ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~   作:桜花 如月

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87:vsピグレ

~シズク目線~

 

ユミさん達の前、つまりは私たちの最前列の前に立っていたはずのピグレは目にも止まらぬ速さで私の真横まで接近し、その手に持った短剣を突き刺した。

麻痺毒はない、ただこれまでの被弾ではなかった強烈な痛みが刺された箇所から広がっていく。

 

「ぁ……が……っ!?」

「おいおい、油断すんなよな?」

 

そう言うとピグレは私から短剣を抜き、再び手元でくるくると回している。

 

 

痛い。

これまで、そんなことは無かったはずなのに。

この世界で、気持ち的な痛みはあったけど、こういう痛みはなかった。

まるで、本当に刺されたような、現実のような痛み。

 

この痛み、覚えてる。

 

 

───女のくせに偉そうにするなよ

 

そう言われ

 

───女でも強いっていうなら、そいつを庇うならこれぐらい痛くないだろ?

 

そんな、身勝手なことをいわれて。

あの時は、少し腕を切られたぐらいだけど。

その傷は今でも残ってるけど。

 

 

 

これは、あの時と同じ。

()()

 

カエデ、この痛みを受けたんだ。

こいつに。

()()()()に。

 

───必要な時に使え、無駄打ちはお前の身を危険に晒す。

 

ラギはそう言ってたけど、これ以上はさすがに無理だ。

()()()を、ピグレを退けるには、()()には使うしかない。

 

……でも、身体が動かない。

アイツは笑いながらこっちに近づいてくる。

みんな、必死に私を守ろうとしてくれてる。

 

……わたしが、殺らなきゃ──

 

 

 


 

~ユミ目線~

 

「これで終わりか?骨のある奴は……っと」

「お前──っ!」

 

カエデだけじゃなくシズクにまで手を出された。

即座に反応出来なかった自分への怒りとピグレとかいうこいつへの怒りを剣に乗せて振りかぶるがピグレは簡単に避けてヘラヘラとしている。

 

「おいおい、何キレてんだよ」

「あんたよくもあの二人を……!」

「誰もてめぇら弓と大剣から狙うなんて言ってねぇだろ?それに、勘違いしてるようだが──」

 

ピグレは話途中に再度距離を詰めてきて短剣を振りかざす。

リーチ差があるおかげで届くことは無かったものの、こいつの一撃は普通に重い。

 

「俺は殺人ギルドの一人なんだぞ?……殺しに容赦するわけねぇだろ」

「ユミ、一歩右!」

 

ピグレの本気の声に気圧されそうになっていると後ろからそんな指示が飛んできたため言われた通りピグレを弾き飛ばしながら右へ避ける。

すると、ピグレに向けて矢が連続で飛んできた。

 

「……ちっ!」

 

サキが放った矢をピグレはバランスを崩しながらも全部弾いた。

さっきからずっと思ってたけど、こいつ……そこらの雑魚プレイヤーとは違い、ちゃんと強い。

それこそ私たちがサシで相手しようものなら直ぐに負けてしまうほどにこいつには実力がある。

 

「ほらほら、俺を殺すんだろ?」

「その余裕、すぐにへし折ってやるわ」

 

今はサシじゃない、それ故に隙さえ作れればどうにか対処はできる……はず。

私とヨシノ、そして木の上から狙えるサキの三人で攻撃すれば──そう思った瞬間。

 

「ボーっとしてたら危ねぇぜ?」

「はや──っ!?」

 

攻撃を仕掛けようと武器を構えた一瞬でピグレが私の目の前へと接近してきた。

一度見ていたとはいえ咄嗟のことで反応が遅れたところにピグレのソードスキルが炸裂し、私は後方へと吹き飛ばされてしまう。

 

「が──っ!?」

「ユミ姉!」

 

後方で鎌を持ち待機していたヨシノが駆け寄ろうとしたのを手で止めて体を起こす。

油断した、なんて言い訳が通用する訳もなく、なにより私の実力不足。

でも。

 

「あんたには、死んでも勝つわ」

「へぇ、たった一撃で満身創痍なクセによく言うな」

「負けれない理由があるのよ、こっちには」

 

実力不足だから、相手が強いからって易々とあきらめる訳には行かない。

頭下げてまで協力を申し出たあいつはまだ奥で戦ってる。

知らない間に仲良くなった夕立の霧雨の三人やうちのギルドの五人、それに一度は剣を向けた私の事も、あいつは信じてる。

 

なら、その信頼に答えるのが私の役割。

 

「負けられない理由、ねぇ?ならその本気とやらを見せてもらおう──かっ!」

「二度は効かない──!」

 

標的をヨシノに向けようとしたピグレが再度私に向けて一気に接近しようと構えを取った。

その直後距離を縮めてきたピグレの短剣を大剣で受け止めてはじき飛ばす。

 

「まだまだ──!」

 

剣が吹き飛び怯んだピグレに向けてソードスキルを発動する。

後退りながらも短剣のリーチ間、つまりは私の大剣が届く距離にいたピグレは避けきれずにソードスキルをもろに食らった。

だけど。

 

「なるほどなぁ……これが、『痛み』ってやつかぁ……」

 

行動不能にするつもりで撃ち込んだSSを受けたはずのピグレは少しふらつきながらも未だ余裕そうな笑みを浮かべていた。

そして、『痛み』と言った。

 

さっき吹き飛ばされた時に感じた違和感、まるで現実のような痛み。

あいつはその事を言ってるんだろう。

だとしたら、なんでこいつは……

 

 

「最高だよなぁ、こんな世界」

「……何言ってんのよ」

 

先程と明らかに雰囲気の変わったこいつは()()()()()

ダメージを受けたことに対して、つまり現実と同様の痛みを受けることに対して()()()()()、ということ。

 

「勘違いするなよ…?俺は()()()()()()()、それを楽しんでるだけだ」

「……痛いのが好きかと思ったわ」

「最高だろ、痛みに苦しみ相手を苦しませることの出来るこの環境、そんなとこで強いやつを殺せるなんてよォ?」

 

少し会話をしただけでもこいつは異常だと体が拒否反応を起こしてる。

殺しを楽しんでる、そんな奴がまともなわけは無いけど。

 

「……そんなのクソ喰らえよ」

「じゃあ、俺を殺してでも止めて見ろよ」

 

雰囲気がガラリと変わり話の通じなくなったピグレは短剣を拾ってまた私へ距離を詰めようとしてくる。

同じように眼前に来ると思い構えたが、奴の姿はなく背後にソードスキルを発動したエフェクトが発生して私は背後から攻撃を受けてしまった。

 

「……っ!」

「ほらほらぁ!もっと楽しもうぜ!」

 

(さっきより速い……!?)

 

スキルか、はたまた別の何かを受けたのか奴は私の武器じゃ追いつけない速さで木々を利用しながら私に攻撃を与えてくる。

防げないことは無いため全ての攻撃を受けてる訳では無いけど、長時間防ぐのは確実に不可能。

一瞬、奴の剣を止めることが出来れば──

 

 

そう思った瞬間。

 

『grrrrraaa!!!!』

 

森の奥、方向的にはヤヨイたちが向かった方から獣のような叫び声が轟いてきた。

そして、その叫び声と同時に私の──正確には私とヨシノが地面に倒れ込んだ。

 

「な……に……?」

 

僅かに動く顔を上げてHPバーを見ると麻痺のデバフを受けたことを意味するアイコンが点滅していた。

獣の叫び声と何か関係あるのか、もしくはピグレが何かをしたのか、真相は不明だが、当のピグレ本人は一瞬困惑した様子を見せたが好機と気づいたのかまだ麻痺の残ってる私目掛けてソードスキルを発動して突っ込んでくる。

 

「うご……け……」

 

麻痺が切れたと同時に動くために大剣に手を伸ばそうとしたけどそれよりも早くピグレが接近してくる。

ヨシノも、ピグレよりも後ろにいるシズク達も動けるわけがなく、絶体絶命。

 

「じゃあな、強かったが運がなかったなぁ!」

 

奴の短剣が私に振り下ろされ、致命傷……下手したら死ぬ一撃を受ける。

そう覚悟し目を閉じた。

 

 

シズク達を守って、アイツの邪魔をする奴を蹴散らす、それが目的だった。

でも、無理だった。

ごめん、ラギ。

約束、守れ──

 

 

「させるかぁ!!!!」

 

ガキィン、という鈍い金属音が響いた。

ピグレの短剣は私に当たることはなく、その代わりに私とピグレの間に誰かが立っていた。

 

「ちっ、なんだてめぇ?それに今何しやがった……」

 

 

「……麻痺溶けてるなら下がって」

「無事だったんだ……」

「積もる話は後、シズク達は任せる」

 

()()はそういうと静かに武器を構えた。

言われた通り麻痺の切れたヨシノと一緒にシズクとカエデの元に走る。

その間、ピグレは邪魔することなくただ()()を睨みつけていた。

 

「なんなんだって聞いてんだよ、お前」

「──私はライム。大切な友達を、大切な仲間の知り合いを傷つけたアンタをここで殺すプレイヤーだよ」

 

 




お久しぶりです。
前回に引き続きシズクたちの班ですがピグレはそう甘くない。
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