ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~ 作:桜花 如月
「手伝った方がいい?」
頭上、正確にはちょっと後ろの木の上からそう声をかけられた。
声の主はラギの
「いい、それよりユミさんたちの方に付いてて」
「じゃあ任せるよ、装備も一新した
「そういうのいいから」
あの日、去り際に呼ばれたことのあるあだ名を真剣な空気の中突然言うサキさんに呆れながらも問題の方へ顔を向ける。
ラギや、同じギルドのジャックとも違う殺気を見せながらイライラしているこの男。
さっき
たったそれだけで、私がこいつを殺す理由は充分だ。
「てめぇ、質問に答えやがれ」
「質問?」
サキさんや他のみんなが奥に行くことを無視して沈黙を続けていたラフコフの男は何故かキレ気味に私へと問い詰めてきた。
その間にも短剣は手元でくるくると回り続けている。
「お前は今の一瞬までここにいなかっただろうが、それに加え使ったソードスキル、あんなもんこの世界に存在しねぇ……何しやがった」
「……なんだ、そんなことか」
「そんなことだと……てめぇふざk──「遅い」は…!?」
奴の質問に答えるより先に地面を蹴り飛ばし
背中から切り上げた私の武器が奴へと直撃し、攻撃を受けたことにより振り向こうとした所を思いっきり蹴り飛ばす。
「が……っ!」
蹴り飛ばされた先で大きめの木に衝突した男はその場に倒れ伏した。
ジャックにやられた時に把握はしていたけど、本当にこの森は現実と同じような痛みを受ける。
だからこそ、容赦せずにこいつには攻撃を与えた。
「……ライム!」
「……っ!?」
サキさんの必死の声で後ろに振り向くと先程まで倒れていたはずの男が背後に立ってソードスキルを構えていた。
痛みでしばらく動けないと予想したのが見事に外れた、故に少し油断してしまった。
なんて、言い訳をしてる暇もなく奴の攻撃を防ぎきれなかった私は5連撃のソードスキルを半分近く受けてしまう。
そして、私がやったのと同じように奴は私に回し蹴りをして私を吹き飛ばした。
「ぃ……」
「俺を一度吹き飛ばした程度で油断したかァ?」
奴が近づいてくる。
奴の言う通り、油断したからこの結果だ。
「それ以上ライムに近づくな!」
「それはこっちのセリフだぞ、お前の弓より俺の剣の方が早くこいつに当たる」
「お前……!」
サキさんが、私を守ろうと弓をかまえてる。
でもこいつの言う通り弓が当たるより前に私は殺される。
「俺を殺すだの言ってたヤツの姿がこれとはなぁ?」
「ぁ……っ……!」
奴は私の首をつかみそのまま持ち上げて手に力を入れた。
さっき受けた攻撃による痛みに加えて首を絞められたことによる痛みと息苦しさで身体に力が入らなくなっていく。
視界もモヤがかかり意識も遠ざかっていく。
ユミさんやヨシノ、サキさんたちが何か言ってるような気がするけど、聞こえない。
このまま私は死ぬ、の?
あの
こんなところで、なにも守れずに私は───
──負けたから諦めるのか?
うるさい。
──まだ、やれるだろ。
でも。
「……だ」
わたしは。
「このまま絞め殺……」
まだ。
「──お前には、負けてない」
「……なっ!?」
奴が手を離した。
呼吸を整えるより先に剣……刀を拾い奴へソードスキルを放つ。
私がまだ動けることに驚き怯んだ男はソードスキルをもろにくらい吹き飛ぶ。
追い打ちをかけようともう一度ソードスキルを構えると奴は直ぐに体勢を立て直した。
「……てめぇ、名前は」
「……ライム、そういうあんたは」
「俺はピグレ、冥土の土産に覚えとけ」
「それはこっちのセリフだよ」
男……ピグレは急に名前を聞いてきた。
よく見るとあいつのHPはイエロー、それも既に半分を切っている。
つまり、HPの残りはわずかしかない。
あいつは次で私を殺す、ということだろう。
「……てめぇを」
「ピグレ、お前を」
「「殺す──!!」」
その言葉で私とピグレは同時に踏み込んだ。
一気に接近し剣同士が金属音を響かせながら火花を散らす。
ピグレの短剣が軌道を変えて私に当たりそうになるのを避けながら奴の隙を付き攻撃をしようとするが全て防がれる。
「惜しいよなぁ……てめぇみたいな強い奴を殺すことになるなんてよォ!!」
「誰が殺されるか……っ!」
鍔迫り合いの最中、妙に楽しそうなピグレの言葉を全力で反対し奴の攻撃がギリギリ当たらないように避けていく。
このまま純粋な攻撃だけ続けても奴の方が有利だ。
とはいえ、
と考えていると、ふとラギに言われたことを思い出す。
無茶だと笑い飛ばしたあの言葉。
というか、ラギの思いつきはだいたいろくな事がないし無茶しかないけど。
あいつがなんども実践してるというやり方、それなら私の懸念点を晴らすことが出来る。
独りじゃ難しいけど。
ここには私の、あいつの仲間がいる。
なら、これで決める。
「雰囲気が変わったなぁ……何考えてるか分からねぇが阻止するだけだ」
「……やれるもんなら、やってみろ」
ピグレは私の変化に気づいたようで一気に距離を詰めてくる。
そうしてくるのは予想していた、だからこそ後ろに大きくさがる。
──一歩。
下がりながらも刀を構えて足元に意識を向ける。
少し盛り上がった木に着地したと同時にピグレが攻撃を仕掛けてきたためそれを避けるように空中へと大きく飛ぶ。
──二歩。
「隙だらけだ!」
予想通り、ピグレは空へ飛んだ私と同じように木々を伝い私を狙う。
こうなれば術はない。
そう、一人なら。
「ヨシノ!その鎌私に投げろ!!」
「ふぇ!?よ、よくわからないけど──そぉい!」
隙を狙おうとしていたヨシノが持っていた鎌を気の抜ける声とともに投げさせた。
私が自由落下してる最中にピンポイントで飛んできた鎌を足場にして大きく踏み込む。
──三歩。
私の呼び起こしたスキルには決定的な隙がある。
それは、発動条件になっている
逆に言えばそれさえクリアすれば使える。
それが──
「──奥義」
踏み込んだ私はピグレの目の前へとスキルの効果で
「無明──三段突き──!」
ピグレに直撃した一閃、そこに追撃するように二撃が彼へと放たれる。
その衝撃で空中にいたピグレはそのまま地面へと叩きつけられた。
「が──く、そ……」
ヨシノの鎌を空中でキャッチしながら着地すると、倒れているピグレが声を上げた。
彼のHPは既に赤、ほぼない状態な上で減少も止まらない。
「……お前は強かったよ、ただラフコフに入ってなきゃ死ぬこともなかったでしょ」
「──まだ、俺は死なねぇ」
ピグレは震える右腕をあげると何かを操作した。
嫌な予感を察して止めようとするが時すでに遅く、ウィンドウを操作し切ったピグレはそのまま消滅。
そして、それと同時に私の目の前──いや、周りを囲むように大量のMOBが出現した。
「あいつ──っ!」
最期まで油断していた。
ラギが言うには軽い奥義とされる無明三段突きもこの装備に付与されたデバフと合わさると普通に発動直後動けない。
故に、ユミさん達が来たとしても間に合わない。
そう、思ったその瞬間。
「ライム!」
その声と同時に、ユミさんたちがいる方向から宙へ光の柱が発生。
「空よ、風よ──私に極光の力を──!」
宙へと登る光の発生源となっている剣が振りかざされ私の周りが光に包まれた。
「……今の、は」
光が止み目を開けると周りのMOBは跡形もなく消えていた。
そして、走ってくる足音があると気づいた瞬間、私は誰かに抱きつかれた。
「ライム、巻き込まれなくてよかった」
「……危うく死ぬとこだったよ、シズク」
声の主はさっき光を放った張本人。
私が到着した時点ではまだ気を失っていた彼女は起きてすぐにある日ラギが渡していた奥義を使ったんだろう。
「むぅ……でも、ライムのおかげで助かった」
「私はシズクのおかげだけど」
「よかっ……た……」
シズクは話しながらその場に倒れた。
奥義の反動に加えさっきまでのダメージも残ってたからむしろ私に抱きつくだけの体力が残ってたことが驚きだ。
倒れたシズクを支えていると私も急に全身の力が抜けていきそのまま意識が遠くなっていく。
「……まったく、無茶するんだから」
「でも、ライムさんカッコよかった!」
「そうだね、どこかの誰かさんに似ちゃってる」
「え、それって誰です!?」
薄れ行く意識の中、他のみんながそんな会話をしているのが聞こえた気がする。
「……お疲れ様、ライム」
サキ──鈴さんのその一言を最後に、私は気を失った。
対ピグレ、決着。
ライム
使用武器:片手直剣∕刀
装備:フルスチルアーマー→誠の羽織り
新規スキル
スキル硬直増加(微)
誠の羽織りに付属しているデバフスキル。
ソードスキルを放った際、低確率でソードスキル後の硬直が少し増加する。
低確率のためソードスキルを連続で放つ等をしない限りは特に問題は無い。
奥義:無明三段突き
ライムが呼び起こした本来存在しない(システム内にはある)ソードスキル。
発動条件として地面を三度連続で蹴り、その後武器を相手に突きつけることで形になる。
普通に三度突くだけのように見えて一撃突いた後はライムの持つ『クロッシングスキル』のように光の斬撃が二発追撃する。
誠の羽織りを装備していると一撃の威力が上がる代わりに本来は限りなく少ない硬直が伸ばされる。