ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~ 作:桜花 如月
目の前に現れた彼女は全くの敵意も殺意も感じられない。
ただ、そこにあるのは異様な気配のみ。
「死に場所、だって?」
「うん、死に場所」
先程私の前に立っていた2人を簡単に
ラギとも違うこの異様な雰囲気は本当に殺人鬼と言っても過言では無い、名に恥じぬってやつで。
「おにーさんいると思ってきたんだけど、ざんねん」
「生憎ここには私だけだよ」
「そうみたいだね、それでおねーちゃんは……」
なんとか会話を試みようと一定の距離をとっていたが彼女は一瞬で私に近づいてきた。
まるで瞬間移動でもしたのかのような速度で目の前に来た彼女は不敵な笑みを浮かべている。
「黙って通してくれるよね?」
「……っ!」
そう耳元で言う彼女を引き離そうとするがいつの間にか首にかけられていた2本の短剣によってそれが出来ない。
ここで反撃をしようものなら確実に今彼女に殺される、それぐらいはさすがの私でもわかる。
でも。
──シズク達を任せた。
それは、いつの日か彼に言われた言葉。
ギルドを抜けるにあたりシズクとカエデを守れるのは私だけだと、そうわかって彼が伝えてきたんだ。
もし、今ここで抗わずに彼女を行かせれば?
そんなの、分かりきってる。
「通すわけないだろ」
「──そっか」
私の回答を聞いたジャックは一気に声のトーンを低くした。
それと同時に彼女から明確な殺意が私に向けられた。
「じゃあ、このまま死ん──」
「そう簡単に殺されてたまるかっ!」
突きつけられていた短剣を持つ腕を掴み強引に引き剥がす。
まさか私にここまでの腕力があると思ってなかったジャックは咄嗟のことに一度私から距離を置いて体制を立て直した。
こっちも剣を拾い直して彼女へ向ける。
「大人しくしてくれれば楽に殺してあげたのに」
「生憎、死に急ぎ野郎は私じゃないんでね」
「通してくれないって言うなら──」
殺して通る。
そんな彼女の言葉が聞こえた時には再び目の前まで接近されすぐさま短剣が私に振り下ろされた。
なんとか防いだものの、小柄な彼女からは想像出来ないほどの攻撃の重さで守るのですらギリギリになってしまう。
「片方は防げたね」
「──は?」
彼女が右手に持った短剣での攻撃を防いでいると急に距離をとってニヤリと笑みを浮かべた。
突然攻撃が止んだことでバランスを崩した私に彼女の
そして。
攻撃を受けた腹部にまるで本当にナイフで切られたかのような痛みが走った。
血が出ている訳では無いし腹部にあるのはSAO特有のダメージエフェクトだけ。
なら、何故?
「い……ぁ……」
突然襲った痛みに耐えきれず地面に膝を着く。
⬛︎⬛︎が目の前で死んだあの時とも、あいつらに襲われかけたあの恐怖心とも違う明らかな
死と隣り合わせなこの世界でもこれまでダメージを受けた時に痛みはほぼなかった、なのに。
原因は、なに?
わからない。
ジャックが使う剣?
なら、ラギがそれを伝えてくれるはず。
現にジャックは私を心配そうに見ている。
それも意味がわからないけど。
──死ぬのは怖いことだよ、もちろん。
──だから死なないように生きてる。
それでも
人はいつか
終わりを迎える。
──死ぬなよ。
でも。
「……こん、な」
まだ。
「こんな、ところで──」
なんの約束も、守れてない。
「こんな痛み……乗り越えてやる──」
好きだった人から、初めての友人から託された思いを。
大切な親友たちを守ることも出来ずに。
「──死ぬ気でやってやるよ、切り裂きジャック」
今目の前にいる彼女はここで抑える。
私が今出来ることを死ぬ気でやるだけだ。
「そっか、それが君の」
「ラギはまだやることがあるんだ、せめて時間稼ぎぐらいはしてやる」
「なら、手は抜かないよ?」
「望むところだ」
私が立ち上がったことに何故か安堵している彼女に宣戦布告をして剣を構える。
彼女が持つ2本の短剣、どんなスキルかまではわからないけど少なくとも油断は出来ない。
ラギが全力で殺しにくる、それぐらいの覚悟はしないとこいつには抗えない。
「ほら、行く──よっ!」
「──っ!」
三度距離を詰めてきた彼女の右手の攻撃を避けて続く左手の攻撃を防ぐ。
だが、彼女は左手での攻撃が私の剣に当たったと同時に続けて右手の攻撃に切り替え、さらに当たったらすぐに左手へと切り替え、そんな攻撃を5回ほど繰り返した。
「ほらほら、反撃しないと押されたままだよ!」
「させる気ないだろ──っ!」
「そりゃ、もちろん」
そんなやり取りをしながらも彼女の攻撃はさらに続く。
本当に防ぐしかないほどにとめどない連続攻撃はさらに勢いをましていく。
ただ左右交互にやるだけでなく回転をかけて連撃数を増やしたりしてくるため防ぐことに精一杯で攻撃を返すことはほぼ出来ない。
ラギとはまた違った相手の強さ、一瞬でも気を抜けば攻撃をまともに受けてまたあの痛みを食らうことになる。
ここまでの力の差があるなんて、正直相手を甘く見てた。
そりゃ、ラギが苦戦したって話す相手だ、そう簡単に攻撃を入れるなんてできっこない。
だからってここで諦める選択肢は無い。
「いい加減──離れろっ!」
「おっ……と、危ない」
ジャックの剣が一瞬離れたその隙にソードスキル《スラント》を発動させる。
至近距離にいたとはいえ予備動作で気づかれてしまい当たることは無かったものの彼女を突き放すことは出来た。
と、上手くいったものの結局また近づかれてしまえば同じように防戦一方になるだけ、ならやることは一つ。
(この一撃で、決める)
勝てる相手じゃない、それは彼女とあったその瞬間に気づいてた。
だからせめて少しでも時間稼ぎを出来ればいい、そのぐらいの気持ちで剣を持ってる。
それでも。
高すぎるこの壁に、
圧倒的な差をほんの少しでも霞ませるぐらいは、やってみたい。
──お前にも一つ教えとくか?
彼が夕立の霧雨に復帰してすぐシズクに何かを教えたあと提案してきたものがあった。
魅力的ではあった、それこそボスモンスターすら塵に出来そうな威力の技を簡単に使える、そんなスキルを彼は提示してシズクはそれを受け取った。
ただ私は、それを拒否した。
もちろん、護身用として使うのもありではあったものの、いざと言う時に発動するにはリスクが高いし何より──
癪だった。
彼に全てを任せてしまうことが。
だから、
正確にはこの世界に眠っていたであろう剣技を叩き起したというのが正解かもしれないけど。
私が現実世界でかっこいいと思っていたある物語で出てくる人物の使った剣技に似た物。
果たして意図して作られたのか、それともラギがたまに言う
そんな剣技に、私の全てを賭ける。
「──抜剣。」
構え、二度地面を素早く蹴る。
素早さで遥かに上であろうジャックよりも早く蹴り出した体に勢いをそのまま乗せて距離を詰める。
巷では縮地、なんて呼ぶらしいその技でジャックの目の前まで一気に近づき、剣を突きつけた。
「──おみごと」
当たった感触はあった。
でも、私の攻撃を受けたはずのジャックは静かに笑みを浮かべその場に立ったまま。
そして、彼女の手には
「──は?」
攻撃は当たった、その感触は確かにあった。
それでも、彼女はダメージを受けた様子を見せず、その代わりに。
「が──ぁ──!?」
私の両腕に短剣が刺さっていた。
「さよなら、おねーちゃん」
彼女のその言葉が
なんやかんやでお久しぶりです。
視点はギルドイベント初陣、ライムへと戻りついに対峙したジャックとの戦闘。
どうなっちゃうんでしょう
それではまた次回。