ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~   作:桜花 如月

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EX:失われし歌、失われし愛

VR試験用ワールド:ロストソング

楓目線

 

如月先輩と一緒に【ロストソング】というVRワールドにログインした私の目の前に入ってきたのはβテスト中のソードアート・オンラインのはじまりの街と同じ、またはそれ以上に広大な街だった。

だけど、人の気配は全く無く、どこを見てもしずかで少し不気味な雰囲気を感じてしまう。

 

「先輩、その……あの子は?」

 

「あぁ、あいつならあそこだな」

 

先輩はそう言いながら街の中心の方にある大きな広場のような場所を指さしてその方向に歩き出した。

私もその後ろを付いて行ったけど、その間も人の気配は全くしなかった。

 

 

主街区:中心広場

 

『ら〜ら〜ら〜』

 

広場に到着すると広場の端の方から歌声のようなものが聞こえ、その方向にはステージのようなものが設置され、ステージの上には誰かが立っていた。

 

「行くぞ、楓」

 

「あっ、はい!」

 

先輩に先導されつつ私と先輩はステージのすぐ近くまで移動した。

移動中もずっとステージから透き通るような歌声が響いていたけど、私達に気がついたのか、ステージの上で歌っている人は歌うのを止めて私たちの方に近づいてきた。

 

「おっかしいな……体調診査はまだのはず……あ、ハル兄!?」

 

「久しぶりだな、結」

 

先輩がそう呼んだこの子が、今歌を歌っていたこの女の子が現実世界で寝たきりの結ちゃん……?

 

「あれ?今日はどうしたの?」

 

「お前に会いたいって人を連れてきたんだ、俺の後輩の……」

 

「小嵐楓です」

 

「そっか、ボクは佐倉結、よろしくね!」

 

結ちゃんは私が自己紹介した後、直ぐに自己紹介を返してきて握手までしてくれた。

でも、なんでこんな明るい女の子が──

 

「楓ちゃん!友達になった記念に何か一つ質問して!」

 

「えっ?」

 

結ちゃんは突然そんなことを言い出した。会って間もないのに……

 

「……結ちゃんは、なんであんな状態なの?」

 

私は出会ってまもない子に唐突にそんなことを質問していた。

先輩は何言わず、結ちゃんは少し迷って──

 

「ハル兄にも話してないもんね、ちょうどいいしいつかは話さないといけないと思ってたから……」

 

結ちゃんはそう言いながらステージの縁に座って話を始めた。

 

「ハル兄、外部のニュースって見れる?」

 

「ニュース……?分かった、このウィンドウを操作してくれ」

 

先輩は結ちゃんに言われて1つのウィンドウを操作し、それを結ちゃんに送って結ちゃんは送られたものを操作して何かを探し始めた。

 

「あった、これだよ」

 

結ちゃんが探すのをやめて私と先輩の方にウィンドウを見せてきた。

そこに映されていたのは『一軒家火災、家族全員で心中目的か──』という5年前の事件を扱った記事だった。

この事件は私もよく覚えていた、5年前、小学生高学年の私はこの事件をテレビでやっているのを見たのだ。

 

「確かこの事件は警察の話では父親が自殺を図り家を燃やして、母親が()()()()()て両親は焼死、炎の中に少しの時間いてしまった娘は半身をやけど、煙を吸いすぎてしまったことで肺が悪くなった事と両親が同時にいなくなったことで精神的にも深い傷を負って入院……そのあと、とある企業が『その子を治す手段がある』と言って今まで延命がギリギリだったその子は預けられて今は一命を取り留めた、つまり───」

 

「そう、ボクがその()、事件の詳細はハル兄の言う通り、病院に送られた時は死の淵をさまようような気持ちだったけどアーガスの人が──木田っていう人と白澤って人が病院側にそう言ってくれたから私は現実ではまだ動ける状態じゃないけどこうやって……って、楓ちゃん?」

 

そんな苦しい思いをしてる人が目の前にいて、現実では寝たきりの状態の子がいる、そう思った私はいつの間にか結ちゃんを抱きしめていた。

 

「結ちゃん……辛いのに凄いよ……」

 

「楓ちゃん、私は確かに辛いし現実で、自分の体に付いている足で外を歩いて見たいって思ったりもするよ……それでも、今のこの状況は嫌だと思わない」

 

「え……?」

 

「私の夢のひとつは、仮想の世界だけど叶ったから」

 

「結の夢は()()()()()()()()()、ステージの上で観客に自分の歌を聴いてもらうこと……だからこの世界はロストソング(失われし歌)って事だな」

 

先輩はそう言いながら私たちの方を見たあと、結ちゃんと同様にステージの縁に座って私の方を見て──

 

「楓、俺が人のこと言えるわけじゃないけど何か隠してるなら教えてくれ」

 

「先輩……?」

 

「高二でアーガスに入ったやつが言うのもあれだけど、年齢的に中学3年生のお前がアーガスに入ってくるのは少し違和感があったんだ──結が話したんだ、お前も話してくれないか?」

 

「私は───」

 

先輩にそう言われて私は躊躇うことなくアーガスに入った経緯を話し始めた。

 

 

私は、ずっと独りだった。

いや、独りに()()()()()()()

結ちゃんとは違った()()をした。

守られた、私だけが救われた。

それが嬉しくない訳では無い、だけど……

なぜ、私だけ助かったのか。

なぜ私だけ生き残ってしまったのか。

 

 

別れは突然起きた。

小学3年生のとある日、両親と出かけた時の事。

ドライブ、そう言いながら景色のいい場所に向かおうとしていたその時、運転をしていたお父さんはお母さんに何かを話した後、お母さんが私に少し厚めの服とヘルメットを渡してきた。

そして、私が渡された服を着た直後───

 

浮遊感と共に強い衝撃が私を襲い、気絶してしまった。

私が目を覚ますと冷たい地面に横たわっていて、少し遠くに私が乗っていたはずの車がボロボロの状態で倒れていた。

救急隊らしい人が私の元に走ってきて私は救急隊の人に抱えられ、そのまま病院へと連れていかれた。

それから色んな検査を受けたあと、私は少しの期間入院をすることになった。

入院してから少しして私は看護師さんに事故の詳細を伝えられた。

車のブレーキが効きにくくなっている事に気がついたであろう私の両親は私だけでも助けようと考えたようで車に非常用として乗せていた防護服のようなものを私に着させ、ブレーキが完全に効かなくなり、崖下に落下したけど、両親はそのまま即死、私は手足と体の色んなところを打撲したらしいけど命に別状はないと言われた。

その話を聞いた私はしばらくの間精神的に落ち込み、入院から数ヶ月後、怪我もほぼ完治した私は退院と同時に学校には行かず、孤児院に入ることになった。

孤児院に入ってからは孤児院に入っていた人達が明るく接してくれたこともあって精神的にはまだ落ち込んでるけど、少しずつ明るくなれた。

それから数年後、今年の初めに孤児院にとある人……茅場代表が来て「話は聞いている、もし君が良ければ私のところに来ないか」って私に言って、怪しい人が来たと思ったら茅場代表は自社(アーガス)でどんなことをしているのかなどを説明してくれて私は少し迷ったけど、アーガスに入ることにした。

 

「……ということです」

 

「なるほどな……それで、入って迷ってたところに俺が声をかけたってことか」

 

「はい、先輩のおかげで今はほかの社員さんとも少しずつ話せるようになってるんです」

 

「ボクより辛い思いしてない……?」

 

先輩は納得、結ちゃんは心配そうな顔をしながら私の方を見てきた。

でも、結ちゃんに比べたら………

 

「そう言えばハル兄は?何か隠してるでしょ?」

 

「……お前らが話したのに俺が話さないのはずるいよな」

 

先輩はそう言うとステージの縁に腰をかけて話を始めた。

 

「俺も、お前らと同じく()()()()()んだ」

 

「それって……?」

 

先輩はさっき結ちゃんが開いたニュースのウィンドウを操作してとあるニュースを表示した。

 

ラギ目線

 

もう、8年前のことだ。

小学生の俺は両親と一つ下の妹の家族全員で遠出する前に郵便局に訪れていた時に()()は起こった。

俺と妹が両親の郵便物の手続きを待っていると郵便局内にいた一人の男が窓口の人に向けて銃(ハンドガン)を構え、「現金と金目のものをだせ」と言い出し、1発、威嚇するためか発砲をし、窓口の中の人はそれに脅えながらも男の言うことに従っていた、そこで俺の両親はその男に突撃しようとした……が、男はそれにすぐに気づいて両親を避けそして両親に向けて発砲、両親は心臓を撃ち抜かれ、その場に倒れ、倒れた場所からは血が流れ出て……

放心状態の俺に男が銃を向け、引き金が引かれたその瞬間──

銃声が聞こえたと同時に俺は誰かに突き飛ばされ、そして飛ばされた俺の視界に映ったのは妹、千秋が右目から血を流して倒れている姿だった。

俺が千秋の近くに寄ると「お兄ちゃん……私は大丈夫……」と震えた声で言ってきた。

両親に続き千秋まで……そう思った俺はショックや怒りを感じ、男にタックルをし、男がバランスを崩して銃を落とした所でその銃を拾いそのまま俺は……

 

 

「その男に向けて発砲した、そして男は即死した」

 

「それって……」

 

「俺は……人を殺したんだ、反射的とはいえ、この事実は変わらない」

 

この後、俺は駆けつけた救急隊に保護され、千秋も俺も同じ病院に搬送された。

精神的ダメージが大きかった俺はしばらくの間入院をし、安定してきた頃に千秋は右目を失明し、両親は郵便局で撃たれた時点で死んでいたということを知らされた。

その後、完全に落ち着いたところで俺は退院し、祖父母の家に預けられて中学校からは復帰して高校まで進学して高二になったところで代表に偶然なのかわからないけど声をかけられてアーガスに入社することになったんだ。

 

 

「結局、俺は両親と妹を……千秋を守れなかった挙句、人を殺した」

 

「そんな……先輩は……」

 

「だから俺は決めたんだ、もう二度と、誰も傷つけさせないって……」

 

「ハル兄………」

 

「まぁ、暗い話はこれぐらいにして、俺からお前らにちょっとしたプレゼントを渡す」

 

2人に話す内容じゃなかったと後悔しつつ俺は2人にとあるウィンドウを見せた。

そこには《ソードアート・オンライン招待権》という文字が表示されている。

このロストソングにログインする前、正確にはβテストに楓と参加する少し前に「お前が渡したい人に渡しな、いるかは聞かん」と白澤先輩から急に渡されたのだ。

もしかしたら白澤先輩が渡すかもしれない2人に先に渡してしまったがそこは気にしないでおこう。

 

 

「えっ、でもこれって……」

 

「サービス日にログイン出来るようになってる、結はメディキュボイド……いや、《MFTI》からアカウント移動って形でログインが出来るから、まぁ、詳しい話は白澤先輩に聞いてくれ」

 

「MFTI……ってなんですか、先輩?」

 

「あぁ、それはこれから完成予定の《メディキュボイド》の仮の名前だ、俺はめんどくさくてメディキュボイドって呼んでるけどアーガス内では現段階を《医療用(メディカル)フルダイブ試験機(テスター)》って呼んでてMFTIはその略、結が使ってるのはその2号機なんだ」

 

「2号機ってことは1号機もあるんですか?」

 

「あぁ、1号機はとある病院に設置してある、結と同様使ってる人もいる」

 

俺は1号機の使用者のこと以外を色々と説明したあと、時間を確認し、いい時間になったことを見て話を止めた。

 

「よし、結と楓を合わせたしSAOの参加権を渡したから俺たちはそろそろ」

 

「うん!また会おうね!ハル兄、それと楓ちゃん!」

 

「うん、次はSAOの中かとしれないけど……またね、結ちゃん」

 

こうして俺たちはそれぞれの過去を明かし、()()()()()()()()()()()()()ログアウトをした。

そしてその後、白澤先輩に酷く怒られたあと、何故か楓と2人でアーガスの近所にあるパンケーキ屋に行った。

 

 

この日から数ヶ月後、俺たちが信用していた茅場代表が()()()()()をするとは誰も想像していなかった………




お久しぶりです、恒例の挨拶です。
各キャラに紹介の差があるのは作者の力不足です、大問題。
登場してすぐにボクっ娘アピールの凄いキャラが実は現実で寝たきりとか誰が想像するんですかね

ちなみに、医療用フルダイブ試験機の名前に関してはSAO22巻にて書かれています。
時期的にそっちの名前の方がいいかな、と思い変えました。


次回のEXは本編で春揮と物凄く関わるあのキャラのお話です、リメイク前を知らない人からしたら何それって話だね。


P.S.
語り忘れましたが春揮は高校に入った時点で一人暮らしを始めて、それから茅場に拾われた感じです。
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