンマーを攻撃してる間にアビスラッシャーに背中の傷を抉る様に引っ掻かれる。

 

「あがああああああああああああああ!!」

 

絹を裂くような絶叫が響く。

吹き出した鮮血がセイレーンの鎧を真っ赤に染めた。

それを目印に二体のビーストがセイレーンをリンチにする。

 

「こう、なれば、一か八かです!」

 

<FINAL VENT>

 

「ブラウンウイング!」

 

猛禽類の様な叫び声を上げながら飛来したブラウンウイングは両翼で突風を作り出し、二体のビーストを天高く巻き上げる。

 

セイレーンはバイザーを地面に突き刺して耐えた。

そして武器をウイングスラッシャーに持ち替え、

ブラウンウイングに乗って跳ぶ!

必殺技、ミスティフラッシュをまともに喰らった二体は空中で爆散した。

 

無事に着地するが、血を吐いて倒れ込むセイレーン。

口元を押さえた手からは粒子が上がっている。

 

(限界…ですか。)

 

自分が無くなっていくと言うよりは閉じ込められる、

封印される様な感覚なのは本能が死を拒絶してるからだろうか?

 

「でも、せめて、見届けないと……ブラウンウイング、お願いがあります。」

 

なんとかブラウンウイングの背中に乗せてもらい、

ベンタラのビルの窓から地球側の海に戻った。

戦闘が行われているはずの方角で空が光った。

ライダーの鎧で強化された視覚がとらえたのは

 

 

 

3

冷たい風に頬を撫でられ蓮は目を覚ました。

 

「………?」

 

状況を確認する。何故か俺は今、高速道路(ハイウェイ)の外灯に寄りかかる様に寝ていた。

目の前には事故を起こしたらしいバイクとそれに乗っていたらしい少年少女が倒れていた。

 

「おい大丈夫…いや、そんな馬鹿な。」

 

少年の顔を覗き込むとその顔は蓮と全く同じだった。

少女の方も見てみる。その顔はエリーと同じだった。

 

「こいつは…いったい?」

 

「君の最初の傷だ。」

 

その声に振り返る。そこには予想外の者がいた。

 

「ウイングナイトだと!」

 

驚いて自分のポケットの中のデッキを確認する。

 

「お前は、誰だ?」

 

「お前の姿を借りてるだけの者だ。」

 

そう言ってウイングナイトはデッキから一枚のカードを引き抜く。

 

「力が欲しいか?」

 

絵柄を見せる。

それはついさっき海之に取られたままのサバイブカードだった。

 

「そいつタダでか?」

 

「お前が望めばな。」

 

「寄越せ。」

 

蓮は躊躇なく手を伸ばした。

 

「後悔しないか?」

 

「俺は1秒でも早くエリーを目覚めさせられるならどんな手段も大歓迎だ。」

 

「網島ケイタ達を倒す結果になってもか?」

 

ウイングナイトの青く光る複眼を真っ直ぐ見る。

奴は暗にその力でお前が一夏と黒法の様に大事な物を傷付けるかもだぞ?

と言っているのだ。

 

「ありえないな。俺がさせない。」

 

「その根拠のない自信はどこから来るんだ?」

 

「自信はない。だから無条件にそうだと思う事にした。」

 

それに、と一旦言葉を切って、力強くウイングナイトを見据える。

 

「ケイタ達が、俺みたいな目覚めない女に縋って生きてる道化に負けるはず無いさ。」

 

冷たい風が吹き抜ける。

不思議とウイングナイトが笑った気がした。

 

「なら行け。出口はあっちだ。」

 

ウイングナイトの指した先に蓮は振り返らず全力で走った。

 

「……サードはあんな奴と毎日話してるのか、羨ましいな。」

 

誰に言うでもなくウイングナイトの姿をしたコア人格は蓮を最後まで見送った。

 

 

 

4

ケイタと箒に避けきれない数の光弾が炸裂する直前。

陸の方から飛来した誰かが剣の一振りで消し去った。

 

その闇に溶けるような黒い機体とそれを狩る少女の亜麻色の髪が風に揺れるのが美しい。禁断の宝刀を携え現れた増援は

 

「強盗かと思った?」

 

「「一夏!」」

 

「お待たせ、ヒロインは遅れてやって来たよ!

って2人とも泣いてるの?」

 

「な、泣いてなど!」

 

「そ、そうだよ別に信じてたし!」

 

『こんな時ぐらい素直になったらどうだ?』

 

『そんな事より来るぞ!』

 

ゼロワンが叫ぶと同時に再び光弾が襲って来た。

一夏は臆する様子もなく満壊極夜を発動して光弾を受けて、受けて、受けまくる!

 

「ゼロワン!今吸ったエネルギー全部夜桜に!」

 

『了解だ!』

 

光を喰らう暴食の魔剣から巨大な光を纏いし破邪の聖大剣に変わった夜桜が福音に振るわれる。

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

光の翼を消しながら左肩から袈裟斬りにする。

しかし次の瞬間には眩い光と共に再生する。

 

「ま、そう簡単に勝たせてくれないか。」

 

「その方が倒し甲斐があるってもんだぜ」

 

「ならば行くぞ!」

 

 

 

5

「アキヤマ!アキヤマ!起きて!起きてよ!」

 

『大丈夫です、呼吸も正常に戻ったはず!』

 

誰だろう、なんだか不思議な夢を見ていたのは思い出せるがこんな叩き起こされる程忙しかった覚えはない。

 

(ここの所なんか急ぎの予定は…あ、そうだ。福音討伐…)

 

ようやく目が覚めて身体を起こした。

今にも泣きそうな、と言うか泣きはらした顔の鈴音が目に入る。

 

(鳳、俺は今何時間気絶してた?)

 

「アキヤマ!良かった!」

 

『レン様!ご無事なのですね?レン様!」

 

「お前ら落ち着け。で、状況は?」

 

「なんでか分からないけど全快した一夏が黒法に乗って来て今ケイタと篠ノ之と一緒に戦ってる」

 

「他の奴らは?」

 

『レン様同様撃墜されて意識不明です。

バイタル、肺活量共に正常ですが。』

 

見ると鈴音の甲龍もスラスターが滅茶苦茶に潰れている。

これでは飛べないだろう。

 

「よし来た。鳳、原型を留めてたらなら双天牙月を貸せ。

一矢…いや、一閃報いてくる。」

 

そう言って鈴音から半分だけの双天牙月と残りの甲龍のエネルギーを受け取る。

 

「アンタ、起こしといてなんだけど私よりボロボロだけど?」

 

「秘策はある。まあ見てろよ。

クリスチャン大国アメリカの少年が福音を斬り裂く衝撃映像をな!」

 

軋む機体に鞭を打って双天牙月を居合斬りの様に構えて飛ぶ。

 

『レン様、それでその秘策とは?』

 

「ただ速く翔ぶ。」

 

『………レン様お戻り下さい。

あなたは正気じゃありません!』

 

「掴むんだよ。自分が何者よりも速いって感覚を。

その為に何もかも捧げながらも強欲に代償を踏み倒す蛮行を。

それが、活路。このレン・アキヤマが進む路だ!」

 

『撃墜された時に脳でも欠けましたか!?

お前は何を言ってるんだ!』

 

「全てのエネルギーをスピードに回せ!

イニシエイト・コア・クラック・シークエンスで生命補助に回してる分も全部だ!」

 

『死ぬ気か!?』

 

「俺は死なない!知ってるだろ?」

 

『………レン。お前のバディになったのが運の尽きだよ。』

 

「ありがとう相棒。やるぞ!勝負はこれだけだ!」

 

そして一条の光が翔けた。

遅れて暴風と、一撃でパイロットの脚ごとアーマーを両断された福音が回転しながら落下する。

そしてケイタ達が見上げた先には

 

「「蓮(レン)!」」

 

「打鉄黒翔改・夜蒼の一番星(ナイトブルーファーストスター)

 

第二形態移行した打鉄黒翔の姿があった。

それは細身だった打鉄黒翔に輪をかけて細く、

下半身にスカート型の多段スラスターが付いた速さだけを追求したスタイルをしている。

 

実際黒翔改は速い。ハイパーセンサーでも追えない程に速い。

では何故蓮は無事なのか?

 

その理由は単一仕様『永光星火(えいこうせいか)』にある。

 

永光星火は零落白夜のような攻撃特化型でも逆鱗閃甲のような万能型とも違う『生存特化型』 つまりエネルギーがほぼ満タンの時に限りパイロットの生命を残りのエネルギーと引き換えに無条件に守り切る。

 

たった一回に限り、スピード、防御共に無敵。

それが一瞬だけ福音を完全に無防備にした奇跡の正体だった。

 

「畳み掛けろ!」

 

ケイタは二本の鳳羽を、

一夏は夜桜を構えて最大戦速で突っ込む!

 

「ギャアアアアア!!!!!」

 

最後の足掻きとばかりにエネルギーというエネルギーを攻撃にして放つ福音。

 

(不味い!このままじゃ肉薄するより先にエネルギーが尽きる!)

 

(こんな所で、また同じ過ちを繰り返すものか!)

 

箒の思いが通じたのか、それとも天災(たばね)のイタズラか、

紅椿の展開装甲が優しい光を放つ。

 

(エネルギーが増えてく!?まさか箒も単一仕様を!?)

 

「サンキュー篠ノ之さん!行くぞ一夏!これで最後だ!!!」

 

「うおおおおおおおお!!!」

 

逆鱗閃甲を纏った鳳羽と満壊極夜を纏った夜桜が福音に食い込む。

 

「あと、一押し!ゼロワン、白式展開!」

 

『本気か一夏!?お前の体が持たないぞ!』

 

「そこは信じてるよバディ!」

 

『な! 全く無茶を!いいだろう。やってやるぞバディ!』

 

ゼロワンは電脳空間内でつい最近実用化されたばかりの3機を呼び出した。

 

『サーチャー、ディテクター、クロノ!』

 

最強の分析力のサーチャーとディテクター、

そしてフォンブレイバーの機能拡張のクロノ、

三体のアクセルデバイスを同時に着身する。

 

『三体着身メガ・アクセル・ガンマ!着身完了!

白式にアクセス…アクセス完了。』

 

2つのISを同時に使う。普通は無理だが、ゼロワンには策があった。

 

《ISコアをブラックボックスたらしめる特殊暗号は共通だ。

これを双方向に通信が可能な機会ととらえさせ、

二体の回路に互いの暗号を解析しあわせ結合させる!》

 

つまりそこで生まれるのは

 

『融合形態、単一世界(ワンワールド)両極双心(ツーハート)

我ながら恐ろしいものを作ってしまった。』

 

黒法のディストーションブラックの鎧の上から白式のパールホワイトの装甲が追加され、夜桜にも雪片弐型の展開装甲、つまり零落白夜の力が加わる!

 

「これで最後だあああああ!!!」

 

「はぁああああ!だああああ!!」

 

三閃。福音の身体が三文字に切り裂かれる。

 

パイロットの傷を回復させてエネルギーを完全に使い切った福音が、堕ちた。

 

 

 

5

「やりましたね皆さん」

 

遠くの空からなんとか飛べるだけのエネルギーが残っていた赤龍改、黒法、紅椿に乗った一同がはしゃぎながら戻ってくるのが見える。

 

それを見て安心したのがいけなかったのか、

なんとか立っていたが遂に真耶は膝をついた。

 

(残念、だなぁ…あの子達の卒業まで見たかったなぁ。)

 

セイレーンの鎧が光になって弾け、

現れた生身が音を立てて砕け出した。

これがベント。

 

(お父さん、私ちゃんと出来たかな?

あの子達の先生になれたかな?)

 

空に向かって手を伸ばす。

何故だかそこに出口がある気がした。

 

鏡が砕けるような音。残ったデッキだけが砂に落ちる。

それを看取った者は居なかった。

 

仮面ライダーセイレーン=山田真耶 脱落

       残り 8人

 

 

 

6

夜。ケイタとセブンは浜辺を歩いていた。

 

「なあ、セブン。」

 

『なんだ?』

 

「俺たち勝ったよな。」

 

『勝ったな』

 

「終わったよな」

 

『終わったな』

 

「本当にそう思うか?」

 

『……何が言いたい?』

 

「いや、福音が暴走したのって本当にただの不幸な偶然なのかな?って。」

 

『君もアキヤマが言う様に篠ノ之束の策略だと思うのか?』

 

「いや、そうなんだけどあの人ならもっと大々的にやらない?」

 

『大々的?』

 

「確かに軍用機と戦って勝てば紅椿と黒法の強さは証明されるけど、

白騎士事件程の騒ぎにはならないよな?」

 

『…まあ、上で止められるだろうな。』

 

「だったら篠ノ之博士の目的は、こいつだったんじゃないかって。」

 

ドラゴンナイトのデッキを取り出すケイタ。

 

『まさか篠ノ之束がライダーの技術を狙っていると!?

だとしたら間明達は…』

 

「混乱に乗じて攻めて来ただけだろうね。」

 

篠ノ之博士はどこまでライダーについて知っているのか、

間明達はどこまで篠ノ之博士の思惑に気付いて行動しているのか、

何にせよ一筋縄じゃ行かない。

 

「どーしたもんかな?」

 

何となく、貝を拾って海に投げようと屈む。

しかし掴んだのは

 

「セイレーンに、トルクのデッキ?」

 

かなり長い時間放置されていた様で砂を被っていたが、間違いない。

 

「せ、セブン?近くに、近くに山田先生は!」

 

『居ない。恐らく、ベントされた。』

 

頭が真っ白になった。先生が、ベントされた。

たった3ヶ月足らずの付き合いとはいえ、

いい先生だった。

ぎこちない挨拶からシャルロットの為に見せた真剣で優しい表情まで次々と浮かんでは消えていく。

 

あの人が笑う事はもうない。

あの人がここにいた証拠さえ、

もうこのデッキしかない。

 

不意に全身に火傷を負って包帯だらけになった一夏を思い出す。

 

(嫌だ!…あんなのは2度とごめんだ!)

 

言いようの無い不安や焦燥感が襲ってくる。

 

「おーい!ケイタ!」

 

見ると入り口の方から一夏が降りて来る。

 

「一夏…もう、休んでなくていいのか!」

 

「休んでなくてって言うか、

これから休む所なのに誰かさんが居ないから探しに来たんですけど?」

 

もう直ぐ消灯時間だよ?と言って一夏はケイタの手を引く。

 

「待って。」

 

「え?」

 

ケイタは一夏の手を強く握り、振り向かせた。

 

「えっと…ケイタ?」

 

「嫌じゃ無いならだけど、一夏。

側にいてくれ。家族同士じゃなくて、そのさ。

……………こ、恋人同士で。」

 

「ッッッッッッ!!?」

 

ボンっ!と音がしそうな程、

一気に真っ赤になった一夏はなんとか言葉を紡ぐ。

 

「じょ、冗談やめてよ!こ、こんな、

千冬姉みたいなかっこよく無い女を?」

 

「優しくて素直で可愛い。」

 

「こ、こんな箒やセシリアみたいな色気のない女を?」

 

「細くて白くて綺麗だ。」

 

「………乳離れどころかママのおっぱいすら知らないからずっと代わりを探してる様な甘ったれを?」

 

「素直な証拠だ。」

 

握ったままの手を少し手の甲が見えるようにして跪き、

小さく口付けをする。

 

「どうか守らせてください。」

 

(ED Forever 真・仮面ライダー 序章)

 

ケイタが立ち上がるとその首に一夏が絡みつき、唇に噛みつく。

それが返事だった。

初キスの味はレモン味と聞いていたがそんなのより蕩ける程、甘い。

 

そして最後は言葉で

 

「ケイタ大好き。一緒にいて。」

 

「喜んで。」

 

2人は激しくお互いの口を貪り合う。

二機のフォンブレイバーだけが見ていた。




<イメージキャスト>
網島ケイタ=仮面ライダードラゴンナイト
 窪田正孝

織斑一夏
 釘宮理恵

レン・アキヤマ=仮面ライダーウイングナイト
 松田悟志

保登心愛
 佐倉綾音

フォンブレイバーセブン
  河本邦弘

フォンブレイバーゼロワン
 坪井智浩

フォンブレイバーサード
 川島得愛

篠ノ之箒
 日笠陽子

鳳鈴音
 今井麻美

シャルロット・コンスタン
 花澤香菜

ラウラ・ボーデヴィッヒ
 井上 麻里奈

更識簪=仮面ライダーアックス
 三森すずこ

ロランツィーネ・ローランディフィルネィ
 三澤紗千香

山田真耶=仮面ライダーセイレーン
 下屋則子

精神世界のウイングナイト
 尾崎裕紀

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