善逸が拾った女の子   作:フ瑠ラン

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善逸の刀鍛冶が誰か分からないのでオリジナルキャラクターを作りました。また、出てくるかは分からない。


第3話

走って、走って、走る。

 

ただただひたすらに、後ろに振り返ること無く、ひたすら走った。時には木の根に足を引っ掛けて盛大に転けた時もあった。けれど、ひたすら走り続けた。

 

 

「いぃぃぃやぁぁぁああ!!」

 

 

金髪の少年、我妻善逸は鬼を一目見ると抜刀することはせず一目散に走り出しひたすら逃げていた。

 

 

「やだやだやだやだやだやだ。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。誰か助けて。お願いだから。見捨てないで、夜虂は何処!?」

 

 

ブツブツと唱え続ける善逸は一種の恐怖である。鬼を見ては逃げ、時には急に出てくるものだから気絶したりした。運悪く生き残ってしまう善逸だが、生き残るよりも自分が倒れている場所には必ず血溜まりが有るのだ。誰かが助けてくれたにしろ、もう少しやり方と言うものを考えて欲しいと思った(勘違い)。

 

夜はずっと鬼から逃げるため走り続け、朝になると朝日の当たる場所で蹲り「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ」と独り言をブツブツと唱え続ける。

 

休もうにも今、善逸が居る場所は鬼の巣窟である。太陽が出ているとはいえ、気を抜けば直ぐ様殺されてしまう。善逸は1人で行動していたが為に碌に休む事は出来なかった。

 

何でここに夜虂が居ないの!?と逆ギレすることも多々あった。けれどその後すぐ、罪悪感に蝕まれ心配するのだ。

 

日頃は近くに居たからしなかった心配。怪我して無いかな、俺は傷だらけ、とか、ちゃんとご飯食べてるのかな、俺は食べてない、とか色々と考えてしまう。

 

夜虂は女の子で鬼とは違って人間は腕や足を斬られても回復はしない。夜虂は善逸よりも強い。だから、そんなヘマはしないと分かっているのだが、顔に傷なんてものを作ってしまったら夜虂はお嫁に行けなくなってしまう。そんな時は善逸が貰ってあげればいいのだが、ビビりで小心者の善逸にはそんな事を言える勇気が無かった。

 

1回夜虂の事を考えて始めると止まらない。夜になるまでずっと夜虂の事を考えてしまう。ダジャレでは無い。

 

そんなこんなで善逸は7日間を過ごしたのだった。善逸の功績と言えば、汚い高音で走って逃げ回り近くに居た鬼を誘き出した(そんなつもりは無い)ことや気絶して誰かに護ってもらった(気絶した善逸が自分で自分の身を護った)事ぐらいである。

 

最後の最後に少し落ち込んだ。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

最終選別の結果と言えば、善逸も夜虂も無事に突破出来た。善逸は泥だらけできっと転んだり地面に這いつくばったりしたのだろう。そうで無ければ善逸はあんなにも泥だらけになることは無いと夜虂は思った。

 

善逸に対して夜虂の袴は綺麗だった。土埃一つついておらず、同じく最終選別を突破しただろう緑と黒の市松模様の羽織を羽織った少年からは驚いたような目で見られていた。

 

無事に夜虂は善逸と合流すると善逸は泣いて夜虂を抱きしめた。

 

 

「良かったぁぁああ!! 夜虂も俺も生きてるよ!! 体もあるし、心臓だって正常に稼働してる!! 本当に良かったぁぁああ!!」

 

 

何時ものように汚い高音で泣かれるのはいい。しかし、時と場合を考えて貰いたいもので、双子の少女から「説明したいからどうにかしろ」と言ったような目で見られるのは非常に居た堪れなかった。

 

説明役の双子から話を聞いた後、日輪刀に使う陽光石を選んだり、服の採寸等をしたりした。その中でも一番驚いたのはお供についてくる動物だった。皆は黒い鴉を貰っていたのだが、夜虂と善逸は違った。

 

 

「え、鴉? 雀じゃね…?」

「私は梟だよ」

 

 

ぴよぴよっ、ホーホーと鳴いて近づいて来た鳥は明らかに鴉とは言えないもので。少々疑問に思ったが、替えてくださいと進言しに行くまでのものでも無かったし、夜虂は梟と友情を深めた。

 

制服を貰った後は各自解散と言う事になり、善逸と夜虂は藤襲山を降りていく。町を歩いていると善逸が「待って」と夜虂に声をかけた。

 

 

「…どうしたの? 善逸」

「どうせだから羽織買っていこうよ」

 

 

「誰の?」と夜虂が問えば善逸は「夜虂のだよ」と答える。夜虂は善逸のように羽織を着ていなかった。理由としては、袴を着るのは修行の時だけで、基本は着物を着ていた為にわざわざ羽織を買う意味が無かったのだ。

 

しかし、最終選別を通過出来た今、着物を着ることは殆どと言ってもいいぐらいないだろう。だから、せめても羽織ぐらいは女の子らしい物を買おうと善逸は言う。

 

 

「いいの?」

「別に羽織ぐらいなら大丈夫だよ!! 俺だって買えるよ!! 見くびらないで!!」

 

 

そう言うと善逸は夜虂の手を掴んで羽織専門店へと入っていく。

店の中には色んな羽織が置いてあり、夜虂は圧倒された。夜虂はもう一度善逸の顔を見る。善逸は「大丈夫だから早く選んで!!」と夜虂の背中を押した。

 

女性とは買い物が長いものであるが、夜虂は案外早く終わった。しかし、善逸は「早すぎる!!」といい、「まだ選んでても大丈夫なんだよ!?」とも言った。

 

しかし、夜虂は「これがいい」と手に持っていた羽織を離さず「夜虂がそれでもいいならいいけどさ…」と善逸は言って会計を済ませる。

 

そして善逸は思い出した。そう言えば最終選別に行く前にカモられたんだった、と。しかもこういう時に限って夜虂が持ってきた羽織はまあまあ高く、更に善逸を焦らせる。善逸の焦りに気がついた夜虂は自分も払うと行ったのだが、女性に支払いをさせるなど善逸が許すことも無く、寒かった財布が更に寒くなった。ちなみに、ギリギリ、本当にギリギリ買えた。

 

夜虂が善逸に買ってもらった羽織は勝色に深紅色の糸で刺繍してある羽織だった。刺繍されていたのは彼岸花と言う花で、紺桔梗によく映えていた。そして、その羽織はとても綺麗でシンプルだった。

 

嬉しそうな夜虂を見て善逸も嬉しくなった。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

無事、合格出来た夜虂と善逸は師匠に逢いに帰った。もうじき帰ってくると予想していたのだろうか。慈悟郎は家の前で立っていて、夜虂達の姿を見ると安著した顔をしながら出迎えてくれた。

 

善逸も慈悟郎を見て、無事に帰ってこれた事を実感したのだろう。慈悟郎の硬い胸元でワンワンと泣いて寝てしまった。

 

 

「二人ともよく、無事に帰ってきてくれた」

 

 

善逸を布団に入れた後、慈悟郎は辞めていた酒を今日だけ許し、一人で月見酒をしていた。酒を飲みながら、空いている手で夜虂の頭をひたすら撫でくり回す。

 

嬉しかったのだろう。慈悟郎からしてみれば夜虂と善逸はかなりの問題児で手のかかる子供だ。夜虂達が慈悟郎を祖父のように思っているのと一緒できっと慈悟郎も夜虂達のことを自分の孫のように思ってくれている。

 

 

「怪我は無かったか」

「うん。泥だらけだったけど、これと言って大きな怪我は無いよ」

 

 

「ほら」と慈悟郎の前でクルクルと回る夜虂。夜虂が回る度に羽織に刺繍されていた彼岸花も揺らりと動く。怪我が無いと見せているようで実は善逸に買ってもらった羽織を自慢していた。

 

 

「善逸に買ってもらったのか」

「うん。もう着物を着ることは少なくなるだろうからせめても羽織は女の子らしいのを買ってくれるって。似合ってる?」

「嗚呼、似合ってるとも」

 

 

慈悟郎は嬉しそうに目を細めた。昔、拾った頃はあんなにも小さかった夜虂。今となっては月明かりに照らされる姿はとても美しく、綺麗だ。こんなにも大人になってしまったのか、と嬉しく思う反面、少し悲しかった。

 

 

「もう夜虂が着物を着ることも少なくなってしまうのか」

「これからはこの制服で善逸と一緒に頑張って行くよ」

 

 

そう言う夜虂に慈悟郎は「死なない程度に頑張るんだぞ」と言った。

 

 

「今日は皆で川の字になって寝ようか」

 

 

慈悟郎の言葉に大きく賛成するように夜虂は首を縦に振った。

 

皆で川の字になって寝た翌朝。何時ものように善逸が朝ご飯を作って皆で食べた。寝ぼけながら作ったのか少し焦げていたのはご愛嬌だ。

 

暫く皆で日向ぼっこしていると、刀鍛冶の人が来た。二人の人で顔に面を付けていた。二人ともお面は微妙に違う。

 

 

「爺ちゃん、あれ誰?」

「刀鍛冶だ。お前たちの刀を打ってくれたのだろう」

 

 

刀鍛冶は一度、慈悟郎に一例すると夜虂と善逸の前に立つ。

 

 

「貴女が夜虂ね」

「え、あ、はい!」

 

 

夜虂に話しかけた刀鍛冶は女性だった。刀鍛冶では非常に珍しい。着物着ている目の前の女性は非常にスラッとしていて、手足も細い。そんな人が刀を打っているんだから世の中凄いものだ。意外と回っている。

 

 

(わたくし)剛鑄之塚(ごいのづか)絢夢(あやめ)。今回、貴女の専属刀鍛冶につく者よ」

「…よろしくお願いします」

 

 

夜虂がそう言えば絢夢は「ええ」と頷いた後「一つ言っておくわ」と言う。一体、何だろうか。

 

 

「私は女で刀鍛冶になる程変わり者なの。それは自分でも重々承知よ。そんな私は刀がだぁいすき。鬼殺隊を辞めて刀鍛冶になる程にはね」

「え」

「だからその刀を使ってみて何か改良して欲しい所があれば言ってちょうだい。直ぐに改良するから。後ね、私は刀だけ、って言う概念には縛られない女なの。銃って奴も作ってみたからこれ、雑魚鬼にでも試し撃ちしといて貰えないかしら。撃ちにくかったら言ってちょうだい。あ、そう言えば刀渡して無かったわね。はい、これ貴女の刀。鞘から抜いてみなさい。刃の色が変わるはずよ」

 

 

ノンブレスでぺちゃくちゃと喋り始める絢夢。そこまで、用語とかは入っていなかったのだが、基本人の話を黙って聞くことが苦手な夜虂にとっては凄く眠たかった。と言うか半分寝てた。

 

 

「ほら、早く抜いてみなさい」

 

 

どうやら、鞘から抜いて見せればいいらしい。金と紺色の交わっている柄を握りしめ、鞘から抜き出す。すると瞬く間に刃の色は変わり勝色に変わった。

 

 

「へぇ」

 

 

うんうん、と頷いている絢夢。何が何だか分かっていない夜虂だが絢夢がそんな夜虂の肩に手を置いて「頑張りなさい」と言う。更に何が何だか分からない。

 

 

「それじゃあ翔鷹(とだか)を連れて帰ると――あんたら何してるの?」

 

 

 

 

「――――」

 

 

善逸の前に立った男、翔鷹(とだか)蹄鉄(ていてつ)は短きながらも自己紹介をした。しかし、如何せん声が小さすぎる。善逸だったから聞き取れているものの、聞にくいことには変わりなかった。

 

 

「俺、声が小さすぎて誰も聞こえなくて、刀、受け取って貰えなかった。お前、俺の声聞こえるのか?」

「まあね。俺、耳いいし」

「俺、こんなに会話続いたの、初めて。嬉しい。ありがとう権逸」

「善逸ね!! 普通に名前間違えないで貰えるかな!?」

「ごめん…。人の名前、覚えるの苦手で。えっと……逸三郎だっけ?」

「一回、アンタの頭かち割った方がいいんじゃないの?」

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

「ホーホー、任務! 任務!」

「チュンチュン! チュンチュン!」

 

鍛冶屋の二人が帰って直ぐに、梟の福太(フクタ)(夜虂命名)とチュン太郎(善逸命名)が鳴き始めた。それも福太は喋りそれを聞いた善逸が「ふ、福太が喋ったぁぁああ!?」と驚き腰を抜かした。

 

 

「四つの山を越えた、1.5m先の村二て鬼出現!! 直ち二殲滅セヨ!」

「チュンチュン!」

「四つの山を越えるゥ!? 藤襲山よりも遠いじゃん!! もっと近くに人いるでしょ!? 何で俺達なの!?」

 

 

善逸の何時もの叫びを聞いても動じることの無い慈悟郎は「諦めて行ってこい」と言った。早々に荷物を纏め、一番の荷物、善逸を引きずって歩き出す夜虂。

 

 

「行ってきます」

「嗚呼。文はちゃんと寄越すんだぞ」

 

 

最終選別に行く時のように慈悟郎は見送ってくれた。引きずられている善逸は四六時中叫んでいた。

 

漸く四つの山を越えたと言うのに善逸は相変わらず五月蝿い。それに苛ついたのか福太は器用に飛びながら善逸の頭を蹴り、チュン太郎は善逸顔を嘴でつつく。

 

 

「痛い、痛い、痛い!! やめてよ!! 何で二匹して俺をいじめるのさ!? そんなにいじめても行かないからね!? だって死にたくないんだもの!! まだ生きていたいんだもの!!」

「ホーホー、主を置イて一人で逃ゲル事は赦サヌ!!」

「夜虂を置いて逃げるわけないじゃん!! 夜虂と一緒に逃げるんだよ!!」

「逃げないよ」

 

 

福太は夜虂の右肩に、チュン太郎は夜虂の左肩にとまる。夜虂は善逸の襟首を掴むと引きずって村を目指す。勿論、善逸は抵抗し、手足をバタバタさせてみたりするが夜虂が止まる事は無かった。

 

もし、夜虂が男だった場合は「命にかけて俺を護ってよ!!」と言うのだが、女の夜虂にそんなことも言えず。逆に「命にかけても夜虂を護るよ!!」と善逸は言わなくてはいけない立場である。

 

何だかんだ言って、夜虂は善逸が想っている人で。昔からずっと一緒にいるから、こうして素でいられるのだが鬼を目の前にして夜虂の前で背を向けて逃げる事は出来ない。想い人の前でそんなにかっこ悪いのは見せられない。ああ、俺死んだわ…。そう思った善逸だった。

 

目的地の村につくと、村人達は少なく出歩いている人も少なかった。もう既に被害にあっている人達がいるのだろう。外に出ていた村人達の表情は固く、恐怖に染まっていた。それに早々と家へと戻って行ってしまう。

 

誰かから話が聞けないかと歩いていた時だった。大きな怒鳴り声らしきものが聞こえる。慌てて夜虂と善逸は声の聞こえる方へと走って行った。

 

 

「待ちなさい! 蒼也(そうや)!! 何処に行くつもり!?」

「姉ちゃんが攫われたんだ! 俺が、長男の俺が助けに行かなくちゃいけないだろう!?」

「…やめて。蒼也まで私の前から居なくなるのはやめてちょうだい!ミアが死んで、蒼也まで居なくなったら……」

 

 

少年の母はそう言うと悲しそうな顔をした。それと対称的に少年は怒りに満ちたような顔をして怒鳴る。

 

 

「何で姉ちゃんが死んだって決めつけるんだよ!! まだ、攫われて時間も経ってない!! 今、助けに行けばきっと…!!」

「変な希望を持つのはやめなさい!!」

 

 

怒鳴って怒鳴り返して、の繰り返しだ。村の住人はそんな喧嘩を止める事は愚か、家から出てくる事さえしなかった。なんとも悲しい村である。

 

見かねた夜虂が嫌がる善逸を連れ、仲裁に入った。

 

 

「…喧嘩はよしたらどうですか?」

 

 

と言っても夜虂は喧嘩を止めたことも無いし、善逸とも喧嘩をしたことがないのでこんな事をやるのは初めてである。更に相手の怒りを焚き付けてしまったらどうしよう、と少し不安になった。

 

しかし、怒りを焚き付けるどころか夜虂が仲裁に入ったことで2人の怒りは少し収まったらしい。怒りよりも喧嘩を見られていたことの恥ずかしさが勝ったようだ。親子2人とも顔を少し赤めている。

 

 

「お、お見苦しい所を見せました…」

「い、いやいやいや!! 別に大丈夫ですから顔上げて!? お願いだから!!」

「そ、そうですか…?」

 

 

頭を下げる母親を見て居た堪らなくなった善逸が慌てて言う。母親は申し訳なさそうに顔をあげた。

 

 

「一体…何があったんですか?」

「姉ちゃんが攫われたんだ」

 

 

夜虂が聞けば少年が答えてくれた。

ここ1週間程、村で行方不明者が増えていると言う。行方不明者が共通していることと言えば『山に登った』こと。山から帰って来た者は居らず、怖くなった村の住人達は山を登ることを禁じたらしい。

すると、次は山に登らなくても行方不明になるものが出てきた。人攫いはどうやら山から降りてきたらしい。そんな噂がたち、住人達は遂に家から出ることも無くなったという。そして今日、数時間前。少年、蒼也くんの姉が攫われたらしく、助けに行こうとした蒼也くんを慌てて母親が止めた、そして今に至ると言うことだった。

 

人攫い、それは十中八九鬼の仕業だろう。善逸と顔を見合わせると善逸も頷いた。

 

 

「…姉ちゃん、結婚が決まってるんだ。夫さんは今、仕事で村を出てて居ない。けど、明日帰ってくるんだ!! そして明後日祝宴を挙げるって嬉しそうに話してたんだ!! だから、だから姉ちゃんの幸せの為にも助けに…行こう、と……」

 

 

善逸が屈み、蒼也くんと目が合うようにした。善逸はニコリと笑い蒼也くんの頭を撫でる。

 

 

「お姉ちゃんを助けに行こうとしたの? 凄いね」

「俺、長男だから。長男は家族を護らなくちゃいけないんだ。昔、父ちゃんが言ってた」

「家族を護りたいんだよね。分かるよその気持ち」

 

 

――俺も護れてはないけれど、小さい頃、爺ちゃんに逢う前は夜虂を護ろうと必死だったから

 

そんな事は口に出さなかった。恥ずかしいからだ。蒼也を昔の自分と重ねた善逸は笑って「俺が君のお姉ちゃんを助けに行くよ」と言った。

 

 

「ぜ、善逸!?」

 

 

ありえない、そんな表情で善逸を見る夜虂。当たり前だ、夜虂の知っている善逸はそんな事は言わないのだから。善逸は「俺を何だと思ってるの!?」と言う。

 

 

「ビビりですぐ逃げて臆病な善逸」

「そうだけど!! 否定出来ないけれど!! でももう少しオブラートに包んで言って欲しかったよね!?」

 

 

何時ものように汚い高音で叫ぶ善逸だが、先程の言葉を撤回しなかった。さっきまでこの村に行きたくないと喚いていたのは誰だったか…。

 

だが、珍しくやる気を出してくれたんだ。それに便乗する他はないだろう。

 

 

「分かった。行こうか」

「夜虂はここで待ってて」

「え?」

「俺一人で行きたい」

 

 

本当に彼は善逸なのだろうか? 一人で行かせるのは少し心配だ。何時も「俺はとても弱いんだ」だの「恐怖が膝に来てるせいで歩けない」だのと言って鬼との接触を極力避けていた善逸。そんな善逸が自分から鬼と戦いたいなんて言ったことが一度でもあっただろうか? いや、ない。本当に無い。記憶をほじくり返してみても思い出せない。と言うかそんな記憶自体がない。善逸は、そんな男だ。

 

けれど、善逸が強い事は夜虂が一番知っている。善逸に拾われた夜虂。夜虂が今、生きてるのだって善逸が拾ってくれたからだ。人一倍臆病で弱虫な癖に捨てられた夜虂を見捨てることはしなかった。誰かの為にならどんな怖い敵とも戦える優しい男だ。

 

だからこそ、夜虂は善逸を信じたのだ。

 

 

「分かった。死なないでね」

「ぜ、善処する……………あ、やっぱ無理かも…」

 

 

最後の言葉は聞かなかった事にした。


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