ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~ 作:桜花 如月
第一層迷宮区
「殺す、殺すコロス………っ!」
「くそっ……落ち着け!楓!」
【狂化】、それが楓の身に起こってから既に数分、3つのルートに別れている迷宮区の1つのルートで、片手直剣を武器に選んだ楓が装備している《暗剣》、その説明は省くがこの武器はデメリットがあり、それが今発動し、我を失っている楓はその武器を使い俺に攻撃を繰り返している。
狂化状態のプレイヤーを狂化から解除するにはそのプレイヤーを一度、倒さなければ狂化は元には戻らない。
もし、
なんて、そんなことが起きるはずもないが、もし起きた時のために条件不明の狂化を《PK》以外で解除出来ないかと思っていた矢先、楓がこの現象に巻き込まれた。
(とりあえず先輩達に連絡を………)
上の層で最終チェックを行っているはずの先輩達に連絡を入れようとしたが、その隙を突かれ、楓の攻撃をもろに受けてしまった。
狂化元のレベルが低いというのがダメージを抑えてくれたがそれでも半分近く削られてしまう、そして俺が楓に少しだけ与えたダメージは回復した。
「躊躇ってる暇は無いか………」
開発者組以外の一般も今はプレイしている、いつここに来るかもわからない以上、時間をかけすぎるのはまずい。
だが楓の持つ武器とその攻撃力があるため、むやみに接近戦はしない方がいい、となると有効打は
などと考えているうちに再び楓の攻撃が俺に───
「おい如月!大丈夫か!?」
「白澤先輩……!?」
当たる寸前に楓の攻撃は呼んでもいないのに駆け付けてくれた白澤先輩が防ぎ、俺は攻撃を受けなかった。
何故ここに来てくれた、とか聞く暇もなく楓は白澤先輩に猛攻を始めた。
「なんで後輩ちゃんが……っ!」
「俺にもわからな──
わからない、そう応えようとしたその時だった。
俺の頭の中に声が流れてきた、その声の正体は楓本人だ。
だが何故?楓は今、狂化状態で喋れたとしても俺の耳元というか頭の中に直接話しかけるなんてことは出来ないはずだ。
『先輩……苦しい…です』
考えてる途中もずっと話しかけて……いや、苦しそうにしている楓は震えた声で俺にこう伝えた。
『助けて』、と───
俺に、
俺よりすごい人達だっているはずなのに、俺よりも
「白澤先輩、どいてください」
「お、おい……?」
誰かを救うことさえ出来ない俺を頼ってくれた彼女をここで見捨てる訳には行かない。
結局倒す以外に救う方法はわからない、でも苦しみから開放されるなら───
「来い!【カラドボルグ】!」
俺がそう叫んだ直後、俺の右手には1本の槍が握られていた。
本来なら正式サービス開始まで隠しておくつもりだった武器、そして《特殊スキル》、その名も───
「心の臓を穿て………【ゲイ・ボルグ】!」
投剣特殊ソードスキル、
俺はそれを使い、狂化状態の楓を倒した。
使えば強力な盾などを除けばほぼ防ぐことの出来ない
「それがお前の作ってたSSってことね、とりあえず後輩ちゃんを迎えに行ってあげなよ」
「……えぇ、行ってきます」
白澤先輩はスキルに関してはほとんど聞いてこないで、楓を迎えに行けと指示を出してきた。
ちょっと感謝を覚えつつ俺ははじまりの街にある【黒鉄宮】行き、狂化状態が解けた楓に合流した。
黒鉄宮にはベータテストということもあり、一般プレイヤーが
そんな死に戻りをしてきたプレイヤー達から離れて1人、壁に背をつけて俯いているプレイヤー……楓の姿があった。
「楓、体は大丈夫か?」
「あ、先輩……はい、大丈夫です」
俺の後輩に当たるこの少女は迷宮区で話をしていた時、つまり狂化が起こる前の明るさは無くなっていた。
そして、俺に気を使っているのか顔を上げて直ぐにそっぽを向いた。
「楓、ありがとな」
「え……?」
俺はそっぽを向いた楓の頭を優しく撫でながら唐突な感謝を述べる。それに不意をつかれた楓は少し照れながら俺の方に向いてくれた。
「白澤先輩だっていたのにお前は俺に助けを求めてくれた、こんな俺に『助けて』と言ってくれただろ?」
「それは……」
「まぁとりあえず場所を変えるか」
照れてるのか困ってるのかわからない表情と反応の楓を見ながら俺はここ以外で話ができる場所へと楓と一緒に移動した。
移動したというかログアウトしたと言った方が正解なのだが、とにかく俺と楓は2人で話せる場所、もといアーガス近くの公園へ向かった。
「前から気になってたんだけど、どうしていつも俺なんだ?お前が入ってきた時も真っ先に俺に話しかけてきたけど」
「アーガスの中で、如月先輩が1番優しくて頼りになるような気がして……もちろん、先輩以外の人も優しいですけど」
楓の言っていることはある意味間違いじゃない気はする、優しいって理由だけなら代表(茅場)とか静かな時の白澤先輩の方が優しい気もするけどアーガスには優しいを通り越して色んな意味で変態が多い。
その変態たちを除けば俺は……いや、そんなわけ無い。
「それに先輩は……あ、それより先輩って
「ん?あぁ、《特殊医療室》か?」
俺がアーガスの変人の多さに呆れていると楓が何かを言いかけたところでそれを隠すようにアーガス内にあるとある部屋について聞いてきた。
その部屋というのが《特殊医療室》、そこには今、医療型VR機器《メディキュボイド》が設置されている、そしてそのメディキュボイドは現在、いや、正確には開発されてすぐからずっと起動したまま、もとい使用され続けている。
「あの部屋には楓と同い歳の女の子が寝たきりの、意識もほとんどない状態でメディキュボイドを使用してるんだ」
「それってどういう事ですか……!?」
「まぁ、その反応はするよな……俺だって聞いた時はそうだったし」
少女の名は
公に彼女がなぜメディキュボイドを使用しているかは俺も伝えられていないが、身体の状況を教えられ、VR空間での彼女との関わりだけは持っている。
VR空間にログインし続けている彼女は一応俺ら(白澤、木田先輩に巻き込まれた形で)が開発したVRソフトで現実で今彼女が体験できないことを色々と経験している。
「白澤先輩に許可貰えたら、楓も会ってみるか?」
「いいんですか?というかこんな大切な話を聞いてしまったんですけど……」
「まぁ大丈夫だよ、俺から白澤先輩に頼んでみるよ」
「はい、ありがとうございます」
この後、他愛もない話を少ししながらアーガスに戻り、楓が白澤先輩に狂化の件を謝ったあと、
「本来ならダメって拒否したいんだけど、如月も最近あの子に会ってないだろ?それに……あの子の身体の状況も後輩ちゃんにはいつか教えるつもりだったからね」
「……白澤先輩、ホントにいいんですか?」
「誰しも平和に過ごしてるとは限らないよ、僕もそういう子は知ってるし…如月、案内してあげて」
「………わかりました」
俺は楓と一緒にアーガスの内部開発班のエリアの奥にある部屋、《特殊医療室》に向かった。
厳重に守られている部屋の扉(パスワード式)を乱入してきた木田先輩が何も言わずに開けてくれて俺と楓はガラス越しではあるが、メディキュボイドを使用している少女の姿を見た。
体はやせ細り、同い歳で周りより少し小さい(自称)の楓よりもさらに小柄な体には医療器具のようなものが所々に付けられ、もちろんのことではあるが頭にはやや大きく見えるメディキュボイドが装着されている。
ただ、寝たきりならいい、なんて言うのもおかしい話ではあるが、実際、彼女の姿を見ると何も言えなくなる。
彼女は、佐倉結は体の至る所を、主に左半身に火傷を負っているのだ。
彼女に何が起きたのかはわからない、だが一つだけ分かることは『彼女の両親はもう居ない』ということだけ。
「……楓、俺らの班、内部開発班のオフィスに彼女がログインしてるVRゲーム専用のナーヴギアがある」
「……先輩、彼女に会わせて下さい」
「わかった、今用意する」
泣きそうになっている、いや、泣いてるのを隠すように俯いている楓の頭を撫でながらそういった俺はオフィスでくつろいでいる木田先輩に頼んで2つのナーヴギアを用意してもらった。
本来は仮眠用の部屋として使っている部屋で俺と楓はVRワールド《ロストソング》へとログインした。
スキルやキャラの詳細に関しては本編か別のEXで描きます。